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【RIZIN】死闘を越えて──斎藤裕「行かなかった後悔は取り戻せない」×朝倉未来「負けて楽しかった。あと2年でほんとうに格闘技辞めれるかな」

2020/11/24 16:11
 2020年11月23日(月/祝)、後楽園ホールにて、サステイン主催「プロフェッショナル修斗公式戦」が開催され、メインイベント前に、修斗世界フェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ小岩)がケージイン。「RIZIN.25」大阪大会で朝倉未来に勝利し、RIZIN初代フェザー級王者となったことを報告した。  試合後に病院で検査を受け、「目は眼窩底骨折ではなかったですが、鼻は折れてましたので、治療をして体を治していきます」と記していた斎藤は、腫れの引いた顔で登場した。  ケージの中で斎藤は、「大方の予想を覆して(笑)、RIZINで勝ちました。修斗のみんなは僕の勝ちを予想してくれていたと思いますが、RIZINのフェザー級チャンピオンになることができました」とホームで勝利を報告。後楽園ホールの観衆から大きな拍手を受けた。  続けて「アマチュアからプロまで修斗でやってきて、ここで戦った経験でRIZINでも勝つことができました。選手としてもチャンピオンとしても、これからも強さを証明していきたいと思います。まだ次の試合は決まっていませんが、次も勝てるよう頑張ります」と修斗ファンに挨拶した。 自分には負けなかった。地道に頑張って行くしかない(斎藤)  また、試合翌日には、自身のYouTubeチャンネルで「朝倉未来戦を終えて」をアップ。勝因を語っている。  試合後の夜は一睡もしなかったという斎藤。「いつも試合後の夜は眠れない。興奮しすぎてアドレナリンが残っていて。いろんなプレッシャーはあったけど。ホッとした。みんなの喜んだ顔を見れて良かった」と率直な感想を語った。  新型コロナウイルス対策で客席が限定されるなか、チケットは完売し、5,487人の観衆が集まった。  試合前「この世はミクル様によって救われる」「斗いを修めし神よ、永遠たれ」と事前動画が会場に流されるなか、斎藤自身は、会場の空気に後押しされたという。 「意外と僕に対する歓声が多くて、すごく心強かった。リングに上がって感動しました。気持ちよくリングに上がれましたね。みんなが盛り上げてくれて『頑張れ』という声も多かったんで、8月のとき(RIZINデビュー戦)よりいい精神状態でリングに上がれた。嬉しかったです」  試合は、序盤は慎重な展開に。サウスポー構えの朝倉に対し、右前足の外を取る斎藤。朝倉は内側に入り左の前蹴り、左ストレートを狙う。1R、残り1分で斎藤は最初のニータップでテイクダウンを狙いに行くが、朝倉はその組み付きは切っている。  斎藤は「単純に強かったですね。身体が強い。日本人選手には感じない体幹を組んだときに感じました。簡単に(テイクダウン)取れないなと思いました。すごく自分が“見られているな”とは感じました。攻撃に対してどういう反応をするのか。そういう選手だとは思っていたので、そこの勝負には負けないようにとも思っていました。冷静ですよね、彼は」と、朝倉の体幹の強さを語る。  1Rには、左構えと右構えの喧嘩四つによる朝倉の左インローがローブローとなり、斎藤は中断を余儀なくされる。  その金的蹴りについては、「オーソとサウスポーは当たりやすい。下から蹴り上げられて痛かったけど、あれで終わりは無い。休む時間を与えてくれたので、落ち着いてもう1回、やろうと。動けるところまで戻ったので。やると言ったら支障はない」と、試合を続行するつもりだったことを語ると、「だいたい1分半くらいで相手のリズムとかイメージは掴める。休みながらも相手のイメージを掴んでいた。この先どう戦おうと。痛かったけど落ち着いていた」と、インターバル中に、1分48秒で掴んだ情報を整理していたという。  中盤から斎藤がいい形で組むことに成功するが、スタンドバックにつかれた朝倉はコーナーまで歩き、ロープ際でのテイクダウンに腕の引っ掛け、さらに、尻を着かされても早めのブレークもあり、斎藤は試合をコントロールしつつも、最後は打ち合いに「行かないとダメだと思いました」と言う。 