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【ONE】「審査」となったハム・ソヒ×ザンボアンガの判定。8分間のスタンド、7分間の組みのなかで見えたこと、見えなかったこと──

2021/09/07 11:09
 2021年9月3日(金)シンガポール・インドアスタジアムで行われた「ONE:EMPOWER」で、ONE女子アトム級ワールドGP1回戦に出場し、第2代RIZIN女子スーパーアトム級王者のハム・ソヒ(韓国)を相手に判定1-2で敗れたデニス・ザンボアンガ(フィリピン)が、試合後、リモートの囲み取材に応じた。  試合は、サウスポー構えのハム・ソヒがいきなり左ストレートを突き刺してスタート。喧嘩四つで、前手争い・外足の取り合いから、ハム・ソヒは左ストレートを狙い、ザンボアンガは組んでのテイクダウンを狙う展開だった。  ハム・ソヒの項でも記したが、ONE Championshipは北米のラウンドマストのジャッジと異なり、3Rを通したトータルジャッジ。試合後は常にジャッジについて話し合いが持たれており、評価に変化はあるものの、基本の最優先は、KOや一本により近づく「ニアフィニッシュ」だ。次いで「ダメージ」を与えることが優先的に評価される。  続いて「打撃のコンビネーションとグラウンドコントロール」。抑え込んだらいかにダメージを与えるか。その次に、「テイクダウンとテイクダウンディフェンス」。テイクダウンしたら効果的に殴ること、パスガードが可能ならパスしてダメージを与えるか、極めに行きたい。そして最後が「積極性」となる。  この物議を醸した判定について、MMAとして両者は融合しているものの、大きく試合を打撃と組みの場面に分けて、公式動画を通して検証してみた。 ザンボアンガが組みに費やした時間は約7分  1度目のザンボアンガのテイクダウンは1R終了間際。2分経過時点で両脇を差して組んだザンボアンガが金網まで押し込み、ケージレスリングを仕掛けて、ボディロックから横につき、ハム・ソヒの右足を自身の右足で払ってテイクダウン。ハム・ソヒが上半身は金網に立てて尻餅を着いたところでゴング。ハム・ソヒはノーダメージだったが、3分近くザンボアンガが押し込んでいたことになる。  2度目は2R。最終のダブルレッグをスプロールして切ったハム・ソヒに、中央で右を振ってからダブルレッグで金網までドライブして、2分37秒にテイクダウン。  ここもハム・ソヒは上半身を立てて座り、背中は着けず。いったん両足を束ねたザンボアンガが足を解いたところで右で小手に巻くハム・ソヒは金網づたいに立ち上がっている。  右ヒジ、ヒザをこつこつ当てるザンボアンガに、押し込まれたハム・ソヒもヒザを突き、踵で足を蹴り、残り29秒で膠着ブレークにより両者は分けられた。つまり1分54秒間、レフェリーがブレークに入れない動きを主にザンボアンガがしていたとも言える。  3度目のテイクダウンは、最終ラウンドでのもの。ハム・ソヒが左ストレートを繰り出したところに、オーソドックス構えのザンボアンガも右を振って頭から飛び込み、バッティングに。この衝突でザンボアンガの右額が割れ、出血。約4分30秒間のインターバルで止血し、再開直後にザンボアンガが右を振って金網まで詰めて尻下でクラッチ。リフトしてテイクダウンを決めている。  脇を差しサイドを奪うザンボアンガに、ハーフ、フルガードに14秒で戻してクローズドに入れたハム・ソヒ。しかし、ザンボアンガはハム・ソヒを金網までひきずり、頭を金網に詰まらせて細かいパウンドを入れている。脇を差した右手は背中を抱いており、左手でどれほどの有効打を入れ、またハムも下からの打ち返しがどれほど有効打なのかは、ONEの公式画像ですべてを確認することは難しいが、ガードの中ながら相手を詰まらせ、明らかな攻勢に立ったことは間違いない。テイクダウンから2分10秒間、ハム・ソヒに背中を着かせ、トップを奪っている。  組みにおいて、5分3R=計15分の間に、両者ともに最も評価される「ニアフィニッシュ」と言える攻撃はなく、ザンボアンガで言えば、次の優先順位の「ダメージ」では、3Rのパウンドでいかに有効打を与えられたか。  続くジャッジの優先順位は「打撃のコンビネーション」と「グラウンドコントロール」。3Rのザンボアンガが明確にグラウンドコントロールしたのは間違いない。  最後に評価される「テイクダウンとテイクダウンディフェンス」の項目では、3度のテイクダウンを奪ったザンボアンガにつく。  ザンボアンガは、この3つのテイクダウン&パウンド、コントロールの約7分間と、残り約8分間のスタンドの時間で有効打をどれだけ当てられたか。  