2021年9月3日(金)にシンガポール・インドアスタジムで開催予定のONE Championship初のオール女子大会「ONE: EMPOWER」に向け17日、平田樹(フリー)が公開練習&囲み取材を行った。
人造人間18号をイメージしたという金髪姿で公開練習に臨んだ平田樹は、兄の平田直樹(10.23 DEEPで山本歩夢と対戦)を相手に、柔道の投げ技ではなく、徹底したダブルレッグテイクダウンのタックルから、得意の腕十字に加え、三角絞め、肩固め、アナコンダチョーク、リアネイキドチョークを極めるまでの打ち込みを披露。
練習後、囲み取材で半月後に迫った同大会での「アトム級ワールドグランプリ」向け、平田は「ベルトを見据えると1回戦はスカ勝ち、次のスタンプは必ず寝技で仕留める、と決めている」と、意気込みを語った。
五輪を見て、柔道には感謝しているけど「ああ、もう違うんだ」と感じた
──9月3日の「ONE: EMPOWER」まであと17日と迫りました。現在のコンディションはいかがでしょうか。
「バッチリです。準備期間が長かった分、しっかり練習ができたかなと思います。やっと、このビッグイベントが始まるので、そのワクワクが一番大きいです」
──トーナメントの8人に選ばれたことをどのように感じていますか。
「すごいみんな強い選手ばかりなんですけど、プロ3戦目でトーナメントに選んでもらった分、期待も大きいので、その期待に応えられるように試合をするだけです。ONEで初めての女子アトム級トーナメントで、そのGPに出られることはすごく大きなこと。アジアの中でも大きな団体の大会なので、気合はいつもと違うなと実感しています」
──今日の平田直樹選手を相手にした公開練習の打ち込みは、徹底したダブルレッグテイクダウン、タックルからの動きでした。それはKRAZY BEEでの練習ということもあったのでしょうか。
「そうですね。レスリングの練習や基礎トレーニングはすごい重視してやるようになって、タックルの練習、壁レス(リング)はもう、1日絶対やるようになっています」
──あらためて現在の練習環境を教えてください。
「やっぱり自分の中ではグラップリングが好きなので、グラップリング重視の練習なんですが、打撃もやりたいので神村エリカさんのところで練習しつつ、やはりグラップリングの方が2倍、3倍の練習量になっています」
──それは今までとは異なる変化なのでしょうか。
「柔術のグラップリングのクラスにも出ていて、そこで気になった技を自分でより研究するようになりました。そこが今までとちょっと変わったところで、あとはウェイトトレーニングも始めて、身体がどんどん強くなっているかなと実感しています」
──柔術、グラップリングは誰から指導を受けているのでしょうか。
「お兄ちゃんもそうですけど、アーセン選手とか、みんなで動画も研究して、この技が出来るんじゃないかとか話したり、柔術でトミー先生のクラスに出たり、チーム一丸となって研究しています」──KRAZY BEEでの山本美憂選手、パク・シウ選手、立ち技で神村エリカさん、AKARI選手ら女性から習うこと、練習することの利点をどのように感じていますか。
「これまでのジムには女子選手がいなかったので、稽古でも自分1人が女子だったんですけど、ここでは山本美憂選手やパク・シウ選手、女子の出稽古選手も来るので、女子目線でしか分からないこともあります。身体が柔らかく、パワー系で行かないので親近感が沸きますし、相談しやすく、アドバイスも新鮮で説得力があるなと思います」
(C)Hirata Naoki
──GP出場選手のなかで最年少の21歳というなかで、ハム・ソヒ選手やデニス・ザンボアンガ選手らが優勝候補と呼ばれる空気についてはどう感じていますか。
「いや、特に。強い選手が優勝候補と言われることは当たり前だと思っていて、そこで自分がどれだけ出来るかが勝負だと思っています。いいんじゃないかなと思います」
──ツイッターで「まじでひっくり返してやりたいクソどもを」と発言されていたのは、どんな意味だったのでしょうか。
「あれは……練習環境が変わったときとかもそうですけど、やっぱり期待されている選手が優勝でしょ、とか言われてたんで、“まあまあ、いいよ”と。とりあえず試合してみないと分からないし、自分がどれだけ出来るかを発揮できればと思います」
──最近の写真では、背中まわりの筋肉の盛り上がりがすごいです。
「ウエイトトレーニングは前は全然やってなかったんですけど、やるようにして、そんなムッチャ重いものとかではなく、瞬発系とかチューブやったりして、筋トレを始めたのは大きいかなと感じています。海外の選手は身体が強いので、自分は減量すると身体も小さくなるので、その点では筋肉をつけてから落とせばパワー負けはしないかなと思っています。前回のナイリン・クローリー戦では、あんなに身体が小さくてもパワーが強くてパンチ力もあって、組んだら力が強いと感じたので、たた絞るだけじゃなくて筋力をつけて絞ろうという感じです」
──ところで五輪期間中は、平田選手のバックボーンである柔道について触れませんでした。どんな思いからでしたか。
「柔道には感謝しているんですけど、自分は柔道からは“下りた”身なので、柔道に詳しいとかやってました感は出したくないと思っていました。道場(春日柔道クラブ)の先輩、ウルフ君とかの試合は全部見ていましたが、そんな深入りしなかったのは、いまは自分はもう総合格闘家なので、柔道とは区切り目が、自分のなかで“ああ、もう違うんだ”という何かを感じました。柔道はやりたいんですけど、あーだこうだ言うのは自然と無くなりました。完全にMMA寄り、総合格闘家になったんだなと感じます」
──フェンシング日本代表の見延和靖選手との交流は?
