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インタビュー

【RIZIN】榊原信行CEO独占インタビュー(1)「お金の流れが止まれば、ほんとうに窒息死してしまう」

2020/04/11 11:04
「断腸の思いですが、4月19日の『RIZIN.22』を中止にさせていただきます」──4月2日の会見でRIZINの榊原信行CEOは、新型コロナウイルスの影響による横浜アリーナ大会の中止を発表した。5月17日に予定されていた「RIZIN仙台大会も併せて中止」が決定。「少なくとも4月、5月、6月は大会を開催しません」と2020年の上半期の大会の自粛を発表している。  朝倉未来&海の兄弟をはじめ、マネル・ケイプ、トフィック・ムサエフの2大王者の参戦も予定されていた4月大会。しかし、ケイプは会見の前々日にUFCとの契約を発表していた。  刻一刻と状況が変わるなか、榊原CEOはどんな決断を迫られていたのか。ぎりぎりまで開催が模索されていた大会の中止の経緯、ひっ迫する団体運営、ケイプ離脱、五輪アスリートのスカウティング、そして、急浮上した“真夏の格闘技の祭典”──その真相を榊原CEOに聞いた。 出場を予定していた選手達を金銭的に負担してあげなくてはいけない ――4月2日の会見で榊原信行CEOは、4.19『RIZIN.22』横浜アリーナ大会の中止を発表しました。すでに券売も始まっているなか、中止発表はギリギリまで待った形だったと思うのですが、その経緯を教えていただけますでしょうか。 「いずれにしても、我々としては大会を開催したいということが大前提にありました。朝倉未来選手と朴光哲選手の試合が正式発表はされないまでも、2月の浜松大会でああいう形(リング上で朴の対戦要望を未来、運営が承諾)で成立していたので、チケットの先行予約も非常に好調でした。この春先からの2020年のフジテレビさんの放送枠もいただいていたので、なんとか実現させたいということが第一義にありました。  そんななか、コロナの感染状況は3月の時点で日に日に変わっていました。1週間後のことや明日のことさえ分からないという状況で、それが好転することをずっと期待して、とにかく3月いっぱいは待とうと。3月末時点では、プロ野球も4月24日に開幕をすることを前提に動くことも発表されていて(※6月以降に開幕の見通しに)、4月3日からJリーグも再開予定だった(※J1は5月30日以降再開も未定)。そういったなかで、一足飛びに、我々が先に『中止にします』ということを宣言するよりも、もう少し世の中の趨勢やムードを見て、ギリギリ3月いっぱいまでは考えようという形でした。  それに、ほんとうに経済的なことがとても大きな要因でした。中止にしてすでにチケットを買っていただいている方に返金をして返金手数料も払って、会場費の負担はどうなるのか。K-1も同じようなことで悩んだと思いますが、出場を予定していた選手たちも、中止にしたからといって、そこまでトレーニングをして追い込んだ部分を金銭的に負担してあげないわけにもいかないだろうと。選手たちは試合をして初めてファイトマネーをもらえるんですが、そこまでの準備のための苦労とか、そこに向けてトレーナーを雇っている人たちに対する支払いも発生している。そこも考えてあげなくてはいけない。そういった選手の投資と回収なども総合的に判断をして、4月になってなんとか感染が少し収まってくればいいなという期待を込めて、ギリギリまで様子を見ていたんですが、残念ながら、日に日に状況は悪くなっていた。  3月末でもそういう状況だったので、各券売会社や放送局、スポンサーとも連絡を取り合いながら、断腸の思いでしたが、やめるという決断をしようと。こんな状況だからやめると、言うのは簡単なんですが、全てお金にまつわる話でもあります。たぶんこれは個人事業主で、いろいろなお店を経営されている方も同じで、閉めればいいじゃないかと言われても、閉めた途端に家賃や人件費も払わなくちゃいけない、仕入れのコストも前払いしているものもいっぱいあるだろうし。そこの議論がなされずに、ただ単に自粛しろというのは、ちょっと乱暴かなと思います。