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2020年9月10日(木)東京・渋谷O-EASTにて、『ROAD to ONE 3rd:TOKYO FIGHT NIGHT』が開催される。また、大会は19時よりABEMAで世界同時生中継されるほか、有観客での開催が予定されている。
その大会のメインイベントで、第2代&第6代ONE世界ライト級王者の青木真也(Evolve MMA)が、江藤公洋(和術慧舟會HEARTS)とONEライト級(※-77kg)で対戦する。
試合に先駆けて公開された動画で青木は、「俺は自分の身に起こったネガティブなことから、ポジティブなことから、全部、出してる。『ふざけんじゃねえよ』と思いますよ。お前ら結局、必死に生きてねぇだろう? 俺を語るだけのものとか、そんだけのことをやってんのかって、強く感じますよ」と、メディアも含め、自身を取り巻く環境について、憤りをあらわにしている。
「全部捨てた上でやっている。何よりも優先順位が上で、この『表現』『芸事』、銭・金より、自分で創るものにこだわりを持ってやっている」という青木にとって、優先順位は、「青木真也が青木真也らしくいる」こと。そのためには格闘技が最優先すべきことであることを、青木は理解している。そして何より、自身が格闘技が好きであることも。しかし、その思いと、世間に表現したいことは「違う」とも言う。
その解離を、あるいはその結実を9月10日、格闘技ファンは、ライブで見ることが出来る。「青木真也の格闘技戦」とは何か。会見後に話を聞いた。
“人の感情を揺さぶるもの”でありたい
――対戦相手が決まったのはいつくらいでしたか?
「結局、先週(※会見は8月17日)とかじゃなかったかな」
――選択肢はいくつかあったのでしょうか。
「はい。『ONE(Championship契約)の選手でやってくれ』という」
――他の選択肢の中に、会見で言った「いま何をしたら、どこで試合をしたらいいのかは、僕自身が一番見えていますから、それが状況的に出来ないなかで、いまあるベストではあると思いますけど……」というジレンマも感じました。
「今の日本の格闘技を考えたら、じゃあ、RIZINでやるとか、RIZINの選手とやるとか、そのほうが話題になると思うんですよ。それがなんかもうできないというのは嫌になってしまう部分はあります。それは、面白みというか、僕がやりたい格闘技、日本の格闘技みたいなものができないつらさはあります」
――青木選手が考える「日本でやる格闘技」というのは、どういうことでしょう?
「やっぱ物語性があって、情緒があって、ストーリーがあるような格闘技がやりたいなというのはあります」
――それは作品として、日本のファンと価値を共有できるようなものでしょうか。
「そう、共有できるようなものがある。ただ試合をして、どっちが強いでしょう? みたいなものをやりたいわけじゃないから。それができないつらさというのは常々感じています」
――「どっちが強い」の勝負から決して逃げずに拘り、その上でそれだけではないものを、ということだと理解しています。青木選手は「格闘技は残る」と言って、自分も疫病があろうが、「格闘技」自体は残ると考えていますが、それとその時代に生きる選手や興行が生き残るかどうかは別で、極端に言えば衣食住が足りた上での余興と考えると、どうしたら他者からその試合が必要とされるのかと。
「歴史があって、その中でも格闘技の自分のやっている物語みたいなものがあって、それが“人の感情を揺さぶるもの”でありたい。いま、表現の幅が狭くなっているから、何をやっちゃいけない、どれしか駄目、みたいなものになったときに、そのやり方じゃ俺はできないとなる」
――日々、枠を超えることが芸術だと。
「枠を超える。やっぱり表現だから、単純な“善悪を越えたところ”の表現をしたい。死ぬまでやってやるよ、という覚悟を持ったものがやりたい」
――そんな中で、なかなか試合が動かなくて、ONE Championshipの本戦も再開されましたが、いまはバンコク大会でタイ在住選手が中心となっています。秋のシンガポール大会でどのように海外選手が入って来るか、という状況下で、今回のように日本で試合機会を作るというのは、青木選手ありきの大会だとも思います。
「ありがたいですよね。だから……格闘技好きだからやってるというところだけはあって……さっき言った気持ちの上がらなさはありますよ。自分がやりたい表現、自分が創りたいものができないというのは。でも、そこを乗り越えて面白いものを創りたいなとは思っています」
――そういうテーマは、練習の中にも入ってくるんですか? 新世代のグラップラーたちとも積極的に交わったり、練習体系も変化させているようですが。
「いや、もう格闘技は好きだから、ずっと毎日練習してるだけで。それをもう10年、20年近くずっと淡々と。自分が面白いこと、格闘技を探求することと、自分がやる物語の表現とは、またちょっと違う。それを表に出すという、世間と対峙することとは」
――なるほど。これまでも画面越しに表現をしてきたわけですけど、今回は無観客ではなく有観客であることは感情が変わりますか。
「まあでも、フルで入らないとうまく創れないですよね」
――さっき言ったRIZINの中では、青木選手はnoteの中で、1日目を終えた段階で「『真剣勝負』をしていたのは矢地選手だけだった」と記していましたね。ロータス世田谷でその取り組みも見て来たとは思いますが……。
「矢地は『真剣勝負』だったね。あれはいい試合だったと思う。存在を賭けたし、結局自分の存在を賭けるというのが『真剣勝負』だから。それはやっぱりリスクを背負っていることで、気持ちが乗りましたね」
――その意味では、すべてを曝け出している青木選手も、今回の試合で全存在を賭けて戦うことになる?
「俺の物語としてはそうなり得るけど、なかなか創りづらいかもな……」
――自分だけでは?
「というか、なんだろう。さっきの話に戻りますが、僕の場合、別に競技をやりたいわけじゃないんだよね、極論は」
――対戦相手について会見では語りませんでしたが、決して日本人選手の中で、簡単に見れる相手ではないと思います。
「そういうのも含めて、一生懸命やります、けど……って感じかな」