2021年10月2日(土)に開催される『RIZIN LANDMARK vol.1』の事前特番『RIZIN TV~RIZIN LANDMARK SP』が、9月28日(火)にRIZIN公式YouTubeチャンネルにてライブ配信された。会場の観客数を限定し、U-NEXTでのライブ配信をメインとしたこの新大会への注目度は高く、番組の視聴者は最大で約10,000人だった。
(写真)『RIZIN TV~RIZIN LANDMARK SP』がRIZIN公式YouTubeチャンネルにてライブ配信された 同番組にゲストとして出演した昇侍(KIBAマーシャルアーツクラブ)が、番組終了後インタビューに答えた。昇侍は9月19日(日)さいたまスーパーアリーナで開催された『Yogibo presents RIZIN.30』に出場し、キックボクシングで10勝(8KO)1敗の戦績を誇るハードパンチャーのKNOCK OUT-BLACKスーパーライト級王者・鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)と対戦。1Rわずか20秒でKO勝利を収めている。
昇侍は少年時代から野球に熱中、高校卒業後は航空自衛隊に入隊したが、プロ格闘家を目指して除隊。2005年7月にプロデビューした。パンクラスで活躍し、2006年10月には開始直後の飛びヒザ蹴りで“3秒”KOというMMA史上最短記録を作った。2008年1月にはライト級王座を獲得。同年12月からはDEEPに主戦場を移し、タイトルマッチも行ったが2013年6月に一度引退。2017年8月に復帰し、2020年9月にRIZIN初参戦で朝倉海と対戦したがKO負け、2021年2月にはDEEPで元谷友貴にも一本負けと連敗を喫していたが、鈴木戦で約1年ぶりの勝利をあげた。
試合から9日が経ち、改めて自分の試合映像を見て気付いたことはあるかと聞くと、昇侍は「新たに気付いたことは特になかったですが、思っていた以上に(相手のパンチが)見えたなというのがありますね。もっと伸びてくるかなと思っていたんですけれど、MMAとキックボクシングは圧倒的に距離感が違うので、そこは分からないだろうなと思っていました。過去にMMAの経験があるとはいえ、2年間キックボクシングの練習しかやっていなかったというのが最大のポイントで、距離感を徹底するのは自分の中で決めていたことで、キックボクシングでの打撃の距離感を外して戦うというプラン通りでした」と、“20秒KO”が生まれた理由を話し始めた。
「僕は帝拳ボクシングジムでずっとボクシングの練習をやっていて、世界トップレベルのボクサーたちの練習を見て学んでいるわけです。村田諒太選手、山中慎介さん、ホルヘ・リナレス…トレーナーからもいろいろ聞いてパンチの秘訣というか、そういうものを自分の中で学びえて取り込んできました。その中で本当に倒れるパンチというのを知っています。彼はフィジカルと勢いで来ているパンチだったので、ちゃんと捌きさえすれば行けるという自信を持っていましたし、過去の動画を見てKOシーンがたくさんありましたけれど、対戦相手がほぼ呑まれている負け方が多かった。もう端から相手を警戒しすぎと言うか、それが恐怖になっている展開が多かったので、そうなったら負けるとは分かっていました。だから絶対にそうならず、向かっていくという気持ちでやることを意識していたんです」
鈴木は10勝(8KO)1敗で5連続KO勝ち。そこに付け入る隙があったと昇侍は言う。
「心理的な部分で、これはボクシングでもよくあるんですけれど、連戦連勝連続KOで行ってる選手って慢心じゃないけれどディフェンスが甘くなりがちです。ボクシングの世界では連戦連勝の選手がコロッと負けてしまうことが当たり前にあるんです。そういったケースはカウンターを合わせられるケースが多い。鈴木選手もあまりタフな試合ってやっていないんじゃないかな。延長Rまでいった試合はありましたけれど、喰らって効いた状態から立ち直って戦う試合をやっていないので、そういう選手ってもらい慣れていないじゃないですか。だから効かせられたらいけるかなと考えていました。今話した要素がまんま全て上手くいったのが今回の試合でした」と、想定していたことが全て当てはまった試合だったという。
昇侍の最近の発言を聞いていると、2013年に一度引退する前と2017年の復帰後では戦うテーマが変わっているように思えた。そのことを本人に直撃すると、昇侍は「そうなんです」と答えた。
「20代の頃はガムシャラにとにかく自分が目立って、有名になってやろうという気持ちで戦ってきたんですけれど、一度引退してカムバックしてきた時にもうベテランの域になっていたじゃないですか。自分らの若い時ってスポンサーがついたりとかもないですし、仕事をしながらその傍らで空いた時間で練習するのが当たり前の状態でした。
もちろん今もほとんどの格闘家はそうだと思いますけれど、総合格闘技界がもっと注目を浴びて、これから格闘家を目指す子たちがよりよい環境で、総合格闘家を目指していると言ったらもっと応援されるような状況を作らないといけないなっていう想いが凄くあって。今こうやって脚光を浴びて立たせてもらえる立ち位置になったので、少しでもいい環境で練習に打ち込めるファイターたちが増えてくればレベルも上がって来るだろうし、世界に通用するファイターがいっぱい出てくると思うので、これからの総合格闘技界の未来のために自分は何ができるか、何を残せるか、というのが自分の中のテーマになっています」
また、38歳という年齢で現役を続けているからこそ、伝えられるメッセージがある、ともいう。
「年齢を言い訳にしたりする人は少なくないと思いますけれど、そんなことはないんだよって。RIZINでも若くて強いファイターがどんどん出てきますけれど、自分はそういった中で年齢を言い訳にせず最前線で一番イケイケな試合を見せたい。RIZINの舞台に上がれるっていうのは本当に選ばれた、日本を代表する総合格闘家たちなので、何を伝えられるか。勝ち負けも技術も大事ですけれど、格闘技って一番勇気を与えられるスポーツだと自分は思っているんです。
技術以上に精神的な部分を伝えて、見ている人たちに元気や少しでも前向きな心を持ってもらえるようにしたいって想いがあります。この年だからこそ、肉体は衰えていきますけれど、そんな中でも伝えられるもの、そういう立場だからこそ伝えられるものがあると思うので、それが僕にしかできないことだと思います。朝倉海選手や未来選手のように若くて強くて走り抜けるカリスマだったり、選手それぞれ持っているものは違うと思うので、自分はそういった形で総合格闘技界に貢献していきたいと思っています」と、今は自分のためにということよりも、愛する格闘技界のために戦いたいとの想いが強くなっていると語った。