2019年10月のONE Championship日本大会において修斗ブラジル王者でUFC参戦経験もあるエルナニ・ペルペトゥオを判定で下した“野生獣”手塚裕之(ハイブリッドレスリング山田道場/TGFC)。
彼の朝は農作業から始まる。地元栃木で父親と家業である農業をしながら、MMA(総合格闘技)の試合に向けてのトレーニングも欠かさない。農業と格闘家、両方を続ける秘訣は「要領よくこなし、集中して質を上げる」ことだという。
自然に囲まれた栃木県塩谷町の山村に育った手塚は、他の格闘家には見られない、農家と格闘家の二足の草鞋を履いて、強さを獲得している。「筋肉と米は裏切らない!!」をモットーに、サプリメントは一切摂らず「極上の米に極上の卵を乗っけて納豆つけたらスーパーバランス栄養食。筋肉をつけたければタンパク質ではなく炭水化物だよ」と自身の身体を例に「肉体の機能美」を追求。
「“生物基準”で強くなりたい。一番はフィジカルです」と公言し、坂道で軽トラックを押す・田んぼを走る・川の流れと逆に泳ぐ、裸で登山などの特訓でマッチョな身体を作り上げている。SNSでは、「皆マスクを買うことには必死になるけど、自分の免疫力を上げることにフォーカスする人はほぼ皆無。俺はコールドトレーニング行いだしてから風邪知らず」とツイートするなど、愛読するヴィム・ホフの『ICE MAN』さながらの「病気にならない体のつくりかた」を実践している。
格闘家になりたいと思ったのは、小学生高学年の頃。単純に「カッコいい」という憧れからだった。中学生になってよく格闘技を見るようになってからは、山本“KID”徳郁、魔裟斗、須藤元気などスーパースター達に魅了されたという。
格闘家のキャリアは18歳から始めたキックボクシングだ。当時は宇都宮まで電車で通っていた。キックボクシングでの初めての試合前は、現在の動じない手塚の様子からは想像つかないが、緊張して一睡もできなかったという。
転機が訪れたのは大学卒業後に米国に農業研修に行ったこと。総合格闘技への憧れがあってUFCが注目を浴びていたことから、本場アメリカで格闘技を学びたいと思っていた手塚に、農業研修という機会が訪れた。
渡米して農業の仕事をしながら格闘技を22歳から2年間続けた。
総合格闘家としての手塚のアマチュアデビューも米国だった。2012年12月に、オレゴンのポートランドで開催された「FCFF - Rumble at the Roseland 68」に出場するも、1R KO負けとほろ苦いアマチュアデビュー戦となった。
米国では、つまらない試合をするとブーイングの嵐。派手なKOをすればスター扱いをしてくれる。アマチュアでも試合会場で写真や握手を求められる。そのような環境のなかで試合を積み重ねた結果、手塚はエキサイティングなファイターになりたいと強く思うようになった。2013年3月と5月にいずれも米国FCFFで一本勝ち。7月にはTKO負けを喫している。
日本に戻った手塚は、地元栃木で中学校の体育教師になる。教師をしながら、地元の道場でトレーニングも続けていたが、教職を辞め、再度アメリカに渡る。やはり格闘技で生きていきたい、そう感じたからだ。2015年6月のFCFFで再起の一本勝ちをマークし、FCFFでは3勝2敗と勝ち越した。
米国での試合のビデオをPANCRASEに送った手塚は、2015年11月にPANCRASEでプロデビューを果たした。25歳だった。手塚は日本のお客さんに喜んでもらえる試合ができるだろうかと緊張したという。結果、1戦目と2戦目ではともにわずか10秒でのKO勝利。2019年6月30日の「PANCRASE 306」では高木健太に1R、リアネイキドチョークで一本勝ちし、ウェルター級暫定王者となった。その後のONEでのデビュー戦勝利は前述の通りだ。
ONEウェルター級(※83.9kg)では、王者のキャアムラン・アバソフ(キルギス)を筆頭に、元王者ゼバスチャン・ カデスタム(スウェーデン)、ジェームズ・ナカシマ(米国)、タイラー・マグワイア(米国)、ルイス・サントス(ブラジル)、アギラン・ターニ(マレーシア)、そして日本勢でも岡見勇信、秋山成勲ら強豪が名を連ねる。
アバソフが持つベルトが目標という手塚は、岡見と秋山が激闘を繰り広げたターニとの試合を望み、「自分の実力をはかることができる相手」と語った。
なお、手塚は5月2日(土)に、“怪物くん”こと鈴木博昭と『ONEアスリート コラボIGライブ』(インスタライブ)に出演し、対談することが決定している。
──ONE Championshipのウェルター級の中で一番気になっている選手は誰ですか。
「一番気になる選手……もちろんチャンピオンであるキャアムラン・アバソフ選手。体もめちゃくちゃ強いし、寝技も強いし手強そうだなと思いますね」
──手塚選手ならアバソフ選手とどのように戦いますか。
「相手が誰であろうと自分の持ち味は、前に出て相手に打撃を効かせて仕留めるパターンなので。テイクダウンされずに自分の打撃で当てていく感じですかね。チャンピオンも打撃がありますからね。打撃でも油断しない、かといって絶対寝技に行かない訳でも無い。自分からでもテイクダウン仕掛けるところも見せたいと思います」
──元王者のゼバスチャン・ カデスタム選手とならどう戦う?
「打撃系だから組みも混ぜていきたいですね。オールラウンドに全局面で色々な技を出して。逃げのタックルとかは決まらないので、もちろん打撃でもしっかりやった所で寝技も混ぜてやりたいなと思います」
──同じウェルター級の秋山成勲選手、岡見勇信選手の印象は?
「秋山選手は自分が小さい頃からテレビで見ていた選手ですし、体もすごいし、今でも強い。この前KOで勝ちましたしね(※2月にシェリフ・モハメドに1R KO勝ち)。岡見選手は誰に聞いてもヤバイ、強いと聞きますし、頭何個か抜けている選手かなと思います。UFCでもタイトルマッチまで行っていますし。岡見選手は本当に強い選手だと思います」
──王座挑戦までまであと何試合だと予想していますか?
「順当に勝っていけば、あと2、3試合勝てば相応しくなるのかなと思いますね」
──王座を目指す上で次に対戦したい相手は?
「アギラン・ターニ(マレーシア)ですね。ターニは秋山選手に勝利し、岡見選手ともスプリット判定(岡見が勝利)なので、自分の実力をはかることができる相手だと思います」
──手塚選手にとって「最強の格闘家」は?
「デメトリアス・ジョンソンです。DJはどんな相手が来ても対応できる引き出しの多さを持っている、それが究極系だと思います。ストロングポイントがどれだけ高くても穴(弱点)があればどこかで負けてしまうじゃないですか。デメトリアス・ジョンソンが理想じゃないかなと思います」
──最後に手塚からファンの皆さんにひとこと。
「ONEウェルター級アスリートの手塚裕之です。今はコロナウィルスの影響でなかなか試合ができない状況ですが、地方のガレージでしっかりマッスルを鍛え上げているんで、試合が出来るようになったら大暴れします。リスクを背負ってでも勝ちを取りにいく、お客さんを興奮させるような格闘家になりたいと思っています。その準備をしっかりしているので期待していて下さい!『筋肉と米は裏切らない!!』」