MMA
インタビュー

【UFC】イリー・プロハースカ独占インタビュー「RIZINファイターがUFCでも活躍することで、日本に恩返ししたい」

2020/06/22 07:06
 前RIZINライトヘビー級王者イリー・プロハースカ(27・チェコ)が、2020年7月11日(日本時間12日)に、アブダビ・ヤス島のファイトアイランドで開催される『UFC251』でUFCデビュー戦に臨む。  対するは、UFC世界ライトヘビー級ランキング7位のヴォルカン・オーズデミア(30・スイス)。前RIZINバンタム級王者のマネル・ケイプ(アンゴラ)も8月15日(日本時間16日)の『UFC 252』でフライ級9位のホジェリオ・ボントリン(ブラジル)との試合が発表されたが、プロハースカの相手オーズデミアは、UFCでダニエル・コーミエー、アンソニー・スミス、ドミニク・レイエスといった超強豪にしか敗れておらず、現在2連勝中の上位ランカー。しかも15勝のうち12勝がKO勝利という強力ストライカーだ。 【写真】2019年12月の釜山大会で、当時12連勝中だったアレクサンダル・ラキッチを判定で下したヴォルカン・オーズデミア(左)。(C)Jeff Bottari/Zuffa LLC  米国の名門ハード・ノックス365所属のオーズデミアを相手に、コロナ禍のなかチェコで鍛錬を積んできたプロハースカはいかにオクタゴンデビュー戦に臨むのか。  ウィーン寄り、チェコ・モラヴィア地方のスヴィタヴァ川とスヴラトゥカ川の合流点に位置するブルノをトレーニングの拠点とするプロハースカをキャッチすると、『武士道』をこよなく愛するRIZIN王者は、日本のファンに熱いメッセージを送ってくれた。 ヴォルカンは僕のファイトスタイルに合っている ──イリー、昨年末の大晦日の日本でのCB・ダラウェイ戦以来、久しぶりだね。いよいよ今回、2020年7月11日(日本時間12日)に、アブダビ・ヤス島でのファイトアイランドにて開催される『UFC251』で、UFCデビューが決定し、いきなりライトヘビー級ランキング7位のヴォルカン・オーズデミア(スイス)と対戦することになって、どのように感じているかな。 「ヴォルカンは素晴らしい選手だよ。タフガイでストライカー、僕のファイトスタイルに合っていると思うよ。対戦相手として申し分ない。しっかりと準備して彼との対戦に備えるつもりだ。ヴォルカンとの対戦をとても楽しみにしているんだ」 ──それにしてもオクタゴンデビューでオーズデミアとは、UFCも厳しい相手をぶつけてきたものだ。君の戦績もMMA26勝3敗1分けとすごいけど、17勝4敗のオーズデミアはこれまでUFCでダニエル・コーミエー、アンソニー・スミス、ドミニク・レイエスといった強豪にしか敗れておらず、現在はイリル・ラテフィ、アレクサンダー・ラキッチ相手に2連勝中、しかも15勝のうち12勝がKO勝利というストライカーだ。どんな印象を持っているかな。 【写真】2018年1月「UFC220」でライトヘビー級王者ダニエル・コーミエに挑戦したオーズデミア。(C)Josh Hedges/Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images 「ヴォルカンが過去に誰に敗れたか、ということには関心が無いんだ。彼は僕と同じくキックボクシングがバックボーンで、パンチラッシュが凄まじく、ロー・ハイとキックも巧みだ。下がりながらでも倒せるパンチを持っているし、DC戦で見せたようにテイクダウンデフェンスも強い。タフな相手だよ。僕はただ、自分自身に集中するのみさ。自分のテクニック、スピード、精緻な動きを武器に、この大事なUFCのデビュー戦で、全力を尽くして勝利を勝ち獲りたいと思っているよ」 ──たしかにあのパンチラッシュの嵐にオヴィンス・サンプルーもミーシャ・サークノフもジミ・マヌワも巻き込まれた。オーズデミアはキック出身だけど変則的な粗いパンチも持っている。あの頭を下げた連打は脅威だけど、君には跳びヒザ蹴りもあるね。 「彼は粗いパンチもシャープな左フックも持っている。跳びヒザは……まあ、見てのお楽しみだ(笑)」 チェコは日本のようにマスクを着用することを厭わなかった ──ところで、君が住むチェコは、3月12日に非常事態宣言が出されて外出禁止になったそうだね。欧州のなかでも早い措置だったようだけど、練習に支障はきたさなかったかな。 「ロックダウンは僕には影響なかったよ。