MMA
インタビュー

【Bellator】前王者アーチュレッタ(後篇)「堀口と“聖地”さいたまスーパーアリーナで記憶に残るような試合を」「天心戦? 武尊が勝つだろう」

2022/04/11 21:04
 2022年4月23日(日本時間24日)、米国ハワイ・ホノルルのニール・S・ブレイズデル・センターにて、『Bellator 279』が開催され、バンタム級ワールドGPが開幕する(日本ではU-NEXTにてライブ配信)。  その1回戦で、負傷欠場した現Bellator世界バンタム級王者セルジオ・ペティスの代わりに緊急参戦し、強豪ラフェオン・ストッツ(米国)と対戦するフアン・アーチュレッタ(米国)に単独インタビューを試みた。  スペインのバスク地方に由来するアーチュレッタを姓に持ち、鉄のレコンキスタドールがトレードマークの前Bellator世界バンタム級王者は、ペティスとの試合で起きていた異変、敗戦を経て、優勝候補の1人であるストッツとの試合に向かう気持ちを、実直な言葉で語ってくれた。  日本とヒスパニックの文化を「通じるものがある」というアーチュレッタは、かつてともに練習した武尊について語り、そして難敵との試合を超えて、「決勝で堀口恭司と“聖地”さいたまスーパーアリーナで戦いたい」と、語った(※前篇からの続き)。 キョージは勝てていた試合だった。ペティスを賞賛すべきは「まったくパニックに陥ることなく、彼自身の戦い方を貫いた」こと ──さて、新しいブラケットでの勝ち上がり予想も伺いたいのですが、ご自身が含まれている側についてお聞きするのも何ですから、決勝まで当たらない反対側の勝ち上がり予想をお聞かせいただくことはできますか? 「まず、キョージは本当に素晴らしい選手だと思うんだよ、12月のタイトルマッチではずっとペティスのことを圧倒していて、結果として最後にKOされてしまったわけだけど、彼のとんでもない運動能力の高さ、MMAの技術力とその豊富さを見せつけられた。  そしてキョージと対戦するパッチー・ミックスもまた世界最高のファイターの一人だ。俺は彼を倒すことができたけど(※2020年9月に5R判定勝ち)、彼のグラップリングの能力はどんどん上がっていて何よりフィニッシュ力がある。  でもキョージのあのものすごいスピードだ。特にあの足。それからグラップリングについても、とにかく速い。そのスピードという彼の持ち味はちょっと遅くなってきてるのかなとも思ってはいるんだけど、とはいえしっかりと方法論を組み立てそれを実行する能力があるから、もしちゃんと距離を保って、スピードを活かして前に出るってことをやれたらキョージが勝つと思う。  それから、すごいスピードで上がってきたルーキーのマゴメド・マゴメドフ。彼はいまだにピョートル・ヤンを倒したことがあるってことばかり騒がれるけど間違いなくトップクラスの選手だ。ヒルvs. バルゾラはレスリングあるいは打撃でどちらが運動量で勝るかにかかっているだろうけど、自分としてはUFCからのニューカマーが勝ってマゴメドフとやるんじゃないかな。そしてその後に当たるマゴメドフはグラップリングがめちゃくちゃうまくて、ものすごい粘り強さがある」 ──そして決勝は……。 「正直、決勝は俺とキョージになるだろうね」 ──その決勝で当たると予想している堀口恭司選手、先ほども口にされていましたが、セルジオ・ペティス選手とのタイトルマッチを現地でどう見ていましたか? 「あの試合は、もし、キョージがちょっとでも、何て言うか、気を抜かずにディフェンスを上げていたら、勝てていた試合だったよね」 ──ペティス選手は勝利したものの、堀口選手にテイクダウンされてもそのまま下でステイし、カーフキックも効かされているように感じました。決まり手のバックフィストは狙っていたとしても、それ頼みだとしたら、博打の要素もあったように感じます。 「いや、とはいえ、だ。ペティスはもちろんあの動きをしっかりと練習で磨いて実践している。そういうものを繰り返して実行することが試合に臨むことなわけで、つまり試合が終わるまで、戦いの火は決して消えることはない。だから、何より俺がペティスを賞賛したいことが何かと言えば、彼が“まったくパニックに陥ることなく、彼自身の戦い方を貫いた”ということなんだ。  多くの人は、あの試合を、『UFC 117』のアンデウソン・シウバ vs. チェール・ソネン戦になぞらえるよね。あの試合、シウバは最終5ラウンドの終盤までずっとソネンにコントロールされて完全に漬けられていて、一発極めるかKOしない限りそのまま負けることが確実な状況だった。