プロMMAデビューからわずか3試合。日本の格闘技界のスターダムに一気に駆け上がった平田樹(K-Clann)。
2019年6月のONE Championshipデビュー戦で、アンジェリーナ・サバナル(フィリピン)を僅か2分59秒、アメリカーナで極めると、大抜擢された10月の日本大会で、ONEの実力者でスター選手のリカ・イシゲに2R 腕十字で一本勝ち。2020年2月のナイロン・クローリー戦では、打撃でもグラウンドでも目まぐるしい攻防の末、“ゾーン”に入った平田が3R、TKO勝利を決めた。
プロになって間もない20歳の平田が、2R後に見せた“勝利の舞い”。これには、世界中の格闘技ファンが度肝を抜かれた。コロナ収束後に再開したONEで、最もその活躍が期待される一人。平田に電話取材した。
コロナ禍で多くの格闘技選手が私生活や練習環境の変化を強いられているが、平田はむしろ充実した毎日を送っているという。
「出かけられない不自由さはあるけど、ストレスはありません。家族が食卓を囲む機会が増えたことが嬉しい。この前は私と兄で回鍋肉(ホイコウロー)を作ったし、家族団らんでよく会話をしています。自分の試合が先になってしまったのはマイナスだけど、ちゃんと練習をして準備をしています。今はミット打ちやシャドウに加えてフィジカル・コンディショニングを中心に。対戦相手の研究はONEのアプリやSNSの動画を見て、戦うイメージを作っていますね」と“リアル人造人間18号”は語る。
その対戦候補として、海外では、ムエタイとキックボクシングの立ち技部門を制し、MMA(総合格闘技)に挑戦中のONE女子四天王の一人、スタンプ・フェアテックス(タイ)の名前が挙がっており、スタンプ自身も「ヒラタ・イツキ戦の準備はできている。全力でぶつかり合うだろう」と語っている。
その事について平田に尋ねると、「もし自分がスタンプと戦うなら、今すぐに勝てるとは言い切れないです。でも、彼女の打撃を掻い潜ってグラウンドに持ち込むことができれば、勝機はあります。(IGライブで)内藤大樹選手に“ローキックから崩す”とアドバイスを貰いましたが、ムエタイをやっている人なのでその通りだと思いました。(内藤の所属ジム「BELLWOOD」がある)愛知に行って、練習したいです」と、既にスタンプ戦を意識し準備している様子だ。
これほどの注目を集める平田だが、発表された公式ランキングにその名前は入っていない。
▼ONE女子アトム級(※2020年4月27日時点)世界王者|アンジェラ・リー(シンガポール)1. デニス・ ザンボアンガ(フィリピン)2. メン・ボー(中国)3. リン・ホーチン(中国)4. 山口芽生(日本)5. ジナ・イニオン(フィリピン)
「まだ3戦しかしていないので。でも、将来的には3位以内に入りたい。だから上位ランカーと試合をやって、自分の実力を知りたい。最近は(ランキング2位の)メン・ボー選手の映像をよく観ています。彼女は打撃も寝技も強い。もし戦うなら、お互い打ち合う展開になると思いますね」と、MMA4連勝中、ONE女子アトム級2位でローラ・バリンを1R TKOに下し、元Krush女子フライ級王者メロニー・ヘウヘスにもMMAで勝利している中国人ファイターの名前を挙げた。
そして、女子アトム級の頂点に君臨する絶対王者アンジェラ・リー(米国/シンガポール)については、「アンジェラはこの階級で断トツに強い。次は、デニス・ザンボアンガ(フィリピン)がタイトルに挑戦すると思うけど、アンジェラが勝つと思う。仮にスタンプとやっても、寝技でアンジェラが勝つ。アンジェラは寝技も打撃もできるし、体格もフィジカルも強い」と、女王の強さを冷静に分析する。
その一方で、もしアンジェラと“五番勝負”が実現したらと尋ねると、「自分とアンジェラが5回戦ったら、1回は勝てるかも。その時は作戦を練って、最後の最後で勝つ。勝ちたいです」と、強い野心をのぞかせた。
格闘家としての理想の姿は、よりトータルファイターになることだという。
「デビュー戦よりは打撃が上達したと思います。でも、まだ柔道の部分が多すぎる。もっと“総合格闘技”ができるようになりたい。全部が出来ないと。この前の試合はレスリングのタックルが出来たけど、もっと色々な競技の技術を吸収して完成度を上げたいです。そして、アンジェラ・リー、ション・ジンナン、スタンプのような“男勝り”な戦いを見せて、今まで見た事も無いような女子の日本人選手になりたいです」
MMAを本格的に始めてから一気に“グローバルステージ”のONEで活躍する20歳の平田。その芽はまだ柔らかく、大輪を咲かせる可能性は大いにある。
スタンプ「イツキは寝技がうまいけど、リカに勝ったのはリカが小さかったから」
一方、前人未到の三冠を狙うスタンプ・フェアテックス(22)は、「イツキとの試合の準備はできている」と語る。
幼少の頃「いじめ」から抜け出す為にムエタイを始めたスタンプ。リッチ・フランクリンがホストを務める「ONEウォリアーシリーズ(OWS)」に出場し、タイの女の子の人生は激変した。
フランクリンはスタンプとの出会いを「ダイヤモンドを見つけた」と称賛し、スタンプはONE本戦でその元UFCファイターの言葉が正しいことを証明した。
愛くるしい笑顔とアグレッシブなファイトスタイル。入場時は“スタンプダンス”でエンターテナーぶりを発揮し、世界の格闘技ファンの注目を集め、ONEアトム級ムエタイとONEキックボクシングの世界王座に輝いた。
2月の無観客で行われたシンガポール大会でキックボクシングの世界タイトル防衛戦に挑み、ライバルのジャネット・トッド(米国)に敗れたスタンプは「通常のトレーニングを再開して、リングに戻って世界タイトルを(トッドから)取り戻したい」と、リベンジを誓う。
「MMAでの夢も追いかけたい。まだ3種目で世界チャンピオンを目指している」と、前人未到のONEチャンピオンシップ三冠の野望も忘れてはいないという。
MMAではスタンプの対戦相手候補として名前が挙がっているのは、平田樹やインドのレスリングエリートのリトゥ・フォガットだ。平田の印象をスタンプに尋ねると「イツキは寝技がうまい。イシゲ・リカにも勝っているし。でもそれはリカが小さかったから。イツキと自分の試合になれば、すごく嬉しい。私たちは両者とも全力でぶつかり合うだろう」と、ヒラタ戦に大きな興味を寄せている。
現在アトム級の頂点に立つのは、ONEアトム級世界王者のアンジェラ・リー。三冠を目指すスタンプにアンジェラとの対戦について質問を向けると「(アンジェラと対戦するには)まだ寝技の技術が足りないと分かっている」とし、「リトゥやイツキなら対戦できる。全然問題はない」と、タイトル戦線に向けて一歩リードしていることをアピールした。
そのスタンプは現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにバンコクにロックダウン(都市封鎖)が発令されて以来、タイ中部ラヨーン県で家族と共に過ごしている。この期間中、交際中のONEムエタイ世界フライ級王者のロッタン・ジットムアンノンや、ムエタイ選手の弟のショウグンと共にトレーニングをしているという。
果たして平田樹vs.スタンプ・フェアテックスは実現するか。本誌の取材に平田は「早くやりそうな気がしています」と語っている。