新型コロナにより渡航制限が出ていたから(※6月15日の時点でチェコは26カ国との無制限の行き来を認めるも、ベルギー、ポルトガル、スウェーデン、イギリスからの渡航者の入国禁止は継続)、チェコ内でのトレーニングがメインになったけど、チェコ国内では移動できたから、首都プラハや他の都市の素晴らしいファイターやストライカー達と練習を重ねてきたよ。スパーリングだけじゃなく“どう勝つのか? 戦略は?”と自分自身に問うことが出来た。  それに自分にどのようなトレーニングが必要か理解している。コーチやスパーリングパートナーがいなくても、己の肉体を知り、鼓動に耳を傾け、大地を感じるといった一人で出来る、自己と向き合えるトレーニングがもともと好きだったからね。ロックダウン中はより自己と向き合きあえる機会になったから、しっかりトレーニングをすることが出来たよ。  あと、コロナに関してはチェコは日本の人々のようにマスクを着用することを嫌わなかった。他の欧州の国々がマスクを拒否していた早い時期に、チェコはマスクを国を挙げて増産していたんだ。使い捨てマスクが足りなかったから、家のミシンでみんなが手作りして配ったりしてね。それで他の欧州の国より犠牲者が少ないのだと思うよ」 ──なるほど。5月17日に緊急事態宣言が解除されてから、山や川でトレーニングしているイリーの姿を見ることができたよ。サーフボード上のヨガも興味深かった。 「送った写真は、友人がスタンドアップパドルのボードを持っていて、SUPヨガに誘ってくれたときのもの。 自分の身体にもっとストレッチが必要だと感じた時は、よくヨガをするよ。サーフボード上ではとてもいい体幹トレーニングになるし、インナーマッスルを鍛えることが出来る。僕は自然の中でのトレーニングが大好きなんだ。美しい景色の中、新鮮な空気を取り入れ、精神も肉体もリフレッシュする。僕が東洋の文化にも触れていることは知っているよね? 山登りをするのにもお茶のセットをバックパックに入れて持っていって、頂上で瞑想するんだ。とてもリラックスできる。トレーニングと呼吸、瞑想はほんとうに身体にとって、戦うことにも効果を発揮しているよ」 “サンカイ(山海)の心”を持って戦う ──そういえば君は『武士道』を何度も読み返しているようだね。 「ミヤモト・ムサシが著したすべての巻が僕にとって非常に重要なものだ。『今日は昨日の自分に勝つために』『明日は自分と並ぶものに勝つために』『次は自分より上手な者に勝つために』という言葉は、今でもずっと実践している。特に『常の身を戦場の身に』と説く水の巻が好きなんだ。今回の試合もムサシの『相手があなたを山のようだと考えるならば、あなたは海のごとく攻めよ。そして彼があなたを海のようだと考えるならば、あなたは山のごとく攻めねばならぬ』という“サンカイ(山海)の心”を持って戦うよ」 ──日本人以上に『武士道』を読み込んでいるようだ(笑)。さきほど日本とチェコの相似点について教えてくれたけど、新渡戸稲造は実際、プラハに行っているし、現在、原爆ドームと呼ばれる広島県物産陳列館は、チェコ人の建築家ヤン・レッツェルが設計したものだ。RIZINに参戦していた君のなかに日本の心が宿っていることを嬉しく思うよ。 「ああ、そういえば……僕の国は小さいけどとても美しい国で、僕が生まれたのはブルノ近郊の小さな村なんだ。そこには桜の木もある。ヤン・レッツェルはチェコ本国ではあまり知られていなかったけど、近年、ブルノにヤン・レッツェルの墓があることが分かったんだ。それはジンジャ(神社)のトリイ(鳥居)を模した墓石で、レッツェルの初期のデザインだったんだ」 ──……1923年9月1日の関東大震災ではレッツェルも被災し全財産を失い、設計した多くの建物も焼失してしまった。でも帰国した彼の心の中には、日本への思いがあったんだね。 「自身の墓石として描いたんだ。それは間違いないと思うよ」 [nextpage] RIZINの誰もが強豪だった。特に印象深いのは... ──イリー自身も、2015年12月から2019年12月まで4年間、RIZINに参戦していたね。RIZINはリングだったけどUFCはケージで、ルールもユニファイドルールとなる。どのようにアジャストしようとしているのかな。 「RIZINに来る前はケージで戦っていたから問題ないよ。僕にとっての大きな違いはグラウンドになると考えている。ケージ際での攻防やヒジ打ちがあるとよりハードになる。固定できることでエネルギーのロスが減るんだ。RIZINでは同じ衝撃を与えるために反動をつけなければいけなかった。ケージだとエネルギーをロスなく伝えることが出来る。