2021年11月28日(日)、神戸ワールド記念ホールにて、RIZIN初のケージ大会「RIZIN TRIGGER 1st」が開催された。
「今回は臨時で次回からは六角形になる」(榊原信行CEO)という八角形のオクタゴンでの戦いは、UFCなどが採用するユニファイドルールではなく、四点ヒザ&サッカーキックありの過激なRIZINルールでのケージマッチとなった。
メインイベントでは、地元神戸の新鋭・萩原京平(SMOKERGYM)と、ベテランの昇侍(KIBAマーシャルアーツクラブ)が対戦。
2R 1分19秒、萩原の右ストレート、左フックでダウンした昇侍が、最後はサッカーキックを受けてレフェリーストップ。萩原が10月2日の朝倉未来戦での敗戦から、再起を果たした。
このRIZIN初のケージ大会のメインで、何が起きていたのか、両者の証言から試合を紐解く。
左目を腫らしていた萩原、昇侍の最初のテイクダウンはニータップだった
試合前から左目を腫らしていた萩原。それは練習での被弾ではなく、麦粒腫(ものもらい)によるものだった。
「ものもらいは試合の5日前くらいにもらって。試合が近付くにつれてだんだん酷くなっていきました。僕は今までものもらいとかもらったことなかったので、これは逆にこのタイミングでもらうのは何かあるなと。逆に持っているなと思いましたね」と笑い飛ばした萩原。
視界が狭まり戦いにくくなかったかと問われ、「ちょっと瞼が落ちてきとったんで悪かったんですけれど、そんなことはあまり気にしてなかったですね」という。
開始のゴングと同時に中央に飛び出した萩原。ともにオーソドックス構えから、互いの距離の取り合いに。リーチ・コンパスを活かし、遠間から左ジャブ・右のカーフキックを蹴る萩原に対し、昇侍は開始1分で萩原からテイクダウンを奪っている。
その形は、10月の「RIZIN LANDMARK vol.1」で朝倉未来が萩原に決めた「ニータップ」だった。 左ストレートを突いて肩を押しながら、右手で相手のヒザ裏を掴んで倒す、元UFC世界王者のフランク・エドガーやジョルジュ・サンピエールが得意とする形で、打撃の踏み込みの強さを活かしてテイクダウンを奪う形だ。
萩原戦でのニータップについて朝倉は、ダブルレッグの防御が強い萩原に対し、「立ち方がキックボクサー寄りでバックステップが得意じゃない」と分析し、「タイミングをズラしていきなりストーンと入るからこらえられない」と語っている。
出稽古で朝倉未来とも練習する昇侍は、「特に(朝倉未来に)教えてもらったわけでもなく、未来選手の(動きを)まるまるパクって(笑)、そのままやったら決まったという。カウンターをもらい辛い動きでリスクがないんで、あれいいなと思って練習でやってたことでした」と、狙っていたという。
朝倉と同じ形でテイクダウンを奪われた萩原だが、このシーンを「テイクダウンを取られた時に正直焦ってしまったというか、組み付いてしまったところで(セコンドの)岩崎(正寛)さんの指示があって冷静に動けたので、正直、今回の試合に関しては岩崎さんの指示がなかったらどうなっていたのか分からなかったところですね。本当にありがたかったです」と、地元のCARPE DIEM芦屋から、今回はセコンドにつくことができた柔術家の岩﨑正寛のアドバイスが活きたと語った。
ハーフガードから背中を見せて亀になりヒザをマットに着いて立ち上がることを選択した萩原。その立ち際にバックを狙う昇侍は、背後の金網を使いながら右足をかけて、たすきがけでチョークを狙うが、萩原は岩崎の指示通り、右手首を掴み、かけられた右足にヒジを落としてロックを外させている。
そして右肩を内側に入れて、一気に正対と同時に左ヒジを打ち込み、離れることに成功した。
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萩原の組み技の取り組み、ベテラン昇侍のMMA
漢気ストライカーと見られがちな昇侍だが、ファイターとしての息の長さには、組み技も厭わない姿勢が寄与している。
右カーフキックにバランスを崩されながら、続く萩原の右ストレートに、ここではニータップではなく、カウンターのダブルレッグでテイクダウン。再び立ち上がる萩原のバックから正対し、今度は大内刈でテイクダウン、萩原の足を越え、サイドポジションまで奪っている。
