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【MMA】衝撃の左ハイKO! 中村倫也「ここが『地獄の入り口』。俺のオリンピックが始まった」

2021/07/26 12:07
 東京五輪が開幕し、8月1日(日)からスタートするレスリングに向け、2人のU-23レスリング世界王者がMMAプロデビューを7月25日、果たした。  一人は、2017年U-23世界選手権フリースタイルレスリング61kg級金メダルの中村倫也(LDH martial arts)。もう一人は、同年のグレコローマンレスリングU-23世界選手権59kg級金メダルの河名マスト(真寿斗・ロータス世田谷)。  2人は同期で、中村は東京五輪代表レースでは乙黒拓斗らがライバル。河名は、文田健一郎、太田忍に次いで3番手につけていた。  両者のMMAプロデビュー戦の結果は、同じ左ハイキックによる決着だった。  しかし、中村がレスリング時代と同じ右前足のサウスポー構えからの左ハイキックKOだったのに対し、河名は相手の左ハイをもらってのカットによるTKO負けと、明暗を分ける形となった。  同日、先にプロデビューのマットに上がったのは、河名だった。新宿のGENスポーツパレスで行われた「Fighting NEXUS」で河名は、日本在住のジェイク・ウィルキンスと対戦。ウィルキンスは2019年の全日本アマチュア修斗選手権ライト級で優勝を遂げており、MMAの経験値では河名を上回る。  試合は、1Rから打撃のあるMMMAならではの攻防から、左ストレートを浴びて鼻血を流し、首投げ・払い腰で投げられた河名だが、テイクダウンからポジショニングで上回ると、何度もマウントを奪取。しかし、その絶体的ポジションながら安定感に欠けるマウントからのエスケープを許した河名は、延長Rに左ハイキックをもらってしまう。蹴り足を取って再びマウントを奪った河名だが、右目尻のカットは深くドクターストップ。無念のTKO負けとなった。  その試合結果を数時間後、プロ修斗・後楽園ホール大会でプロデビュー戦を戦う中村も見ていた。 「結果だけを見て、“奥手を当てられたんだ”と思って。マストと(出稽古先で練習で)調整したときに、『お互い相手のやりたいことが似てくると思うから』と話していて、“奥手はもらわないように”とか“角度を作る”ような調整をしていたんですけど、やっちゃったかと……」と、自身の試合前に、不安がよぎったことを認める。  しかし、中村は生粋のMMAファイターでもある。  シューティングジム大宮を運営した中村晃三氏を父に持ち、LDHの格闘家オーディション「LDH FIGHTER BATTLE AUDITION」に参加。最終審査を勝ち上がり、LDHとのプロ契約を勝ち取る姿がABEMA『格闘DREAMERS』で配信されるなど、MMAには幼少期から親しみ、プロに近い環境で非公式戦を戦ってきた経験がある。  この日は、修斗を主戦場としながら、ONE Warrior Seriesでも活躍するインターナショナルファイターの論田愛空隆(心技館)との対戦を控えていた。  中村の対戦相手の論田は、2018年5月に修斗で岡田遼(現在RIZINに参戦中)ら強豪と対戦するなど、MMA5勝4敗1分け。MMA経験では中村を大きく上回る相手だった。既に大器の片鱗を見せている中村にとっても、キャリアで勝る“逆輸入ファイター”論田は、厳しい相手と思われていた。  しかし、試合は中村が驚くべき動きを見せる。  1Rから論田の組みを切り、何度もテイクダウンを奪う中村は、マウントを奪い、果敢にリアネイキドチョークや腕十字を狙っていく。序盤からペースを握っていた中村だが、自身の1Rの評価は低い。 「ひどいラウンドだなと思っていました。雑だし。納得行っていないですね。もっとポジション作って殴って、丁寧に隙間を埋めながら極めまで持っていきたかったです。打ち込みが足りないなと感じました。(やろうとしたことの)半分くらい。接近戦でもヒジとかもっとポジション使って打てると思ったし、1Rはあまりに燃費の悪い動きをしました」  2R、LDH martial artsのセコンドの高谷裕之からの指示を受けた中村は左ローから入り、鋭い右ジャブと上下に打撃を散らしていく。  さらに左ストレートで前進し近づいて首相撲にとらえて論田の頭を下げさせると、その放し際。論田が左ジャブを突いて前傾になったところに中村は、レスリング時代の同じ左利きの左足でハイキック! 論田が崩れ落ち、試合は決した。 [nextpage] 凡才なのは自分が一番分かっている  ケージの中でマイクを持った中村は、「『モノが違う』と言われていましたが、モノは違わない。運動能力は高くないんで、凡才なのは自分が一番分かっています。始めて1年ちょっととしてはいい出来でしたが、これからめいっぱい精進していきます。お父さん、ありがとう!」と、語った。  試合後のバックステージで、プロデビュー戦を、「レスリングとは違う、一発の打撃もある競技なので、負ける心配はしていませんでしたけど、“絶対”が無い競技なので、そこの心配はしていて、試合が終わって安心しました。(勝利にも)“よっしゃあ”という喜びが爆発するよりは“ああ、ここから始まるんだな”という気持ちでした」と落ち着いた表情で振り返った中村。  幼い頃から思い入れのある後楽園の舞台も「上がったら、その想いは全部捨てると決めていたんで、そういう余計な感情は置いて戦いました。終わったあとに感慨がこみあげてきました」と語った。  自己採点は「60点。ギリ単位取得です」という。  グラップラーとしては、異例の左ハイKOだが、「試合前から狙っていた技のひとつで、そのためにロー(キック)を蹴って(下に)意識させて、2Rに入るときにハイを蹴るために動いてそれがうまくハマった感じです」と、作戦通りに決めたフィニッシュだと明かした。  試合直前にレスリングの盟友、河名がTKO負け。前述の通り、気持ちが動いたが、「彼より僕は1年多く打撃をやっているので、そこは経験の差が出たのかなと思います」と、自信を持ってプロデビューのケージに向かったという。 「セコンドの高谷さんは普段は『ブッ倒しに行け』とか、『もっとスペースを作って殴りに行け』とか言ってくれますが、試合前には『泥臭くていい』と言ってくださいました」と、持ち味を活かした戦い方で背中を押されていた中村。  デビュー戦で“モノが違う”動きを見せたが、レスリング時代から、レスリングのためだけのレスリングではなく、いつか必ずやるであろうMMAを想定して、研鑽を積んでいたと言える。  気になるのは、「世界」を目指す中村の次戦だ。 「高谷さんたちの指示で動いていきたいです。国内上位ランカーとやってもいいのかなとも思いますけど、そのためには2カ月後とかではなく、ちょっと期間を空けてしっかり作って、国内上位とやるのであれば全然、戦えるなとは思います」と、すでにバンタム級の上位陣との戦いも現実的に考えている。  奇しくも、盟友と同日のプロデビュー戦。そして、ライバルたちがマットに向かう東京五輪と試合が重なった。  東京五輪は「めっちゃ(意識)した」という。 「俺のオリンピックが始まるって。(レスリングの日本)代表の方からも、高橋(侑希)くんとか乙黒圭祐選手とか、凄いメッセージをいただいて『勢いづけてくれ』『レスリングの強さ見せてくれ』と言われました。いい代表へのエネルギーになればと思います。(いいバトンを?)渡せたと思います」  中村は、MMAの日本代表として“金メダル”を掴むことが出来るか。バンタム級は怪物ぞろいの階級だ。もうひとつのオリンピックの初戦を突破した“MMAの子”は、「ここが『地獄の入り口』だと思っています」と、世界の頂に向けて、目を輝かせた。
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