弟・卜部功也が持つミットにパンチを叩き込んでいく卜部弘嵩
2022年2月27日(日)東京体育館『K-1 WORLD GP 2022 JAPAN』にて、スーパーファイトの-61kg契約3分3R延長1Rで、島野浩太朗(菅原道場)と対戦する卜部弘嵩(K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)が14日(月)都内にて公開練習を行った。
弟の卜部功也が持つミットに1分半、ゆっくりペースでパンチを叩き込んでいった卜部。「ちょうど追い込みが1週間くらい残っていて、疲労がピークに来ています」と疲れを見せる。
前回2021年9月の芦澤竜誠との再起戦(判定負け)を振り返り、「なぜ負けてしまったかというのは自分の中で明確に分かっていて。それを受けて今回は変えていって、本来あるべき姿、練習方法や心構えを取り戻した感じです」と、敗因は自分の中でしっかり把握できているとする。
「弟が『俺がミットを持つわ』って言ってきたんですね、僕に。ずっと弟のミットを受けてなくて最後に持ってもらったのがフェザー級トーナメント(2019年11月)の前くらいだった。あの時が最後でそれ以来1回も持ってもらってなかったんですよ。僕が格闘技から離れていたり、違うトレーナーに見てもらっていたりして。弟と一緒に練習してるけれどそんなに接点はない感じでした。それが前回の試合が終わってしばらくしてから、弟から言われて『頼むわ』みたいな感じで。今回は去年からずっと弟にミットを持ってもらっています。
僕の性格も分かっているし、体調も読み取ってくれるというのがありましたね。他の人だと今日は動けないと言うとじゃあ1回やめるかとなりますが、弟だからというのもあるけれど『今日行けるでしょ』ってなるのでさらに追い込めるというのがあった。今日は休ませてくれないかと言うと、さらに追い込まれる可能性があるというのがありました(笑)」と、逆に甘えがきかない状況で練習を積んできたという。
なぜ功也がミットを持つと言ってきたのか、その理由は聞いていない。なぜなら「なんでミットを持つかはなんとなく分かったので。多分、もう分かっているなって。兄弟だからこそ分かり合えるのかもしれない。なんとなくこう思っているんだと分かりました」と、兄弟ならではの通じ合うものがあったからだ。あとはグローブとミットの会話で十分なのか、そう言われると卜部は「そうですね」と微笑んだ。
対戦する島野については「縁がある選手だと思います。彼が高校生の頃から知っています。(Krushで2014年11月に)1回戦っているので、彼もKrush王者になっているし、認めている部分はありますね。菅原会長にはお世話になっていましたし、プロデビュー前からなので(思うことは)いろいろあります。ただ、リングに上がったら関係ないですけどね」と、私情はリングに持ち込まない。
会見では「本当に勝つしかないです」と2019年11月以来(現在3連敗中)の勝利を何が何でもつかみたいと話していた卜部。「負けるかもしれないとのプレッシャーを持って練習しています。今までは、これだけやったらいけるだろうと思っていたんですが、今回はまた負けるかもしれない、ここで抜いたら負けるかもしれない、そういうプレッシャーは常に感じています」と心境的にも自分を追い込んでいる。
「奥さんに言われたんですが、毎日のように『辞めたい』と言っているそうです(苦笑)。早く引退したいと言ってるそうです。口癖のように言ってるみたいですね。朝起きた時、練習から帰ってからもふとした時に辞めたいと言っているそうです。それくらいやった方がいいんです」と、弱音を吐くくらいの練習だとする。
2020年12月に復帰後の卜部からは、以前のようなギラギラしたものや毒が失われているように見え、発言も大人しい。そういったものはどうしたのかと問われると「なくなったんでしょうね。もうなくなったんじゃないかな。キャリアも積んできたし」と自覚しているという。
「試合前の心境が全然違うんです。若い頃は試合が決まると相手のことが嫌いで嫌いでしょうがなくて、相手の写真を携帯の待ち受けにしたりして、怒りを忘れないようにしてギラギラしていました。その当時は、絶対に勝とうという気持ちでリングに上がってなかったんですよね。あの時は殺意を持ってリングに上がっていました。そこが今と違うところなのかもしれない。まあ、今回はいろいろと考えずに上がります」
そういったものが失われた代わりに、逆に得たものは何なのか。それを問われると卜部は「たくさんありますよ。今は今のやり方があるし。あの時はあの時で良かったし、今は今で自分のやり方があって。無理して若い時に合わせなくてもいいと思っています。今は今の良さがある。今のメンタルや環境とかに合わせていって作りあげていこうと思います」と、若い頃の自分を追い求めるのではなく“今”の卜部弘嵩で勝負したいとした。
しかし、リングに上がれば話は別だ。「これは普段から思っているんですが、相手は必死ですから、前回の芦澤もそうですが、毎回相手は僕に勝ちに来ているわけで、倒しにきている。それに対して僕も必死になって倒しに行かないといけないと思っています」と、必死に倒しに行く気持ちは変わらない。
勝つために毎日を“必死”に生きている、とも。「毎回練習で思うんですが、この練習も1日1日毎日全力を出さなければ現役はそんなに長く出来ないですから。この1日を無駄にしたら絶対に後悔するなというのがあって、毎日出しきらないといけないと。必死になって頑張って練習しないと、引退する時に後悔する。後悔しないように必死に生きています」
今回は節目となる60戦目。引退の時期は具体的に考えているのかとの問いには、こんな答えが返って来た。
「特には決めていませn。ですが、試合が終わった後にまたやりたくなったらやればいいと思いますし、思い切り戦ってスッキリすればそれはそれでいいのかなって気持ちもあります。ただ、今は『引退したい』と口癖のように言っているのは練習がキツいから言っているだけなので、これくらいで辞めようというのはないですね。でも、この試合がラストになっても構わないくらい、これがラストというそれくらいの気持ちでやっています」
その言葉通り、先のことは何も考えていない。「本当に今は島野だけです。目の前の試合だけに全力集中です」とキッパリと言い切り、「僕の勝利を待っていてくれた皆さんのために必ず勝利します」と必勝を誓った。