「勝負かけないとダメですね。仮に1R・2R取ってたとしても、“行かなかった後悔”は取り戻せないんで。ジャッジの見方によってポイントを、寝技を取る・テイクダウンを取る・打撃を取るというのもある。行けるところで行こうと思ってやっていました。  左をもらってヨロヨロとして、“ここで終わったらマズい”と思って“取り返さないと”と。ダウンしているつもりは無いんですが、見栄えは良くない。映像で見たら、結構、振っていましたね。あそこで退かなかったのが、勝ちになった理由なのかなと思いますね。あそこで受けていたら、向こうについたかもしれないし。そういう意味では、自分には負けなかったのかなと思います」と、最終局面で守りに入らず、打ち合いの中で、腰を落としながらも、すぐに反撃して前に出たことが勝利につながったとした。 判定は“ちゃんと見てくれていた”感じはあります(斎藤)  ダメージ優先で、3Rを通したトータルジャッジのRIZIN。判定は3者が斎藤を支持した。 「取ってるなとは思っていました。負けは絶対無いなと自信を持って言える。でも判定はどうなるか分からない。自分では勝っているつもりでも、どういう風に見られているかも分からないので、“ちゃんと見てくれていた”感じはありますね」と、安堵の表情を浮かべた。  勝因は「映像も3R、見返したんですけど、トータルで見ると要所要所のテイクダウンがポイントだったのかなと思ってます。打撃もやりましたけど、要所要所で自分が組んで攻撃を入れられたのが印象的に良かったのかな」と語る。  試合を楽しんでいたか、と問われ「楽しくはない。やらなきゃやられるから」と緊迫した大一番を振り返った斎藤。試合後はベルトを巻いたリング上で、涙を見せながら「人生いいことばかりではないですけど、頑張っていればいいこともあると思います。これからもっと精進して試合をして実力をみせていきたいです」とマイクで語っていた。  その「人生いいことばかりではない」と話したことについては、「良い時、悪い時はみんなある。格闘技選手としてすごく辛くて孤独を感じていた時期があったんですけど、いまは、いろんな人たちに背中を押されて、チーム体制で戦えることが嬉しくて。良くないときはあるけど、巡り巡っていいときってくるんで、“今日はダメだから明日もダメ”じゃないし、“今日がいいから明日もいい”わけじゃなくて、地道に頑張って行きましょうという感じです。今年、特にそれを実感したんで、同じ境遇にいる人たちに共感してもらえるんじゃないかなという思いもあり、自然と出ました。今回、試合に辿りつくだけでいろんなことがあったので、試合が出来て勝てたことで言っておきたいなと思って、言いました」と説明している。  そして、退場する朝倉には「対戦を受けてくれた朝倉選手ありがとうございます。このリングに上がり続ければ、また会うこともあると思います。そのときはお願いします」と、語りかけていた斎藤。試合前のやりとりから実際に対峙した未来を「想像通り? うーん、そうですね……想像通りといえば想像通り、ということにしておきましょう」と言った後で、「まだあるかもしれないんで、“先”が。分からないですけどね」と笑顔を見せている。  最後に王者は、「彼は『再戦したい』と、ダイレクトリマッチをと言っているのを読みました。いろいろ負傷箇所もあるので、休養しながらまた次の試合を決めていきたいと思います」と、含みを持たせた。 [nextpage] 負けてみたいと思っていた。荷が落ちた。あとはやるだけ(未来)  一方の朝倉未来も、自身のYouTubeチャンネルに「RIZIN25を終えて」をアップし、大阪大会のメインイベントを振り返っている。  黒星は、2017年3月に韓国で行われた「ROAD FC 043」でのイ・ギルウ戦での判定負け以来、3年1カ月ぶり。  開口一番、朝倉は「久々の試合、楽しかったな。韓国で負けて悔しくて、メッチャ練習して、そこから8連勝して、今回負けた。勝ったときより嬉しかったね。あんまりプレッシャーとかは感じないほうだと思っていたけど、無意識のうちに感じていたのかな。今回でプレッシャーとか全部、荷が落ちた。あとはやるだけ。挑戦者側に回れる楽さもある。なんか負けてみたいと思っていたんで最近。