2021年12月3日(日本時間4日)、米国コネチカット州アンカスビルのモヒガン・サン・アリーナにて『Bellator 272』が開催され、メインイベントの「Bellator世界バンタム級タイトルマッチ」で王者のセルジオ・ペティス(米国)に、堀口恭司(日本)が挑戦。
中盤までの3Rを、遠間からの打撃とテイクダウン&パウンドで支配した堀口だったが、4Rに詰めたペティスの右ハイキックからの回転技・左バックフィストを浴びてKO負け。ペティスが初防衛に成功した。
公式スタッツでは、ペティスの打撃は80発でうちヒット数は19。堀口の打撃は130発でうち73のヒットをカウントし、テイクダウンでは、王者が0なのに対し、堀口は4Rで7回のアテンプトがあった王座戦。
「1Rに1回はテイクダウンを狙え」というマイク・ブラウンコーチの指示通り、すべてのラウンドでテイクダウンを奪い、打撃でも削っていた堀口は、4、5Rを取られても、ダウンしない限り勝利する計算だった。しかし、堀口陣営は逃げ切りよりも、攻め続けることで勝利を掴もうとしていた。
堀口恭司はなぜマットに倒れたのか──両者のコメントとともに、フィニッシュとなった4Rを中心に試合を紐解く。
ホリグチはすごく「やりやすさ」を感じ始めていたんじゃないか。僕たちはあそこで一緒に笑ったんだよ
ともにオーソドックス構え。フェイントをかけながらステップ踏む堀口に、ペティスは中央を取りどっしり構えてベタ足で詰める形だった。高いガードで堀口の飛び込みをブロッキングするも、堀口は同じ踏み込みで、左手で上半身を突き、右手でヒザ裏を掴むニータップ、さらに懐に飛び込んでのダブルレッグ、ボディロックでことごとくテイクダウンを奪っていく。
しかし、2R、ニータップでテイクダウンを奪う堀口に、下から蹴り上げるペティスはオモプラッタ。この攻防のなかで蹴り上げの踵をもらった堀口は、右目下をカットする。3Rには右のカーフキックを効かされて足を流されたペティスはそのまま回転してバックフィスト。しかし堀口は大きく距離を取っている。 王者にとってストレスのかかる展開。ペティスはここまでの3Rを堀口に完全にコントロールされていたことを認め、試合中の堀口との意外なやりとりを明かしている。
「何度も骨を蹴られた。いくつもの蹴りをチェック(防御)していたけど、もっと骨が──いつもだとふくらはぎの筋肉が痛むんだけど、今はもろに骨が痛いような感じで、蹴りは割とチェックできていたんだけど彼がものすごい強い蹴りを放ってきてたね。
正直に言って彼は、すごく“やりやすさ”を感じ始めていたんじゃないかと思う。何ていうのかな、僕たちはあそこで一緒に笑い出し始めてたんだよ(笑)。彼にテイクダウンされて僕が『マザー●ァッカー』って口に出したら、彼が笑い出しているというような感じで。だから思うに、彼は試合の場で流れを決めていけるようになったことに心地良さのようなものを覚えていたんじゃないかな。彼がやった素晴らしい動きというのは僕を圧倒していて、見事なテイクダウンで僕を倒して、素晴らしいジャブを繰り出し、それによってテイクダウンもして、それは自分の方はあんまり上手く出来なくって、多分すごいやりやすくなっていたと思うんだ」
試合が王者に傾き始めたのは、通常の3Rとは異なるチャンピオンシップラウンドとなる4Rだった。
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固めたのはペティスだが場内はブーイング、蹴り上げに堀口は──
「1Rから4Rまでずっと彼に捕らえられていた。(コーナーの)デューク・ルーファスからは、はっきりと、『3R通して負けてる』と言われてた。最近見たボクシングの試合で、“このラウンドも、あのラウンドも負けてる”とコーチに言われながらフィニッシュできなかった試合を思い出した。僕にとっては、人生で逆境に立ち向かっていくために、そしてここでやっていくために、我武者羅にでもやる必要があった。2、3Rと4Rでは違っていただろう?」と、4Rに勝負をかけたという。