ハム・ソヒにとっては、このスタンドの8分間でどれだけ「ダメージ」を与えて、「打撃のコンビネーション」を当てられたか。左ストレートを主武器に据えたハム・ソヒにとってコンビネーションの数は多くないが、主に、右から繰り出したワンツーの際に有効打を当てていることが分かる。  打撃面でも振り返ってみよう。 [nextpage] ハム・ソヒが攻勢に立ったスタンドは約8分  打撃で振り返ると、1R、早々にハム・ソヒが左ストレートはヒット。2Rの序盤はザンボアンガの右、ハム・ソヒの左はともに遠くヒットせず、しかし、続くハム・ソヒの右ジャブがヒットし、左は首もとに打突音を響かせている。  ザンボアンガの右ハイを距離でかわし、ハム・ソヒの左とザンボアンガの右が交錯、続くザンボアンガのワンツー、ハム・ソヒの左ストレートもヒットせず。距離をコントロールするのはハム・ソヒ。詰めて頭を下げて左を伸ばすが、その打ち終わりにザンボアンガは右をかすめる。  左一本で圧力をかけるハム・ソヒ。ザンボアンガは下がりながら左ジャブを突くが、それを外にかわして左ストレートを入れるハム・ソヒ。タイミングを掴めているが胸元か。  2分20秒過ぎ、左で詰めるハム・ソヒは、左に回ったザンボアンガに右ジャブ、左ストレートをヒット。ザンボアンガはもらいながらも大きく崩れることなく、しかし、圧力をかけられる展開を嫌ったか。遠間からダブルレッグに入り、ハム・ソヒに切られている。このワンツーに関しては、反対側のカメラからのスロー映像がリプレイで流されており、左右ともに有効打であることが確認できる。  3Rは、序盤にハム・ソヒが左ストレートをアゴ下にかすめるとザンボアンガの右のダブルをバックステップでかわす。詰め直したハム・ソヒの左ストレートがヒット。さらにワンツーの右ジャブも当て、左でも押し込んでいる。  離れてザンボアンガは右ハイをヒット。しかし、当てられたゆえかすぐにハム・ソヒは詰めて右から左を当て返している。左に回るザンボアンガを追うハム・ソヒ。ザンボアンガの右とハム・ソヒの左が交錯もともにヒットせず。ザンボアンガは右ミドルをハム・ソヒがはたく左腕に当てている。  ザンボアンガの右をかわして左ストレートを入れるハム・ソヒ。顔には当たらず首もとが窪む。続くハムの左の飛び込みは顔の横をすり抜ける。アグレッシブな打撃で詰めるハム・ソヒ。  2分40秒、ここでハム・ソヒの左ストレートに、右を振りながら頭から突っ込んで足を触りに行ったザンボアンガの額とハム・ソヒの左目尻がバッティング。ここまではハム・ソヒが軸足を返して頭を下げて打つ左が多かったが、このときは、ザンボアンガが右を振りながらテイクダウンも狙っていたため、頭から突っ込む形となっている。  この後は、前述の通り、約4分30秒間のインターバルで止血したザンボアンガがダブルレッグでクリーンテイクダウン。ハム・ソヒに背中をつかせてパウンドしている。  スタンドでの打撃で、ハム・ソヒのヒットと見て取れるのは、1Rの左ストレート、2Rのワンツー、3Rにも右ジャブ、左ストレートを当てている。そして、ザンボアンガは右ハイ、ガード上ながら右ミドルをヒットさせた。 試合は生モノだが──  ガードの攻防はお互いに攻め合ってると解釈される場合があることを考慮すると、テイクダウン自体の採点、そしてインサイドからの打撃はどんな評価になるか。「打撃が優位」とされるなか、打撃においてもニアフィニッシュは無く、次いでの「ダメージ」も主観によるところが大きい。  いずれにしてもスタンド・グラウンドともに1カメラでの検証では不十分で、そもそも試合は生モノだ。アクシデント時の映像検証はなされるが、試合時の「有効的な攻撃」をそれとみなすのは、ジャッジの目。  ケージサイドの最も間近で目視しているジャッジは、MMAとしてどちらがコントロールしているのか、打撃の的確性、サブミッションの極まり具合などを、現場で3者が様々な角度からジャッジしている。スローモーションではなく、リアルタイムで目視のみならず、打突音や呼吸音からもその効果を測ることが出来るだろう。何より、MMAの経験値がそれがいかに有効かを判断する。  今回、このハム・ソヒとデニス・ザンボアンガの試合は、「コンペティション・コミッティーによる正式な審査を受けている」ことが、ONE Championshipからアナウンスされた。  この審査は、どのような手続きで可能となり、どのようなメンバーがどのような基準であらためて裁定を下したかが、発表されれば、今後ファイターが戦う指針になるだろう。観戦者もそれを知ることで、各団体の哲学や、競技特性を感じ、格闘技の楽しみ方のひとつとなるはずだ。  