日常でも距離感を歩きながら測っている
──プロデビューの論田愛空隆戦では左ハイKO。1月の野尻定由戦では、開始早々の跳び蹴りを見切って、左フックで迎撃KOでした。プロ2戦目であれほど“見えている”ことに驚きしかありません。
「試合になった瞬間から、全部身体に任せているというか、そういう動きが出るように作り上げてきました。それは、試合前から日常でも、モノとの距離感を歩きながら測ったりとか」
──日常で!? そんなことを考えながら生活しているのですか。
「街を歩いているときでも、身体を使っている筋肉のラインとか、今日ちょっと疲労が溜まってるから外側を使っちゃうなとか考えながらも、見えているものとの距離感を考えて、ふと気になったときに、“これをどのくらいで触れる? あ、これくらいか”と感覚を研ぎ澄ます仕上げ方をしてきたので、それも生きてきているのかなと」
──気が休まらなくないですか?
「気は休まらないです(笑)。でも、そこもストレスだなと感じたら1回止めるので。そのバランス感覚、自分の声を聞くのは以前から得意なんです」
──レスリング時代から養っていた?
「散々、死ぬほど組んできたので“触れる・触れない”ことはもう……」
──ピュアレスリングとはまた違った、カエタノのパンチを振って金網まで押し込んで崩す動きについてはどう感じていますか。
「組んでもいけるんじゃないかなと思っています。見た感じでは全然問題ないと。僕もMMAでたくさん試合を経験できているわけではないので『大したことないです』とか言っていいのかと口ごもりますけど……この選手のスピード感とか、パワー感はこれくらいだろうなという、その目測の経験値はあります。こういう選手と組んで、これくらいだろうと。あとは相手の得意としているパターンを見つけ出して、そこにハメさせない。やっと僕らしい試合ができるんじゃないかなと思っていますね」
──23勝の相手に、そう思えるのは、26歳の中村倫也選手がレスリング時代から、MMAを含めた「戦い」を考えてきたからなのではと思います。まだ、自分らしい試合はできてないと?
「まだ全然できてないです。ただ“生き物”としてあそこに立っていただけで」
──トップアスリートのMMA進出が目立ちます。練習仲間の宇佐美選手、そして河名マスト選手も頭角を表してきました。
「刺激になりますね。マストはほとんど僕がMMAの世界に引き入れたようなものなので、厳しい道の中で藻掻きながら、夢へ進んでいるのを見ると、本当に嬉しくて。前戦(EXFIGHT−4)は久々に人の試合で泣きました」
──デビュー戦で苦杯を舐めた河名選手が、自分の勝ちパターンを作りつつあります。
「もう本当に八隅孝平さんの指導を信じてひたむきにやっていて、一日ずつ強くなっていくので、気が付いたら手がつけられない存在に、MMAでも同じようになっていくんだな、というのが見えた試合でした」
──そういう中でご自身はどんな姿を次の試合で見せたいと思っていますか。
「転向してまだ2年ですけど、ここまでMMAの完成度を上げられるんだぜ、というところを見せたいですね。僕の小さい頃からの夢であり、幼少期の自分との約束でもある『世界一の格闘家になる』ということを実現させるために。この舞台で僕が試合して勝つ姿を、小さいときの自分が見たら、本当に嬉しいと思うんです。物心ついたときからキツいことばかりでしたが、この夢があるから耐えてこられたと報われる。それは次への活力になる。“次”にたどり着くまではその喜びに相応しい努力をして、しっかり見せていきたいと思っています」
──メインイベントで全てが肩にかかってきそうです。プレッシャーは無いですか?
「プレッシャーがかかったほうが、僕は強いと思っているので問題ありません」
──「次」の舞台であるUFCには、最短でいつ立ちたいですか。
「相手がUFCにほんとうに近い選手と聞いてるので、勝って“ここに俺がいるよ”と言いたいですね。なんなら、今年行ってやろうかと思っています」