2021年4月の「ONE on TNT 3」で、難敵リース・マクラーレンを相手に判定3-0で勝利を掴み、4連勝をマークした若松佑弥(TRIBE TOKYO M.M.A)。試合後、ONEフライ級ランキングは3位にランクアップした。
その上には2位のダニー・キンガッド(フィリピン)、1位のデメトリアス・ジョンソン(米国)、そして王者アドリアーノ・モラエス(ブラジル)を残すのみ。
4月にはトライフォース赤坂に出稽古を敢行し、朝倉海とも練習していた若松だが、5月末から、米国フロリダ州にあるメガジム、サンフォードMMAにて、1カ月の期限付き“武者修行”を行った。前篇に続くインタビュー後篇は、若松に「今後」を聞いた。(C)ONE Championship
世界を広げたくてアメリカに来た。考え方も更新していかないと
【写真】フロリダでの若松。後方にUFCウェルター級の佐藤天の姿も。
──ONEに参戦して3年目。トップランカーに名を連ねていますが、現状をどのように感じていますか。
「まあ、PANCRSEの時もいつの間にかタイトルマッチみたいな感覚だったので。長いようで早いなあという感覚があります。でも人生って、こんな早く終わるんだなって思って。もしチャンピオンになったとしても、この気持ちは変わらないんだろうなと感じます。『あっ、もうチャンピオンだ、次の目標はこれだ』みたいな感じで。でも今の自分はそこ(チャンピオンになること)が終着点じゃなくて、もっと広がっているというか、やっていればチャンピオンになっているだろうというイメージです。
今のことも、あっという間に過去のことになっていると思うんですよ。だからこの3年目っていうことに、そんなに深い思いはないですね。あっという間すぎて。自分がここで進化してなかったら『ランキング3位まで来ました』って喜んでいると思うんですけど、自分はまだまだだと思っているし、全然強くなり続けるので、3位? だからなんなの? という感じです」
──デメトリアス・ジョンソンとのリマッチについて考えたことはありますか。
「あります。もちろんあるんですけど、今はDJより(チャンピオンの)モラエスだと思っています。時代って変わっていくじゃないですか。だからDJだって、もちろん人間なのでいつか負けて落ちていく。ずっと強いなんて、誰でもあり得ないじゃないですか。DJは最高潮の時からは段々と落ちていくと思うんですけど、僕は若い。そして上がっていく選手はまだいっぱいいるので、もちろんリマッチも考えたんですけど、もう(彼がモラエスに)負けてしまった以上、ちょっと嫌な言い方になっちゃうんですけど、やっぱり負けたんだったら僕はもっと強い選手に目がいっちゃいます。周りはDJが有名だから『あいつにリマッチしてよ』って言われるんですけど、いや、ふざけんなよって思っちゃいます」
──ご自身の考えていたONEでの道のりは想定通りの印象ですか?
「僕の描いていたストーリーで進んでいるなって思います。僕、DJに負けたじゃないですか、キンガッドに負けたじゃないですか。(モラエスは)あの2人にKOで勝っているんですよ。今、モラエスは一番脂が乗っている時期じゃないですか。でも僕はまだ発展途上なわけで。そこで、彼を潰してさらに上を行くっていう自分のストーリーがいい感じに進んでいます。なので、自分もさらに進化してモラエスよりどんどん上に行かないと、と思っています」
──そういうことも含めて、今回、フロリダ「サンフォードMMA」でのトレーニングに挑戦したのでしょうか?
