MMA
インタビュー

【RIZIN】リオ五輪銀メダリストを極めた所英男「青春やらしてもらっちゃって」

2021/01/04 15:01
 2020年12月31日(木)さいたまスーパーアリーナで開催された『Yogibo presents RIZIN.26』の第7試合でバンタム級(61kg・5分3R・ヒジ無し)で対戦した、所英男(リバーサルジム武蔵小杉 所プラス)と太田忍(フリー)が、試合後インタビューに応じた。  リオデジャネイロ五輪グレコローマンレスリング銀メダリストのMMAデビュー戦の相手を務めた所は、近年、組み技ルールのグラップリングで活躍も、2017年7月の堀口恭司戦以来、3年半ぶりのMMAに臨んだ。  試合に向かう花道を、盟友の勝村周一朗(44)と金原正徳(38)と肩を組んで入場してきた43歳の所。  そのときのことを勝村は「「入場のとき『セコンドは選手が行ってから距離を取って出てください』って指示なんだけど、英男が『寂しいんで、距離空けないですぐ来てください!』って(笑)。すぐついてって『ちゃんといるから大丈夫だよ!』って声掛けたら、いい歳のオジサン3人で肩組んで歩くことに」とツイートで告白。  金原も「所さんが入場のオープニング見て、泣きそうになってたので、『やめてよ! 試合終わってから泣いてくださいよ』って話して(笑)。若い人たちの頑張りも大事だけど、オジサンが頑張っている感動は、別枠であると思います」と自身のYouTubeで振り返っている。  マットで戦うときは1人だが、試合後にどちらかが気を失うかもしれず、どちらかが関節を極められているかもしれない格闘技において、どんなファイターでも試合前には心細くなるもの。リングやケージに上がる前に、信頼できるセコンドとハグを交わすことは、時に大きな力となる。  試合は、序盤から打撃で優位に立つ所に、レスラーの太田がテイクダウン。しかし、所は下からの蹴り上げを太田の顔面に届かせる。 「蹴り上げを見せたときに、相手がパニクったなと。所さんは引き出しがたくさんある」と金原が述懐する通り、太田はいったん体を離し、上から蹴りを狙うもブレークでスタンドに。このスタンド再開が太田にとっては「誤算だった」という。  太田と所の右が交錯するなか、そのままテイクダウンを奪う太田の手首を掴んだ所は腰を切って、下から腕十字に。さらに太田の足をすくってひっくり返すと、最後はうつ伏せになって腕十字(2R 2分42秒)を極めた。  元UFCの金原をして「僕ですら所さんから腕十字取られるくらい独特の入り方・極め方で極めが強い。あらためて彼のすごさを間近で見れて感謝」という所の十八番。  試合後、所は「勝てれば何でもいいなと思っていたのが、まさか一本でしっかり太田選手からタップを取れたのはいいスタートになりました」とフィニッシュを語り、入場時から涙ぐんでいたことを問われ「振り返ってみると、“1人でリングに上がれない子”みたいで恥ずかしいんですけど……まぁ、いいスよね、青春ですよね……すみません」と、不惑の四十路の青春と表現した。  リング上で所と勝村と勝利のハグをかわした金原も「経験の差、スキルの差がありました。ほかの人をどうこう言うわけじゃないけど、やっぱり格闘技に真面目に向き合っている人が報われてほしいし、15~16年付き合って、所さんの取り組み方、あらためてすごい人だなと思いました。口だけじゃなく、真面目にやっていれば、いつか良いことはあるんですよ」と、所の取り組みを讃えている。  所英男、太田忍との一問一答の全文は以下の通り。 所英男「ゴールを探しながら走りたい」 ──試合後の率直な感想をお聞かせください。 「素直に嬉しいのと、ホッとしているのと。今日、勝てれば何でもいいなと思っていたのが、まさか一本でしっかり太田選手からタップを取れたのはいいスタートになりました」 ──いいスタートを切れて、ゴールはどこを目指しますか。 「それを探しながら走りたいと思います」 ──2017年7月以来のMMAで、4年ぶりの大晦日のRIZINはいかがでしたか。 