2021年3月27日(日本時間3月28日)、米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて「UFC 260」が開催される。
メインイベントは、3年2カ月ぶりの再戦となる、王者スティーペ・ミオシッチ(米国)vs.挑戦者フランシス・ガヌー(カメルーン)の5分5Rのヘビー級タイトルマッチ。
この王座戦の見どころを、WOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
──「UFC260」のメインイベントは、ミオシッチvs.ガヌーのヘビー級タイトル戦。3年2カ月ぶりの参戦となります。
「ガヌーにとっては、“いよいよ来たか”といった感じでしょうね。3年前と比べると、あきらかに強くなっていますから」
――とくにここ4試合は、カーティス・ブレイズ、ケイン・ヴェラスケス、ジュニオール・ドスサントス、ジャルジーニョ・ホーゼンストライクというトップランカーを全員、1Rで秒殺KOしています。では、前回とはまったく違う展開になりそうですか?
「その可能性が高いと思います。いくつかポイントがあるんですけど、前回の試合、ミオシッチは初っ端からタックルでテイクダウンを狙っていったんですよ。これはストライカーのミオシッチにしては、意外な展開でした」
――トップストライカー同士の対戦ですから、戦前は「技術の王者とパワーの挑戦者」での打撃戦が予想されていました。
「ミオシッチにしてみたら、“まともに打ち合って、間違ってコイツのパンチをまともにもらったらアウトだ”というのがあったんでしょう。あれだけのハードパンチャーで、身長とリーチを見ても、ガヌーの方が長いので。なおかつあのプレッシャーで出て来られたら、打撃戦がリスキーだという思いがあったんでしょうね」
――結果、ミオシッチがケージレスリングも含めた組技で潰して、ガヌーの良さを消した上での大差の判定勝ちでした。
「だから前回は、ミオシッチが戦略と技術で、MMAファイターとしての総合力の違いを見せつけたかたちになりましたよね。おそらくガヌーは、この試合を受けて、“ただ前へ前へ出ていって、強い打撃を打つだけではダメなんだ”という反省を踏まえて、その後の試合を重ねていった感があるんですよ。
たとえば、ヴェラスケス戦では、これまで一気に攻めていくところを、グッと抑えながら戦っているように見えたんですね。結果、早い段階でのKO勝ちになったんですけど、ただ強打のパンチを振り回すのではなくて、前に“行くぞ、行くぞ”という形を見せながらプレッシャーをかけていく。それによって相手が崩れていくということを、おそらく学んだんじゃないかな」
――ヴェラスケス戦では、ジャブを出さずとも相手が下がっていきました。
「それで自分のタイミングで打てるときは打つし、相手がプレッシャーで押されて、下手に打撃を打ってきたら、ガードがガラ空きになったところに強打を当てるというやり方をガヌーは手に入れたんじゃないかと思います」
──それが4試合連続の秒殺KO勝ちにつながっている、と。
「だからガヌーとしては、前回のような戦いはしないと思うんですよ。パンチをぶん回すのではなく、プレッシャーをかけながら、当てられるタイミングでしか打撃を出さないんじゃないかと思いますね。
そうなってくると、ミオシッチとしては前に出てくるからタックルに入れたけど、プレッシャーをかけながらじりじり前に出る相手には、なかなか行けないはずなんですよ。前回のテイクダウンを見ても、正直、そこまでレスリングスキルが高いタックルではなかったので。相手が勝手に詰めてきてくれるから入れた部分があったと思う。
また、テイクダウンに成功してグラウンドで漬けて以降は、ガヌーが消耗したから、その後もテイクダウンを取れたというのもあると思うんですよ。だから今回は、その辺のテイクダウンを巡る攻防がどうなるかですよね。そこがすごく大きなポイントになると思います」
──前回のようには簡単にテイクダウンが取れないと予想されるなかで、王者がどういった戦いを見せるのかも大事になってきますか?