MMAとして、テイクダウン、バック狙い、サイドを奪ったものの、そこからは決定的な形を作れなかった昇侍は、「チョークを狙ったり、そこから振ってグラウンドに持ち込みたかったんですけど、萩原選手も対策をしっかりして、あそこからコントロールができなかったんで、ちょっと膠着して。
ちょっとつまらない展開に見えたかもしれないんですが、萩原選手がしっかりと対策をしていて、サイドポジションを取った時も、ヒジとかパウンドも狙ってたんですけど、しっかり手とかヒジを押さえてそういったものを打たせないようにディフェンスをされていました。すごく(寝技の)レベルが上がって、対策がしっかりしていてすごいなと思いました」と、萩原の組み技の進化を語る。
ただ、そこで萩原がまだ成長段階にある組み技だけに固執するつもりはなかった。
ケージの中央で勝負したかったか、ケージ際に持ち込みたかったかと問われた昇侍は、「スタンドに関してはそんなに場所は気にしないですけど、グラウンドになったらケージ際の方がコントロールしやすかったりとか、相手を動かしづらいので、テイクダウンをしたらケージ際に持っていくっていうのは、多分セオリーというところもあるんで、まあ倒せばケージの方向で戦うっていう感じに、自然と身体は動くようにいつも練習しています」と言いながらも、
「まあガチガチに組んじゃうと自分も力を使っちゃうんで、そこで消耗戦をしても試合内容がつまらなくなっちゃうんで、打撃の攻防のなかからタイミングでテイクダウンを狙って展開を作っていくという方が、ゲームとしても見てるお客さんからしても動きがあって面白いと思うので、あんまり組んでじわじわ戦うようなプランは、基本的には自分はやりたくないので、そういう感じで戦いました。(相手から組んでくることも)ちょっとは想定してました。そこは対策できるかなと思ってました」と、打撃の攻防があってこそ、消耗せずにテイクダウンに行けたと語っている。
しかし、そのテイクダウンにも、首を守って立ち上がる対処が出来ていた萩原はスタンド勝負に出る。
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フィニッシュは右ストレート、ユニファイドルールにはない金網サッカーキック
昇侍の左を避けて、右を打ち込み、ヒザ蹴りを混ぜる萩原。打ち合いを得意とする昇侍に対し、被弾せずに自身は当てることが出来る、SMOKERGYMでの打撃練習の成果、そしてセンスの高さが、この25歳のプロキャリア10戦目のファイターの持ち味だ。
昇侍の蹴り足を掴んでのシングルレッグ、右で差して、左の外ヒザを引き寄せての崩しも残した萩原は体を入れ替え、またも左ヒジを打ち込み、フィニッシュに向かう。
組みを剥がして思い切りよく打撃を打ち込めるようになった萩原はしなるような右アッパー、左フック! 昇侍の左ボディ、前蹴りの腹狙いにいったん下がりながらも左ジャブを当て、金網を背にしてノーモーションの打ち下ろしの右ストレート!
もらった昇侍は右手と右ヒザをマットに一瞬着きながら立ち上がると、さらに右で前進。最後は左ストレートでダウンを奪うと、すかさず右のサッカーキックを顔面に打ち込んだ。
「右のカウンターは常に狙いながらプレッシャーをかけていくスタイルでやっていて、始めの方はちょっとタイミングが読めていなかったんですけれど、後半にかけて昇侍選手の出入りの癖だったり、出入りのタイミングが読めてきたので、2Rここで右クロス・カウンターが合わせられると思って出したところが上手くハマった感じですね」と萩原はフィニッシュを振り返る。
得意の前手のフックを防がれて、右を浴びた昇侍は、「右のストレートのキレがやっぱりすごくて結構見づらかった。何発か見えない右をもらっていました。あとは自分の得意である左フックをしっかりと対策をされ、ディフェンスされていたので、その辺はやはり対策やセコンド陣含めて、すごくレベルの高い選手だなと思いました」と、萩原の打撃を賞賛した。
そして、ケージファイトでありながら、北米ユニファイドルールには無い、サッカーキック。
「正直、練習では出来ないので本能的にじゃないですけれど、身体が勝手に動きましたね」と、萩原はRIZINルールが身体に馴染んでいるという。
サッカーキック後、連打をすることなく昇侍のダメージを見下ろし、レフェリーが間に入るのを待った感さえある萩原。身体が勝手に動いたとはいえ、頭は冷静だった。打ち鳴らされるゴングの中で、勝利の一服のスモーカーポーズを見せている。
