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【RIZIN】なぜ朝倉未来はメイウェザーと戦うのか?“配信時代の申し子”が挑む「危険な賭け」

2022/06/15 07:06
 2022年6月14日(火)、RIZIN公式YouTubeチャンネルにて記者会見が行われ、9月(日時・会場は後日発表)に日本で朝倉未来(トライフォース赤坂)が、プロボクシング五階級制覇フロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)と、エキシビションマッチで拳を交えることが発表された。  米国ラスベガスで行われた会見冒頭で「僕はMMAファイターなので世界に名を売るために利用させてもらいます。倒します」と語った朝倉。それは、試合時に三十路を迎える朝倉未来が、ファイターとしての集大成に向かうなか、世界を振り向かせるための“飛び級”の大勝負に出るための決断だった。 日米の配信キングによる戦いは『THE MATCH』に続き、PPV時代の幕開けに  会見後、自身のYouTubeで「メイウェザーと試合が決まりました」をアップした朝倉は、「僕はMMAファイターなので、まあ、賛否両論あると思うんですけど、格闘家でこのオファーが来たら、断るやつはいないでしょう。MMAの選手として世界を目指してやっていくなかで、メイウェザーの知名度を利用して、もっと面白いMMAの選手と出来たらいい」と、プロボクシング五階級制覇王者との試合で世界的にも知名度を上げて、ワールドクラスのMMA選手との試合も実現させたい考えを明かした。  元THE OUTSIDER二階級(60-65kg級、65-70kg級)王者としてRIZINに参戦し7連勝を含む10勝2敗、ファイターとしていち早くYouTubeにも取り組み、過激な企画で人気を得ることで、メイウェザーの相手として抜擢された。  メイウェザーの日本での試合権利を持つ『MEGA』の契約を引き継いだ榊原信行RIZIN CEOは、「メイウェザーを迎え撃って戦える選手は朝倉未来しかいない」という。 「もともとコロナの前に『MEGA』というイベントをやろうと立ち上げた実行委員会があった。そこでメイウェザー選手との契約を取って、我々はその制作請負いをするという話でした。その当時から未来選手にも対戦の可能性があるので、と話はしていたんです。コロナがあって『MEGA』としての大会開催が難しいということで、その契約を我々が引き継ぐ形になって、年末が終わってようやくコロナが落ち着いてきたくらいから、未来には話をして、我々としても世界戦略を持ってRIZINを広めていく上でメイウェザーの知名度、キャリア、圧倒的なパフォーマンスの魅力を活用する。その中で誰がふさわしいかと言うと、未来しかいないんだよね。彼を迎え撃って戦える選手は」と、“配信時代の申し子”に白羽の矢を立てた理由を語る。  約50億円が期待できるという日米の配信キングによる戦い。『THE MATCH』に続き、「RIZIN FIGHT PASS」で配信されるこのカードは日本における格闘技PPV時代の本格的な幕開けとなるだろう。 [nextpage] 世界のメジャー選手と「飛び級」で戦う通行手形を手に入れられるか  強さを得て結果を出すこと、YouTuberとして数字を持つこと──いずれも自身の努力によって、今回のチャンスを得た朝倉は、ファイターとしてのリミットに向け、大勝負を仕掛けようとしている。  本来であれば、実力のあるファイターに勝ち続けることで、UFCなど北米メジャーと契約、ランカーとの戦いを勝ち上がれば、世界最高峰の選手と戦う権利を得ることが出来る。  しかし、当初は引退時期に決めていた「30歳」という大台に乗ることで、自身が望む世界のメジャー選手との対戦機会は狭まっていく。そんな状況下で、朝倉は“飛び級”出来る通行手形を、メイウェザー戦で得るつもりだ。 「なんだかんだ言ってもメイウェザーって世界で知らない人はいないくらい有名だし、これで少しでも世界で有名なファイターに目をつけられたら嬉しいし、コナー・マクレガーとかもメイウェザーとボクシングファイトをしてるけど、それを超えるような試合をして、マクレガーとかともやりたい。そういう喧嘩を売っていきたい」と、“メイウェザー戦で世界をどよめかした男”の肩書を持って、MMAで世界を相手に喧嘩を売っていくという。 「今回、こっちも利用させてもらうくらいの感じで、メイウェザーと戦ったら、世界中、いろんな人が俺と試合をしてくれると思うので、Bellatorの強豪選手とか、そういう選手とやっていきたい。とりあえずクレベル(コイケ)選手とやって、(RIZINが)Bellatorともいつでも戦える関係だと聞いているので、Bellatorとの対抗戦とかもやったらすごい日本も盛り上がると思います」  日本人ファイターが世界で求められる機会の少なさやハードルの高さにジレンマも感じている。ならば、求められる存在になればいい。  