「めちゃくちゃ緊張したんですけど、試合に至るまで、RIZINに出ると言うとたくさんの方が喜んでくれるので、いやぁ、嬉しかったですね」 ──対戦相手の太田選手はMMA初挑戦で、もともとグレコローマンレスリング五輪選手でしたが、何か対策はしていましたか。 「いや、対策はほぼせず、自分のやりたい事、自分の試合をするという事に集中していました」 ──実際に対戦して、相手の印象は違いましたか。 「初めてなので、ローキック食らうのも初めてで、ヒザ蹴りもらうのも初めてだと思うので、やっぱり自分の方がやる前から有利なんですけど、目が死んでいなくて、凄いなと思いました。全然、次やったらどうなるか分からないですね」 ──太田選手の動きで嫌だった動きは? 今後どういったところを磨けばいいと思いましたか。 「僕が偉そうに言うのもなんですが、攻撃の一個一個が力強くて鋭かったというのと、自分はグラップラーなので、寝技のことで言うと、もっといっぱいスパーリング出来たら、次やったら全然、全然違う結果になると思います」 ──試合のなかでスラムを喰らっていましたが、あれはそういう対策をされている、と感じましたか。 「そうですね。十字の体勢になるのは仕方がないから、そこからバスターで外そうという感じなのかなと。一発目は流石に焦ったスけど、あとはそうですね、落ち着けたですね」 ──所英男選手らしい試合になったと思います。要因は? 「要因はもう本当に、いい練習が出来たというのと、勝村(周一朗)さんと金原(正徳)さんが、本当に僕を動かしてくれた、ケツ叩いてくれたというのが、自分らしい試合ができた要因だと思います」 ──事前のVTRで、「子供に良いところを見せたい」と。まだ話してないなら、どんな言葉をかけたいか。 「まずは、まあ、『パパわかった? かっこよかった?』とか、そういう感じで。まあとにかく、まだ僕が勝った負けたは分からないと思うけど、記憶に残ったら良いと思います」 ──入場時、セコンドの2人に肩を抱かれて涙しているようにも見えたのですが、まだ試合前だったと思いますが、どんなお気持ちでしたか。 「振り返ってみると、1人でリングに上がれない子みたいで恥ずかしいんですけど、まぁ、良いすよね、青春ですよね……すみません」 ──それは、青春時代を思い出したということではなく、いまが青春という感じですか。 「そうっスね、青春やらしてもらっちゃってて(苦笑)。本当にありがとうございます、という感じです」 ──今後の展望を教えて下さい。 「もう特になくて、引き続きコンディション良く……まあ、もし太田選手が自分とまたやりたいと言ってくれた時に、良いコンディションで受けることができればいいなと思います」 [nextpage] 太田忍「全然、大丈夫だろう、と思ったところから、一気に極められてしまった」 ──試合後の率直な感想をお聞かせください。 「うーん、思ってた以上にと言うか、思っていた通り、所選手のグラップリング能力は素晴らしかったです。僕はその対策はしていたつもりですが、最後はそこで分かっていても獲られてしまったので、本当に所選手が上手だったな、強かったなという印象です。また、本当に悔しいので、僕はまだまだこれから、今回デビュー戦ですし、ここから、この悔しい気持ちを持って、どんどん上を目指していきたいと思っているので、また頑張りたいと思っています」 ──始めてのRIZINのリングはどんな印象でしたか? 「歓声もすごいですし、演出も凄いですし、僕は初めてRIZINを見た時に、この舞台でやれたら凄い気持ちいいだろうなという風に思ったのがあったので、その通りの会場でしたし、またコロナウイルスの関係で入場制限されているにも関わらず、ほんとうに熱のある会場だったので、プロの試合だなという印象でした」 ──テイクダウンを取る太田選手に、所選手の下からの腕十字はある程度、予測していたと思いますが、予想以上だったことは? 