2021年1月27日(水)、群馬県県庁にて、群馬県高崎市出身の堀口恭司(アメリカントップチーム)が、山本一太・群馬県知事のウェブ番組『直滑降ストリーム』に出演。大晦日のRIZINバンタム級王座奪還劇、義理人情に厚くポジティブな上州人気質、Gメッセ群馬での凱旋大会などについて、語り合った。
「格闘技ファンで毎年、RIZINも見ている」という山本知事は、「ずっとお招きしたかった」という堀口を、県庁32階の動画・放送スタジオ「tsulunos」に招き、通常30分の収録時間を、45分間に拡大して、対談を行った。
冒頭、視聴者に向け、堀口を「総合格闘技、英語で言うMMA=Mixed Martial Artsの第一人者」と紹介した山本知事は、堀口が伝統派空手出身で、修斗からUFCに参戦し王座挑戦したこと、RIZINで日本に戻ってきたことなどを説明。
空手の一期倶楽部の師匠の二瓶弘宇先生のがん闘病中に帰国した堀口を「義理と人情の人、上州人だと感じる」と讃えた。
「なんでそんな知ってるんですか」と、バックボーンまで知る山本知事に驚く堀口は、知事からそのときのことを問われると、「日本の格闘技を盛り上げたいというのはもちろんありましたけど、空手の師匠に、二瓶先生に近くで自分のパフォーマンスを見てもらいたくて、それが一番大きかったです」とあらためて、日本に主戦場を移した理由を語った。
山本知事は、朝倉海(トライフォース赤坂)との初戦の敗戦と、その後の右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の大怪我についても触れ、「前十字靭帯断裂でその後の格闘技人生で活躍できない人もいるなかで、復帰してすぐに新進気鋭の朝倉海選手とやると知って、信じてはいたけど大丈夫かな、と思いました。復帰に向けて焦りはなかったですか」と質問。
堀口は、「大変と思うから大変なのかなと。焦りは全くなかったです。腰とかヒザも痛かったので、いい機会と考えてしっかり治そうと思っていました。初戦の負けは負けで、いちからまた強くならないと、と考えていました」と、リハビリ期間を前向きにとらえていたと振り返った。
「(堀口の)YouTubeも見ていて、何て前向きなんだろうと思いました。負けてものすごく感情的になったり、ツッパったりもせず、自然だった。昔からそういう性格だったんですか」と感嘆する山本知事に、堀口は「自分の親父もそういう漢気が強くて、“漢はこういうものだ、弱いところは見せない”という感じで、そういうのを見て育ったのでこうなっちゃいました」と、自身の性格が空手家の父親ゆずりであることを語った。
山本知事の格闘技好きが現れた白眉は「カーフキック」について、堀口に問いかけたことだ。
[nextpage]
堀口「最初のカーフキック2発を(朝倉海が)カットしなかったから、打撃でも勝てると」
「いま格闘技ファンの間でものすごく話題になっているカーフキックはふくらはぎを蹴るんですか? 作戦だったのでしょうか?」
堀口は、本誌インタビューや、RIZINのYouTubeでも語っている通り、朝倉海との再戦に向け、プランAからCまで、3つの作戦を用意していたことを語っている。
プランAは「(海が)出てくるから、それに合わせて打撃を出して、その後タックル。全部寝技に持っていく」というグラウンドで勝負する作戦。プランBは、「カーフキックを蹴って、そのまま行けると思ったら行く」打撃戦。プランCは「全部混ぜて、全てを速い回転で行う。デメトリアス・ジョンソンみたいなイメージ」という総合力で勝負する作戦だった。
「グラップリングというやつもプランにあったのですね」という山本知事の問いに、堀口は、「最初は寝技に持っていって寝かせるつもりでしたけど、最初のカーフキック2発を(海が)カットしなかったから、打撃でも勝てると。マイク・ブラウン(コーチ)は打撃で行けるなら行っちゃってもいいと言っていたので、カーフをカットしなかったの見て、プランBで行こうと決めました」と明かした。