「ONEの日本大会でお会いさせてもらって交流させてもらって、五輪の前もムービーでメッセージを送って返信もいただいたので、“よし、次は自分も日の丸を背負って頑張る”とメッセージを送り返しました」
──今回の大会がシンガポール開催になり、観客は?
「入れられないと思います。でも試合後のシンガポールのホテルのプールを楽しみに(笑)、試合に集中したいと思います」
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1回戦で終わらない、ベルトを獲ることがゴール
──あらためてアリース・アンダーソン選手をどのようにとらえていますか。
「リーチが長く、Invictaでの試合でもそのリーチをしっかり活かしているなと感じます。寝技の4の字フックを必ずしてくるので……でもそのくらいかなという感じですね。パンチは当ててくるけど、そんなに1発が重いというイメージではないので、それを耐え抜いて自分が組み付いていければいいかなという感じですね」
──その意味では、オーソドックス構えで手足の長いAKARI選手との練習は活きてきますか。
「それはありますね。やっぱり前足で距離を取って下がらないようにしてくるので、その練習をしたり、KRAZY BEEにも同じくらいの手足の選手がいるので、すごく練習をやってもらっています。自分より大きな選手と対戦するのは初めてなので、そこがちょっとどんな感じなのかなとイメージしてやっています」
──2月の試合時に比べ、手応えをかなり得ている状況でしょうか。
「そうですね。前回は(打撃に)こだわり過ぎちゃったので、今回は打撃が出来たらいいなという感じで、出来るんですけど、そんなに固執しないようにと考えています」
──一方でアンダーソン選手は組んで戦いたい選手のようにも感じます。あの長い手足でバックに回られると厄介そうな柔術についてはどう考えていますか。
「そうですね。毎回、バックについているイメージがあるので、バックを取らせないようにしつつもパウンドもありなので、グラウンドのヒザもありますし、いままで組みの選手はあまりいなかったので、逆に組みの部分では勝負できるなと感じています。でも総合格闘技なので、MMAで寝技でも打撃でも戦っていきたいです」
──トーナメントで負けは許されない試合ですが、その中でもどんな試合を見せたいと考えていますか。
「スタンドもグラウンドもいろんなことが出来るようになったので、それを試合で発揮できたらいいかなと思います。やはり、KOか一本で勝ちたい。差を見せつけるじゃないけど、GPで1回戦で終わらないんで、しっかり決勝までベルトを獲ることまでがゴールなので、そこを見据えるとスカ勝ちかなと思っています」
──まずはトーナメント初戦を勝ち上がることのみを考えてきたのか、それとも“その次”も見据えて想定して練習してきたのでしょうか。
「そうですね、先を見て……勝ったらきっと2回戦はスタンプ選手とやるのかなと思っているので、まずはそこまではしっかり見据えていて、寝技も立ち技も出来るように想定しています。スタンプからずっと『やりたい』と言われていたし、自分もやりたかったので。スタンプとやるんだったら、必ず寝技で仕留める、と決めているのでそこだけは……いう気持ちです」
──なるほど、1回戦が正式に決まり、デニス・ザンボアンガvs.ハム・ソヒ、メン・ボーvs.リトゥ・フォガット、アリヨナ・ラソヒナvs.スタンプ・フェアテックスとなりました。誰が勝ち上がってくると予想していますか。
「ハム・ソヒ選手、スタンプ選手、メン・ボーとフォガットは……メンボーじゃないかなと思うんですけどグラウンドはフォガット。でもメンボーの右ストレートがしっかり当たれば、きっとメンボーだと思っています」
──その先にはアトム級王者アンジェラ・リーが待っています。
「きっとチャンピオンはママになってさらに強くなっていると思うので、すごく戦いたい気持ちもあります」
──「ONE: EMPOWER」という大会への想いは?
「女子だけの大会というのはすごく特別だと思うし、この試合を男子の選手が観るというのも新鮮です。そこで“女子”じゃない戦いを見せたいし、女でもしっかり戦ってヒーローになることがカッコイイと思っているので、女の強さを見せられるんじゃないかなと思っています」
──憧れの女性は?
「やっぱりママですね。若いうちにママになって自分もお兄ちゃんも産んで、どんなときも怖かった。自分の今の歳でもう子供がいると思うと、すごいなと思うし、小さいときにママはママを亡くして両親を亡くして。すごい女って強いなと思うことが、ママを見ていてあったので、自分が強い理由はママのおかげだなと思います。何かあったらすぐ、ママに言われたらやろう、と思うし、どんな試合でも『勝たなきゃ、分かってるでしょ?』みたいな感じなんで(笑)。そこだけは自分のなかで一番のヒーローだなって思います」
──そういえば、instagramのストーリーで「女子だって“戦って稼ぐ”んだぞ」と投稿していましたね。
「その日、日本の若い女の子たちは強いんだぞということを自分が代表して見せつけてやろうと思っているんで、若い女の子をナメるなよ、ということでやってやります!」