明らかに前に出て来たペティス。追い足を増やし詰めていく。挑戦者はサークリングし、左から右を当てるが、若干、軸が乱れて来た堀口。その打ち終わりにペティスも左を狙う。
ペティスが左ジャブを伸ばすと、堀口はそこにカウンターのタイミングでダブルレッグへ。ここは金網まで押し込むも深追いせず離すと、今度は左を突き刺しての、この日、再三、決めたニータップで右でヒザ裏を掴んでドライブしてテイクダウン。
一度、下から跳ね上げようとしたペティスに中央に戻りインサイドガードに入る堀口。下のペティスはクローズドガードを三角(4の字ロック)で組み、下から抱き寄せてパウンドを防ぐ。
ここでブーイングが起きるが、固めているのはペティス。堀口の細かいパウンドに4の字からクローズドガードに変えたペティスが堀口の首を引き寄せるが、ここで上体を上げた堀口。
そのスペースに足を入れることが出来たペティスは蹴り上げへ。一瞬、腰を前にして足を捌こうとした堀口だが、2Rに蹴り上げを顔面にもらいカットしている堀口は、パスに固執せずに離れ、ペティスを立たせている。
これはブーイングによる影響というよりも、堀口が蹴り上げによりリスクを避けての動きか。それはスタンドでの距離のコントロールが出来ていた自信もあるだろう(※後日、堀口は「面白い試合をしないとなって思って」上体を上げたことを記している)。
スタンドへ。後半のラウンドで少しステップが少なくなってきた堀口。ペティスが左を伸ばすと、左に頭を傾けて避けて外から右をかぶせる。その打ち終わりに右から左で一気に詰めるペティス。堀口はバックステップし、金網に詰まることなく左にサークリング。
左ジャブを刺し、レベルチェンジでテイクダウンのフェイントも見せる堀口。これまでのラウンドで見せてきたジャブ、ストレート、カーフキック、ニータップのどれが来るのか、相手には分かり辛い入りだ。
ペティスは右ローを打つが、そこに堀口は、右から左の飛び込み。ペティスが左ジャブを出すと、しっかりかわして右を合わせに行っている。さらに左も打ち込むが、そこにペティスが右・左と打ち返すと、すっとバックステップしている堀口はもうそこにはおらず、ペティスの左は大きく空を切っている。
なおも圧力をかけるペティス。
「近い、近いよ!」と叫ぶのは恭司より先に伝統派空手を学んだ兄・健太だ。
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なぜ距離は近くなったのか?
金網を背に感じている堀口は、自ら左をフック気味に振って前へ、これを首で受けたペティスは左を返すが、ここもすっと後ろにかわす堀口。ダブルレッグに入るが、がぶるペティスがギロチン狙いでクラッチを組む前に引きはがす堀口。
ペティスの左をかわしてまたも外から右をかぶせる堀口。そこに右まで繋ぐペティスは前へ。ここでペティスはこの試合、初めてと言っていいクリーンヒットを左ボディで当てている。
サークリングして距離を取り、左の突きを押し込んで行く堀口。その打ち終わりを追うペティス。ペティスが中央を取るため、ステップし、サークリングする堀口の方が多くの距離を動いている。
注目すべきは、なぜその距離が近づいたのか、だ。
追うペティスに堀口は大きめの左フック。この左をかわして懐に入ったペティスは、右で脇を差し、堀口の右ヒジを掴んでいる。
相撲でいう「おっつけた」形でペティスはヒジを内側に押し、右を差せない堀口。そのヒジを内側に押し込むように固定しての近距離で右ハイキックへ。
堀口はそれを瞬時に察知し、頭を下げてダッキングして潜るが、その回転のまま、一気にペティスは振り向きざまに左のバックフィストへ!