海外のように国や行政機関から支援があってのことだったらいいのですが、日本はとてもその部分が曖昧ななか自粛が要請されている。僕らもたぶん、これで横浜大会を開催すると言ったら、K-1と同じように非難を受けることになっただろうと思います」 ――たしかに、開催すれば批判、中止すれば損害という状況のなかで、「自粛」という言葉のもとに業界側に判断の責任を押し付けるのはもはや限界の状態にあったと思います。榊原CEOが、これは厳しいと感じたタイミングはどこにあったでしょうか。 「3月の末になって、海外選手の来日が完全に閉ざされた。日本が外国人の入国拒否を大幅に拡大して、小池百合子都知事が週末の外出自粛をしたあたりですね。雪の降った寒い日曜日の人がいない街の様子も見て……僕らとしてはギブアップをするしかない、と判断しました」 格闘技には公的な資金援助がない ――ちなみに、プランB的に日本人選手だけで開催するということは考えたりはしましたか。 「日本人選手だけでやるという選択肢も考えていなかったわけではないです。あるいは無観客でやるという。でも無観客は……ほんとうにプロ野球とか大相撲を見ていても、お客さんが入っていない中でやる寂しい風景を見ると──選手たちもほんとうに全力で試合をしても──やっぱり人間なので、応援とか熱気がないと迫力に欠けるというか、全く影響が無いはずがない。無観客で相撲や野球のオープン戦をやっていても、そこにアテンションが集まらないじゃないですか。ああいう中で試合をやらせてしまうことには、ほんとうに心が痛い。  やっぱりライブ空間として、選手と観客との間でエネルギーの交換が起きるような、臨場感が生まれるような会場でやってこそ、初めてRIZINのほんとうの姿だと思うんです。その空間が作れない。みんなが怖がりながらマスクをしなくてはいけなくて、思いっきり応援したくても出来ない中途半端な形で、選手もトレーニングが十分には出来ていなくてベストコンディションが整わない。ひょっとしたら感染するんじゃないかという恐れもあるなか、ほんとうに安全を確保できないということが、時間が過ぎる中で明確になってきたんです」 ――RIZINの場合は地上波放送や大手スポンサーもあり、開催自体のハードルが高かったように感じます。 「そうですね。『無観客だったらスポンサーとして関わることが可能だけど、観客を入れてやる大会だったらスポンサーとしての企業名は出せない』という、そういう意見もありました」 ――安倍総理はイベント業界などの損失を税金で補償をすることは難しいと言っていて、実質無利子の融資に加えて、新しい給付金制度を用意するという説明にとどまっている状況です。主催者にとっては、自粛と補償のセットはほんとうに死活問題なので、声を上げていく必要があると感じます。 「スポーツの中でも国が支援をしていたり、公共放送が放映権を年間数十億円単位で購入しているスポーツ、あるいはオリンピック競技で協会があって、毎年国から選手の育成費とか、協会の運営費とかが出ているスポーツ競技と格闘技とは成り立つ仕組みが異なります。選手も最先端の設備が整うナショナルトレーニングセンターや国立スポーツ科学センターを使用できるわけではない。格闘技は、公共的な資金援助が一切なく、ほんとうにファンの人たちや、志のあるスポンサーや放送局や配信会社の人たちから頂いたお金で、自分たちは運営しています。だから、ほんとうに吹けば飛ぶような、脆弱な経営体質でもあります。プロ野球やJリーグは、親会社に大企業がついている。格闘技にはそういったバックボーンが無いので、お金の流れが止まれば、ほんとうにすぐに窒息死してしまう。  僕らのプロダクションを担ってくれている音響や照明や特効、基礎舞台とかをつくってくれる会社なども、大きな会社ではないので、一時的に給付金で“輸血”をするなり、国が融資をして、その代わり一定期間の大会は見合わせてください、ということをほんとうはやるべきじゃないかと思います」 ――これまで飲食店など他の分野が店を開けてきたのと比べると、イベントの中止率は高かったと思います。興行の現場は開催すれば観客が集まることは分かっていても、自粛要請に応じて大会を中止にし、その損失を負った。