立ち上がり両手を挙げて出来ると訴えた昇侍だが、試合後には、TKOのフィニッシュ裁定に納得している。
「右のパンチが効いたというか、テンプルにもらってグラつかされました。ちょっと揺らされて、すぐにはリカバリーが追いつかない間に、最後の(ラッシュで)まとめられちゃったんで。試合中は“まだいけるよ”って言ってたと思うんですけど、まあ映像見たら、このタイミングで蹴りを当てられたら止められても仕方なかったかなと。テンプルにもらってグラついただけで意識は全然、今も元気です」と敗北を受け入れている。
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フェザー級で堀江、弥益を指名した理由は
RIZIN初のケージで、金網を使った攻防、スリリングな打撃戦を昇侍と繰り広げた萩原は、「思っていた通り男らしい、本当に気持ちいい打ち合いが出来たので、男の真っ向勝負が出来たと思っているので、印象通りいい選手でした」と対戦相手を讃えた。
地元大会のメインをフィニッシュ決着で締めてことを「最高ですね。その一言に尽きます。メインでメインらしい試合が出来たかなと。1R目が終わった時にお客さんが凄い盛り上がっとったのが分かったので、自分もテンション上がりましたね」と笑顔を見せた。
対する昇侍も「悔しいですけど、本当に自分が目指していたメインイベントとしての激しい戦い、会場が沸くような戦いができたことは、すごく良かったかなと思っています」と激闘を振り返ると、「落ち込んでても仕方ないですし、勝とうが負けようが前を向いて自分はリングで戦うこと、観ているファンのために命を賭けてリングに戦うことが使命だと思っているので、前を向いて、これからもリングで戦い続けたいと思います」と、ケージも含めて戦いの場としてリングと表現して、前を向いた。
PANCRASE時代には、後のUFC世界フェザー級王者ジョゼ・アルドとも68kgで戦い判定まで持ち込んでいる昇侍だが、近年はバンタム級(61kg)で戦ってきたのも事実だ。今回の試合が66.0kg契約だったことが、際の部分で影響しなかったと問うと、侍をリングネームに持つ男は一切の言い訳を口にしなかった。
「適正──バンタムでやると、減量のキツさだったり、そこで練習の質が落ちたりするマイナス面もあって、フェザー級になると相手は大きくなりますけど、コンディションとか練習の内容は濃くなったりするので、一概には(言えない)。バンタムは体格だけでもなくて、コンディション的にあまり無理して減量するよりは、自分は戦い続けることを目標にしているので、また大きな相手に挑んでいくという姿勢を見せたいと思っていますし、どんどんフェザー級でもバンダム級でも強い相手と戦っていきたいなと思ってます」
勝者はケージの中で、「今回、大きな怪我無く終われたし、年末ちょっと暇しているんで、全然試合をしたいんで大晦日も待ってます。ホンマは堀江(圭功)選手と試合をしたかったけど、今日、試合をして年末出て出てこないと思うので(※右手を負傷)……ドミネーター選手、大晦日、会社休みでしょう。暇してるんだったら、試合でもして盛り上げましょうよ。オファー待ってます」とかねてから対戦を希望している弥益ドミネーター聡志に対戦を要求した。
そのことについて萩原は、本誌の取材に「やっぱり堀江選手は強いストライカーやし、UFC帰りって肩書きもあるので、試合したかったですね。でも怪我しているみたいなので、楽しみはもうちょっと先に置いておこうかなと思います。それで狙いをサラリーマン(弥益ドミネーター聡志)に変えました。元々、朝倉戦以前からドミネーター選手とやりたかったので、振り出しにじゃないですけれどそこに戻ってまた積み重ねていってやろうかなという意味で。ドミネーター選手が前からやりたいと言っていたので、指名させてもらいました」と語っている。
フェザー級で多くの選手が対戦を嫌うが、元UFCの肩書も持つ堀江、そしてオールラウンダーなドミネーターを指名したところに、MMAファイターとしての萩原の志が見える。その先に見据えるのは、リング上で「必ずやり返す」と誓った朝倉未来へのリヴェンジだ。
「大晦日に出て、年明けも怪我が無かったら出て、とりあえずは朝倉未来選手にリベンジしてベルトを獲りたいと思っています」──萩原はコロナ禍の上半期を取り戻すかのように3カ月で3試合の連戦に向かう。