その最後の最後に、シウバは三角絞めからアームバーでソネンにタップさせた。“あれ、何だよ一体? 今、何が起こったんだ!?”って感じだっただろう? それと同じ。あの試合も、前回のペティス戦も、もう二度と目にすることはないだろう、やる方だって二度とできないだろうってくらいのMMAにおける歴史的瞬間のひとつだよ。  でも結果的にそうできるっていうのはね、そのためにペティスは冷静さを保ち続けて、とにかくやるべきことを実践し続けて試合を続行するってことができたからなんだよ。そうすることでまさしく映画のような美しいフィニッシュによって、圧巻の勝利を得たんだ。改めてキョージの方に目を向けてみると、やっぱりあのまましっかりとディシプリン(自制心)を守って、そして彼が攻撃で見せたのと同じようにディフェンスも上げていかなきゃいけなかった。そこが唯一欠落してしまった部分だ」 ──フィニッシュそのものは起こるべくして起きたことであるし、何が起きてもおかしくないのがMMAという競技なのだと。 「全くその通り」 [nextpage] タケルはリアル・チャンピオンだ。彼との練習はすっごい楽しかった (C)Juan Archuleta ──ところで、アーチュレッタ選手は武尊選手と練習されたことがありましたよね? かつてメイウェザーと対戦したことのある那須川天心選手と東京ドームでのメガイベントに臨むのですが、武尊選手の印象は? 「タケルはリアル・チャンピオンだね。俺は日本の選手はもちろん、アジアのファイターってすごく好きなんだ。というのは、すごくハードに取り組んで、ものすごい集中力で立ち上がってくるし、試合内容もすごくて。その点から見ても、俺はタケルの大ファンだよ! 俺のセンセイのドゥエイン・ラドウィックが彼を連れてきてくれて練習する機会があったけど、素晴らしい経験になったよ。ただちょっと偶発的なエルボーがあって目をカットしてしまったこともあったんだけどね。その次に練習する機会ではすっごい楽しかった。いいトレーニングができたよ。彼は素晴らしいファイターだ。彼の試合を見るのも、彼と練習するのも大好きだよ。彼のことを応援し続けるし、天心戦も楽しみにしてる。彼の戦いがひときわ聴衆の目を引くだろうし、武尊が勝利を手にするだろう」 ──スコット・コーカーBellator代表が、日本大会の開催も示唆していますし、メガイベントに選手を出したいという話にも興味がありますか? 「あー、とりあえず武尊戦は生で観戦したい! なんとかしてくれない?(笑)。応援したいよ。ついでに日本を探検したいなあ、おいしい和食を食べたいんだよ、寿司とか刺身とか。日本の文化に触れたいなあ」 ──とりあえず出る側ではなくても日本で格闘技観戦と観光がしたいんですね。ところで、来たるハワイにはご家族も同行されますか? 「うん、休みをとって俺の試合を観に来てくれるよ。前回世界タイトルを獲った時には、家族の目の前で勝利を捧げることができなかったから、今回はそうできるっていうのはすごく嬉しい。家族と勝利の喜びをその場で分かち合えることが楽しみなんだ」 ──そういえば以前、アーチュレッタ選手のご家族は勝利の際にすごく盛大にお祝いしてくれると仰っていましたよね。こんなことを伺うのも失礼かもしれませんが、逆に負けてしまった時は盛大に励ましてくれるのですか。 「ああ(笑)、そういう意味では、勝とうが負けようが、同じ。これはウチの家訓というか、俺たち家族は『何があろうとお互いのためにいる』っていうことをみんなしっかり理解してるから。もちろん負けるなんてことがあったら、家族全員でめちゃくちゃ嫌な気分になってしまうわけだし、勝つに越したことはないけどさ。俺にとっては、試合に出てファンが喜んでくれて、観客が自分の試合を面白がってくれている限りは、勝敗そのものは結果でしかないっていうか。  つまり俺の試合は決して観客を飽きさせることはないって思ってるし。たとえば俺はヘンリー・コラレス戦なんかはちょっとチェスマッチのような難しい試合だったと思っているんだけれども、それも含めて俺の試合の全てが数百万回と再生されていて、ファンのみんなは何度となく見返してくれているよね、それってファンが望むようなパフォーマンスをできているってことだと思うし、それが俺自身にも、そして俺の家族にとっても喜びになってるんだ」 [nextpage] 格闘技文化の原点である日本のファンの前で試合をしたいって心から思っている ──なるほど。勝っても負けてもそれを分かちあい、常に寄り添い支え合う「家族」という存在が、ファイターとしてのご自身にどういう意味を持たせてくれていると思いますか? 「全て。かな。