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インタビュー

【UFC】11戦無敗のチマエフvs.“脱力”ネイト「新しいチマエフを出さないとディアスには勝てない!?」(髙坂)=9.10『UFC279』

2022/09/08 19:09
 2022年9月10日(日本時間11日)、米国ネバダ州ラスベガスのT―モバイル・アリーナにて『UFC279: Chimaev vs. Diaz』が開催される。  メインイベントは、MMA11戦無敗、UFCでも5連勝中の超新星カムザット・チマエフ(スウェーデン)が、コナー・マクレガーとの2度にわたる激闘で知られる“悪童”ネイト・ディアス(米国)と対戦するウェルター級(5分5R)戦。  この注目の一戦の見どころをWOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”髙坂剛に語ってもらった。 ウスマンの独走体勢が崩れ、一気にウェルター級戦国時代に ――『UFC279』のメインイベントは、カムザット・チマエフvs.ネイ・ディアスという大注目のウェルター級マッチが組まれました。 「もともとチマエフvs.ネイトは注目されていたカードでしたけど、先月の『UFC278』で行われたウェルター級タイトルマッチで、王者カマル・ウスマンが敗れてレオン・エドワーズが新王者となったことで、この試合の意味がより深くなった気がしますね」 ――絶対王者ウスマンの独走体勢が続いていたウェルター級が、一気に戦国時代に突入した感もあります。 「ここでチマエフが勝てばタイトルマッチが見えてくるし、ネイトの方も新王者エドワーズとは因縁がありますから」 ――ネイトは2021年6月の『UFC263』でエドワーズと対戦し、判定で敗れたものの、5Rにあわや逆転KO勝ちというシーンを作りましたしね。チマエフも2020年にエドワーズ戦が組まれながら、両選手の新型コロナウイルス陽性などもあり3度試合が流れて結局中止になった経緯があります。 「だからチマエフもネイトも新王者エドワーズという存在を意識しながらの一戦になると思うんですよ。とくにネイトは、これがUFCとの契約最終試合で、この一戦を最後にオクタゴンを去るんじゃないか、なんて言われてますけど。ここでチマエフに勝ったら、“1試合だけエドワーズとタイトル戦をやらせろ”とか言い出しかねない(笑)」 ――莫大なファイトマネーで1試合契約を迫ることも考えられますね(笑)。 「そういった裏事情も含めてさらに深みが増したな、と思います」 ――試合展開自体についてはどうみていますか? 「両者の特性を考えると、まず“スタミナ抜群のネイト・ディアス”ということが挙げられますよね。それを前提にUFCでのチマエフの試合をあらためて見返すと、やはり前回のギルバート・バーンズ戦がすごく引っかかるんですよ」 ――これまで全試合を1、2Rで圧勝してきたチマエフが初めて判定に持ち込まれ、2Rは落とすなど、僅差の激闘になりました。 「あの試合でチマエフは、スタミナの点で若干難ありというところをちょっと露呈しちゃった感があるんですよね。これまでは秒殺に近い試合時間で勝てていたので、1Rから出力全開でいっても問題なかったけれど、やはりトップランカーのバーンズは、そのチマエフの猛攻を凌いだじゃないですか」 ――バーンズは1Rにダウンを喫したもののそれを凌いで、2Rは逆にパンチラッシュで圧倒しましたね。 「チマエフ相手にこれができたのは、それまで誰もいなかったんですよ。それで1Rにフィジカルを使いすぎたチマエフは、2Rに崩れてきた。パンチの空振りが目立ち出して、空振りから体勢を戻すのって疲れるので、負のスパイラルに入ってしまった。だから、これまで圧倒的な強さを見せてきたチマエフが、バーンズ戦では自分のペースが崩れた時の脆さを露呈してしまったというのが自分の見方ですね」 ――ただ、バーンズも消耗した3Rに再び反撃して、そこから判定勝ちをものにしたのは、たいしたもんですよね。 