右手をおっつけられ頭を上げたばかりの堀口の右のガードは間に合わず、コンパクトに、しかし遠心力がついたペティスの左裏拳は、堀口のアゴを打ち抜いた。
ペティスはその瞬間を堀口のリアクションを利用したという。
「あれは流れのなかで出来たこと。ホリグチはすごい“やりやすくなっていた”と思うんだ。それで、彼の動きのなかで、彼は出入りの外に出る動きはあんまり計算されていないように思えたから、そこをうまく突くことが出来た。
コーチはジャブ、ジャブで離れるということを指示していて、彼は自分が動くたびにリアクションする、それで、思うに1Rから4Rを通して、彼は本気でディフェンスすることなく上手く逃げられる状況だったから、僕は蹴りを出したけど上手くいかなかったりして、それで、自分が(堀口の左を)かわしたことで(近づいて右ハイキックを)彼が避けることに繋がり、それでスピニングバックフィストを当てられたんだ」
ペティスはこの一連の動きをスパーリング動画で見せており、身体に染み込んだ得意な形としているのは間違いない。2Rにも離れ際にハイキックを狙っており、近距離での蹴りからの回転技は“ペティスコンドー”の必殺技だった。
堀口の手はもともと低く構える空手の構えだ。それは手が低い位置の方がハンドスピードが速く、突きの出どころも分かりにくい利点がある。また、手を低く構えることで、相手の動きにも反応しやすく、目のいい堀口のディフェンスはもともとガードしてのブロッキングではなく距離で外すことが多い。
このとき、ペティスの右ハイキックは、倒すためのハイキックというより、練習動画でも見せている通り、相手に潜られても回転してのバックフィストに繋げられる動きであり、強振しないがゆえに軸もブレずに速く小回りに回転できている。
「たら・れば」で言えば、もしこのとき堀口がハイキックにダックで反応せずブロッキングしていたら、もし自ら打ち込みに行かずアウトボクシングしていたら……と考えを巡らせることも出来るが、それが意味をなさないのが格闘技だ。
北米の5R戦は、堀口にとって、2019年6月のダリオン・コールドウェル戦以来、2年半ぶり。右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の手術以降は初となる。マイク・ブラウンコーチは本誌の取材に練習で5Rのシミュレーションは出来ていると語っていたが、それでもステップ、サークリングが多く、テイクダウンゲームを仕掛けていた堀口にとっても苦しいラウンドに入っていたことだろう。
最後の場面や一部のコメントだけを切り出しても結果論でしかなく、この4Rに至るまでの攻防のなかで、両者のスタミナや精神状態がどうなっていたかを試合を通して見るべきで、さらに試合に至るまでの環境も影響して、今回の結果に繋がっている。
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2022年、優勝賞金100万ドルのワールドGPでリベンジのチャンス
スコット・コーカー代表は、堀口の失神KOのダメージと、2022年開催の優勝賞金100万ドル(約1億1千2百万円)のBellatorバンタム級ワールドGPの日程について、「ホリグチ次第」とRIZIN王者の復活を待つつもりだ。
「彼のファイターとしてのレベルを見たよね。信じられないほどのレベルの高さを。自分が思うに基本的に彼はずっと試合をコントロールし続けていて、にも関わらず捕まってしまったということだ。それはMMAにあっては起きうることで、それこそがこの競技の美しさでもある。何が言いたいかというと、速く、爆発的で、生々しい、それが人気の理由なんだ。彼は目を見張るものがあったし、あの瞬間が起きるまでの彼の姿は、私にとってはもう驚くべき、輝かしい姿そのもので、だが彼は仕留められてしまった。格闘技とはそういうものなんだよ。
対するペティスもチャンピオンになるにふさわしい人物で、バックグラウンドもあり、諦めずに努力し、相手がどんな打撃で来ようと、いかにレッスルしてこようと、それを全て把握して仕留める、素晴らしい選手だった。
ホリグチにとってこの試合は重要なカムバックの機会だったし、ほんとうに3ラウンドまで素晴らしかった。結果としてはKOに倒れたが、あんな決着になるというのもこの競技なら起きること。まさしくチャンピオン対チャンピオンという、次元の違うレベルの試合だった。GPはホリグチの回復次第だが、3月を見据えて行いたい。ただ、ドクターとも相談して、どうなるかだね。つまりもしサスペンション(出場停止期間)というようなことがあったら、考慮する必要があるということだ」
