格闘技史上に残る技術戦・心理戦となった一戦を那須川天心(右)と志朗の本人たちが解説した 撮影=若原瑞昌
2021年2月28日(日)神奈川・横浜アリーナで開催された『Cygames presents RISE ELDORADO 2021』。そのメインイベントでRISE世界フェザー級王者・那須川天心(TARGET/Cygames)とISKAムエタイ世界バンタム級王者・志朗(BeWELLキックボクシングジム)が再戦を行い、判定3-0(30-28×3)で那須川が志朗を返り討ちにした。
試合後、那須川は「本当に究極の心理戦というか。格闘技っていろいろなパターンがあって、究極の駆け引きができて勝つことができてまた強くなれたと思います。久々に駆け引きをして勝てたのが嬉しく思います」とマイクで話し、試合後のコメントでは「騙し合いをしていたけれど、(見ている人には)なかなか分からないかなと思いました」と振り返った。
試合前から那須川は「3分3R9分間、だまし続ける」「55kgだからと言ってスピードが速いだけが正義じゃない」「今回はスピードだけで戦うつもりではない、と言っておきましょう。3分3Rしかないので、その9分間、謎を与えるって感じですかね」と、様々な謎かけのような言葉を発している。
言葉だけを聞くとマニアックな技術戦のようだが、実際の試合は非常に緊張感があり、観客は固唾をのんでリング上の両者の一挙手一投足を注視することとなった。伊藤隆RISE代表も「那須川天心は凄いなと改めて感じました。穴がないと思いました。蹴りも速くて。KOだけが全てじゃないって、判定でもこれだけ魅せられる数少ない選手だと思います」と、KOばかりがもてはやされる現状に一石を投じる内容で魅せる試合だったと評した。
とはいえ、実際にリング上で何が行われていたのかは当人同士でしか分かりえない。そこで『ゴング格闘技』は那須川と志朗、そして両者のパーソナルトレーナーである永末“ニック”貴之氏の鼎談を企画し、“感想戦”を行ってもらった。
その中で那須川は「まず向こうの作戦は、おそらく入ってきたところに合わせてくるだろうなと思っていたので、自分は入り方のパターンをいくつも考えていました。あとはフェイントですね。目線だったり、打ち方だったりを変えていく作戦でした」と相手の作戦を読んでの対応策を用意し、1Rは「大まかに言えば普通にラウンドを取ることを考えていて、あとは足の位置の取り合いだったり、これを打ったらこう返してくるからこういうフェイントを入れようとか。こういう技のパターンで打っていこうというのをお互いずっとやり続けていたって試合です」と説明。
志朗は「1Rで言えば、最初の30秒~1分を気を付けようとニックさんと話していました。その時間帯は怖いなと。内藤大樹戦は1R2分以内で終わっているじゃないですか(2018年11月17日=1R1分59秒、3ノックダウンで那須川KO勝ち)。ああいうふうに仕掛けてくるんじゃないかと想定していたので、最初の1分はディフェンスだけでいいという作戦でした。いきなり100で来るんじゃないか、と」と那須川が短期決着を狙ってくるのではないかと想定していたと打ち明ける。
それに対して那須川は「最初から仕掛けようとも思って練習はしていた」と、最初はそのつもりだったと明かしたが、「練習していく中で最初から行くのは凄い疲れたんですよ。それで遠いところから攻撃を当てて、攻撃が終わって休む時間をなくそう、というのを考えながらやっていたら、けっこう練習相手が騙されたんです。具体的に言うと、自分の攻撃の“終わり際”にフェイントをかけたりとか、そういうところで優位に立っていければいいかなという感覚でやりました。蹴ってからもう1回蹴ったりとか、攻撃が終わった後に打つフリをしたりとか、逆に打つフリではなく実際に打ったりとか。そういうものを織り交ぜて、3分3R休まずにずっと戦うって意識でやっていました」と、、練習していく中で戦法を変え、“騙し続ける”ことを決めたという。
また、3Rに勝負をかけて攻撃を増やした志朗に対して「3Rの動きを1Rからやればよかったのに」との声もあったが、志朗は「天心君は1Rの最初が一番怖いからですよ。全てが100%の状態なわけじゃないですか」とそのリスクの高さを知っていたら出来ないとし、那須川も「ラウンドを重ねる毎に分かることがありますから。これくらいだったら大丈夫だろうとか。『行けよ』とか『倒せよ』っていうレベルの格闘技は2人ともしていないと思いますね」と、そのレベルでやれた試合ではなかったとする。
永末氏の「行かないと勝てないではなく、行ったら勝てないっていう試合だったんですよ、この試合は」との言葉に、那須川は「だから志朗君との試合はちゃんと研究しないと勝てないですね。勢いで倒してやろうっていう格闘技の時代は多分終わります。もっと研究して考えてっていうようにならないと勝つのは難しくなってくるんじゃないですか」と、今後の格闘技=格闘技の未来形を指し示した。
那須川天心と志朗、そして永末氏が3分3R=9分間にあった事や試合前の準備など、この試合について全てを語った鼎談は現在書店に並ぶ『ゴング格闘技 5月号 No.313』にて読むことができる。