キックボクシング
インタビュー

【THE MATCH】“もうひとつの世紀の決戦”を制した海人はいかに“怪物”野杁を攻略したか「本当に楽しい時間でした」

2022/06/20 15:06
 2022年6月19日(日)東京ドームにて「THE MATCH 2022」が行われた。  5万6千399人の観衆によるチケット売り上げ20億円、50万件(25億円)以上のPPV購入があった同大会のセミファイナルでは、68.5kg契約(3分3R延長1R)で、K-1 WORLD GPウェルター級(-67.5㎏)王者の野杁正明(K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)と、シュートボクシングS-cup 2018 -65kg世界T王者の海人(TEAM F.O.D)が対戦した。  9連勝中の“怪物”野杁と、11連勝中の“SBの絶対的エース”海人が、那須川天心vs.武尊に並ぶ“もうひとつの世紀の決戦”として注目が集まるなか、試合は、延長判定の末に、海人が勝利。  試合後、「シュートボクサーの海人です。これで日本に相手がいなくなりました。次は自分は世界へ行きます。世界と戦って世界一になります。そのためには、皆さんの力が必要です。皆さん一緒に世界に行ってください」とあらためて世界進出をアピールした。 対策をしっかり練られていた(野杁)  試合は、ともに長身でオーソドックス構えの接近戦に。 「ファイトスタイルが似ている」と言われる両者は、互いにガードを固めてブロッキングして中に入り、左ボディ、ボディへのヒザ、顔面への跳びヒザと左右・上下に打ち分けると、死角への攻撃、離れ際に連打をまとめるなど、針の糸を通すようなテクニカルな展開を繰り広げた。  何が勝敗を分けたのか。  2019年3月のジョーダン・ピケオー戦の判定0-2負け以来の黒星を喫した野杁は、会見で「悔しい、の一言ですね」と唇を噛んだ。  右前腕に包帯を巻いて現れ、「1Rで骨折した」ことを明かすと、怪我については「言い訳になっちゃうんで」と多くは語らず。「試合前に怪我しようが、試合中に怪我しようが、勝つやつは勝つんで、本当に関係ないですね」と語り始めた。  その右腕は練習中にすでに痛めていたのか、自身の攻撃か、それとも海人の攻撃をブロッキングして痛めたのか、会見では明かさなかった野杁は、海人について「戦っていて身体の強さは感じました」という。そして、「僕の対策をしっかり練っていた印象がありました」と。 [nextpage] 「似ている2人」──海人は「意地でも下がらんといたろ」  近い距離でヒジ・ヒザも使える海人にとって、K-1のようなヒジ・首相撲無しルールでの戦いは未知数だった。K-1ルールで前に出たときに使える技は野杁の方が多い。その距離を潰して直線的に打ち込む攻撃に、多くの選手は恐怖を植え付けられ後退を余儀なくされる。  その“怪物”を前に、海人は“意地でも下がらんといたろ”と決めていたという。「自分がプレスをかけて、野杁さんがやりにくい、野杁さんのリズムじゃない戦い方をしようと、意地でも下がらないというイメージ」で戦っていた。  いつもの相手のように下がらない海人に対し、野杁は、「別に想定外ではなかったし、驚きはない。(海人は)70kgでもやっていて、僕よりリーチもあるしそこは想定内。それでも全然勝てる自信があったので」という。  相手が下がらなくても、接近戦でのつば競り合いで上回る──ガードを固め、ボディ打ち、ときにワンキャッチワンアタックで首をひっかけ鋭角なヒザを上下に突く。  しかし、海人はそれを「いつもの受けて返す」形だけではなく、「打ち合うスタイル」で真っ向勝負した。 「やっぱり、いつもだったら逆のパターンだと思うんですよね、攻撃受けて細かいの合わせていって倒していく。でも、今回は相手の土俵でその場で打ち合って、しっかり倒したろうと思っていたので、判定もいって、延長もいったけど、その相手の土俵でしっかり戦い抜いて勝とうとしていました」 1、2発で終わらず、3発、4発としっかり返してきた(野杁)  その海人に野杁は、新たな動きである奥足へのインローも当てるが、「思ったとおりに戦えなかった」と振り返る。  野杁の得意な左ボディ打ち、そこに海人はショートのカウンターを合わせて、打ち返しも手数をまとめていた。 