「そこは彼の地力の異常な強さというか、獣(けもの)チックなところがあると思うんですよ。3R目にバーンズが残りのフィジカルを振り絞ってタックルにいったとき、チマエフはそれを体のいなしだけで切ったシーンがあった。ああいう動きはすごく感覚的なもので、疲れていながらあれができるというのは、その動きが体に染み付いているか、本能的なものなんですよ。だからチマエフは、今のUFCトップレベルの選手が持っている洗練された総合力はまだ持ち併せていないけれど、天性、野生の格闘技の才能があまりにも強すぎるために、早くもトップクラスに届いてしまった状態なんじゃないかと、バーンズ戦を観て思いましたね」 ――まだ荒削りであるにもかかわらず、才能がありすぎてトップランカーに勝ててしまった、と。 「そうですね。UFCのトップファイターはみんな、プランAが凌がれたとしてもプランB、プランCが用意されていて、さまざまな局面でフルラウンド戦える選手ばかりですけど、チマエフはトップクラスの実力がありながら、そういった試合作りがまだできていない、という珍しいタイプですね」 [nextpage] 5R戦でスタミナ抜群のネイトに、野性のチマエフの新たな面が見られるか ――一方、ネイト・ディアスは、前半どんなにボコボコにやられても最終的に盛り返して勝てばいいという戦い方を信条としています。 「だから今回は、そのスタミナ抜群のネイト・ディアスとチマエフが、5分5R制で戦うというのがいちばんのポイントですよね。で、ひとつ疑問に思うのは“ネイイトって、なんであんなにスタミナがあるの?”ってことだと思うんですよ。ネイトには悪いですけど、そこまで追い込んで、スタミナを向上させるための特別なトレーニングをしているように見えないじゃないですか(笑)」 ――昔からトライアスロンに取り組んでいるのは知られていますけど、一方でいろんな葉っぱを吸ってたりしますしね(笑)。 「だからあのスタミナの秘密は、ネイトの戦い方にあると思うんですよ。注意深く見ると、ネイトは攻撃も防御もほぼ“いなし”を使ってるんです。もちろんネイト最大の武器であるパンチのワンツーを入れるときは体重を乗せて、出力も使っているんだけど、他の動きに関しては脱力してなるべく体に負荷がかからないようにしている。ネイトがよく見せる、距離を取るための軽い蹴りの時、両腕をブランブランにさせているのなんて、まさにそれですよね。ネイトの中には“身体に負荷がかからないように動く”ということが、おそらく主題としてあるんだと思います。だから5Rまでいっても動きは変わらないし、逆に相手はどんどん消耗しているので、ちょっとしたフェイントに引っかかって、ネイトのパンチや寝技の餌食になってしまう」 ――無駄な力を使わず、フィジカルで勝る相手を時間をかけて仕留めるというのは、かつてのヒクソン・グレイシー、ホイス・グレイシーなんかにも通じるものがありますよね。 「だからネイトはMMAの試合の中で、自分なりの“柔術”で戦っているような気がします」 ――あのネイトの戦い方こそが“ディアス柔術”だという。 「それに対して、これまで1Rからフィジカルを全開で使って短時間で圧倒する戦い方をしてきたチマエフが、5R制でネイトとどう戦うのか。ネイトというこれまでとはまったく違うタイプの選手とやってスタミナを消耗した時、どんな技を持っていてどんな動きができるのか、それを見るのがすごく楽しみですね。おそらくバーンズ戦を踏まえて“これじゃいかんぞ”と思って、自分なりに新たに取り組んだものもあるだろうし。どちらにしても、新しいチマエフを出さないとネイト・ディアスには勝てないと思うんですよ。もしかしたら、その力を引き出すのは、他ならぬ対戦相手のネイトかもしれない」 ──ネイト・ディアスは相手の心理を弄ぶようなところがありますよね。 「相手をイライラさせて、平常心でいられなくする、それもネイトの技術ですから。