前回のハム・ソヒの項では、「なぜこの試合結果に疑問を持たれるのか理解できません。ONE Championshipのルールを理解していれば。ダメージを与えるという点では私が上回っていたことが明らか」というハムのコメントを紹介した。  一方で、敗者のデニス・ザンボアンガは、「ONEが対戦を見直してくれるなら、誰が勝者だったか明らかに分かるはず。彼女は試合で何もしていない。私は何もダメージを追っていないし、試合をコントロールしたのは私」と語っている。ザンボアンガとの一問一答全文は以下の通りだ。 [nextpage] 何もダメージを追っていないし、試合をコントロールしたのは私(ザンボアンガ) ──今回の勝敗についてどのように感じていますか。 「なんと言ったらいいのか分かりません……。今は言葉が出てきません。ユナニマス判定で明らかに私の勝ちだと思いました」 ──ハム・ソヒ選手との試合の中で何か驚くことはありましたか。 「いいえ、何も無かったです。彼女に驚かされたことは何も無かった。私は自分のストライキングで試合をコントロールできていました」 ──判定結果に納得がいっていないようですが、ファンの中でも議論がありました。再戦についても考えはありますか。 「また戦えるなら、最初のラウンドからサブミッションを仕掛けて倒します」 ──もしチャンスがあれば、ハム・ソヒ選手とのリマッチを受け入れますか。 「はい、間違いなくそうします」 ──今回の試合は残念な結果に終わってしまいましたが、ザンボアンガ選手はまだ若く、この先も試合が待ち受けて、まだまだ成長して戦っていくチャンスはあると思います。 「分かりません。この試合は私が明らかに勝っていましたから、まだこの敗戦については受け入れられません。本当に判定結果に失望しています」 ──チャトリCEOは先日、もしザンボアンガ選手がこのトーナメントで優勝しなかったとしても、どこかのタイミングでアンジェラ・リーと対戦するに値する選手だと話していました。彼女との対戦にふさわしいと思いますか。 「彼女との対戦は長い間待ち望んで来ました。ONEからはグランプリ前にも彼女と対戦するチャンスはあると言われました。今でも、その機会を待っています」 ──この結果について再判定を求めますか。チャトリ氏とは話しましたか。 「ONEが対戦を見直してくれるなら、誰が勝者だったか明らかに分かるはずです。そうして欲しいです。私は全力を尽くして戦いました。彼女は試合で何もしていないです。私は何もダメージを追っていないし、試合をコントロールしたのは私です。彼女から頭突きさえも受けました。いまだに結果が信じられません」 ──試合後、ハム・ソヒ選手と何か会話をしましたか。 「ホテルに戻った後に話しました。彼女には感謝していますし、リスペクトしています。判定については彼女の問題ではないですから」 ──最終ラウンドでのバッティングのアクシデントはどれだけ影響がありましたか。 「バッティングの影響は特に関係ありませんでした。試合終盤で私が勝利に向かっていましたから」 ──頭から流血した時にドクターからは試合続行について何か意見はありましたか。また流血の影響はありましたか。 「ドクターが止血してくれましたが、試合について聞かれたので、試合を続けると答えました。流血の影響はなかったです」 ──次戦は誰と戦いたいですか。 「分からないです。でも、ONEがハム・ソヒかアンジェラ・リーとの試合を組んでくれるといいと思います」 ──今回の結果は、間違いなくご自身が望んでいたものとは違い、多くの人が判定に疑問を抱いています。そのことは、何かの手助けになると思いますか。 「少し安心しますね。皆さんが思っていることと、私の思っていることが同じということですから」 ──審判団のメンバーやチャトリ氏から、この試合について話がありましたか。 「まだ、誰とも話していませんが、ハム・ソヒとの対戦やこの判定について話してくれることを望みます。私は彼女をフィニッシュすべきでした。そうすればこんな結果にはなりませんでした」 ──この試合で学んだことは何でしょうか。 「私は彼女をフィニッシュするべきでした。ジャッジに判定を委ねるべきではありませんでした」 ──(フィリピンの記者から)母国、フィリピンでは多くの方があなたの勝利を確信していました。前を向いて、今後の数日はどのように過ごしますか。特に試合後の隔離期間中の過ごし方についてお聞かせください。 「隔離期間中はドーナッツをたくさん食べます」
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