2021年1月16日、アラブ首長国連邦・アブダビのヤス島の「UFC Fight Island」にて、「UFC on ABC 1: Holloway vs. Kattar」が有観客で開催された。
2020年3月の「UFC 248」以来となる観客を入れての大会は、1万8千人のキャパシティーに対して、2千人限定でチケットを販売。会場全体が除菌され、観客も48時間以内のPCR検査の結果の提示が義務付けられた。
そのメインイベントでは、フェザー級ランキング1位のマックス・ホロウェイ(米国)と同6位のカルヴィン・ケーター(米国)が対戦。5Rのまさに「激闘」の末、ホロウェイがユナニマス判定勝利し、ヴォルカノフスキー戦の連敗から再起を果たした。
▼フェザー級 5分5R○マックス・ホロウェイ(米国)[判定3-0] ※50-43, 50-43, 50-42×カルヴィン・ケーター(米国)
前フェザー級王者のホロウェイは、2013年のコナー・マクレガー戦の判定負け以降、2018年12月のブライアン・オルテガ戦の勝利まで驚異のUFC13連勝をマーク。
2019年4月にダスティン・ポイエーに判定負けも7月にフランキー・エドガーに判定勝ち。2019年12月と2020年7月にいずれもアレクサンダー・ヴォルカノフスキーに判定負けで2連敗中だ。
対するケイターは、UFC8戦6勝(4KO)2敗。マサチューセッツ州MIAAディビジョン1レスラーだが、オクタゴンでは打撃を武器に戦っている。2020年5月にカーフキック使いのジェレミー・スティーブンスを打ち下ろしの右ヒジでダウンを奪いTKO勝ちすると、2020年7月の前戦ダン・イゲ戦でも打撃で優位に立ち判定勝ち。現在2連勝中だ。
1R、ともにオーソドックス構え。左ジャブのダブルで牽制するホロウェイに右のカーフキックはケーター。ホロウェイも右ローを返すとワンツーを上下に打ち分けて叩く。左ボディストレートから右を打つホロウェイ。ケーターの左をかわして左から右を上下打つ。
有歓声試合らしくマスク着用の観客から「ホロウェイ! ホロウェイ!」のチャントも聞こえるなか、前手を触りながら右ストレートを打つホロウェイにケーターも右のカーフキックで応戦。左ジャブの刺し合い。ホロウェイのワンツーの右の打ち下ろしにケーターは後退する。距離を取り直すケーターは左ジャブ。それを額で受けるホロウェイは左ボディ&右ストレート、さらに右後ろ蹴りもボディに突く。
2R、ワンツーの右でケーターに腰を落とさせるホロウェイ! ケーターの打ち終わりを狙う。右前蹴りはケーター。ホロウェイのワンツー後に右を当てる。左ジャブのダブル後に右を突くホロウェイ。右アッパーを織り交ぜたケーターにホロウェイもワンツーから右ヒザ蹴りをボディに突く。
前足に関節蹴りを突くホロウェイは、ケーターの右ミドルを掴んで後方に押して崩すと一気に詰めて右ヒザ! ケーターは右目尻から出血する。詰めて右ボディフックを当てるホロウェイ。さらに飛び込んでの右ヒジ! 効かされたケーターは金網に詰まるとガードを固める。そこに左右ボディ連打から右ストレートはホロウェイ! さらに右ヒジを突きながらもケーターの反撃はしっかり見切る。
右ヒジの打ち下ろし、左ボディと対角の攻撃はホロウェイ。出血したケーターは左で差して押し込むが、突き放したホロウェイはバックヒジも見せる。さらにワンツーから左ハイ! 一気に詰めるがケーターはブザーに救われる。
3R、左ボディストレートを突くケーターに右のバックヒジはホロウェイ。さらに右オーバーハンドも見せる。右ストレートと同じ軌道で右ヒジを突くホロウェイ。ボディロックしたケーターだが崩せず。離れ際に左ヒジを狙う。
接近戦で右アッパーはケーター。さらに右ストレートに今度はホロウェイが後退。危険な打ち合いのなか、圧力をかけるのはホロウェイ。ワンツーの連打の右が伸びてケーターの顔面をとらえると、サウスポー構えとなったケーターに右ミドルをヒット。さらに右にサークリングするケーターを止めるように左ボディを突く。しかし、ケーターもワンツーの右! 左右で押し戻してきたホロウェイにシングルレッグも差し上げたホロウェイはがぶり。頭を抜くケーターの入りを制する右ヒザへの関節蹴り、さらに右ボディストレートを音を立てて突く。
ジャブの刺し合いでアゴを上げさせられるのはケーター。ホロウェイの前身しての右ストレートの伸びに金網に詰まる。ケーターの左をノーガードのウィービングでかわすホロウェイ。ワンツーを打ってもそこへのケーターの打ち返しはしっかり避けて右を返す。