強さにおいても、名誉という点でも……、たとえば、そうだな、俺は日本とヒスパニックの家族観というか、文化って通じるものがあると思ってるんだ(※アーチュレッタは、カリフォルニア州スルタナでスペイン系とメキシコ系の両親の間に生まれた)。というのは、まず父と母を何より敬い、そしてそれが家の名を継いでいくという自覚につながる。ゆえに責任も伴うし、尊重もするようになる。  そういう意味で、俺は対戦相手を揶揄するような物言いとかっていうのもしたくないんだよ。父は俺のことを自分が育った環境以上によりよく育ててくれた。俺は誰のことも決して見下したりなんかしないし、拳を交えるとなったら誠意を持って相手と向き合う。ストッツだって、彼は偉大なアスリートであると同時に、素晴らしく家族思いの人間でもあるってことはよく分かってるよ、家族のためにならなんでもするんだって思いを持った人なんだってね。だけどそれとは裏腹に、汚い言葉を使って相手をくさしたりするだろ、相手を蔑むようなことを言ってさ。少なくとも俺にとっては、そういうの良くないよねって思うし、自分は悪漢ではないから。  だってMMAファイターというものをリスペクトしているし、格闘技というものをリスペクトしてるから。そういう意味で、やっぱりその、日本から始まった格闘技文化の根っこにあるものっていうのは、純粋に強さというものを求め、そこに名誉が伴い、そして何より敬意というものがある。相手に挑んで来られない限りは自分が持ちうる技術というものを必要以上に見せつけるような真似もしない。それこそが自分が求める誇りだよ。  俺はケージに足を踏み入れ、格闘技というものに取り組むその瞬間に思うことは、格闘技というものはどこから来たのか、武道の発祥の地としての日本に敬意を払うようにしているんだ。その旅路であったり栄誉に対して。これはスポーツに敬意を表するということは、このスポーツの創生期から多くのものを与えてくれたということに対しての敬意であり、今や我々がそこに大きな光を当てているんだという自覚を持つようにしているんだ。アスリートやファイターが、このスポーツの美徳である名誉や強さ、尊敬、忠誠を示すことができるのなら、それはいいことだろう。そしてそこにファンが根付いていくことになる。自分としては、その格闘技文化の原点である日本のファンがもっと増えたらいいなと思っているから、いつか日本のみんなの前で試合をしたいって心から思っているんだよ」 ──アーチュレッタ選手の格闘技観が伝わる言葉でした。先ほど決勝はご自身と堀口選手になるだろうと予想されていましたけれど、もし決勝の開催地が日本になったら、アーチュレッタ選手にとっても、理想的な展開と言えますね。 「そうだね、もし2人ともファイナルに進出したら、グランプリを締めくくるのにこれ以上の場所はないだろう。“聖地”さいたまスーパーアリーナでみんなの記憶に残るような試合をしたいとも思うし、東京ドームになったりしたらそれもすごいことだよね」 ──ちなみに、100万ドルの獲得賞金の使い途とかを考えたりもします? 「俺は“取らぬ狸の皮算用”ってのはしないんだ。家族と自分の将来のために投資を続け、そしてさらにこの競技のために還元をしていくのみだ。アスリートとして、格闘技をさらに発展させるための力になりたいと思っている。いま現在も、高校でレスリングを教えていて、自分の得意分野を発揮できているんだ。俺の子どもたちも、これから中学生になる子もいるし、そろそろ自分の方が見守る立場というのか、自分が格闘家として辿ってきた道のりであったりその旅路についてを語り伝えて、子どもたちの成長をサポートしていかなくてはね」 ──その伝えるべき試合がいよいよです。日本のファンに向けて、試合の見どころを教えてください。 「日本の格闘技ファンはグラップリングが好きだし、それでいて派手なスタンディングも好きだっていうのもよく分かっている。でも何より、グラウンドになったときに、パウンドを打ち込むような展開以上に、つまり誰かがテイクダウンして、パスガードしてっていう攻防を楽しめる人たちだと思ってる。でも俺は血生臭い試合をしたいんだ。ヒジを使ったりするようなね。だからこの試合は血みどろの試合になるって思っているし、一方でグラウンドでもものすごいエネルギーを費やすことになると思う、そしてそこで自分のグラップリングの実力を見せられると思っているし、グラウンドでパウンドも効かせて、とにかくこの試合を完全にコントロールし、ハイペースで進めたいと思ってるから楽しみにしていてほしい」
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