UFC世界ミドル級王者のイスラエル・アデサニヤ(ナイジェリア)が、Netflixの『範馬刃牙』英語版で声優を務めた。
漫画やアニメファンであるアデサニヤは、腹部に『NARUTO』の八卦封印のタトゥーを入れたり、フェイスオフでロック・リーのポーズ、コール時に『DEATH NOTE』を書き込むジェスチャーを見せるなど、これまでも試合の中でアニメ愛を表してきた。自身のニックネームである“ザ・ラスト・スタイルベンダー”もアニメ『アバター 伝説の少年アン』から名付けられたものだ。
アデサニヤは、YouTubeチャンネルで、「ここ数年、スポーツにおけるアニメの台頭に僕も一役買っていると感じている。それは真の意味で自分を表現しているからだと思う。アニメを知っている人は『こいつは本物の忍者だ』と思ってくれた。アニメファンなら誰もが真似したいと思うことだからね」と、自身の試合のなかに、アニメのキャラクターのスタイルを採り入れていると語った。
そんなアデサニヤは今回、Netflixシリーズの『範馬刃牙』でカモミール・レッセンというキャラクターの声を担当した。レッセンとは、第42代アメリカ合衆国大統領ジョージ・ボッシュの警護を担当する警護官。さまざまな背景を持つこのシークレットサービス役を演じるオファーを受けたアデサニヤは、「飛びつかざるを得なかった」と語っている。
「声優の仕事は僕の得意分野だ。様々なアクセントが得意で、様々なトーンを演じることが出来る。僕は多くの異なる文化に関係している。そう、僕はいつも世界の声に耳を傾けるのが好きな男だ。これが僕の(声優の)最初の挑戦になった。
実は、大学時代のチューターが、『君はボイスオーバー(ナレーター)に向いている』と言っていたのが、最初の足がかりとなった。ついに声優の仕事に初めて足を踏み入れたんだ。楽しかったよ。カモミール・レッセンというキャラクターに夢中になった。ゲバルの主要な子分で、このキャラクターの役に入り込むのがとても楽しかったんだ。ゲバルの部下のうちの一人で、飛行機をハイジャックしたり、原子力発電所を奪ったり……まあ、楽しかったね」
世界王者は、声優の仕事を学ぶことと格闘技との共通点も語る。
「僕はとてもコーチングしやすい人間なんだ。だから僕は世界チャンピオンになった。指示をよく聞き、批判もよく聞く。だから、僕は(声優の仕事に)簡単に適応することができた。アメリカのスタジオから生中継で僕の仕事ぶりを見て、とても感動してくれたよ。僕の身のこなしや仕事の進め方に感銘を受けていた。誰もが共感できることだと思うけど、もしあなたが自分の声が録音されているビデオでも、スナップチャットでも聞くと『なんでこんな声になってしまったんだろう、自分の声はどうなっているのだろう』と思うだろう。僕にも今でもその名残は少しあるけど、何年もかけて経験から克服し、いまはもう自分の声を気にしていない。自分の声が彼(レッセン)の口から出てくるのを聞いたとき、次のシーンに向けての指示が出た。場面ごとにを少しずつ収録しているのだけどそれがうまくいった。素晴らしくフィットしたよ」
アデサニヤは、アニメの仕事をセカンドキャリアにしたいと考えている。それは、制作者として、だ。
「僕はずっとアニメーションが好きだった。いつもディズニー・アニメーションが大好きで、ニンジャタートルズやニコロデオンのシリーズも好きだ。アニメーションを学ぶためにデザインの学校へ行ったんだ。でも、正直に言うと、僕は早すぎた。合格するために必要な仕事量をこなせるほどにはならず、何度も失敗して、このまま続けるか、それとも格闘技を辞めるかで悩み、まだ若いから、格闘技の道に進んだ。最終的には正しい選択をしたと思う。
しかし、このMMAというプラットフォームによって、僕はいまアニメーションやダンスの世界に飛び込むことができる。やりたいことは何でもできる。アニメーションが大好きで、いつも自分のアイデアに命を吹き込みたいと思っていた。だから、自分のアイデアを実現するために、選手としてのキャリアを終えた後は、自分の制作会社を持つことにしているんだ」
現在は、オクタゴンのなかでファイトをクリエイトしている。
2019年4月にケルヴィン・ガステラムに判定勝ちでミドル級暫定王座に就いたアデサニヤは、同年10月に正規王者のロバート・ウィテカーと対戦し、2R KO勝ちで王座統一に成功。その後、ヨエル・ロメロ、パウロ・コスタの挑戦を退け、2021年3月には1階級上のライトヘビー級王者ヤン・ブラホヴィッチに挑戦。キャリア21戦目で初黒星を喫し、二階級制覇はならなかった。しかし、2021年6月には挑戦者マーヴィン・ヴェットーリに判定勝ち。3度目のミドル級王座防衛に成功している。
2022年2月の「UFC 271」でウィテカーとの再戦に臨む可能性が出て来たアデサニヤは、「日々の生活の中で、自分のために何ができるかを考えて、自分の力で何かを成し遂げなければない」と、自分自身で人生をコントロールする必要性を語る。
「コンピュータグラフィックデザインの学校に通っていたことに感謝している。なぜなら、それが僕のファイターとしての道のりを助けてくれたから。ただ戦うだけでなく、マーケティングやソーシャルメディアの面でも、自分のアイデアや冒険を自分だけの方法で伝えることができた。自分の旅の映像を切り刻んでインスタグラムにアップしている。一般的にファイターにはそのようなスキルは無い。徐々にではあるけど、一戦一戦勝つたびに“もっと簡単になるよ 落ち着いて”と自分に言い聞かせてきた。特に当時の僕のレベルでは、水分補給をしながらクリップを刻むことができなかった。僕の場合はすべて自分でやっていた。携帯電話で自分の冒険を録画して、それを編集してインスタグラムに載せるんだ。まず、自分が何をしなければならないかを知ることが必要だ。そのために、僕は自分自身をできるだけ忠実に表現し、自分のアイデアや冒険を皆と共有した。人にどう思われているかを気にせずにね」
そんなアデサニヤは、UFCゲームについても、自身をプロデュースしたいと考えている。
『範馬刃牙』の他にも参加してみたいアニメを問われたアデサニヤは、『アバター 伝説の少年アン』のリメイク版を望み、「『ドラゴンボールZ』で何かが起こるとしたら、僕はその一部になりたい」という。
そして「ゲームだけでなく映画のモーションキャプチャーにも参加したい。キャラクターを演じる方法が大好きだ。僕のお気に入りは『猿の惑星』のシーザー。パフォーマンスキャプチャーをつけたアンディ・サーキスがどのようにシーザーになっていくか(※9分に登場)。その舞台裏を見て多くのことを学んだよ。
これは僕が絶対にやりたいことの一つで、モーションキャプチャーは、ゲームのためだけでなく……ゲームといえば、EAスポーツさん、次のUFCのゲームでは僕をカナダに連れて行ってください(UFCゲームはEAバンクバーが開発)。モーションキャプチャーのスーツを着て、僕の顔に水玉をつけて、僕の本当のキャラクターを手に入れる必要がある。誰にやらせたのかは分からないけど、モーションキャプチャーを使って、僕がしていたように見せていた。それはつまづいて後ろ向きに歩いているように見えた。僕は僕のキャラクターを僕自身で演じたいんだ」。