「そうですね。テイクダウンが難しいとなったら、打撃戦のかたちをしっかり作っていくことになる。ミオシッチは一発で倒すというより、技術で試合を作っていくタイプなので。得意のジャブをコツコツ当てつつ、蹴りも混ぜながら、行けるところでワンツーを入れる。ボディを打つのもうまいので、そういった技術を駆使して、相手を翻弄していくという選択肢もあるかな、と」
――ただ、ヘビー級ナンバーワンの強打を誇るガヌー相手に、それをやらなきゃならないわけですね。
「接近戦でボディを打つのもすごく怖いはずなんですよ。だから、もしその選択をした場合、どうなるのかっていうのが蓋を開けないと分からない。ミオシッチはすごくハートの強い選手で、だからこそ、前回のガヌーとの試合でも、自分のやるべきことを遂行できたと思うんですけど。いまのガヌーは、それさえも無力化するような、醸し出すオーラ、怖さがあるんですよ。相手に“まずいな、コイツ”と思わせて、蛇に睨まれたカエル状態にさせるものを持っている」
――では、ミオシッチがそのプレッシャーに耐えられるかどうかですね。
「だと思います。ただ、大前提として、これは“化け物同士の戦い”なんですよ。ガヌーの怪物的なパワーが目立ちますけど、ミオシッチも頭のどこかにかすっただけで相手を倒すような、強い打撃を持っていますからね。脳は鍛えられないので、打撃戦の際の部分で勝負が決まりそうな気がしますね」
――あとガヌーのスタミナに関してはどうでしょうか。1Rでは圧倒的な強さを見せますが、判定になると、前回のミオシッチやデリック・ルイスに敗れています。
「そこは未知数ではありますけど、ここ数試合を観ると、ガヌーは自分の中でスタミナコントロールをしながら、あの秒殺劇ができていると思うんですよね。勝った時のリアクションを見ても、“あっ、終わっちゃった”という感じなんですよ。“ここから先の戦略もいろいろ考えてたんだけどな”というような」
――長期戦の準備をしてきたけれど、その前に相手が倒れてしまったんじゃないか、と。
「早く終わったのは俺のせいじゃねえよ、みたいな(笑)。そして今回は5R制なので、普通で考えたらミオシッチとしては、できるだけ長引かせて、疲れたところで仕留めにかかるということも、ひとつの選択としてあると思うんです。ガヌーもそれを考えているはずなので、要所要所、どちらが攻め所を捉えることが出来るかにもかかっていると思いますね。」
――となるとミオシッチは、弱点をかなり克服した状態の怪物ガヌーと相対さなければいけないということですね。
「そうですね。ガヌーはスタミナ配分もしっかり考えて、タックルが来ることを見越して、パンチを振り回して来ると思うんですよ。ここで、もしタックルが切られて、グラウンドでトップポジションを取られるようなことになったら、ミオシッチはかなり厳しくなる。そこから強烈なパウンドがあるので、切られるタックルだけは、絶対に避けたいはずです」
――打撃の打ち合いだけでなく、タックルもまたリスキーなわけですね。
「とはいえ、ミオシッチは今、最も完成されたヘビー級ファイターですから、二重三重の作戦を練ってきているだろうし、それだけの技術の引き出しも持っている。そんなミオシッチを、ガヌーが圧倒するようなことばあれば、ヘビー級の歴史というか、生態系が変わりますね」
――また一段、レベルアップするわけですね。
「ガヌーは、いまでも十分化け物ですけど、まだまだ化ける可能性を秘めていると思うんですよ。もし、ここでミオシッチを倒したら、さらに進化して、手が付けられない状況になるかもしれない。シン・ゴジラじゃないけど、第二形態、第三形態と、さらに強くなっていく気がします。それをミオシッチが技術でどう封じるか、非常に見どころのあるヘビー級タイトルマッチだと思いますね」(取材・文/堀江ガンツ、写真/Getty Images)
◆『生中継!UFC‐究極格闘技‐UFC260 in ラスベガス ヘビー級タイトルマッチ、ミオシッチvs.ガヌー』
【放送スケジュール】
3月28日(日)午前11:00[WOWOWライブ]※生中継(WOWOWオンデマンドで同時配信)
3月30日(火)夜10:45[WOWOWライブ]※リピート(WOWOWオンデマンドで同時配信)
【対戦カード】
▼ヘビー級タイトルマッチ 5分5Rスティーペ・ミオシッチ(米国)フランシス・ガヌー(カメルーン)
▼ウェルター級 5分3Rタイロン・ウッドリー(米国)ビセンテ・ルーケ(ブラジル)
▼バンタム級 5分3Rトーマス・アルメイダ(ブラジル)ショーン・オマリー(米国)
▼女子フライ級 5分3Rジリアン・ロバートソン(カナダ)ミランダ・マーベリック(米国)
▼ライト級 5分3Rジェイミー・ムラーキー(豪州)カーマ・ワーシー(米国)