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【BKFC】ベアナックルファイトでのリング禍、38歳ジャスティン・ソーントンはなぜ亡くなったのか、そしてダナ・ホワイトが語ったこと

2021/10/07 20:10
 2021年8月20日に素手のボクシング『Bare Knuckle Fighting Championship』(BKFC)で、1R 19秒でKO負けしたヘビー級のジャスティン・ソーントン(米国)が10月3日、ミシシッピ州ガルフポートの病院で亡くなったことが分かった。38歳だった。  ソーントンは、2008年のプロMMAデビューからMMA6勝18敗で、今回がベアナックルファイトのデビュー戦だった。  対するディロン・クレックラー(米国)も同年代の39歳ながら、MMA戦績は11勝1敗。唯一の黒星は元UFCファイターのアレックス・ニコルソンに奇襲のスピニングバックフィストを受けての94秒負けで、ベアナックルファイトでも2連続KO勝利中だった。  両者は2013年の「Island Fights」でMMAで戦い、クレックラーが1R TKO勝ちしており、今回はベアナックルルールでの再戦だった。  試合は、開始早々に前に出たソーントンが右を振ったところに、クレックラーが下がりながらカウンターの右ストレートをヒット。ソーントンは前のめりに頭からマットに崩れ落ち、すぐにレフェリーが試合を止めている。 担架で運ばれ、そのまま入院したソーントンについて、米国ミシシッピ州アスレチック・コミッションのジョン・ルイス(※1997年のVTJで佐藤ルミナと対戦)会長は、「前方に飛び込むように倒れたので、最初に頭頂部を打ち、首を圧迫して、脊髄を損傷してしまった」と説明している。  今回のケージ禍について、米国のフィジカル・メディスン&リハビリテーション(PM&R)を専門とする医師でYouTuberでもあるブライアン・ステラー氏は、自身のYouTubeで、「多くの人は、素手のボクシングの安全性について、裸の拳だからボクシンググローブより危険だと言います。たしかに素手のボクシングは“安全”ではないと思いますが、私は今回の件で、それよりももっと重要なことがあると思います」と意見。 「ソーントンが意識を失ってマットに倒れる瞬間、彼はこのダウンから身を守ることができず、頭からマットに崩れています。彼は入院し、Facebookに脊髄を負傷し、麻痺してしまったことや、気管切開をして人工呼吸器をつけていたことなどを記しています。また、脊髄損傷では、感染症のような合併症の可能性もあります」と、素手の打撃の衝撃よりも、ダウン時に脊髄を損傷したことが、大きく影響していることを語った。 「素手のボクシングだけでなく、一般的なボクシングでも、UFCでも同じです。選手がノックアウトされ、倒れてキャンバスにダウンしたとき、脊髄を損傷する可能性があります。素手である残虐性がどの程度かということだけに焦点を当てるべきではないと思います。脳の損傷と脳震盪は、パッド入りの拳であろうと、素手の拳であろうと、私の知る限りでは、実際に発生率を調べたデータはありません」  そのダウンについて、ステラー氏は、長年のダメージが起因していないか危惧している。 「ベアナックルファイターの多くは、それまでの所属団体からカットされた選手たちです。それは、パフォーマンスの低下や年齢などの理由があるでしょう。ファイターにとってのピークではないかもしれません。もちろん怪我のリスクは高まります。各州のアスレチックコミッションでの一貫性が必要です。試合前の適切な医療検査で、脳のMRIやCTスキャンや、他の診断テストがあれば、問題を発見し、彼の行動を阻止できたかもしれません。この悲劇的な出来事から私たちが学ぶべきことは、何が問題なのかを見直すことです。ファイターの反応時間を調べるようなテスト、反射神経を調べる何らかの機能テストを事前に実施し、ケージの中で自分を守ることができるのかどうかをチェックできることが望ましいです」  各州によって異なる事前のチェックに加え、いかにレフェリングでリスクを少なくするか。MMAのようにダウン後のパウンドなどによる追撃が無い立ち技の場合、ボクシングやムエタイでは、より近くで選手のダメージを確認し、ときにダウン時に滑り込んで倒れる選手の頭部を保護するレフェリングも見られる。  あるオクタゴンドクターは「イリー・プロハースカ戦で同じように前方に倒れたドミニク・レイエスが首を痛めなかったのは幸運だったといえる」と証言する。  今回のリング禍に、5日の「DWCS」後の会見でUFCのダナ・ホワイト代表は「ベアナックル・ファイト……決して好ましくはない、自分のところを去った選手がああいった試合に出ることを選択するたび天を仰ぐものだ」とコメント。  続けて、「UFCでは試合前後に、広範囲にわたって健全なトレーニングをして健全に試合ができるようフォローアップするのに適切なだけの医療費をしっかりかけている。毎年、アスリートの医療費に2000万ドル以上を費やしていて、そのなかで深刻な医療的な問題を抱えている選手を見つけてもきた。だから、UFCにいなかったら亡くなっていた選手とていたかもしれない」と、UFCパフォーマンス・インスティテュートを含む練習環境の設備投資、さらに医療面の充実に力を注いできたことを語った。  その一例として、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーと死闘を繰り広げたブライアン・オルテガの試合後に「自分はオルテガのコーナーにすぐ行って、セコンドに『インタビューは無しだ。メディアとも話すな。すぐに救急車に乗せていちはやく医療行為を受けるように』と釘を刺した」と明かし、「この仕事を始めたときから、安全こそが最重要だ」と語っている。  ファイトスポーツが危険なスポーツであることは間違いない。そしてすべてのスポーツにリスクはつきものだ。それを周囲の環境でいかに少なくできるか。  試合後、8年ぶりにソーントンと拳をかわしたクレックラーは、対戦相手が亡くなったことについて、「ファイターとして、今朝トレーニングに向かう途中に受け取ったニュースは、何の心の準備も出来ていませんでした。まだご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、私の最後の対戦相手であるジャスティン・ソーントンが昨夜、肺炎のために亡くなりました。ジャスティンとは何年も前からの付き合いだったので、このニュースには本当にショックを受けています。  あまり知られていませんが、私たちは8年前に戦っていて、彼はすぐに『再戦したい』と言ってくれました。大きな舞台での再戦の電話を受けたとき、彼は大きなチャンスだと思い、それを掴んだのだと思います。ジャスティンは戦士です。戦うことは彼の血の中にあるものです。彼はそれを愛していました。いつでも、どこでも、誰とでも戦いました。私に対戦相手がいなかったときも、彼は私と再び戦う機会に進みました。リングやケージに足を踏み入れる男性や女性は特別な存在で、世界の99.99%の人がしないようなリスクを冒していて、なぜそんなことをするのか、いまだに分からないことがあります……しかし、ジャスティンは生涯を通じてファイターであり、尊敬の念を抱くに値します。私の思いと祈りは、今、ジャスティン・ソーントンとその家族に捧げられています。RIP warrior」と記している。
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