「僕が得意としている攻撃に対してのリターンはすごい対策している印象がありましたし、僕が攻撃を出すと向こう陣営のセコンドから『それ、練習でやってたやつだよ』という声が聞こえて、対策をしっかり練っていた印象がありました。しっかりブロックしたうえで、1、2発で終わらず、3発、4発としっかり返してきていた。僕にはそれはなかったかなと思っています」(野杁)  その手ごたえを海人も「パンチは効いたんじゃないかなと。一瞬(相手が)退いてふらつきもしたので、パンチを効かせられたんじゃないかとは思います」と語る。  打ち返し、左ジャブのダブルも当てて前進し、野杁にロープを背負わせた。「スタミナは全然まだ続けられる状態だったので、もっと戦いたかった。しっかり倒したかったので」と、緻密な神経戦のなかでもアグレッシブに戦い、心身ともにスタミナを切らすことはなかった。  攻勢の場面を作るも、本戦は意外にも30-30のドロー。試合は延長ラウンドへともつれこんだ。気持ちが折れそうなところだが、海人は、「正直自分だけの気持ちで言えば、“良かったな”と」と感じたという。 「はっきり白黒つけて倒したかったので、“延長までいって、“良かった、倒せる”と。『本戦で勝っていた』といろんな人に言われるので、それはそれで良かったけど、僕自身は倒したかったので延長まで行って良かった」  延長も一進一退、ひとつのミスが勝敗を分けるマストラウンドの攻防でフィニッシュを狙った海人だが、1Rに腕を傷めていた野杁も応戦。しかし間合いが空いた分、海人が得意の右ストレート、跳びヒザをヒットさせるなど、接戦を制した。 [nextpage] またどこかで「世界一」になる時に対戦したい(海人) 「野杁選手と戦わせてもらって、肌で感じて本当に強いなと感じました。“本当に楽しい時間”でした」  下馬評は、野杁優勢だったことに海人は、「見てもらっている人たちに自分が強いことを証明したいというのが、一番大きかったので、それを証明できたかなと。でも倒してそれを言いたかったので、次に繋げていきたい。もう日本に敵がいないと胸を張って言える。いま日本一のファイターで、世界に一番近いのは自分、と改めて確信に変わった」と語る。  目指すのは「世界」だ。 「ここは“通過点”だと思っているので、次は世界一になるための準備をしていきたい。世界一になって、リングの上で『シュートボクサーの海人が世界一になった』と言いたいです」  今回は68.5kg契約試合。世界には70kgでの挑戦も視野に入れる。70kgは、かつて日本の魔裟斗が世界と渡り合った階級で、現在、ONE Championshipでは、スーパーボン、チンギス・アラゾフ、マラット・グレゴリアン、ジョルジオ・ペトロシアン、シッティチャイ・シッソンピーノンら、強豪が名を連ねる。  S-cupで65kgの世界トーナメントを制した海人は、この3年で階級上の選手との対戦を増やしてきた。 「普段から71kg、72kgくらいしかないので、今回も減量は全然なかったです。今回も、70kgでやっているときも減量がほとんどないので、今の状態のままもっとレベルを上げないとダメだと思います。70kgで世界一になれるようもっと練習したい」  敗者も2019年から6人の海外勢と国際戦を戦ってきた。野杁もまた、目指すのは「世界」だ。 「本当にたくさんのファンの方を失望させてしまったと思いますし、いまは自分自身にも失望しています。でも僕自身、まだまだこんなもんじゃない、まだまだ進化できると思っている。敗者に口無しなので何も言えませんが、それでも信じてくれるファン、チームメイト、家族などを喜ばせるためには、さらに強くなって復活するしかないので、しっかり強くなって帰ってきたいなと思っています」  海人も試合後、野杁について「純粋に本当に強かったです。野杁選手から教わったことを自分の実にして世界で勝っていきたい。技の一つひとつの精度、新しい僕が、嫌だと思った技もあったので、それを自分にプラスして、それを使って世界と戦っていきたいと思いました。自分の次に世界に通用するのはやっぱり野杁さんだと改めて思ったので、またどこかで、世界一になる時でもいいので、どこかで対戦したいと思いました」と、名勝負を経て互いに進化し、ステージを上げての再戦を望んだ。  日本の立ち技の“至宝”と言える、海人と野杁の頂上決戦、そして世界の頂きへの挑戦に注目だ。
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