僕のファイトスタイルにも合っていると思うよ。  いずれにしても、RIZINでの素晴らしい経験を踏まえながら、一から仕切り直すつもりでUFCに向かいたいと思っている。なぜなら、自己反省をすれば、RIZINの時はちょっとスロースターター過ぎたと思うから。UFCでは序盤からペースを握られないように、マットに立った瞬間にスイッチが入るようにしないといけない」 ──イリーにとってRIZINでの経験は、UFCでどのように活きるだろうか。 「RIZINでの全てのファイトがとても貴重なものだったよ。RIZINで僕は“生徒”だった。RIZINで多くのことを学んだんだ。サトシ・イシイ(KSW、PFL参戦中)、ワジム・ネムコフ(Bellator4連勝中)、フジタ(藤田和之)、カール・アルブレックソン(Bellator参戦中)、ジェイク・ヒューン(RIZIN3連勝中)、ブランドン・ホールジー(Bellator&PFL)、ファビオ・マルドナド(元UFC)、CB・ダラウェイ(元UFC)……誰もが強豪だった。お陰で『世界のどの選手とでも戦える』と自信をつけることが出来た。何より、タイトル戦も含め、2度戦ったキング・モーとの試合が忘れられない。  2015年の年末には3日で3試合を戦い、モーに敗れた。彼にリヴェンジするために多くのことを学んだし、2019年にモーに勝利しベルトを巻くことができた。最も印象深い試合だよ。  そして、RIZINのMr.サカキバラ(榊原信行CEO)とMr.カシワギ(柏木信吾・渉外担当)、RIZINスタッフのみんなに心より感謝したい。僕に素晴らしいチャンスと成長する機会を与えてくれたし、戦うべき相手がいなくなったいま、快くUFCに送り出してくれた。そして、応援してくれたファンの皆さん、アリガトウゴザイマシタ。ほんとうにすべてのRIZINでのファイトが僕を成長させてくれました」 UFCと大学の2度の試験をクリアしなければ…(笑) ──UFCでの目標を教えてほしい。 「まずはUFCのデビュー戦に勝つこと。そしてタイトルを目指す(※現ライトヘビー級王者はジョン・ジョーンズ)。すべてのファイトに向けて、自分の肉体と精神を鍛え、熟達した“マーシャルアーツ”を皆さんにお見せできればと考えているよ。  それに実は……僕はまだ学生なんだ。チェコのカレッジのスポーツアカデミーで学んでいる。ただ、忙しくてなかなか勉強する時間が取れなくて、カレッジの先生たちが配慮してくれて、『試験は試合後でいい』と言ってくれて、とても助かっているよ。つまり、僕はUFCと大学の2度の試験をクリアしなければいけない(笑)」 ──学生!? 君はもしかしたら世界最強の大学生かもしれないね(笑)。ところで、地元で君はチャリティー活動にも積極的に取り組んでいるようだね。自転車をプレゼントしている写真を見たよ。 「地元の病院の小児病棟で難病と闘う子供たちが少しでも笑顔になってもらえるよう、プレゼントを持って慰問したり、寄付をしているんだ。所属するJetsaam Gym Brnoの皆を始め、ファイターの自分が前に出ることによりメディアでも取り上げられ、寄付に賛同してくれる人々も現れ始めた。  Facebookに投稿したのは、最近、18歳の難病の寝たきりの青年のために、外に出られるような特注のリカベント(電動自転車)のチャリティーに参加したときのものだよ。僕も多くの人に支えられて夢を実現させることが出来た。だから僕自身も子供たちに少しでも夢を与えられるように活動していきたいんだ。  病院の中で寝たきりの彼が、外の世界を自転車で見て回ることが出来るんだ。とても喜んでくれて嬉しかったし、僕にとっても力となったよ」 ──良いことをしたね。君の人柄を感じるよ。最後に、日本のファンにメッセージをお願いできるかな。 「もちろん。自分にとって日本の『武士道』はとても大切なものです。子供のころは感情に任せた暴れん坊の少年でした。でも『武士道』と出会ってから精神の大切さ、自分自身を制することの大切さを知ることが出来ました。このような教えを与えてくれた日本と、応援してくれている日本のファンの皆さんに、心より感謝しています。  これからはUFCで戦いますが、RIZIN出身のファイターがUFCでも活躍することで、RIZINのスタッフの方々、日本のRIZINファンの皆さまに恩返しが出来ればと思っています。私はこれからも戦います。是非これからも見守ってください。応援をよろしくお願いします!」
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