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コラム

【1994年4月の格闘技】K-1会場で「あの選手、誰?」から場内を熱狂させる名勝負生んだ吉鷹弘

2020/04/12 23:04
 1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去4月にあった歴史的な試合や出来事を振り返る。16回目は1994年4月30日に東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された『K-1 GRAND PRIX'94~10万ドル争奪格闘技世界最強トーナメント』のワンマッチとして行われ、新たなヒーローが生まれた一戦。 (写真)1R最初の、一発目の右ローが効いたという 第2回のK-1GPで組まれたワンマッチに、格闘技雑誌を読んでいるマニア層はザワついた。この一戦がついに実現するのか、と。  その試合は吉鷹弘(大阪ジム)vsイワン・ヒポリット(オランダ)。吉鷹はシュートボクシングのエースで、後楽園ホールで名勝負を連発。格闘技ファンの間で人気が高まっていた選手だ。吉鷹は事あるごとに「スーパーウェルター級で世界最強のヒポリットと戦いたい」と発言しており、念願かなってK-1の大舞台での実現となったのである。  おそらく、K-1のファン層を考えると代々木第一体育館を埋めた超満員の観衆のほとんどが吉鷹のことを知らなかっただろう。特別試合3分5Rで、なぜこのワンマッチが組まれたのか、その理由を理解している観客は少なかったと思われる。 (写真)吉鷹が当時「世界最強」と認識していたヒポリットはその実力を見せつけた 前日に行われた公開練習と計量。ヒポリットがウェイトの調整に失敗したことは、レオ・デ・スノー(オランダメジロジム。ヒポリットはヨハン・ボスジム)を通して吉鷹の耳に入っていた。そして午後3時、本番の計量を1時間後に控え、ヒポリットは予備計量の秤に乗った。結果は800グラムオーバー。  すぐさまサウナへ直行するヒポリット。それを聞いた吉鷹は「ラッキーですよ。最初、向こうは体重が落ちなかったみたいで72kg契約にしてくれって言われたんですけれど、こっちが断って結局70kg契約ですから。これで僕は、明日は腹を攻めますよ。カウンターに気を付けて“肉を切らせて骨を断つ”これでいきます。向こうは減量で苦しんでいるし、これで運は全部もらいましたから、あとは僕の実力ですよ」と言って笑顔を見せた。 (写真)吉鷹は得意のバックハンドブローを繰り出してヒポリットに逆襲 いつにも増して険しい表情でリングに入った吉鷹。赤コーナーへ仁王立ちのまま相手を待つ。そして赤コーナーからヒポリットが現れ、吉鷹はいよいよ念願だった試合のゴングを迎えた。  ガードを高く上げ、大きく右へ回り込みながら右ローを放つ吉鷹。ヒポリットもすぐに、速いワンツーから右ローへつなげる。しかし、バランスが良い上に鋭い技のキレを持つヒポリットの攻撃に、“あの日本人勝てないな…”という悲観的な雰囲気が漂い始めていた。  そんな場内が大きく沸いたのは3R、ヒポリットがやや攻勢に出て、ブレイクした直後だった。「これが外されたらもうダメですわ」――前日にそう語っていた吉鷹の右アッパーが、初めてクリーンヒットしたのだ。ここぞとばかりに吉鷹はワンツーでヒポリットをロープまで後退させ、ボディブローから組みヒザ、さらにアッパーを追撃。 (写真)最終R、ヒポリットはヒザ蹴りの猛攻を加える。初期のK-1ルールはつかんでの攻撃は無制限 しかしヒポリットも左のダブルを上下に打ち分け、強烈なヒザ蹴りを突き刺した。それでも吉鷹はヒポリットが入ってくるところに右アッパーを合わせ、最後には浅かったが十八番のバックハンドブローまでさく裂させた。一進一退の攻防に「初回KO」と楽観視していたヒポリットサイドもこの頃からにわかに色めき立ち始めた。  場内も「この選手、誰?」との雰囲気から、2人の熱戦に釘付け状態となり、大いにエキサイト。吉鷹に声援が集中する。  続く4回、左ミドルからワンツーをヒットさせた吉鷹は、ガードを固めて前進。バックハンドブローから右フック、アッパーと連打を浴びせる。ヒポリットも下がりながらヒザで応戦するが、吉鷹のロー、右ストレートを追い打ちされた。  そして最終5R、ヒポリットの左ミドルに合わせた吉鷹の右アッパーが直撃。しかし、吉鷹も逆にヒポリットのヒザを顔面に直撃されると攻守逆転。コーナーに詰められてのヒザ、パンチの猛攻にダメージを垣間見せてしまう。それでも果敢に立ち向かう姿を「ヨシタカ」コールが後押しするが、決定打を奪えることなく試合終了。  無差別級トーナメントの迫力に優るとも劣らない熱戦で場内を沸かせた試合は、ヒポリットの判定勝ちで幕を閉じた。 「(ヒポリットは)ムッチャ硬いですよ、スネが」――左足を引きずって控室に戻った吉鷹は、内出血のためにふくらはぎのように腫れあがったスネを指差すと、開口一番そう言って苦笑した。その後、ちょうど隣の控室にいたヒポリットも試合中に右手甲を骨折していたことが判明。勝負はまさに“肉を切らせて骨を断つ”結果となった。 (写真)まるでふくらはぎが前面に出てきたように腫れあがった吉鷹の左スネ 判定で敗れた上に、左足に大きな“お土産”をもらった吉鷹は「くそったれホンマ~、何か負けた気せぇへんわ。でも、あれが世界一やったら近付けない距離じゃないですね。もう1回やり直しますわ。あかんわ」と、再出発を誓った。  結局ヒポリットとの2度目の対戦は実現しなかったが、吉鷹はシュートボクシングのリングで多くの強豪外国人選手たちと拳を交えていき、多くの名勝負を残した。記録にも記憶にも残る格闘家として、いまだ高い人気を誇る格闘家へと成長していった。
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