この日のメインイベント前には、2022年バンタム級ワールドGPの開催が発表されており、メインのペティスと堀口を含む8選手の陣容が明らかとなっている。
メンバーは、Bellator同級王者のセルジオ・ペティスと、RIZIN王者の堀口恭司に加え、1位のフアン・アーチュレッタ、2位のラフィオン・スタッツ、3位のパッチー・ミックス、4位のマゴメド・マゴメドフ、5位のレアンドロ・イーゴ、6位のジェームス・ギャラハーの8選手だった。
いずれ劣らぬ強豪揃いのメンバー。あえて“黄金のバンタム”と称される同級でのGP開催を、コーカー代表は「世界中で一番優れていると示せる階級だから。GPを16人で行うことは容易だが、全選手が脅威的な、世界に示すべきトップの8人で行うことが重要だった」と語っている。
そのワールドGPに向け、失神KOとなった堀口は、余計なダメージをもらうことなく迎えることが出来るのは、朗報だろう。
試合後の会見で「今日の勝利以上に、最後に余分な一発を追撃しなかったことが今後、ファイターであり、マーシャルアーティストとして称賛されていくことになるのでは?」と問われた王者は、不安や恐怖を抱えて試合に臨み、「クレイジーな仕事だ」と認めつつも戦う、複雑な思いを吐露している。
「どうあれ不安にはかられるものだし、いまだに不安を抱えているけれども、それでもここで他の人間と戦ってパフォーマンスしなきゃいけない。クレイジーな仕事だと思うけれど……ただ、成長して、格闘家としての自分の人生における自分の役割みたいなことをようやく理解できているんだと思う。
何を望んでいるかといったらそうじゃないから──つまり人を意識不明になるほどに痛めつけたいと思ったことなどないし、後々の相手の人生に影響を与えてしまうような後遺症になるほどのダメージを負わせるほど傷つけるようなことなんてしたいわけはなくて、確かにこれは残念ながら自分の仕事の一部とでもいうか、そういうものだということで──結果的に、ちょっと嘘くさい言い方になってしまうけど、彼の方がやられた結果で良かった。自分がやられるよりは──そしてそうなった。自分はここ(ケージ)を離れたらとっても優しいし、だけどさ、実際、彼だって(試合では)自分に同じことをしただろう、そういうことだよ」と、勝利を決めた瞬間を振り返った。
この日、死線を潜り抜けた王者は、次なるワールドGPに向け、「正直なところ、もっとハードに頑張らなきゃって思っている。4Rまで堀口に圧倒されてしまっていたのだから、もっと努力が必要だ。僕は対戦相手を選ぶためにこの位置に上り詰めたわけじゃない。僕はそういう意味でのボスになったわけじゃないんだ。誰と戦うかをただ知らせてもらえばいい、事前に知らせておいてもらうなんてこともないよ」と、誰とでも戦うために、さらなる努力をすると語る。
そして、敗者も復活を誓う。
ケージの外に担架で運ばれながらも観客に向けて片手でガッツポーズを見せていた堀口恭司は、試合翌日にYouTubeを更新。「負けは負けでしっかり認めて、次、来年バンタム級のトーナメントがあるので、そこでしっかり優勝して、ついでにしっかりブッ飛ばそうかなと思っています」とリベンジを約束する。
ダメージについては「自分全然元気なので、たくさんの心配のコメント、メッセージありがとうございます。ただ大の字に伸びただけで、全く問題ないんで。(右目下の絆創膏は)ちょっと縫ったくらいで全然問題ないです」と語り、最後に「応援ありがとうございました。期待に応えられなくて申し訳なかったです。また頑張ります」と再起を誓っている。
4Rを戦い、最後にケージの中に立っていたセルジオ・ペティスとの一問一答の全文は以下の通りだ。
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セルジオ「すべての弟たちへ──ひたすら自分を信じてほしい」
──まずは試合を終えたばかりの率直な感想を。
「うーん、今は超へとへとだよ。1Rから4Rまでずっと彼に捕らえられていたけど、だんだんイライラしてきていたと思うんだ、それで出入りで面白い動きをしていて、自分としては、今夜はフィニッシュするためにたくさんの逆境に立ち向かわなきゃいけなかったけど、完璧に決まって良かった」
──この試合はキャリアのなかでどういう位置づけになりますか。今まで聞いたことがないくらいクレイジーな会場の盛り上がりだったのでは?