公益のために自らの利益を犠牲にしてきている団体は多いです。ドイツなどでは文化・芸術・メディア産業におけるフリーランスおよび中小の事業者に対する無制限の支援を約束しています。現在進行形で拡大し続ける損失に、「自粛要請」だけでいいのか。 「自粛という言葉にはほんとうにファジーさを感じます。これで職を失った、無収入になったという人も少なくない。ジムも苦しい状況にあり、ファイターも日銭を稼ぐ必要が出てきている。そんなときに厳しい審査でわずかな助成金と言われても、東京都内では家賃で消えてしまうくらいで、生活費として1カ月ももたないお金で、“とりあえず自宅で待機してください”というだけでは、厳しすぎる」 ――媒体もそうですが、団体も消えてしまうと、もう1度復活させるのが大変なことなのは榊原CEOもご存知かと思います。クールジャパンを推進した安倍首相は、「文化芸術スポーツは大変重要であると思っています。この灯が一度消えてしまっては、復活するのは大変だということは重々承知しております」と言いながらも、具体的な支援が「放棄したチケットの払戻請求額分を寄附金控除の対象とする税制改正」といったまわりくどいものと、「スポーツイベントの再開支援」では、「社団法人又は財団法人のスポーツ団体・地域スポーツコミッション・障害者スポーツ団体」が補助対象となるなど、限定的です。 「現代を生きている人たちがこれまでに直面したことがない未曾有の危機に、リーダーシップを発揮するのは難しいかもしれませんが、どっちの方向に舵を切るのがいいのかというのは大変なことだし、ただ非難をするだけでなく、我々もこのように協力して、みんなが力を合わせていく、理解し合うなかで、生きていくためにいかにセーフティにしてもらえるかというのは、あらためて考えてほしいなと思います。  我々もいろいろな形で選手たちの活動も守っていってあげなくてはいけない。試合が決定していて、それに向けて準備をしていた選手には何らかの補填をしてあげないと生きていけないですからね。この先の前払いをするとか、それで今の厳しい状況を選手たちも生き抜いていってもらわないと。トレーニングをして試合がなければ、経済活動が出来ない。どこかに働きに出るとか、そういうことを選手たちもせざるを得なくなる。そんな状況で、ここまで紡いできた選手たちのパフォーマンスの質とかレベルが落ちるのを見るのはしのびない。せっかくこの競技で生業を立てていられる選手たちが、格闘技で食えないからといって、何か違う仕事をして生きていかなくちゃいけないというのは、あまりにも寂しいですから。我々も知恵を絞って、SNSや過去の試合映像なども活用して収益を捻出するようなチャレンジをしていきます」 マネル・ケイプの契約には抜け道があった ――現場では、この混乱期に変動も起きています。RIZINでは昨年末にこれまでRIZINが育ててきた選手たちが活躍する集大成的な大会も開催されました。マネル・ケイプやトフィック・ムサエフ、イリー・プロハースカら、RIZIN育ちの選手が王者となり、大会が回ってきていた。しかし、その再契約時に3者にUFCからオファーがあり、ケイプとプロハースカはUFCに引き抜かれました。なかでもRIZNにとって力を入れていたバンタム級の王者となったケイプとは、どのようなやりとりがあったのでしょうか。 「今回のことは、UFCというメジャー団体なり、北米のメジャーエージェントの人たちにとって、RIZINで戦う選手や、RIZIN自体が、彼らのビジネスの視界に入ってきているということの一つの表れだと思います。また昨今、アフリカ出身の選手がUFCの中でも大きく活躍していて、『RIZIN.10』で勝利した南米のスリナムのジャルジーニョ・ホーゼンストライクもUFCで4連勝し、4月の『UFC 249』にも出場(※カメルーンのフランシス・ガヌーと対戦予定も大会が中止に)すると聞いています。  僕も年明け、今みたいに海外への渡航制限がかかる前に米国に視察に行ってきました。