一方で、元来の負けず嫌いの性格上、リベンジを忘れることはない。限られた現役生活のなかで、敗れた相手に借りを返して、世界に打って出たいと考えている。 「それこそ俺はクレベルにやり返したい。だから年末も試合をしたいと思っているから、9月に試合をして、キレキレになった俺の状態でまた、年末も試合をしたい。  それに、Bellatorの有名な選手とかとやりたい。でもメイウェザーとやったら、普通にあっちから来ると思う。何だかんだ言っても、日本で試合をするときは、そういう知名度のある人と戦いたいっていうのがあると思うから、(パトリシオ)ピットブル(※現Bellator世界フェザー級王者)とか、そのへんとやっぱやりたいのは変わらないんで、そうするためにも俺も(メイウェザーを)利用させてもらうみたいな感覚で試合を受けている。 (世界と戦う)やるチャンスはめっちゃ上がると思うし、こんなチャンス、掴まないわけないし、俺たちが想像もしてないことがいろいろ起きるんじゃないかなというのは思っている。すべてはMMAのため。ボクシングに転向する気とかもないし、ほんとうにMMAの選手として世界で活躍していきたいっていうなかで、一時期、ボクシングで練習してもいいじゃんっていう、結果的にMMAで使えるんだから──という感じで受けましたね」 [nextpage] 「いまのまま戦う」朝倉の勝算  チャンスはリスクの裏にある。朝倉にとって、そのリスクのひとつは、ボクシングルールでどこまで持ち味を出せるのか、になる。  ストライカーではある。しかし、もともと右利きサウスポーの朝倉はパンチャーではなく、蹴り技を有効活用することで、パンチも巧みに当ててきた。それが、蹴り技や組み技を封印されるなかで、圧倒的なディフェンス力を持つメイウェザーに触れることが出来るか。 「これから試合まではボクシングの練習だけにしようと思っているんですけど、なんか変にボクシングの技術を採り入れるよりは、いまのまま戦った方が相手が戦いにくいと思うので、ボクシングのミットの数を増やしていくだけになると思います。  いろんな打撃の選手ともスパーリングさせてもらって、俺の打撃はやりにくいと言われるから、自分で言うのもなんですけど、すごい異質な特殊なストライカーなので、たぶんメイウェザーがいままでやった相手とは違うと思うので、このままの感じで戦えれば(パンチが)入るんじゃないかなと思ってます」  綺麗なボクシングをやるつもりはない。右利きサウスポーで前手の右フックが強い朝倉は比較的リーチがあり(※朝倉は身長177cm/リーチ174cm、メイウェザーは身長173cm/リーチ185cm)、右でも左でも奥手のストレートが速く、空手ベースの踏み込みが長い。ボクシングのセオリー通りではない打ち方を持つといえる。  しかし、クリーンヒットをほとんどもらわない図抜けた防御力を持つメイウェザーを苦しめた相手は限られる。  初期にエマニュエル・バートンが前進を止めないタフさやトリッキーなスタイルで「最も苦戦した相手」に挙げられた。あるいは、判定まで持ち込んだ階級上のデマーカス・コーリー、変則的なスタイルを持つマルコス・マイダナの独特な軌道のパンチにも序盤は戸惑いを見せている。  それでも50戦50勝(27KO)無敗──誰もその牙城を崩せなかった。2021年には、体重差15kg、身長差15cm、年齢差18歳のローガン・ポールとの「エキシビションマッチ」で8Rを戦い、試合をコントロールしている(※判定無し)。ボクシング経験の無い朝倉が、メイウェザーとボクシングルールで戦うことは、メイウェザーにとって“マネーファイト”でしかない。  研究肌の朝倉は、すでにメイウェザーの動画を「何個か見た」という。その上で、45歳の“マネー”の動きを「現役のときはすさまじい強さだなと思いましたけど、最近のエキシビションの姿を観ていると、だいぶ落ちているなと感じますね。(会見で向き合って)普通になんか弱そう。全然俺の方がデカいし、身体も俺の方がだいぶデカい。パンチ力とかは全然戦えると思う」と、分析する。  さらに、「今回、体重が70kg契約だから(天心戦は66.7kg、ローガン・ポール戦が70.3kg、ローガンに190ポンド=86.18kgまでの制限あり)一応、俺有利で当日、ライト級みたいな身体で戦える。12Rとかあったらメイウェザーが言ってたように、ちょっとキツくてたぶん、俺持たないけど、3分3Rだから、はっきり言うと全然行けると思う。普段(MMAで)5分3Rやっている、瞬発力や爆発力のある俺の戦い方が出来る。  パンチ力は相当自信があるし、人生で1回もKO負けしたことはないから、打たれ強さにも結構、自信がある。ほんとうに肉を切らせて骨を断つ戦法──ガンガンもらいながら行こうかなと思っている」と、自信ものぞかせた。 [nextpage] 「タダで返すつもりはない」朝倉の秘策  会見でメイウェザーから「お金を出せば5Rでも8Rでもやってやる」と挑発され、「お金を出してMMAでやりたかったですけどね(笑)。間を取ってキックボクシングくらいでやりたかった」と返した。  