あの粛々と任務を遂行するような戦いをするレオン・エドワーズが、ネイト戦では試合中に中指を立てたんですよね。あれは相当、フラストレーションを溜めさせられたんだと思うんですよ」 ――そのイライラもあって、最終5Rに反撃を許してしまったのかもしれないですよね。 「そうやって心理的に追い込んでいく術をネイトは持っているので、それが野性のチマエフにどこまで働くのか。逆にネイトの揺さぶりを簡単に凌駕するほどの力をチマエフが見せるのか。単に技術やフィジカルの攻防だけでなく、心理面も含めていろんな角度で楽しめる試合になると思いますね」(取材・文/堀江ガンツ) [nextpage] 『UFC279: Chimaev vs. Diaz』 ◆WOWOW『UFC -究極格闘技-』放送・配信スケジュール『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC279 in ラスベガス 無敗チマエフVS悪童ネート・ディアス』8月、UFC契約を勝ち取った木下憂朔がゲスト解説出演! 9月11日(日)午前11:00[WOWOWライブ]※生中継(WOWOWオンデマンドで同時配信) 9月14日(水)午前8:00[WOWOWライブ]※リピート(WOWOWオンデマンドで同時配信) 【WOWOW出演】ゲスト:木下憂朔解説:髙坂 剛、堀江ガンツ実況:髙柳謙一WOWOW番組オフシャルサイト 【メインカード】(WOWOW/UFC FIGHT PASS) ▼ウェルター級 5分5Rカムザット・チマエフ(スウェーデン)11勝0敗(UFC5勝0敗)※UFC5連勝中ネイト・ディアス(米国)20勝13敗(UFC15勝11敗) ▼ウェルター級 5分3Rリー・ジンリャン(中国)19勝7敗(UFC11勝5敗)トニー・ファーガソン(米国)25勝7敗(UFC15勝5敗)※ウェルター級転向 ▼180ポンド キャッチウェイト 5分3Rケビン・ホランド(米国)23勝7敗(UFC10勝4敗)ダニエル・ロドリゲス(米国)16勝2敗(UFC6勝1敗)※UFC3連勝中 ▼女子バンタム級 5分3Rアイリーン・アルダナ(メキシコ)13勝6敗(UFC6勝4敗)メイシー・チアソン(米国)8勝2敗(UFC6勝2敗) ▼ライトヘビー級 5分3Rジョニー・ウォーカー(ブラジル)18勝7敗(UFC4勝4敗)イオン・クテラバ(モルドバ)16勝7敗(UFC5勝6敗) 【プレリム】(UFC FIGHT PASS) ▼フェザー級 5分3Rハキーム・ダオドゥ(カナダ)13勝2敗(UFC6勝2敗)ジュリアン・エローサ(米国)27勝9敗(UFC5勝5敗) ▼220ポンド キャッチウェイト 5分3Rジャイルトン・アウメイダ(ブラジル)16勝2敗(UFC2勝0敗)アントン・トゥルカルジ(スウェーデン)8勝0敗(UFC0勝0敗) ▼ミドル級 5分3Rジェイミー・ピケット(米国)13勝7敗(UFC2勝3敗)デニス・トゥルーリン(ロシア)9勝6敗(UFC0勝1敗) ▼ヘビー級 5分3Rジェイク・コリアー(米国)13勝7敗(UFC5勝6敗)5クリス・バーネット(スペイン)22勝8敗(UFC1勝2敗) ▼女子フェザー級 5分3Rノルマ・ドゥモン・ビアナ(ブラジル)7勝2敗(UFC3勝2敗)ダニエル・ウルフ(米国)1勝0敗(UFC0勝0敗)※全米ボクシング選手権3年連続 (2013 年から2015年) 優勝、DWCS 4.7 ▼バンタム級 5分3Rチャド・アンヘリガー(カナダ)12勝5敗(UFC1勝0敗)アラテン・ヘイリ(中国)15勝8敗(UFC3勝1敗) ▼女子ストロー級 5分3Rエリース・リード(米国)5勝2敗(UFC1勝2敗)メリッサ・マルティネス(メキシコ)7勝0敗(UFC0勝0敗) ▼ウェルター級 5分3Rダリアン・ウイークス(米国)5勝2敗(UFC0勝2敗)ヨハン・レイネス(カナダ)8勝1敗(UFC0勝1敗)6KO/TKO
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