2022年10月15日(日本時間16日)米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Grasso vs. Araujo』(UFCVegas62)が開催され、第2試合に平良達郎(Theパラエストラ沖縄)が出場。
元Fury FCフライ級王者のC.J.ベルガラ(米国)を相手に2R 4分19秒、腕十字に極め、「パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト」として5万ドル(約745万円)をファイトマネーとは別に獲得した。
UFCで2連勝を飾った平良はこれでMMA12戦無敗に。試合後のバックステージでの会見の言葉とともに、平良がオクタゴンでいかに戦っていたのかを紹介したい。
対戦相手の体重超過。試合をやるか、やらないか、すぐに返答を求められ──
(C)Zuffa LLC/UFC
終わってみれば一本勝ちの「快勝」だったが、不安もあった。
対戦相手の体重超過だ。フライ級リミットは125ポンド(56.7kg)で、タイトルマッチ以外はプラス1ポンド(0.45kg)まで許容されているMMAで、前日計量でベルガラは129ポンド(58.51kg)と3ポンド(約1.36kg)の体重超過だった。
ファイトマネーの30%を対戦相手に支払うことで、試合は行うことが出来るが、その試合を「受けるか・受けないか」は、対戦相手が選択できる。
同日に予定されていた平良と同じフライ級の注目カード、アスカル・アスカロフ(ロシア)とブランドン・ロイバル(米国)の試合は、「アスカロフの体重管理に問題があった」ため、中止となっている。
平良陣営は、ベルガラの3ポンドオーバーを聞き、その場で選択を迫られたという。平良が所属するTheパラエストラ沖縄の松根良太代表は、そのとき平良が躊躇することなく「やる」と試合を選択したと語る。
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「相手はUFC3戦目、初戦も体重オーバーでした。目指していたUFCの初戦で計量オーバーする選手はどうなんだろう……と思っていましたが、案の定、今回も計量オーバーでした。計量会場で、3ポンドオーバー、ファイトマネーの30%譲渡の上、試合をやるか・やらないか、すぐに返答を求められ、達郎にはやはり、やらない選択肢はなく、即答で『やる』との事で、本人の意思を尊重しました。平良達郎は、相手より圧倒的に真剣にこの競技と向かい合っています。2度も致命的な同じミスを犯す相手に不覚をとる事はありません」と、試合前日に憤りとともに語っていた。
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1.36kgの体重超過は、最後のもっとも苦しい水抜きをやり切らなかったことになる。ある時点で相手が受けることを計算ずくで無理をせずコンディションを整えたとしたら、平良にとってリスクとなる要因だった。
前日計量後のフェイスオフでは、珍しく、平良がキャップを被ったままベルガラに近づき、厳しい表情で見据えていた。
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フィニッシュの腕十字は「プラン通り」だった
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試合は、終始アグレッシブに攻め続ける平良のペースで進んだが、ベルガラの左右を被弾することもあり、また、グラウンドでポジションを入れ替えられ、肩固めの体勢を狙われる場面もあった。しかし、入りは浅く、平良は慌てることなく、危険なポジションを脱している。
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平良は、試合後の岡田遼のYouTubeで「肩固めは全然、極まってなかったですけど、ズレてたので力を使わせようかなと。でもブリッジでスイープされたのは初めてです」と、フィジカルでサイドを取られたことを語る。
ヒザ蹴りを巧みに突き、シングルレッグ(片足タックル)からボディロック、さらにバックに回ると、片足をかけてグラウンドに引き込み、両足を相手の胴に4の字にロック。背後からリアネイキドチョークを狙いながら、2Rの残り41秒で、腕十字に切り替えてタップを奪った。
長身の平良とベルガラの頭の位置が合わず、チョークが極まりにくいなか、「耳と耳を寄せろ」の声に頭を下げる平良。このとき、平良は自陣コーナーを見ている。最後の腕十字は、あらかじめプランに入っていた動きだった。
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岡田は、「バックからの腕十字は、この2人(松根&平良)がずっーと練習して思い描いていたプランで作戦通りでした。バックからチョークがなかなか取れないことも想定していてダメだったときに、思い切って腕十字に切り替える」と、フィニッシュについて明かす。
松根も「2分半くらいから達郎が“(腕十字に)行っていいか”とこちらの方を見ていて、行こうとしていたから、“まだ行くな”と指示して、ラスト1分で“もうそろそろ行け”と合図を出して行ったらハマった」という。
バックを取っている状態から残り52秒、アゴの腕を解き、ベルガラの左手首を掴むと、右足で頭を刈り、左足もかけて腕十字へ。「足首を、ヒザ締めろ!」の声のなか、ベルガラの立ち際にうつ伏せになって極めた。ポジションを入れ替えられる危険性もある腕十字は、残り時間を確認しながらの確信の動きだった。
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解説のドミニク・クルーズが「ビューティフルトランジッション」と感嘆するほど、流れるようなフィニッシュ。「タイラは新世代のファイターであり、個々の動きが連動している選手で、このスポーツの進化を思わせる、見ることが楽しみな選手」と高く評価された。