「そうですね。前から触れてみたかったんです。自分はどっちかって言うと、強くなるのは環境じゃなくて、自分次第だと思っていました。でも、アメリカって何でもデカいし最先端じゃないですか。それで、行ったこともないヤツが『(米国も日本も)一緒だ』って言うのも違うなって。“百聞は一見にしかず”ということですかね。なので、まずはトライアルで一度試しに行ってみようと思いました。とはいえ、実際に触れてみて、自分が通用しなくてボコボコにやられて、“なんだ、アメリカやばい”みたいに思うとは行く前から思っていないかったです。同じ人間だし、ウェルター級とかは化け物が多いと思うんですけど、フライ級って体格が小さくて、アジアも強くて世界レベルだと思っているので。
【写真】(左から)UFCライト級3連勝中のラファエル・フィジエフ、 It's Showtimeブラジル王者のエマーソン・ファルカオ、UFCバンタム級2連勝中のランディ・コスタと若松。
ただ一度はアメリカに触れてみないと、と思っていました。やっぱり行く前と後での考え方は変わったので。というのは、一回行ってみたら、アメリカって行けるんだって分かる。僕が鹿児島から東京に来た時もそうだった。井の中の蛙じゃないですけど。東京ってすごい夢のようなところ、っていうイメージがあったけど、いざ自分が来てみたらそうでもなくて。アメリカもそうで、16時間かけて来たけど、こうして今会話もできているじゃないですか。だから考え方も(経験を積むことで)更新していかないとな、と感じました。という意味で世界を広げたくてアメリカに来ました」
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準備はできている。タイトルマッチを組んでもらって、勝つことに集中するだけ
──アドリアーノ・モラエスが、ゲヘ・エウスタキーオ、デメトリアス・ジョンソンを相手にタイトル防衛をし続けている理由は何だと思いますか。
「彼の強みは、やっぱりブラジル生まれで、身体的にもメンタル面でも強いというのはアドバンテージですよね。日本の地で生まれてきた僕らなんかとは、本能的な部分が違うのかと思います。そこが強みかなと。突けるかな? と思うのは、同じ人間だから、彼が悪魔に取り憑かれてスーパーパワーとか持たない限りは、同じ人間なので一発当てれば倒れるし、極められなければ、ダメージを与えて倒せると思います。そこは突けると思います。相手の心を折るみたいに競り勝つ方法もあるし、パンチでも倒せる。そこは意識していますね」
──となると、次に誰と戦いたいかと問われたら……。
「断然モラエスですね。出来ることなら、もうすぐにでもやりたいですね。まあ、もう1回挟んでくれってどうしようもなくお願いされたら、もう1試合見れるし、(モラエスが)『私は伝説のDJに勝ったから、ちょっと休ませてくれ』って言うなら、タイトル挑戦の前にもう1試合やってもいいですけど、出来ることなら早くタイトルマッチをしたいです。時間は限られているし、今はいつ試合が出来るか分からないじゃないですか。だからそこは、切にタイトルマッチをお願いしたいですね。
まあ、モラエスのこと考えれば、僕に勝てるんだったら別にやってもいい訳ですよね。それでまたファイトマネーだってもらえる訳じゃないですか。いいことしかない。ビビってないんだったら、すぐやれよって感じですね。ファイターだったら。ビビってるんですかね(笑)。(モラエスが)自信があるんだったら、そんなチャンピオンとして俺を倒せるんだったら、やってくれよって感じですよ。やってみろよって感じですよ」
──そこまで力強く、気持ちを保つモチベーションはどこから?
「自分は父として一家の大黒柱なので。あとはTRIBEのキャプテンということ。今回は、長南(亮)さんからの許しをもらって来ているので、やっぱり遊んでいるだけじゃなくて、何か持って帰らないと、という思いが強くあります。あとは、お金稼ぐためには嫌なこともやらないといけないと思うし、人より何倍もやらないといけない。それは、格闘技に対しても一緒だと思います。一般的に稼ぎたいなら普通にやっていればいいと思うんですけど、やっぱりチャンピオンになりたいとか、大社長になりたいなら、人よりやらないといけないと思うんです。なんか使命感もあるので頑張っちゃいます」
──同世代の選手のONEでの活躍は刺激になりますか。
「もちろんそうですね。秋元皓貴さんとか内藤(大樹)さんとか。競技が違うのでライバル視もしないし、同い年くらいなので彼らが勝ったら僕も嬉しいし、そこはやっぱり(日本の選手として)みんなで勝ちたいですね」
──以前、チャトリ・シットヨートンCEO兼会長から『君ならチャンピオンになれるよ』と言葉もかけられたそうですね。
「それは、頑張れる理由の一つですね。チャトリさんは僕の中で『キングダム』で言う王様。僕、本当にチャトリさんは先見の目がある方だと思うんですよ。なので、そのチャトリさんが僕にそう言ってくれるなら、自分も満足しないでどんどん強くなっていくし、今でもその言葉が心に残っています。僕はそんなに有名じゃないけど、見る人は分かってくれるので。あとは僕がチャンピオンになって、みんなが認めてくれれば良いと思っています」
【写真】LFA、Shamrock FCに参戦中のバンタム級ガレット・アームフィールドと若松。
──マッチメイカーにお願いがあると?
「アドリアーノ・モラエスはチャンピオンになって希望を与えていると思うんですよ。でも、僕が勝ってチャンピオンになって、世界中にサムライを見て欲しいです。現代にもこういうやつがいるんだ、みたいな。ONEでチャンピオンになってスターになりたいです。準備はできているので、タイトルマッチを組んでもらって、勝つことに集中するだけですね」