山本知事は、UFCでコナー・マクレガーを倒したダスティン・ポイエーが堀口と同門のATTであることを説明し、「あれも“堀口カーフキック”でしたね」と水を向けると、堀口は「“堀口カーフキック”ではないです」と苦笑。「2、3年前から流行っていて、ATTでは練習していましたし、もっと前からポイエーも使っていました」と、近年のATTファイターたちの得意技の一つであることを語った。
さらに山本知事は、初戦でTKO負けした堀口が、いかに恐怖を乗り越えられたのかを質問。「カーフキックでも堀口選手は遠くから飛び込むことになる。いかに堀口選手といえど前戦のカウンターのトラウマが残っていたりはしないんですか」と聞いた。
初戦のコンディションが良くなかったことが伝えられている堀口は、「(トラウマは)まったく残ってない。周りは『怖がるだろう』とか言っていましたが、自分はただブッ倒してやろう、やり返してやろうと思っていたので、それを見せられて良かったです」と恐怖心は無かったときっぱり。
さらに、遠間から空手のステップを利してカーフキックを当てたことを、「踏み込みのタイミングがパンチのタイミングと入り方が同じで、相手にはどっちがくるか分からなかったと思います。それに昔の(海の)ビデオを見ても、ローのカットはあまりなかった」と、朝倉海がローキックのカットよりも、パンチに重点を置いて、前足重心のスタンスを取ってきたことを、セコンドとともに研究していたことを明かした。
[nextpage]
名将マイク・ブラウンとの絆、日米格闘技の違い
厳しいと予想されていた大怪我から、いきなりのリヴェンジマッチでの再起戦。試合後、マイク・ブラウンに「Easy Fight!」と叫んだことについて、山本知事から「堀口選手はいつも勝っても吠えない。“簡単な試合だった”という意味では無かったですよね」と問われた堀口は、「日本の方にはそう(失礼と)とらえられてもしょうがないです。自分としては、『やってやったぞ、俺らだったら出来る』という意味でブラウンに言ったんですけど」と説明。
さらに、「前回、応援団が悲しんで、両親ともに泣いていて“うわぁーやっちゃったな”って思って。今回、勝ってみんなの笑顔が見られたのもあって“よっしゃー”と騒いでしまいました」と、周囲を落胆させた前戦から歓喜の瞬間に導けたことで、喜びが爆発したことを語った。
名将マイク・ブラウンとは、単にコーチと選手の関係を越えた信頼関係がある。最近、堀口はフロリダで家を購入した模様をYouTubeにアップしたが、その動画からルンバを発見した山本知事の指摘に、「あのルンバ、壊れちゃって。いま日本にいるから新しいルンバを受け取れなくて、古いのを送り返さないといけないこともあり、マイク・ブラウンがいろいろやってくれました」と、ブラウンが新車の購入手続きのみならず、自動掃除機の交換まで、堀口の手助けをしている驚くべき事実も明かされている。
その新居に「ATTの有望な選手でお金が無い新人を泊めたい。自分はここまでATTの方々にお世話になっているので恩返ししたい。ATTからコーチに誘われているのでコーチもしたい」と語る堀口を、山本知事は「『始動人』ですね。群馬県では、ものごとを始めて動かす人、ほかの人が目指さないところを目指す、生きる知恵を持った人を育てていきたいと活動しているのですが、我々から見ると、堀口選手は始動人」と、フロンティアスピリットを持って、後進の育成も考える堀口を「自ら動き始める人」と称した。
さらに、日米の格闘技環境・格闘技観の違いを「技術」だと答えた堀口。
「日本はどちらかというと根性を教える。アメリカは『スポーツは科学なので技術だ』と。総合格闘技はやることが多い。ボクシング、キック、レスリング、柔術……一つひとつのコーチがいて、それをまとめてくれるマイク・ブラウンのような総合的なコーチがいる。いまの格闘技はチームプレーで、戦略は大きい。そこは技術がすべてで精神論は無い。頑張ることは当たり前で、技術を増やせば勝てるという考え。“この辛いところを乗り越えれば勝てる”という喧嘩の考え方では、いまのMMAは勝てない」と、プロとして心と体を備えることは前提で、いまなお進化するMMAにおいて技を、チームで磨き、各コーチの指導のもとに適応させることが大事とした。
[nextpage]
朝倉海との3度目の対戦は……
今回の対談前に堀口vs.ダリオン・コールドウェル戦を見返してきた山本知事は、堀口のポジティブシンキングにも注目。
