――5月12日(日)にニューピアホールで開催される「DEEP IMPACT 89」でDJ.taiki選手の挑戦を受けるフェザー級王者・弥益ドミネーター聡志選手です。昨年10月に芦田崇宏選手との再戦に勝利し戴冠しました。いつも理路整然とした話ぶりのなかに、ときどきSNSで過激な発言もあり、どんなキャラクターの選手なのかと。芦田戦の前には「サッカー(ボールキック)しようぜ」と書いたとか?
「ハハハ、『サッカーしようぜ』って書いて。1回対戦した相手ですし、もう一度やるしというところで、何かしらアピールをしなきゃな、というところがあってつぶやいたら、思った以上に広まってしまって……。そのキャラで完全に定着してしまって、ヤバいやつという立ち位置になっているんですけど(苦笑)」
――自分もなんとなくヤバいやつと思っていました(笑)。
「いや、本当にそのツイッターだけだと思うんです」
――そのアンビバレントさが弥益選手の強さのひとつかもしれません。現在は会社勤めもされているそうですね。
「普通に会社員として働いています」
――練習時間というのはどのように確保しているのですか。
「平日は朝出勤して夕方6時くらいまで仕事をして、練習はどうしても夜になってしまいます。けっこう格闘技ジムだと、いわゆる“プロ練”というのがわりと昼に行われることが多くて。正直なところ、プロ練に積極的に出られているかというと難しいところはあるのですが。もともと自分は茨城で格闘技を始めて、その頃から、いろいろな場所で出稽古させていただいていました。マネジャーをしてくださる梅田(恒介)さんに連れていっていただき、本当にもう全然、格闘技もろくにできない頃から、有名なジムとかにも連れていっていただいて、『こいつ若手だから練習してやって』と。そのツテや、自分も個人的に行っていた清水俊一選手が主宰の有志練習会──公共施設を使っているのですが、そこにも行っていました」
――新宿スポーツセンターですか。
「もともとスポセンです。スポセンが改修中でほかの体育館とかでもやっていますが、それがわりと遅めの時間にやっていたりするので参加しています。基本的にサークル的なノリでやっているところがあるので、逆にいかにもプロ、厳しくキツい練習場所で自分が果たして続けられるのかといわれると、それは自信がないところではあります。今はけっこう自由に、本当に受け入れてくださる人たちのおかげでやらせていただいています。実際に人と練習する頻度もそんなに多くはないほうなのですが、今はそのSOS団(有志練習会)と、そこで知り合った村田康大選手の紹介でパラエストラ浦安にも週1、2回、あとはGENスポーツアカデミーの山田崇太郎選手とも以前から知り合いで、練習に呼んでいただいている感じです」
――様々な出稽古をご自身のなかでまとめるのは大変ではないですか。
「やはり試合に向けては作戦とかは梅田さんがいろいろと考えてくださって。ただ、そんなに会える機会がないときは、自分の中でどんどん幅を広げていくというスタイルではなく──幅を広げるというところは自分の趣味の部分かなと思っていて──競技者としての選手としてのつくり方としては、わりと一つのことを自分がやるべきことをある程度定めて、その精度を上げていくというやり方をしています。そうでないと、正直、今の練習環境、やり方だと厳しいのかなという部分もあります」
――限られた時間の中で。
「競技者としてはその精度を上げていく。あくまで幅を広げるというのは趣味として、割り切っていっています。逆に時間が限られている分、取捨選択をする必要があるという元々の考え方のベースが出来ているので、時間があると、たぶんあれもこれもというふうになってしまうのですが、時間がある程度限られている中で、自分ができることを考えて深めていくというスタイルが、環境としても、自分のタイプとしても合っているんじゃないかなと。そこがうまくあったから伸びてきているのかなというところはあります」
――そのようななかで強くなり、王者になるというのはすごく稀有な例なんじゃないかと感じます。
「あまりこういうことを、チャンピオンの自分が言うのも憚られますが、たぶん自分強くはないんです。本当にパラメーターでいうと、1カ所が突出していたり、ハマる相手には一気にハマる。ただ一方で、いわゆる格下といわれている相手とでも、自分と相性が悪かったらうまくいかないことがあるような選手だと、自分では思っています」
――それでも試合ごとに、幅が広がっているように感じます。
「それはいわゆる趣味の部分が、だんだん試合のほうにも生きてきているのかなという実感はあります」
――それに、一つひとつのことを精度を高めていくということは、ご自身のなかでテーマを持って取り組まないとできないように思います。
「結局、自分が練習をする場所っていわゆる出稽古がOKな環境で、ただスパーをすることが多いんです。いろいろな人とやって、そのいろいろな強さのある中で、自分がやりたいことをどうやって通せるか、というところができているので、そのスタイルとしては、出稽古をいっぱいしたほうが自分に向いているのかなというところはあります」
――5月12日に対戦するDJ.taiki選手は2018年12月の石司晃一戦の判定勝利後、「相対的な強さでなく絶対的な強さを求めたい」という言葉を残しています。あの試合をどのように見ましたか。
