2021年12月3日(日本時間4日)、米国コネチカット州アンカスビルのモヒガン・サン・アリーナにて『Bellator 272』が開催され、メインイベントの「Bellator世界バンタム級タイトルマッチ」でセルジオ・ペティス(米国)と堀口恭司(日本)が対戦。
5Rの王座戦は、中盤までの3Rを、遠間からの打撃とテイクダウン&パウンドで堀口が支配したが、4Rに間合いを詰めたペティスの右ハイキックから回転しての左バックフィストがヒットし、堀口が失神KO負け。ペティスが初防衛に成功した。
この試合後、本誌では勝者の試合後インタビュー全文を紹介したが、SNSでも両者はコメントを発表。そして両コーナーの陣営もそれぞれのファイターとともに過ごした日々と、この日の戦いを振り返っている。
本物の逆境に直面した(ペティス)
まず、ペティスのコーナーについたルーファスポートの代表ジェフ・デューク・ルーファスは、「この3、4カ月の間にスピンバックフィストをたくさん練習した。それをセルジオ・ペティスが現実のものにしてくれた」と、フィニッシュとなった裏拳を当てることが出来たのは練習の賜物と語った。
「『真のチャンピオンはどんなことにも適応できる』フロイド・メイウェザー・ジュニア──私の友人であるBellatorバンタム級世界王者のセルジオは、この試合で2回、スピニングバックフィストを試みましたが、4Rにその効果が現れ、堀口選手をノックアウトしました。
空手家はとらえどころのないフットワークを持っており、MMAで戦うのは難しい。空手家の急所は、手を下げたまま試合を終えてしまうことだ。セルジオはスピニングバックフィストやスピンキックを狙っていた。これはとてもよく訓練した。(アンソニー)ショータイム・ペティスがワンダーボーイ(※2019年3月のスティーブン・トンプソン戦で打撃の攻防で劣勢に立たされるも、2R終盤に右スーパーマンパンチでダウンを奪い、追撃のパウンドで逆転の失神KO勝ち)との試合で我慢していたのと同じだよ」と、兄同様にハイライトリールに残るフィニッシュは、堀口の低いガードを狙っての回転技だったと明かした。
そして勝者のペティスは、「本物の逆境に直面した。3R半のテイクダウンを受けた後、僕は自分のキャリアの中で最高のノックアウトをした。神は良い方です(God is good)」「アウンダードッグだった」「僕の仲間に感謝しています。皆さんに感謝しています。プロ27戦目。10年目。まだまだやり残したことがたくさんあります」と、アンダードッグとして堀口に追い込まれていたこと、そして今回の王座防衛で、2022年開幕のワールドGPに向け、「やり残したことがたくさんある」と、100万ドルGP優勝との完全制覇を目指すことを記している。
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挑戦し続けるしかない。これが俺の性格だから(堀口)
一方、公式スタッツ上の途中経過では、打撃でもテイクダウンでも王者を圧倒していた挑戦者・堀口は、「挑戦し続けるしかない。これが俺の性格だから!」とツイート。YouTubeでは、「負けは負けでしっかり認めて、次、来年バンタム級のトーナメントがあるので、そこでしっかり優勝して、ついでにしっかりブッ飛ばそうかなと思っています」とリベンジを約束。ダメージについては「自分全然元気です。たくさんの心配のコメント、メッセージありがとうございます。ただ大の字に伸びただけで、全く問題ないんで。(右目下の怪我は)ちょっと縫ったくらいで全然問題ないです」と、絆創膏をつけた顔で、自らの言葉で語っている。
そして、コーナーについたアメリカントップチームのマイク・ブラウンコーチは7日、異例の長文で堀口恭司へのエールを送った。
「彼の側にいることを誇りに思います。何度も言いますが、彼は本当に特別なアスリートです。あらゆる面で素晴らしいファイターです。スピード、パワー、持久力を備えていますが、最も印象的なのは彼のマインドセットです。彼は精神的な強さを最大限に持っていて、どんな状況でも常にポジティブで明るい態度をとっています」と、敗れてなお、前向きな堀口の精神力に敬意を表する。
続けて、「私たちのスポーツはとてもワイルドで予測不可能なものです。ベストであることが必ずしも勝利を保証するものではありませんが、これこそがMMAをエキサイティングなものにしています。先週の金曜日、私たちは目標を達成することができませんでした。キョージはミスが少なく、知的な戦いをしていると感じました。セルジオのテクニックには脱帽しました。ケージの中でも外でも、彼の身のこなしには敬意を表します。これからもずっとファンでいます」と、万全を期しても何が起こるか分からない格闘技の怖さと、息の詰まるような戦いを繰り広げた両者を賞賛。
最後に「休息と回復には少し時間が必要ですが、キョージがトップに返り咲き、再び世界チャンピオンになることを確信しています」と、盟友の復活を信じていると記した。
俺の人生はこの街とこのメンバーで作りたい(平本)
王者のコーナーには、この日初めてついた平本蓮の姿もあった。
インターバルでは「ジャブを出してリズムを壊す」こと、さらに「ずっと落ち着いているように、忍者のような冷静さで力を入れすぎず、あんまり出過ぎずに」と、我慢の展開で後半勝負の時間が来ることを示唆していた。
リック・ルーファスと共に米国を代表するキックボクサーで、兄弟ともにK-1に参戦していたデューク・ルーファスが主宰するルーファスポートを、マネージメントとともに選択した平本。
ストライカーがいかにテイクダウンを切って戦うか、キックボクサーがMMAでどんな距離を取って戦うべきなのかを考え続け、柔術も習得したデュークのもとに、アンソニとセルジオのペティス兄弟をはじめ、UFCのジェラルド・マーシャード、GP出場も決めたラフェオン・スタッツら強豪がいた。
ミルウォーキーで3カ月を過ごした平本は、試合の翌日に日本に帰国。セルジオのKO劇を目の当たりにした米国滞在最終日に、2022年に完全に米国に拠点を移すことを宣言している。
「何から書こう。今日でアメリカ滞在最終日この3カ月は本当に毎日が濃すぎた。@roufusport にきて最初は孤独を感じる時もあったからこそ本当にみんなの優しさが心から沁みた。練習ももちろん最高だったけど、今回のアメリカの旅で自分は大事なことに気づけた。人は結局どうありたいか、在り方だと思う。東京でボケっと生きてたら気づけない優しさや大事な事を何度も気づかせてくれた。
自分は優しい人間でありたい。セルジオはそれを生き方として体現してる理想の男だった。そしてセルジオの歴史的な一夜を共に過ごせて本当に幸せだった。セルジオは自分以外で初めて世界で一番強い人で居てほしいと思った男です。俺にはミルウォーキーにホームと最高の家族ができた。俺の人生はこの街とこのメンバーで作りたい。このチームを信じて、俺は必ずUFCでベルトを巻く。来年完全移住」
米国を練習拠点とし、日本に加え米国でも試合を望む平本もまた、今回の試合を生で見届け、MMAで再起を誓う一人だ。コロナウイルスの影響もあるなか、堀口恭司という米国在住日本人ファイターの先人がいる。そして佐藤天、魅津希、村田夏南子、田中路教、堀内佑馬らも海外で奮闘するなか、実際に“踏み出した”サムライたちの今後に注目だ。