公約通りの一本勝ちでUFC2連勝を決めた平良は、マット上で小さく踊ると、「アイム・ハッピー・サンキュー! アイム・スーパー・ハッピー! この試合に向けて、デビュー戦から5カ月間で成長した姿を見せられるように、それだけやってきました」と笑顔。
一本勝ちでのフィニッシュについて、「相手がすごいタフな選手だったので(相手が)苦手な部分の寝技で削ろうと思ってました」と作戦通りだったとした。
そして、「僕が日本人の……口が乾燥している(苦笑)、僕が日本人初のUFCチャンピオンになります。チャンピオンになるまで負けません」と力強く王座獲りを宣言。最後にカメラに向かって「早起きしてくれてありがとう!」と、日本のファンにメッセージを送った。
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好きなことをしているから、無敗のプレッシャーも楽しんでいる
(C)Zuffa LLC/UFC
22歳、米国ではそれよりも若く見えると言われる平良は、その試合スタイルや邪気のない言葉も相まって、新たなファンが急増、記者会見でも人気者の一人となりつつある。
試合後、会見の冒頭で「アイム・グッド、ハッピー」と語った平良は、試合前のすべてを受け入れて、アグレッシブに戦いながらも落ち着いていたことを語る。
「攻める姿勢をずっと見せられたのが良かったなと思います。相手の呼吸とか、セコンドの声とかいろいろ感じられて楽しかったです」
攻める姿勢を貫いたのは、自身がUFCで目指しているものを明確に示すためだった。
「チャンピオンに、ベルトを狙っているという姿勢を見せたかったので、フィニッシュにこだわったので仕留められてよかったです。いまは負けられないという気持ちから解放されて、ホッとしています」と安堵の表情を浮かべた。
ベルガラに3ポンドの体重超過があっても試合をやる気持ちは固かった。「延期にならなくてよかったです。前回の試合延期があったから、こんなのは小さな試練に過ぎないなとポジティブに考えて」キャッチウェイトでの試合に臨んだという。
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ゲームプランは「とりあえず『気持ちで負けない』」こと。
体重超過してきた相手に舐められることなく、被弾してもポジションを返されても粘られても弱気は見せず、攻め続け、タップを奪った。
「チョーク取ろうとして腕が張ってましたし、相手もタフで、実際3R行くこともよぎっていて、ずっと(極めの)チャンスをうかがっていました。(教科書のような最後のリアネイキドチョークからの腕十字は)その“教科書”をずっと繰り返していたので感覚でやりました」と、練習で手応えを得ていた自信も見せている。
鮮やかな一本勝ち祝いとして、米国記者からは、平良の好きなハンバーガーについての質問もとんだ。
「前回の会見で言っていた、イン・アンド・アウト(In-N-Out Burger)の裏メニューは食べることが出来ましたか?」
平良は、「前回の試合が終わった後にバタバタして行けなかったです……」と通訳を通して語った後に、英語で「でもインアウトバーガーには行きたいです。アニマルシリーズの3×3(※パティの数×チーズの数)を頼みます」と、大きな笑顔を見せた。
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22歳で年に4、5回、試合したい
(C)Zuffa LLC/UFC
2023年2月には、UFC韓国大会開催の報道もあるなか、出場の興味を問われ、英語で「はい。韓国へ行きたいです」と答えた。
その真意は、「たくさん試合をしたいです。いま22歳で、すごくアメリカに来て成長しているので、たくさん、たくさん試合をしたいです。年に4、5回、したい。この緊張感を乗り越えてどんどん強くなっていきたい」と、海外修行で得た成果を試し、実戦のなかでさらなる強さを獲得したいのだという。
報道陣から「あとどれくらい試合をすればタイトル戦にたどり着けると思うか」と問われ、「タイトルマッチを急いでいるわけじゃないけど……とりあえず今は3連勝したいです」と抱負を語りながらも、「チャンピオンになるまで止まらない」と決意も示す。
12勝無敗、試合をする毎に積み重なる数字にプレッシャーはないかと問われ、平良は、「試合のたびに緊張はするけど、結局は自分の好きなことをしているので、そのプレッシャーも楽しんでいます。試合こなしていったら、試合前じゃないような感じになれるかなと思いますけど、それでサクッと試合をするのが理想形」とオクタゴンでの戦いを語った。
試合後、岡田から「絶対、賞を取るよ」と言われて、「そんなわけない」と言っていた「パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト」も獲得。日本から現れたプロスペクトへの、UFCからの期待の表れともいえる。
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トラブルもあったなか、周囲の期待感をさらに高めるフィニッシュ勝利で2回目のオクタオゴンを後にした平良。今後はランキング入りの戦いも視野に入って来る。
「来年すぐに決まるという話もあるので、それに向けてハードワークですね」と目を輝かせた平良。
5万ドルのボーナスを獲得した22歳のスーパーノヴァは試合翌日、念願の、イン・アンド・アウトを訪れ、3×3のハンバーガーをついに食べたことを明かしている。
※岡田から「今回は(『キングダム』の)桓騎将軍で行こう」と言われていた平良。その理由はYouTubeにて。