心理戦はもう始まっている。それは億単位の“罰金”覚悟のキック予告だ。 「メイウェザー、1発蹴ると(罰金)5億なんで……ちょっとクラウドファンディングしようかと思ったんですけど……でも(効かすのに)2発はいるんですよね、絶対。一番入る技は、俺が斎藤(裕)戦で見せた右ストレートに合わせてテンカオ、左のヒザ蹴りを腹に打ち込むのが絶対決まるんですけど……5億はデカいよな……まあ、しょうがないですよね、それは。(蹴りを)入れたら大事件になるけどね。めちゃめちゃね……」と真顔でルール変更まで示唆する。 「タダで返すつもりはないですね。アイツ、なんか金儲けくらいの気持ちで来てると思うんですけど、もう全力のファイトスタイルで、1、2発もらいながらブン回して、一撃でもいいのを入れて、グラつかせたいよね。ほんとう、KOするつもりでやりますよ。ちょっと世界中をどよめかしたいよね。アイツ、絶対に“驕り”が出てるから」  爪あとを残すために、朝倉はここから3カ月、ボクシングに本格的に取り組むことになる。それは前述した通り、MMAファイターとしての動きを活かしたものになるという。 「MMAファイターのなかで見ても、ボクシングテクニックで(メイウェザーに)勝てる人って、世界中いないし、世界一だった男と試合をして、いろんなテクニックだったり(吸収して)、これからの期間はボクシングをずっと練習していくので、(今後)MMA選手で世界中、誰が来ても怖くないようになれるのかなと思いますので、今回、挑戦することに決めました」 「メイウェザーと戦わないか」と問われるMMAファイターは世界でも限られる。そしてそのチャンスを断るファイターは、ほぼいないだろう。 「すべてはMMAのため」──と朝倉は大勝負に出るが、MMAとボクシングは別競技で、MMAで戦うためのリミットは、MMAの練習を行うリミットでもある。 「『MMAの軸はブラさず』とは言ったものの、いまからパンチだけの練習をしていこうかなと。ここ最近、総合の練習もしつつボクシングの練習もめっちゃしてたんだけど、やっぱりグラップリングをした後にミット打ちとかをやると重くて、全然、練習量がいかないから、とりあえず走り込みとボクシングに特化した練習だけしながら、いまのスタイルを変えずに行こうかなと思っている」と、今後の練習方針を語る。 [nextpage] 9月メイウェザー戦と年末のMMA、相反する動きをひとつに繋げられるか  メイウェザーと拳2つで戦い触れるために、実際にどんな練習を選択するか。  蹴りやテイクダウンのあるMMAでは使えなかったパンチがある。同時に、MMAでは使い辛い距離や体勢のパンチもある。これまでの蹴りとパンチに加え、ボクシングで得た戦いが融合できれば、新たな進化を遂げるだろう。  一方で、ボクシングの練習に時間を費やすことは、朝倉が急速に磨きをかけてきた組み技の練習の時間を削ることにもなる。 「スタイルは変えない」という朝倉が、距離も重心も異なるボクシングに取り組むことで、その後のフェザー級王座獲りに向けて、再びMMA仕様に3カ月で戻すことに不安は無いか、と問うと「メイウェザーは出入りがすごく速いし、総合よりのボクサーなんで、全然ボクシングに寄ることはないと思います。むしろMMAのキャリアに置いてすごい収穫になるんじゃないかと思います」と、メイウェザー攻略が、MMAに活きると断言した。  この日、7月31日(日)「RIZIN.37」さいたまスーパーアリーナ大会の開催が発表された。そこでは、ライバルのクレベル・コイケと牛久絢太郎のタイトルマッチの可能性も浮上している。 「7月か9月に牛久と戦う」というクレベルは現在、UFCバンタム級ランカーのペドロ・ムニョスの紹介により、米国のアメリカントップチームに出稽古中で、そこでは堀口恭司や、ONE Championship王者のアドリアーノ・モラエス、PFLのグレイゾン・チバウらの手助けも得て、かつてKSW時代に敗れた現UFC3連勝中のマテスス・ガムロ(※6月25日のメインでアルマン・ツァルキャンと対戦)とも練習。  2日目の練習後には「何も出来なかった。すごい勉強になった。いい練習です」と語るほど、日々、弱点の打撃とレスリング強化に励んでいる。そして王者の牛久も、得意の組み技に加え、寝技の強化、パワー・オブ・ドリームでの立ち技強化に余念がない。7月か、あるいは9月に牛久とクレベルが戦えば、朝倉と同じ大会でフェザー級の王者が決まることになる。  それぞれがそれぞれのやり方で“大一番”に向かうなか、朝倉にとっての「勝利」は、メイウェザー戦で大きなダメージをもらわずインパクトを残すこと、そして年末のMMAに勝利し、世界進出を果たすことだろう。  その“飛び級”には、チャンスもリスクも潜んでいる。「来年中に海外に移住します、何でかと言ったら格闘技のため」と、米国を拠点とすることも宣言している朝倉は、果たして“危険な賭け”に勝利することが出来るか。
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