引退式を迎える瀧谷
2020年11月14日(土)東京・後楽園ホール『RISE 143』にて、第2代RISEバンタム級王者・寺戸伸近(Booch Beat)との引退エキシビションマッチ2分1Rと引退セレモニーを行う瀧谷渉太(KSS健生館)のインタビューが主催者を通じて届いた。
瀧谷は1989年4月15日、愛知県出身。2007年5月の新空手全日本選手権大会軽量級で優勝し、同年7月に全日本キックボクシング連盟でプロデビュー。2009年1月の第24代全日本バンタム級王座決定トーナメントでは決勝戦で寺戸伸近に敗れて戴冠を逃したものの、2011年4月にはトーナメントを制してKrush-55kg初代王者となった。初防衛戦では寺戸に初回KOで借りを返している。同王座は一度返上したが、2014年1月の第2代王座決定戦で再び手にした。2015年1月からは新生K-1に参戦し、武尊とも対戦した。
その後、一時リングを離れたが2017年9月に復帰し、2018年3月からはRISEに参戦。同年8月と2019年8月にはRIZINにも参戦し、2019年8月の大崎一貴に判定負けを喫した試合が最後の試合となった。『ドラゴンボール』をこよなく愛し、「リアル孫悟空」を目指すと公言。「おっす、オラ瀧谷」「みんなの元気をオラにわけてくれ」など、孫悟空のセリフをたびたび用い、明るいキャラクターでファンからも人気だった。生涯戦績は47戦32勝(14KO)14敗1分。RISEスーパーフライ級3位。
格闘技に対してお礼を言えるようになったと思います
──長い競技生活、お疲れさまでした。
「格闘技を始めたのは小学校4年生。10歳のときで、18歳のときにプロデビューしました。いま31歳なので、20年ちょっとのキャリアがありますね。トータルして考えると、長いことやってきたなと思います」
──改めて自分の足跡を振り返ることは?
「やりきった感がすごくあるので、『あ~っ、俺もこれで引退か』としみじみ思うことはないですね。『引退は寂しい』という声も聞くけど、すがすがしい気持ちで引退を迎えることができます」
──もう十分すぎるくらい闘った?
「そうですね。僕は47戦のキャリアがあり、過去2回ほどチャンピオンベルトを巻くこともできた。もし巻けていなかったら、やり切ったと思わなかったかもしれない。チャンピオンになれたことは、自分の中で大きな財産になっています」
──引退を決意したきっかけは?
「昨年8月、RIZIN名古屋大会で大崎一貴戦が組まれた時、すでに30歳を越えていたけど、三十路に入ったことを機に将来というか、第2の人生を考えるようになりましたね。大崎戦後、久保坂館長に『気持ちや年齢のこともあるので、そろそろ引退を考えています』とお伝えしたら、『そういう考えに至ったことは素晴らしい。次の人生に向け、頑張ってほしい』と肩を叩かれました」
──50戦近くも闘っていたら、たくさんの思い出があると思います。
「そうですね。たとえば2011年4月、Krushの初代-55㎏王座決定トーナメントでKENJI選手と日下部竜也選手に連勝して優勝したことは、僕の格闘技人生の中でも大きな転機になったと思います。あのトーナメントの2年前、僕は日下部選手に負けているし、巷では日下部選手が優勝候補だったので、リベンジを果たすとともにチャンピオンになれたことは大きな自信につながりました。確かあの時は5連続KO勝利くらいしているはず。あの時代があるので、皆さんから『瀧谷は強かったよね』と言ってもらえる。あの時代がなかったら、ここまで続けて来れたとは思えない」
──キャリアの後半はRISEが主戦場でした。
「RISEでは新宿FACEでやった栄井大進選手との一戦が印象に残っています(19年2月8日)。Krushの元チャンピオンがRISEで闘うということでものすごく注目していただいた。でも、結果がなかなか出ない。当時、栄井選手は勢いのある選手であったのとは対照的に僕は調子が悪いと言われていた。僕も『これで負けたら引退かな』と不安に思っていたけど、延長戦の末自分がKOで勝つことができた。そういう意味で思い出の一戦ですね」
──今回は引退セレモニーを行ないますが、コロナの影響で数回流れてしまいました。
「正直、(最初に開催される予定だった)3月の時点では道場を離れたばかりで、引退式が終わってから就職活動をしようと思っていました。いまも就職は決まっていないけど、今回の式が決まるまでに時間があったので、将来やりたいことがぼんやりと見えてきた。(最初に予定されていた)3月に式をやっていたら、『引退します。ありがとうございました』で終わっていたと思う。でも、いまはこれまで格闘技にぶつけてきた熱い思いを別の方面に向けることができつつある。格闘技に対してお礼を言えるようになったと思いますね。結果的には延期になって良かったと思います」
──今回引退エキシビションマッチで対戦する寺戸伸近さんとは過去に2度闘い、1勝1敗に終わっています。
「09年1月、初めて経験したワンデートーナメント決勝で寺戸さんと初めて闘い、僕はプロ初黒星を喫しました。あの敗北は本当にいい勉強になりましたね。11年4月、(飛びヒザ蹴りによってKO勝ちすることができた)寺戸さんとの2度目の対決も印象に残っています。その後24歳で僕が上京してからは同じ道場(KSS健生館)で一緒に練習し、セコンドにも付いていただいた。パートナーとしてお互い高め合う仲だったと思います。今回のエキシは久保坂館長の方から提案していただきました」
──思い出がいっぱい詰まったライバルであり、パートナーでもあった寺戸さんと最後に闘えるなんて最高じゃないですか。
「ただ、道場を離れてから全く動いていないので、体はもう見せられるものではない(苦笑)。だから今回も悟空のオレンジの道衣を着てリングに上がります。当日になったら、リアル悟空にしっかりとなりきりたい」
インタビュー スポーツライター 布施鋼治