2020年8月10日、横浜ぴあアリーナMMで開催される「RIZIN.23」のメインで「RIZINバンタム級王座決定戦」として、朝倉海(トライフォース赤坂)が、扇久保博正(パラエストラ松戸)と対戦する。
4日の公開練習で海は、2分1Rのシャドーを披露。オーソドックス構えから時折スイッチを見せながら、外に開かず内側を鋭く突くシャープなパンチを見せている。息を弾ませていたのは、バンタム級用に新たに作り直した身体を減量させているためだ。
大晦日、マネル・ケイプとのタイトルマッチに敗れ、パワー差を感じた。コロナ禍のなか、自身を見つめ直し、様々な改善に取り組んできたという。
「見れる試合映像はすべて見た。強い扇久保選手に勝つことが意味のあること」と、現修斗世界フライ級王者である扇久保を最大限評価しながらも、ベルトを手にした、その先に見据えるものがある。
試合を直前に控えた、朝倉海に訊いた。
“本気の試合”を楽しみにしていて下さい
──試合が迫ってきましたが、現在の心境はいかがですか。
「いよいよ来たなという感じで、すごく調整もうまく行っていて完全に仕上がっているので、ほんとうに楽しみだなという感じです」
──頬のこけ具合やシャドーでの息の上がり具合を見ると、今回は減量がいつもより若干厳しそうに感じます。
「減量は順調なんですけど、バンタム級でいつもはあまり減量をせずに試合に臨んでいたんですけど、今回はしっかり減量をしているので、その辺はちょっとキツいという感じですね」
──ということは、いったん身体を大きくしてからバンタムで戦う身体にしていると。
「そうですね。大きくして身体を作った状態から落としているので、いつもよりキツさはありますけど、逆に当日が楽しみですね」
──フィジカルトレーニングも含めて身体を作り直してきたかと思いますが、どんなテーマを持って鍛えてきたのでしょうか。
「マネル・ケイプとやったときに、パワーの差を少し感じたので、やっぱりしっかりバンタムの身体を作って、パワーアップさせようという思いがあって、去年の大晦日の試合が終わってすぐに取り組みました」
──公開練習のシャドーを拝見しましたが、少し構えに変化があったように感じました。若干、手の位置が高く、スタンスも少しだけ狭くなったように見えました。
「そうですね。少し変わったと思います。パンチをもらわないように、無駄な被弾を防ぐように、ちょっとスタイルを変えましたね」
──トライフォース赤坂にはRIZIN出場が決まった白川陸斗選手らも合流し、充実した練習が出来ているようですが、出稽古ではどのような選手と練習してきていますか。
「基本的にトライフォース赤坂でいい練習が出来ているので、そこでの練習がメインで、あとは出稽古は変わらず、和術慧舟會HEARTS、それにALLIANCEによく行っていましたね」
──高阪剛さんのALLIANCEというと、元UFCの堀江圭功選手や藤井伸樹選手……ほかにはどんな選手と練習をされてきましたか。
「堀江選手、それに上久保(周哉)くんたちと練習してきましたね」
──ONEで活躍中の上久保選手のレスリングと柔術、“永久寝技地獄”ともやりあって来たのですね。
「そうですね。やってきましたね」
──扇久保選手はグラップリング能力も高い選手ですが、寝技での攻防もイメージしていますか。
「もちろんです。僕も今まで試合では見せてないですけど、(寝技が)苦手なわけじゃなくて、全然勝負できると思っているので、そこも注目してもらえたらなと。まぁ、その展開にならないかもしれないですけど」
──その展開にならないかもしれないけど、準備は出来ていると。ところで、今回の大会ですが、観客ありの試合でも歓声よりは拍手が多くなります。セコンドの声がこれまでより聴こえる展開は、海選手にとっては未来選手の声がより聴こえていいという点もあると考えますか。
「(歓声があっても)セコンドの声はいつも聴こえているんですよね。だからそんなに変わらないですけど……やっぱり歓声が少なかったとしても、僕は無観客よりお客さんがいる方がいいですね」
──今回はご自身のどういった部分に注目してほしいですか?
