米国レスリング界でコールドウェルは、化け物
――もう一つ、ダリオン・コールドウェルという選手のレスリング力について、日本人には実感しにくいところがありますが、オールアメリカンに2度選出されているというコールドウェルですが、NCAAディビジョン1で2度の優勝を果たしている。この凄さが……。
「NCAAでは、ダニエル・コーミエー、ジョン・ジョーンズも頂点に立ったことはないですからね。MMAファイターでは数少ないトップ中のトップのレスラーです。ベン・アスクレン、ジョニー・ヘンドリックスが2度優勝。今度、7月12日のBellator224に出るストラッサー起一選手の相手のエド・ルースがNCAAで3度優勝は快挙ですからね。大学一部リーグのエリート中のエリートが出るところでしのぎを削っている連中の中で、優勝している」
――つまり化け物であると。その化け物と堀口選手は、日本人としてマディソン・スクエア・ガーデンでタイトルマッチを戦う。
「たぶんこういう答えは聞きたくないと思うんですが、個人的にはMSGのすごさってあんまりピンとこないんです(笑)。堀口選手も同様でそこにまったく気負いがない。それが何? という感じで(笑)。ただ、それでもニューヨークで、さらにMSGという大きな会場で戦えることは非常に光栄なことだと思います」
――ああ、たしかにそこは日本の世代的なものかもしれません(苦笑)。柏木さんは米国生活も長かったから。でも堀口選手が公開練習でRIZINのオープンフィンガーグローブを着けていたのには、少し感じ入るものがありました。
「そうですね。堀口選手もいろいろなインタビューを受けてきましたが、本人が言っていることは本当に一貫してブレていなくて、『格闘技をもっと広めたい』と。そして、自分が勝って注目されることが、日本の格闘技界が注目されて良くなることに繋がってほしい、自分が世界で注目されることが日本の活力になる──この思いで一貫しています。
だから、会場がMSGであることとかに特別な気負いはない。ただ、ひとつだけ、この試合に向けて意識しはじめたのかなと僕が感じたのが、『世界一って何なんだ』ということ。堀口選手は『自分が2団体のチャンピオンになることが、格闘技界にとっていい方向に進める力になる』と言っていたんです。本当に団体の垣根を越えて、ファンが望み、選手同士がやりたいとなったときに、その夢を実現させる。このスポーツを次のステップに持っていくための自分がきっかけになれればいいかなと、という思いを堀口選手から感じるんです」
――団体、放送局……様々なしがらみがあるなか、統一王者が生まれるように。
「はい。スコット・コーカー代表と話したときにも、『チャンピオンvsチャンピオンというのは、本当になかなかできないことだから』と、今回の実現の奇跡を語っていました。堀口選手とコールドウェルはペーパーチャンピオンじゃないじゃないですからね。本物のチャンピオン同士が戦う」
――現役の王者同士。団体の威信も、その後の興行にもかかわってきます。
「名誉あるBellatorの王座を賭けてやるという、そこに榊原社長とコーカー代表のプロモーター同士の思いもありますし、今までになかったひりひり感を現場で感じています。RIZINで1戦目をやったことも当然大きかったですけど、今度はスコット・コーカー代表にとっては、自分のベルトですからね。前回は、RIZINのベルトを取りに行くという感覚だった。負けてもさほど失うものはなかったと思います。いろいろな環境のことも言えますし。でも、今度はスコット代表が自分の団体のチャンピオンに、アウェーで負けた相手をホームに呼んだ。そこのガチンコさは、皆さんが思う以上に、現場にいて感じます。だからこそ、メディアでもすごく話題になっているのかなと思います」
堀口選手が勝ったら「ヘンリー、やろうよ」を聞きたい
――そういった期待のなか、コールドウェルはどのようにこの試合を語っているのでしょうか。
「コールドウェルとも話したんですけど、母国で自分のルールで迎え撃つ立場になるので、絶対負けられないと。言い訳もできない。いま、彼はBellatorの王者で、Bellatorのベルトを守るということに関してはものすごいモチベーションを高く持っています。前回の敗因については、『3ラウンド目になって疲れてしまい、休もうと気を抜いたときにあのポジショニングの隙間が空いてしまった。普段だったらあんなポジショニングは絶対しなかった』と言っていました」
――確かにあのとき、あっさりと堀口選手に頭を流されていましたね。
「『今回はそういうことが起きないように調整もしてきているし、自分がテイクダウンを取った後のポジショニングもしっかりやってきた。同じ間違いは絶対に繰り返さないし、ベルトも絶対に手離さない』と、けっこう力強い口調で語っていましたね。だから……堀口選手にとって、厳しい戦いになると思います」
――いやあ、そういった話をうかがうと燃えてきます。しかし、この試合はメインカードの1発目なんですね。
「スコット代表の意図としては、日本のやり方にしたがって1発目から出し惜しみしないカードで、ドカンと注目されている試合を放送の1発目に持ってきた、と」
――チームがどんな戦力を練ってきているのか。ATTのマイク・ブラウンは“仮想コールドウェル”のジョシュ・スミスを帯同させましたし、アライアンスMMAのエリック・デル・フィエロはドミニク・クルーズとも作戦を練っているなど、興味深いです。
「本当にそうですね。面白いと思います。裏でマイクとドミニクはやりとりして牽制していましたよ。面白かったですね」
――日本のファンにも、DAZNでプレリムから生中継があるので、しっかり見てもらって、この大一番を楽しんでもらえるといいですね。
「そうですね。こういったヒリヒリする状況のなかで、きっと総合格闘技が始まって以来の偉業を、堀口選手が成し得るかもしれません。そこで勝って、2団体のチャンピオンになってもらって、僕は堀口選手が望むように……ヘンリー・セフードに、『ヘンリーやろうよ』って言ってほしい。世論が黙っていなかったら、セフードも応えるでしょう」
――おおっ、「那須川くん、やろうよ」と言ったように、今度は「ヘンリーやろうよ」と!
「そうですね。『ヘンリーやろうよ』『榊原さん、スコットさんお願いします』という言葉を聞きたいです」
――大会直前にありがとうございました。試合を楽しみにしています!
Kashiwagi Shingo
1982年、イリノイ州シカゴの北ウィルメット出身。小学4年生の時に日本へ、父の仕事の都合で帰国する。大学を退学し横浜は飲食業を始め、3年後の2005年に渡米。2006年、KOTCで仕事を始める。2010年から11年にかけて、シャークファイトで働き、帰国後はVTJ、UFC JAPAN、RIZINで渉外、マッチメイク等に関わっている。