4R、左右のボディストレートはホロウェイ。ワンツー&右ボディストレート、次はワンツーから右ストレートと腹・顔面と散らす。連打で押し込むホロウェイだがケーター打ち返しにはしっかり追い過ぎずかわす。左フック。左ボディ、左フックを連続で上下に打ち分ける。左ストレートから右ボディと逆側の対角も突くホロウェイ。
左フックを振るケーターに左右で詰めるホロウェイは必ずケーターの右の打ち返しをかわす。この時点で頭への攻撃が110のホロウェイに対し、ケーターは42。ボディ打ち40のホロウェイにケーターは12と圧倒的な打撃数の差がモニターに映し出される。
右ストレート&左ボディ、左ストレート&右ボディと対角に打つホロウェイ。さらに前身して右ヒジを振るうと左右ラッシュに左レバー打ち! 何とか右へ逃げるケーターは防戦一方となるが、ガードを固めて大きな左の打ち返し。しかし足元がふらつく。左右ボディ4連打のホロウェイ! ガードを固めて左ヒジで逆転を狙うケーター。右ヒジ、さらに左右ボディ打ちで動きが止まるケーター。レフェリーが入ってもおかしくないが、ホロウェイのダブルレッグは差し上げるケーター。
猛連打でさすがに息を切らすホロウェイ。左を振るがそこにケーターも右をかぶせていく。右の後ろ蹴りを腹に放つホロウェイ。ケーターのワンツーの打ち終わりに右ハイ! 下がるケーターにさらに左手をマットに着いてののセンチャイキック!
5R、最終ラウンドもしっかり相手を見据えるケーター。ケーターのワンツーに効いてないと手を振り右を刺すホロウェイ。打つ方も拳を痛めそうなケーターのタフな反撃にホロウェイはバックステップでかわしてジャブを刺して上下の打撃。右ボディ、右ストレートの打ち分けが顔面ととらえるとケーターは後退。右ボディ打ちもケーターは左ジャブを当て返す。
ジャブのダブルから右の後ろ蹴りのホロウェイ。さらに右ハイをブロックするケーターだが防戦一方に。手数を止めないホロウェイはジャブ&右ボディストレート、右ストレート! 放送席を指差し何かジェスチャーするが、顔面にもらったケーターも右! ノーガードでバックステップするホロウェイは胸を叩いて「来い!」と返す。ケーターも右をヒット! 右のカーフを打つケーターだが威力は出せず。
ホロウェイはコーナーを指して何かを語りながら、ケーターに「来い、来い」と挑発。右の関節蹴りの連打、最後はケーターの左をかわしてブザーを聞くと右手を挙げた。
判定は3-0(50-43, 50-43, 50-42)でホロウェイが大差勝利。UFCの5Rマッチで50-42の採点が出たのは2006年3月の『UFC 58』で行われたリッチ・フランクリン vs. デビッド・ロワゾー以来15年ぶりという8ポイント差をつけた勝利となった。
さらに、ホロウェイの打撃数は744発で、うち効果的な打撃数は445発、距離をとっての打撃数は439発、効果的な頭部への打撃数は274発と発表され、全ての部門で記録を更新した。
これで、UFC&WECフェザー級勝利数でホロウェイは「17」となり、ジョゼ・アルドの「18」に次ぐ2位タイ(もうひとりはカブ・スワンソン)となった。
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ヌルマゴメドフ「これから彼のプライムタイムが来る」
試合後、ホロウェイはオクタゴンのなかでダナ・ホワイト代表にボーナスをリクエスト。1月24日の「UFC 257: Poirier vs. McGregor 2」にも出られるとアピールした。
続けてマイクを向けられたケーターは、「試合を止めるなら俺を殺すしかなかった。誰にも跪くつもりはない。マックス・ホロウェイは、アニマルだ。もしマックス・ホロウェイのファンじゃなきゃ、ヘイターだ。このキッド(ホロウェイは29歳、ケーターは32歳)はビーストだ。タイトルマッチがあるだろうから活躍を祈ってるし、チャンプになってもらいたい」と、勝者にエールを送った。
さらに、バックテージでホロウェイは、公式のインタビューに「彼には尊敬の念しかないよ。ヤツはドッグだ。台所のシンクを投げつけようと、消防車を投げつけようと何でも受け止める。俺はマウスピースを噛み締めて、“ミスター・ロボット”と化して、殴り続けた。ケーターはヤバいやつだけど、前にも言った通り、レフェリーが止めない限り、相手が倒れなければ、俺は打ち続けるだけさ」と、ストライキングの最高記録を更新したことについてコメント。