朝倉海との再戦の勝利、2度にわたるBellator王者との死闘について、「1試合目も負けそうだったけど乗り越えた」と、逆境を跳ね返したメンタルについて問うと、堀口は「どんな不利な状況でも絶対、打開策はある。マイナスに捉えるとダメになっちゃうだけなので、ポジティブに考えるようにしています。自分はうまくいっている──そう思っているだけかもしれませんが」と笑顔。厳しいときも打開策を「考え」「取り組む」ことが、状況を変える一歩になると答えた。
朝倉海とは1勝1敗。3度目の対戦について、堀口は「急がなくてもいい」と言う。
「せっかく自分が王者になって“違うベルト”も獲りにいかなくちゃいけないので、朝倉選手にも勝ち上がってもらって、またいいタイミングでやれればいいかな、また格闘技が盛り上がるタイミングでやれればいいかなと思っています」
“違うベルト”とは、手術により2019年に返上したBellator世界バンタム級王座だ。
山本知事は、「まずはBellatorのベルトを取り戻してもらいたい。相手の動画も見て、どうみても堀口選手の方が強いと思う」と、すでに現王者フアン・アーチュレッタの動画も確認済みで、堀口に分があると語ると、堀口も「怪我とはいえ、自分のするべきことをせずに(ベルトを)返してしまったので、獲りに行きたいと思います」と、2本目の王座奪還が、次の目標とした。
そんな堀口に知事は、3つのリクエストをしている。
日本の大学を卒業後、米国のジョージタウン大学で「夜遅くまでキャンパスにある図書館で猛勉強」し、国際政治学の修士号を取得するなど、米国生活も経験した山本知事は、「堀口選手は、人に好かれる人で、『英語は出来ない』と言ってるけど、マイク・ブラウンとも話しているし、出来ると思うんです。だから、試合後のコメントなど、英語で言った方がいい。これから堀口さんがスターになるには英語で言ってほしい。英語で語るとアメリカ人の感覚は違う」と、世界に向けて、アピールしてほしいと希望。
続けて、堀口による「Gメッセ群馬」での地元凱旋試合をリクエストした。
「Gメッセ群馬は1万人くらい入ります。さいたまスーパーアリーナとは違う魅力もありますので、いつかコロナが収まったら、ぜひ凱旋して試合をしてください」という山本知事に、堀口は「そうですね。やりたいですけど、RIZINさんが……」と、一人では決められないと語ると、知事はすかさず、「(RIZINのスポンサーの)Yogiboも買ったので、社長に言っておいてください(笑)、Gメッセでの試合、ちょっと頭に入れておいてください」とアピールした。
最後のリクエストは、「堀口恭司・群馬県ファンクラブ」の設立。なんと山本知事自ら会長を務めたい、という。
「すでにファンクラブはあると思いますが、群馬県でのファンクラブを、会長は私がやりますから──知事会長のファンクラブはあまりないと思います──そうなったらまたここに来てください。いっさい政治的要素は入れないので(笑)」と、王者にエールを送った。
「コロナに負けるな!」の色紙を知事に送った堀口は最後に、「いまコロナの感染者数が増えているんですけど、しっかりやることやってればいいこともあると思うので、RIZINで勝った後にも言いましたけど、しっかり耐えて、自分だけ外に出てもいいかなとは考えずに、しっかり耐えて頑張れば、いいことがあると思うので、みんなも不要不急の外出を避けてください」と、コロナの収束を願い、対談を終えた。
対談後、「総合格闘も素晴らしいスポーツなのでみんなで応援していきたいと思います」と語った山本知事は、「群馬県出身、史上最強のメイドインジャパン。これからも応援していたきたいと思っています。いろんな言葉、生き様に大変勇気をいただきました。知事としても苦しい時期ですが、コロナでもどんなときも堀口恭司さんのようなポジティブシンキングを忘れないようにしていきたいと思います」と、堀口同様に、コロナとの厳しい長期戦に向かう、前向きな姿勢をあらたにした。
アーカイブも視聴可能な同番組では、このほかにも、堀口は趣味の釣りやキャンプのスタイル、『鬼滅の刃』『刃牙』にハマったこと、好きな群馬名物などを語っており、ファン必見の内容となっている。