やっぱ総合格闘技、奥が深いなとモチベーションが上がりました」と、メインイベントを張り続けるプレッシャーのなか「負けたい」と思うほど、対戦相手に歯ごたえを感じたい状態だったが、今回の敗戦により、MMAの奥深さをあらためて感じ、モチベーションが高まったという。  そうさせた相手、斎藤裕については、「強かったですね、ほんとに。あんなにパワーがあるとは思っていなかったな。パンチ力もそうだし、身体のパワーが凄かった。特に打撃が強い選手で、ほんと打たれ強かったな。首太いもんね、あの人。結構いいの入れたんだけどな。いい選手でしたね。日本にもあんな強い選手がいたなんて思わなかったから」と、勝者を讃えた。  また、「絶対に勝つという気持ちが強かった。もちろん俺もそれはありましたけど、いろんな確率で動いていて、物事がひとつ変わると大きく動いていく。バタフライ効果(※蝶の羽ばたきのようなわずかな変化でも、それが無かった場合とは、その後の状態が大きく異なってしまう現象)みたいなことが起きるんで、俺がもっとテイクダウンを入れていけばどうなるか分からないし、いろんなことに挑戦した斎藤選手と、保守的になった俺との差が出たかなと。アグレッシブさで。そこが一番の敗因かなと思いますね。次はもっとガンガン攻めて、自分からKO狙いで行こうかなと」、勝負の機微が、自身の保守的な試合内容で斎藤に傾いたことを語っている。  今回は得意とする試合動画での分析が、十分ではなかったという。試合前に「直近3試合くらいは10回ずつくらい見た」と語ってはいたが、未来の試合動画ほどには、斎藤の試合動画を見つけることが出来なかった。朝倉の強さの一因である、動画による対戦相手の徹底分析と空間把握能力が十分に発揮されないなか、試合は、MMAとしてのこれまでの蓄積や引き出しの数、チーム力、そして地力勝負で敗れたことになる。 「あんな強い選手がいたんだと。ただ、分析材料が無かった。(動画の)試合数が無くて」と、敗因を語る朝倉だが、「今回の試合で分析がほとんど出来たんで、楽しみですね、次は」とも言う。  打撃については、「(斎藤は)左が見えてなかった。右のフックはだいぶ研究されていて、左の蹴りも封じられたので。左ストレートで2回ダウン取った、次はそれをもっと使って行こうかな」。  また、組み技についても「打撃で勝てるから(テイクダウンに)行く必要ないかなと思ったんですけど、最後の最後で(テイクダウン)を取って、テイクダウンデフェンスはそんなでも無かったなと。もっとテイクダウンを取ってもよかったなって。テイクダウンは取られた方が消耗する。取れなかったら消耗するのはテイクダウンした側なんですけど」と手応えを得たことも明かしている。  熱戦の判定については、「2R、終わった時点で海とセコンドが『今勝ってるから』と言っていたから、3R取ったと思って勝ったと思った。でも審判は3人ともあっちを挙げて、いろいろな意見はあると思うけど、負けは負けで俺は認めた。そんなことより判定にいっている時点でダメなので。勝ったら讃えられて、負けたら非難される。それが格闘技の面白いところ。全部受け止めます。すごく爽快な気分」と、敗北を認めつつも、「失神させられたわけじゃないから、試合で負けたけど勝負には勝っていると思った。生物的には勝っている。あともう1R、出来たの? と。まあ、その(3Rの)勝負で戦っているから俺の負けなんですけどね。あの日は斎藤選手が強かった」と、悔しさものぞかせた。 格闘技……好きなんだよなあ、俺は(未来)  YouTuberとして成功を収め、30歳での格闘技引退を表明している未来にとって、実力派日本人対決で敗れたことによって去就が注目されたが、格闘技への情熱は冷めることなく、むしろ高まってるようだ。8連勝に「この世はつまらない」と感じかけていた“挑戦者”は、「これで物語が面白くなった」という。 「ここで勝ってチャンピオンになって、順風満帆に行き過ぎていてもつまらんところが。また物語が面白くなったところがある。とりあえず、やり返したいなと思っています、すぐに。早くやりたいな。年末でもやりたいですね、俺は。怪我はないので。(試合を)受けてもらえれば。今度は挑戦者側なので。『やろうよ』と言って、あっちが『いいですよ』と言わない限り出来ない。