「自分は1Rあたり10~15発くらいしか打っていないと思っていたけど、なんでこんな疲れてるんだろうと思って、あとで数字を聞いたら、そりゃ疲れるわけだ(笑)。算数の勉強が小3で止まっているから、ちょっと打たれ過ぎたのかな」と笑顔を見せた。
続けて「今日は感触が良くて、調子も良く、絶好調だったと思う。コーチたちも任せてくれていた。ABC(の放送)の幕開けがハワイアンボーイ(プナヘレ・ソリアーノ)だったからね。もう1人のハワイアンボーイが大トリっていうのは正解だね。超最高だよ。何回か回しヒジを打ったんだけど、トレーナーたちが我を失っていたのかもね。1年をスタートできたし、ABCにも出演したし、エティハド・アリーナで試合ができて、しかも史上初だ。記録もいろいろ打ち立てられてうれしいよ。いい日だ。言葉がない。どれもこれもトレーナーのアイバン・フローレスだよ。すごい人、レジェンドさ。永久にエルボーを打ってほしかったらしい。俺はイヤだけどね(笑)。ボクシングがいい。つなぎ合わせながらパンチを顔面に打ち込んでいくのが好きなんだけど、今日はひとつ新しいものを見つけた。頭にエルボーを食らわせるのが楽しくて、すごくクールだった」と、初めてのABC中継のメインを飾った喜びと、ボクシングへの情熱を語った。
一方で、記者陣からの「なぜ練習でスパーリングをしないのか?」の問いには、「(NFLスターの)伝説マーション・リンチがいい例だ。彼は『Save your chickens』だと言った。『Save your chickens』。いいか、人は脳を一つしか持っていないんだ、セーブしないと。(もうスパーリングの)必要はないんだって。これまで十分にスパーリングをして、十分にトレーニングをして、どうやって殴るかは分かってるし、どうやってパンチをスリップさせればいいかも分かっている。ボクシングというアートが好きなんだ。
なんで、メインの試合の前に不要なダメージを受けなきゃならないのかっていうこと。なんでみんな俺のフェイスブックのFacebook gaming streamで、 俺に『トレーニングしろ』と言ってくるんだ。俺はトレーニングをしてきたんだよ、ゲームをプレイする時は放っておいてほしい、俺はビデオゲームをしたいんだから。ともあれ、いいかい、脳を守って。新進気鋭の人間に対して教えなきゃいけないことっていうのは、『賢くやれ、ダメージを少なくする方法を考えろ』ということだ。このゲームを長く続けたいんだよね。俺はもっと子供が欲しいから、子どものためにも長く続けたい」と、頭部にダメージを負うガチスパーリングに警鐘を鳴らすと、自身の打っても打たせないボクシングテクニックに自信を見せた。
また、1月24日の「UFC 257: Poirier vs. McGregor 2」を生観戦する前ライト級ハビブ・ヌルマゴメドフについては、「ハビブが『誰か感動させてくれ』とか言っていたから、俺が彼のエンジンに燃料を投下できたんじゃないかな。彼の考え方は分かるから。彼は自分のレガシーのために戦いたいのさ。金なんて気にしていない。一番手強い相手を求めている。もし俺が彼の気を狂わせないといけないっていうんならやるさ。最高の記者会見だったけど、ただ、まだ戦ったことがないんだ」と、対戦が実現しなかった前ライト級王者へ対戦を呼び掛けた。
さらに、現フェザー級王者のヴォルカノフスキーについては、「彼は『違う試合がしたいんだ』って言っていた。キツい試合がしたいとは言っていない。違う戦いを望んでいる、そう言っていた。それをじっくり考えてみよう。誰がタフな試合ができるのかっていうのは誰でも分かると思うし、一番タフな試合ができるやつもね。結局のところ、別に誰かに自分との戦いを強いようとは思わない。俺は準備万端。来週もここにいるから、デイナが契約を送ってさえくれれば受け取るよ」と、ヴォルカノフスキーとの対戦も視野に入っているとした。
また、現地で観戦したハビブ・ヌルマゴメドフは、かつて対戦が決定しながら流れたホロウェイについて、「すでに最高の選手だけど、まだ29歳、これから彼のプライムタイムが来る。もっとすごい選手になるポテンシャルを秘めている」と絶賛した。
ケーター戦で多くの記録を更新したホロウェイ。激闘の中にも確かにボクシングテクニックを見せて再起を果たしたフェザー級の雄の今後にも注目だ。