「予想はしていましたし、三角か腕十字か、それを嫌がっての足関節は、予想していた通りの攻撃だったんですけど、実は極められたときも上からもずっとプレッシャーかけていたし、そこまで極まらないだろうと思ってたんですけど、そこからの作り方というか、僕が思っていた以上に“全然、大丈夫だろう”と思ったところから、一気に極められてしまったので、そこの速さとか、上手さっていうのは、長年やってこられた所さんの技術なんだなという風に今、少し時間が経って思っています」 ──それをスラムで返すというのは考えていた? 「最初はしっかりゆっくりプレッシャーをかけて、ヒジを抜いて極めさせないように、っていうような作戦でありましたし、危険になったら立ってローを蹴る、っていう作戦だったんですけど、思ったよりスタンド(ブレーク)が早くて、もうすこし時間を取ってくれたら、僕のリズムで出来たかかなと思うんですけど、全部“ここから”というときに『スタンド』がかかってしまったのが、僕のなかの作戦を狂わせてしまったところかなと思うので、今後はそこを理解した上でやっていかないといけないんじゃないかなと思います」 ──当初の作戦としてはどんな組み立てを考えていましたか。 「自分の作戦としては、テイクダウンしたら、危険な体勢にはならないっていう。相手が引きこんできたらしっかり体を起こして、立ってもいいからローを蹴りつつ──それで僕がアクションをしていれば、スタンドになるとは思っていなかったので──そこで行けるときに行くっていう、それでずっと試合が流れると思ってたので。そこで僕のリズムが作れて、自分に優勢な試合になると思ってたので、そこでスタンドになってしまったのはひとつの誤算でしたし、もっと僕がガンガン行かなければいけなかったのですが。そういう危険を冒さない、相手の得意な状況に入らせない、なおかつ、自分がローであったりを打っていくっていう、判定でもいいから勝つという試合を想定してました」 ──フィニッシュは、太田選手が右を振り、ヒザをつかんでのテイクダウンでしたが、警戒しながらも腕十字を取られたのは相手の作りが速かった? 「押さえてたときに、僕は極められるとは思っていなかったですし、全然まだ体力的にも余裕がありましたし、ポジション的にもそこまで不利な態勢だと思っていなかったけど、そこからちょっとズラされたときの極めが、すごく速くて、プロフェッショナルだったという風に思ってます」 ──ご自身でMMAファイターとしての可能性はどのように感じましたか。 「自分で思うのは、のびしろしかないですし、言ったら本当にMMAをするって決めてから、やったキャリアしか僕はないですし、MMAだったら始めたばかりの子供とも変わらないキャリアなので。のびしろしかないと思うので、得意なところは活かしつつ、足りないところは補いつつ、試合の作り方、戦い方、戦術等を含めてやっていけたら、自分はまだまだ上にいける存在だと思っているので、自分を信じてトレーニングを積んでいきたいと思っています」 ──今後の展望を教えて下さい。 「まず、ヒジ、ちょっと無理してしまって、怪我じゃないですけど痛めてしまったので、それをしっかり治して、また自分に足りないものしっかり補って強くなれれば良いんじゃないかなっていう風に思います。  試合後、所さんに挨拶に行って『グラップリング、寝技など教えて下さい』と言ったら『是非、来てください』と言ってくれたので、お願いして、貪欲に、自分が強くなることだけを考えてやっていきたいと思います」 ──「所選手のところに練習に行きたい」という言葉もありましたが、リベンジしたい気持ちもありますか。 「リベンジしたい気持ちはありますけど、また組んでくれるか分かんないですし、それは、運営側のアレなので僕は何とも言えないですけど、まあ負けたので、つぎやったときは絶対負けたくないという気持ちはありますし、もっと進化した自分を見せることが出来て、勝つことができたらいいと思っています。もし再戦することがあったら」
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