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インタビュー

【追悼】アントニオ猪木はなぜモハメド・アリと戦い、どう攻略しようとしていたのか[インタビュー特別公開]

2022/10/01 15:10

アリを潰さなくて良かったとも思います


──その強さの象徴として、世界で一番強いと言われていたプロボクシングの世界ヘビー級王者モハメド・アリに挑戦して強さを証明しようと思ったのですか?

「少し違いますね。意表を突くというか、世間をビックリさせるというか、興行とはそういうことの繰り返しなんです。成長し続けるためには行動の変化、脱皮をしていかないとなりません。幼虫からさなぎになり、さなぎから蝶になって羽ばたいていく、というね。政治の世界でも一時なら風を吹かすことは可能です。でもその風が吹き止んでしまった時に、また新しい風を吹かすのがどれだけ難しいか」

──住む世界が違うわけですから、アリと戦う必要はなかったのではないですか?

「そんなことはないです。アリが『ボクシングこそ最強の格闘技だ』と言ったわけですから。それに噛み付いたのが猪木だったということです。アリがクアラルンプールへ向かうため羽田空港を通過する際に挑戦状を叩きつけたわけですが、スポーツ紙には売名行為だなんだと叩かれまくりました。私はその繰り返しですから。確かに噛み付かなければ済んだ話かもしれないけれど、どこかにプロレスラーの誇りというか、“何を言っているんだ、このヤロー!”って気持ちがありました」

──アリはショーをやるつもりでやって来たところ、猪木さんが「ダメだ、リアルファイトだ」と主張したそうですね。

「そんな話はしたこともないし、アリがどう思っていたかも知りません。まあ、あとになっての話は面白くなった方がいいでしょうからね(笑)。あくまでもこっちは勝負だ、と思っていました」

──アリ戦では「競技者がロープに触れたときはブレークとなる」というルールになったようですが、そこでどう戦おうと考えたのですか?

「それよりもアリをリングに上げることが先決で、このまま帰られたら全世界に赤っ恥をかかされると。日本に来た以上はリングに上げることが最優先で“何でも条件は飲んでやる”という感じでした。もうしょうがないじゃないですか」

──猪木さんが出来ることは、あのアリキックだけだったんですか?

「いや、そんなことしなくても勝つ自信はあったんですよ。捕まえたらこっちのものだ、という。私もあまり映像を見たくないので見ていないけれども、何かの収録の時に見たら私が上からヒジを一発かませたら終わりだったじゃないですか。でもその手が下りなかったというのは、私の意識は関係なく何か見えざる力が働いたというか。変な言い方をすれば“神”がそうさせたというかね。もし私が勝っていたとしても、モハメド・アリに猪木が取って代われるかと言えば代われないし、アリを潰さなくて良かったとも思います」


──なぜ、あの猪木─アリ状態と呼ばれる体勢になったのですか? あれは前もって想定していたことなのでしょうか?

「いえ、全然。昔は『柔拳』(明治末期から昭和初期にあった柔道vsボクシングの興行)というのがあったでしょう? あれで柔道家はすぐに寝るんです。柔道家はパンチを受けないため、ボクサーは相手に組まれないためにどうするか、それぞれ考えて動くとそうなります。ルールは決まっていないわけですから」

──1975年にブラジルから来たルタ・リーブリ出身のイワン・ゴメスが新日本プロレスに留学生として帯同していました。アリ戦の3カ月前に帰国していますが、彼の動きから何かヒントを得るようなことはありませんでしたか?

「それはありませんね。ゴメスはバリツーヅ(バリトゥード)の使い手ということで、藤原(喜明)とかは足関節の練習をやっていましたけどね」

──猪木─アリ状態を15ラウンド、あの体勢をずっと続けるのはきつかったのではないですか?

「そんなことありませんでしたよ。それだけ身体は鍛えていましたから。ただ、身体はボロボロでしたけれどね。たしか右手が上がらない状態だったんです。グラスも持てませんでしたから。練習で相手のパンチを右手で受けると、痺れてしまいました。それでもこちらは倒して上に乗っかれば勝てると思っていましたよ。でも、ロープを抱えられてしまったら、これは倒せないですよね」

──スタンドでの蹴りが禁止といわれるなか、寝た状態からのキック。よくああいう戦法を猪木さんは思いつきましたね。

「あれは本能的なものだと思います。グローブの中に何かが入っているかどうかも分からなかったですが、これはもらったら危ない、と。タックルを見切られてのパンチは絶対に食えない。私もシューズに鉄板を仕込んだけれども、さすがにこれは……と思い、試合直前に取り外しましたけれどね。外さずに蹴っていれば、一発で終わったでしょう。ルールはあっても“何も決まっていない”んだから。本能的にこれは危ないと感じて、理屈ではなく、アリのパンチを食わないためにはこうだって身体が動いたんでしょうね」

──4オンスのグローブにバンデージとテーピングで拳を固めれば、それだけで相当硬くすることも可能です。アリがグローブに細工をしていたという報道もありましたが、事前のバンデージチェックはなかったのでしょうか?

「やっていないんじゃないですか。パンチをもらったことは覚えていませんが、2発もらっただけで翌日コブになりましたからね。普通のグローブだったらコブにはならないですよ。あれではどこに当たっても引っくり返っていたと思います。捕まえに行く方は中央に引きずり込みたい。けれども、相手にロープを捕まれたら倒せないじゃないですか。

 まぁ、あとになってみればあれもこれもといろいろ言えますが、しょうがないでしょう。中身は何を言われても仕方がないと思いますが、あの試合が実現出来たってことが私の歴史の中で大きな勲章になり、いまだに政治で外交するのにもプラスになっています。普通の議員なら会えませんけれど、私はいろんな国の要人とも会えますから。いまキューバからもプロの興行をやって欲しいとの要請があります」

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