久しぶりにUFCの大会を視察すると、かつては、アメリカ至上主義でナショナリズムが強いアメリカ人の観客のなかでは、自国の選手が絡んだ試合しか盛り上がらなかったようなイメージもあったのですが、PRIDEでヒョードルやミルコやノゲイラが人気を博したように、いまではファンの見る目が肥えてきて、アメリカ人選手じゃなくても、パフォーマンスが素晴らしければ、中国の選手であれ、ポーランドの選手であれ、アフリカの選手であれ、盛り上がることを肌で感じてきました。その流れのなかにアンゴラ出身でRIZINで活躍したケイプが、エージェントの目に留まった」 ――米国がこれまでに受け入れた移民の数は世界のどの国よりも多いです。それぞれのコミュニティーもありますし、世界戦略としても、世界的なコンテンツとしても多様性が求められる状況かと思います。 「そうですね。それは、アイルランド出身のコナー・マクレガーの活躍からも見てとれますね。そういうことも含めて、ケイプに関しては、直接本人とウチのマッチメイク担当がやりとりをしていたんですが、RIZINの王者になったことで、アメリカの大手のエージェントの目に留まった。ケイプに『UFCに行ったらこんなに稼げるよ』と誘った。やっぱり正直、どのトップファイターでも、UFCという名前を聞くと胸が踊ると思うんです。我々も、UFCはこの格闘技業界のトッププロモーションとして彼らの実績や、そこに所属している選手たちのレベルは理解しているつもりです。そんななかで、『行くな』とはなかなか言いづらいところがある」 ――独占交渉期間、そして会見では、チャンピオンクローズ(チャンピオンになった時に発生する、契約期間延長や試合数延長などの契約)もあったと仰っていました。 「現実には、1試合のチャンピオンクローズがついていたのですが、独占交渉期間というのが明確にあったわけではなく、チャンピオンクローズが1試合ついているし、本人ともコミュニケーションが取れているので大丈夫だという認識でした。そのあたりの交渉については今後、僕らは見直さなきゃいけないなと思っています。あまり縛りたくないんですけど、チャンピオンシップに挑む選手たちの契約をもう少しタイトにするべきだなという反省があります」 ――通常のチャンピオンクローズであれば、他団体がつけいる隙はあまり無い。それが信頼関係のなかで少し緩い条件だったのでしょうか。 「信頼関係というかジェントルマンアグリメント(紳士協定)のレベルで……書面はあるけれども、そこにはいろいろ抜け道や契約解除の方法があって、プロフェッショナルなマネジメントがつくと、そこに知恵をつけて、何よりも本人が舞い上がっちゃった部分もあった。その気持ちをもう1回こっちに振り向かせて、けじめとしての『もう1試合』っていう意識に戻すことができなかった。結果、ほんとうにUFCと契約する方向に大きく傾いたのは、正直今年の2月に入ったくらいから、そんな動きが出てはいたんだけど、ちょっと油断をしていたところはあるんです」 ――契約に抜け道があったと。UFCでケイプはバンタムではなくフライ級で戦うと聞いています。一時は戦線を縮小していたフライ級で新たな選手と契約するということは、それだけの価値を見出していたということかもしれません。 「UFCからケイプに声がかかるということは、やっぱりRIZINの選手のレベルがそこまで達したことの一つの証であるし、一時は、UFCがフライ級にはあまり力を入れないんじゃないかということもあったけど、RIZINのベルトを持つケイプに一つのアングルが出来て、興味がある選手としてピックアップされたことは、客観的に見ると凄いことなんだけど、我々からすると、やっぱり日本のファンに育ててもらって、RIZINでここまで名前を上げたんだから、このまま勝ち逃げではなく、1回はけじめの試合を扇久保博正とやって、そこからでも(UFC移籍は)遅くないんじゃないかという話をしたんだけど、UFCとしても、そこで負けて来られてもというのもあったのだと思います」 ――さて、会見で今夏を目指して開催の構想が発表された「メガイベント」ですが、東京オリンピックが1年延期になるなか、会場が空くと同時に、まだまだ新型コロナウイルスの終息が見えない状況です。どんな思いでメガイベントの開催を目標としたのでしょうか。また具体案を教えてください。(※後篇に続く)
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