「最後の試合が大晦日で負けた状態で終わっていたので、そこから自分の弱い所を見つめ直して、練習内容も変えてきました。本当に成長して強くなったので、その変わった部分、進化した部分を見て欲しいと思います」
──海選手は前戦で、強打を磨いてきたゆえにパンチに傾いていたと振り返っていましたが、今回はMMAとして、より全局面を想定した動きを意識してきたのでしょうか。
「もちろんそうですね。そこが前回の反省点のひとつだったので、戦い方、スタイルを見直してきましたね」
──ボクシング、キック、レスリング、デフェンスも含めたグラウンド、あえて言うと、どの部分が最も進化していますか。
「どれも、ですね。デフェンスがすごく上手くなりましたし、“確実に当てる技術”も高まりました」
──今回のタイトルマッチに向け、扇久保選手の試合は、RIZINの試合のみならず修斗時代、VTJ、TUF含め、全て研究したのでしょうか。またコーナーの未来選手も見たのでしょうか。
「見れる試合映像はすべて見ました。兄貴は兄貴で見て分析してくれたと思うんですけど、僕個人としても何度も見て、すごく研究しました」
──その際、未来選手の扇久保選手に対する評価はどのようなものでしたか。
「トータルで、立ちでも寝技でもソツなくこなす選手。ただ、めちゃくちゃ突出している何かを持っているかと言ったらそうでもない選手かな、という印象ですかね」
──相手の弱点や癖などはもう見つけましたか。
「バッチリです。イメージトレーニングは何度もしていて、いろんなパターンで勝つシミュレーションは出来ていますね」
──組み技の強さが声高に言われる扇久保選手ですが、その際の動き、さらにスタンドでも独特の蹴り技を持っています。極真出身の扇久保選手との距離設定も含め、相手の蹴りをどのように評価していますか。
「前足を使ってきますよね。あれをデフェンスでも使ってくることも分かっています。でもリーチ差もあるし、あまり自分の動きに関係ないですね。攻めの蹴りでも全然、当たらないと思います」
──海選手と扇久保選手の試合が、THE OUTSIDERからの叩き上げと修斗のエリートチャンピオンという見方があることに対し、むしろ扇久保選手は、岩手から鞄ひとつで上京し、ボロアパートに住んでアマチュアからやってきた自分の方が叩き上げじゃないかと言っていました。そういう構図について、海選手は思うところはありますか。
「どういう経歴があったとかは興味ないですね。扇久保選手が苦労してきたこともどうでもいいかなと。それは僕のこれまでの経歴も含めて。それよりもいまの扇久保選手の実力の評価が高いですし、僕自身も強いと思っているので、その扇久保選手に勝つことが、すごく意味のあることだなと考えています」
──なるほど。試合を重ねるごとに周囲からの期待も大きくなっていると思いますが、プレッシャーなどは感じますか。
「プレッシャーは全然感じてないです。でもやっぱり期待されてくれている分、面白い試合は見せたいなという思いは強くなっています」
──この試合を勝つことでベルトを手に入れることが出来ます。その先に繋げたい目標は?
「それはやっぱり……堀口恭司選手との試合ですね。チャンピオンになって、もう一度戦う」
──痺れますね。「もう一度、堀口選手と」という思いは扇久保選手も言っていました。王者としてひきずり出すと。ベルトを巻くのは一人です。最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
「本当に久しぶりの試合で、ずっと試合が出来なかったんですけど、YouTubeを通してほかのいろんな格闘家とスパーリングしたりというのはあったんですけど、やっぱり僕の本気の戦いはRIZINの試合で見せるので、“本気の試合”を楽しみにしていて下さい」
【写真】発売中の『ゴング格闘技』では、扇久保博正、朝倉海のロングインタビューに加え、堀口恭司、マネル・ケイプ、ビクター・ヘンリーが扇久保vs.朝倉海を予想!