「自分にとっては、これまでで4回目か5回目のノックアウト勝利(5KO・TKO)だけど、27戦目にしてついにこういうことが起きて、すごくビューティフルなものだった」
──堀口恭司選手は、本当にタフな対戦相手だったと思います。序盤に苦戦したと言っていたのはどういうところがですか。何かミスがあったか、あるいは何か違うことができたはずだったとか。
「いやー、彼のスタイルがすごく厄介だというだけのことで、それをしっかりと見極めなくてはいけなかった。自分はプランに忠実であり続けて、チームメイトの平本蓮が、ずっと落ち着いているようにと、忍者のような冷静さで、力を入れすぎず、あんまり出過ぎずにしていて、だからあれは流れのなかで出来たこと。無理に出すんじゃなく、流れでそれが上手いこと当たったんだ」
──スピンしたときはご自身の視点ではどうなんでしょう? 明らかに当たった感じがするのか、何が起きたか理解するのに時間を要するようなものだったのか。
「彼が倒れた後、もう一発いれようとしたんだけど、完全に落ちていることに気づいた(から打たなかった)。コーチはジャブ、ジャブで離れるということを指示していて、彼は自分が入るたびにリアクションする、それで、思うに1Rから4Rを通して、彼は本気でディフェンスすることなく上手く逃げられる状況だったから、自分は蹴りを出したけど上手くいかなかったりして、それで、自分が(堀口の左を)かわしたことで(近づいて右ハイキックを)彼が避けることに繋がり、それでスピニングバックフィストを当てられたんだ」
──落ち着いてKOの瞬間をとらえるまで、ラウンドを通して何を考えていましたか。
「デューク・ルーファスからは、はっきりと、3R通して負けてると言われてた。最近見たボクシングのファイターで、多分(テレンス)クロフォードとの試合だったと思うけど、このラウンドも、あのラウンドも負けてる、とコーチに言われていてフィニッシュできなかったのを思い出した。僕にとっては、人生で逆境に立ち向かっていくために、そしてここにやっていくために我武者羅にでもやる必要があった。2、3Rと4Rでは違っていただろう?」
──すごいKOで恐ろしい失神劇でもあった。対戦相手はしばらく失神していて、あなた自身はどうやって気持ちのバランスを取りましたか。
「何を望んでいるかといったらそうじゃないから──つまり人を意識不明になるほどに痛めつけたいと思ったことなどないし、後々の相手の人生に影響を与えてしまうような後遺症になるほどのダメージを負わせるほど傷つけるようなことなんてしたいわけはなくて、確かにこれは残念ながら自分の仕事の一部とでもいうか、そういうものだということで──結果的に、ちょっと嘘くさい言い方になってしまうけど、彼の方がやられた結果で良かった。自分がやられるよりは。そしてそうなった。自分はここ(ケージ)を離れたらとっても優しいし、だけどさ、実際、彼だって自分に同じことをしただろう、そういうことだよ」
──今日、2022年のバンタム級ワールドGP開催が発表され、あなたもそこにラインナップされています。あなたはチャンピオンですから、Bellatorだと、王者が対戦相手を選べたりしますよね、もしそうなったら、誰を選びますか。
「僕は対戦相手を選ぶためにこの位置に上り詰めたわけじゃないよ。僕はそういう意味でのボスになったわけじゃないんだ。誰と戦うかをただ知らせてもらえばいい、事前に知らせておいてもらうなんてこともないよ」
──兄(アンソニー・ペティス)の影に隠れていた弟という影の存在から抜け出して、自分のブランドを構築してレガシーを作っていくというのは簡単なことではなかったと思います。自分の道のりを築くために偉大な兄のもと頑張っている全ての”弟”たちにメッセージをお願いします。
「そうだね……とにかくひたすら自分を信じてほしい。僕はしばらく、自分自身を信じるということが抜け落ちていたことがあったんだ。もしそんなことが今日もあったとしたら、あんなことは成し遂げられなかったと思う。4Rとか5Rまで戦っていると、精神的にはフラストレーションが溜まっていくものだけど、でもそれが原因で自分の前向きな感情が壊れてしまうなんてことはない。
それで自分はきっとすごいことを成し遂げられるんだって分かっていたし、そうするためにはまだ2Rも残されていて、ついにやり遂げたんだ。3分49秒であのラウンドを終えられた。そう、だからとにかく忍耐強く。僕は我慢するのが得意なんだよ、プロの格闘家になって10年、物ごとが自分が思い描いた通りに運ぶようになってきたと思う」
──今日の勝利以上に、あなたが最後に余分な一発を追撃しなかったことが今後、ファイターであり、マーシャルアーティストとして称賛されていくと思っています。試合前にあなたが言っていたのは、今回のキャンプで不安をコントロール出来るようになってきたと。そのおかげで地に足が着いてきたという感じなのか、逆に3Rまでで不安が優ってしまった感じなのでしょうか。
「いや、正直そうは思わないけれど、28歳で27回目のプロファイトで戦うためには、ファイトウィークで不安をコントロールする方法を学ばなくてはならないと思っていて、どうあれ不安にはかられるものだし、いまだに不安を抱えているけれども、それでもここで他の人間と戦ってパフォーマンスしなきゃいけない、クレイジーな仕事だと思うけれど……そうだな、よく分からないけど、ただ、成長して、格闘家としての自分の人生における自分の役割みたいなことをようやく理解できているんだと思う」
──これからのホリデーシーズンには何が待っている?