斎藤選手は怪我もあるようだから年末はできないと思うので、もし俺との再戦を受けてもらえるのなら、大晦日後の3月とか4月に受けてもらえれば。もうボコボコっスよ(笑)」と、リマッチを心待ちにしている。 「いつだったそうして生きてきたから。やられたらやり返す。暴走族に(集団で)やられたときもそう。THE OUTSIDERでも樋口(武大)選手に負けて、チャンピオンになって、(樋口に)やり返して二階級制覇して。斎藤選手もやりますよ」と、リヴェンジを最大の目標とした。  チャレンジャーであることが未来の本質だ。「いつでも保守的にはなっていない。保守的になっていたら、今回の試合を受けていない。言ったら、斎藤選手も無名の選手で俺には何のメリットもなかったんで、そういう格闘技はどっちが強いか、という問題だから受けました。それで負けた」という朝倉。  榊原信行CEOは、大晦日のダイレクトリマッチの可能性を示唆しているが、「どっちが強いか」のなかで、王者へのリヴェンジを実現させるためには、再び列に並ぶ必要も出てくる。 「(フェザー級は)ほかにも強い選手がゾロゾロ出てきてるので、そういう選手に負けないように行くところまで行く。もっと上を目指したい」という未来はフェザー級戦線で、挑戦権を得ることは出来るか。同大会では、元KSW王者のクレベル・コイケも、リングサイドでタイトルマッチを観戦。そして、榊原CEOは2021年にRIZINで「フェザー級かバンタム級でGPを開催する」と明言している。  これからを語る時、朝倉は目を輝かせる。それは、格闘技に出会った頃の原点に立ち戻れたからだ。 「めちゃめちゃ強くなると思う。何だかんだ言っていくら金を稼いでも、格闘技は関係ない。どんだけ金があっても減量中は食べれないし、飲めないし、初心に帰ります。格闘技……好きなんだよなあ、俺は。どっちが強いかで始めた格闘技なんで。それがいつの間にか(立場が)大きくなって、格闘技を盛り上げたいというのはあったけど、それが重荷にはなっていたんで。解き放たれた、というのはある。(プレッシャーのなかメインで勝ち続ける)天心君とかすごいよ、本当に。次はもうやるだけ。今後が楽しみになった。人生楽しいなって」  30歳のリミットまであと1年8カ月。あらためて「格闘技が好きだ」という朝倉は、人材育成以外にも自身の“ファイター”としての可能性を試してみたいと考えている。 「俺、ほんとうに思ったのは、格闘技辞めれるかな、あと2年で。負けてやっぱ楽しいなっていう。同時に水抜きの辛さとか、今回、酒も3カ月くらい止めていたし、塩抜き(※塩分を摂取すると塩分濃度を保つために身体が水分を蓄えてしまい体重が増える)を4日くらいやってやりすぎて死にかけた。極限でした。つばも出ずに。最後は心臓の音がボンボン自分で聞こえるみたいな。腎臓が傷ついていると思う。格闘技ってこんな素晴らしいことをみんな命懸けでやってるのに、なんでもっと注目されないのかなって思ってた」と、ひりつくような世界に身を置くことに喜びを感じている。  YouTuberとして成功するために、多くを思考し状況を作り上げてきた。その根幹には、格闘技がある。欲しいもののほとんどは手に入れることが出来る。しかし、マット上での強さは、思考とともに地道な積み重ねが欠かせない。より強くなるために、朝倉未来がどんな選択をし、取り組むのか、注目だ。 「試合前に盛り上げるために、俺はいろいろ言うじゃないすか。今回、アンチが歓喜してると思う。俺の負けで。でもここぞとばかりに言ってもらっていいし、『言ってることと違う、雑魚』とか、そういうのは大いに受付けてるんで。アンチの方はこれからも非難し続けてもらって盛り上げてくれればいいかなと(笑)。ただ、応援してくれるファンにはちょっとがっかりさせちゃったというのと、ここから俺、また強くなるから、また期待してもらえたらなと。勝ったときはファンに戻ってもらって。アンチとファンは紙一重だから。俺が斎藤選手にやり返したときは『やっぱり強いね』と言ってもらって。その結果が出るまでは、ずっと非難し続けてもらっていいので。今後とも応援、よろしくお願いします」。 ◆セミファイナルの両者振り返り扇久保博正「まだ諦めていない」×敗れた瀧澤謙太「スタイルチェンジが必要」
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