「自分はもともとDJ選手が大好きな選手で、石司さんも練習仲間ではあったのですが、試合を観て、DJ選手って本当にすげえなと。バルコニーで見ながらずっと盛り上がっていたんです。DJ選手、少し前はそれこそ芦田選手に負けた頃とか、全然パッとしない感じになってしまっていて、それはずっと応援していた身としては見たくない姿だなという気持ちがあったんです。でも、ここ最近の横山(恭典)選手に勝ったり、それこそ石司さんに勝ったりというところで、昔とはまた違う引き出しを出しつつ、同時に動き続けるというDJ選手の良さも出ていて、本当に楽しく見させていただいていました」
――弥益選手にとっては、DJ選手はかなりファン目線の部分が大きかったわけですね。
「本当に自分が格闘技を始める前から、それこそ深夜、DREAMとかで放送されているときとか、ずっと見たりしていたので、今回、試合が決まったときは感無量なところはありました」
――DJ選手が19勝12敗7分というキャリアのなかで、いまでも以前とは違う引き出しを持っていると。あの細かいステップや距離感は、ご自身とのかみ合いのなかでどのように感じていますか。
「大枠で言えば、どちらかというと2人とも打撃寄りの選手で、ステップというかシャッフルの部分を使おうとしているといますが、細かく言うと、シャッフルの質が違うのかなと感じています。自分は距離感を崩すのと、そのステップをどうやって打撃に繋げるかということを考えていますが、DJ選手はあの運動量で相手を撹乱している。似ているけれども、本質と目指しているところは少し違うのかなというところは感じています。どちらかというと、DJ選手のほうが近代MMAに近い。寝ずにスクランブルして上を取って。自分の方がよりトリッキーなタイプになっているかと思います。そこのいわゆる打撃から外れた部分、打撃ではない部分のタイプの差が試合でどう出るか、楽しみに観てください」
――その弥益選手のトリッキーなスタイルというのは、どこから生まれたのでしょう?
「茨城で格闘技を始めてT-BLOODで練習という印象が強いかもしれないのですが、それより前にウィザード(WIZARD MMA GYM)という当時、出来たてのジムで自分は格闘技を始めていて。本当にそこは自由な練習環境だったんです。自分はずっと格闘技オタクみたいな感じで、知識だけ持っていて、途中から格闘技を始めた口で、同じジムにいた人で本当に格闘技が大好きな人がいて、2人とも変な寝技とか古い技をやるのが大好きだったんです。こんな技が決まるんじゃないか、みたいに延々と話していたことがあって。それをずっと練習していたら、気付いたら、このMMAの流れから取り残されつつある感じがして。本当にT-BLOODとかにいたときは、もうフィジカルでも勝てないし、技術でも勝てないんですけど、そこでもなんとかそのスタイルを使ってきました。変われなかった、というのもあるのかもしれないのですが」
――それは一つひとつの技が繋がっていない感じなのですか?
「そうですね。繋がっていなかったですし、精度も低かったです」
――でも練習ではやってみた。
「そうですね。練習ではそのスタイルになってしまった。それがだんだん、東京に引っ越して、いろいろなところに出稽古に行かせていただいて、茨城にいた頃は大きな選手が相手のことが多かったのですが、東京に来て、自分と体格の近い人と練習をするようになって、自分がやりたいことをできる瞬間というのがだんだん増えてきて。それに伴って精度も上がっていって、精度が上がることによって、その部分から派生する部分もどんどん試せるようになっていきました」
――打撃の部分でもそのマニアな部分が活かされているのでしょうか。
「打撃は、YouTubeとかの動画で見ていて、きれいなワンツーとかに興奮できるほど深いファンでもなかったので、ナジーム・ハメドとか、ああいう変なスタイルを見ていて面白いなって。それを練習で真似していたらあんなことになってしまって(笑)。ただ、ウィザードで同期だった神田(周一)がTeam Alpha Maleに出稽古に行ったときに、それこそドウェイン・ラドウィックのエッセンスをちょっと持って帰ってきてくれて。それも部分的に混ぜて、今のスタイルになっています」
――なるほど、そんな原点があったのですね。DJ選手は、先ほどの運動量も含めて、石司戦での後半のテイクダウンなど粘り強さを感じます。
「正直なところすごく嫌です、あれは。身体のスタミナはもちろんなのですが、メンタルのスタミナも異常に強いなという印象があります。確かDJ選手、一本負けもKO負けもしたことがない選手だと思うんです。それもスタミナだけではなく、気持ちの部分で折れない選手なんだなと。そこはすごく警戒しています。ただ、ファンだったからその強さをすごいなと思いつつも、自分が初めてになりたいという気持ちもすごくあって」
――初めて?
「DJ選手の記憶に残りたいなという、そんな気持ちがあります。格闘技ファンだった自分を越えるような試合を」
――チャンピオンになって変わったことはありましたか。
「変わらないですね(笑)。チャンピオンになって人生が変わるのは、やっぱり格闘技に賭けている人だと思うんです。自分は格闘技にそんなにベットしてこなかった人間なので、それでリターンが少ないのはしょうがないのかなと。そうあるべきだと思っているので」
――それぞれ立場や環境が異なるなかで、弥益選手のやり方で賭けてきたのではないでしょうか。そのやり方を試合で問う。この試合の先、というのも見ていますか。
「やはり海外に出たい、海外に行ってみたいという気持ちはすごくあります。それもプロとして始めてから、デビューをしてからだんだん思うようになってきたことです。1度海外で、しっかりとした団体で挑戦をしたいなと、ずっと思い続けています。そのためにも、本当に今回勝たないと始まらない、と思っています」