「家族と過ごすクリスマスは久しぶりだな、あとはそこにいるフィアンセとの時間が必要だな、感謝際が恋しいよ」
──勝利の理由を考えるとき、あなたの足の状態が気になりました。かなりローキックを被弾していたように思いますし、バランスを崩して倒されたような場面も見られたように思うのですが。
「何度も骨を蹴られた。いくつもの蹴りをチェック(防御)していたけど、もっと骨が──いつもだとふくらはぎの筋肉が痛むんだけど、今はもろに骨が痛いような感じで、蹴りは割とチェックできていたんだけど彼がものすごい強い蹴りを放ってきてたね」
──お兄さんはあなたの勝利にかなり高額を賭けて、2万8千ドル儲けたとツイートしていました。どう感じますか。
「ああ、僕はただ今日自分にベットしてくれた人には誰であれ感謝したいし、僕もお金は欲しいから、僕たちみんなにとって喜ばしいことだね」
──あなたはチャンピオンとして臨むこの試合でアンダードッグでした。それについて思うことは。
「別にそれについては何も。正直そんなことには興味ないからね。賭け事にも興味が無いし、みんなが何かこう自分について見落としてることがあるんだと思うと、それがモチベーションに繋がったとも言えるかもしれない。そうやって原動力を与えてもらったという意味では良かったのかもしれないね。今夜それを見せられたわけで」
──バンタム級ワールドGPに向けて、普通だともう次の対戦相手が話題に上がるところが、トーナメントともなるとそこが問題にならないですね。今日の勝利はGPへの自信になりましたか。
「正直なところ、もっとハードに頑張らなきゃって思っている。4Rまで圧倒されてしまっていたのだから、もっと努力が必要だよ。最高のKOをできたというのは実感してる。けれど、自分のキャリアをもっと長く続けていくためにも、そして向こう8年10年とここにいるためにはもっと頑張らないと」
──意表をつくフィニッシュだったでしょうか。あれを決めるために違うことをするという。
「いや、単に僕は辛抱強いというか、正直に言って彼は、すごくやりやすさを感じ始めていたんじゃないかと思っていて。何ていうのかな、僕たちはあそこで一緒に笑い出し始めてたんだよ(笑)。彼にテイクダウンされて僕が『マザーファッカー』って口に出したら、彼が笑い出しているというような感じで。だから思うに、彼は試合の場で流れを決めていけるようになったことに心地良さのようなものを覚えていたんじゃないかと思っていて、彼のした素晴らしい動きというのは僕を圧倒していて、見事なテイクダウンで僕を倒して、素晴らしいジャブを繰り出し、それによってテイクダウンもして、それは自分の方はあんまり上手く出来なくって、多分すごいやりやすくなっていたと思うんだ。それで、彼の動きのなかで、彼は出入りの外に出る動きはあんまり計算されていないように思えたから、そこをうまく突くことが出来たんだ」
──ネットでも反響が大きくて、「ノックアウトオブザイヤー」などと言われていますが、ご自身としては?
「これまでにもKOというのはあるけど、堀口のような、29勝3敗の相手にあのノックアウトはできることじゃないよね、今にして思えば。彼の反応を見てしまうとクレイジーだったね」