MMA
インタビュー

【RIZIN】ケイプ戦が消滅した扇久保博正が感じていた恐怖と覚悟

2020/04/05 21:04

「ケイプとは交わる運命になかったのかな。正直、勝てると思っていました」

──大会の中止を聞いたときは、どのような状況でしたか。

「普通に試合があるときと同じように減量して、追い込みもずっとやってましたね。いつも試合1週間前までは追い込んでいるので」

──まさに追い込みの最中だったと。SNSで「毎日濃厚接触して練習してる。僕らは不安で仕方ないです。試合あるかもしれないから追い込みと減量しなきゃならない」と吐露していましたね。

「そうですね。結構、怖かったです。減量で免疫力も落ちているし、大会があるのかないのかも分からないなか、試合をするために作っておかなきゃならなかったので……」

──刻一刻と新型コロナウイルスをめぐる状況も変わるなか、わずか数週間前とは状況も変わっていました。

「RIZINは大きな大会だから、無観客でも試合を行う可能性もあるなと考えて準備をしていました。最初に会見がある、と聞いたときも『中止』なのか『無観客』なのか、僕は知らなくて……会見前日の昼練習で追い込んでいたときに、やっと『中止になった』と聞きました」

──「無観客」だとしても試合を行う選手にはリスクがある。

「そうなんですよ。僕らも人間なんで」

──そこは選手にもしっかり選択できるよう、そしてその選択によってその後の待遇が変わることがないようにメディアとしても注視したいです。「中止」の報を聞いた瞬間は、どのように感じましたか。

「……変な感じでしたね。何て言ったらいいのか。でも……ちょっとホッとした部分もありましたね。というのも“この状況でやるのか?”という思いもあったので、“ああ、やっぱり無くなったんだな”という感じでした」

──時間とお金も割いて、そしてベルトを獲得するために、ぎりぎりまで追い込み練習をしていた……。いまは練習を1回、止めている状況ですか?

「いまも練習を続けていますね。なんか……試合をしていないんで……1回、ピークに向けて追い込んできた分を、またダラダラして戻してしまうのはもったいないなって。でも対人練習は極力しないようにしています。1人でこれからまた追い込んでいきます」

──なるほど……。大会中止の報の前には、対戦予定だったマネル・ケイプがUFC契約というニュースもありました。SNSにもありましたが、心中、辛かったでしょうね。「ケイプ頑張れ。応援はしないけど」と記されていました。榊原CEOによると「最後に1試合を」という願いは、受け容れてもらえなかったようです。

「まあ……でも行きますよね。僕が26歳くらいで油乗ってて勢いがあるときだったら、UFCからオファーが来れば行っちゃうだろうなとは思います。その気持ちは分かります」

──しかも、その最後の1試合が扇久保選手という難敵だったら、そんなリスクを冒す必要はない、と考えても不思議ではありません。

「ウーン、たぶんめちゃめちゃ隣りで見られていたんで、ケイプ、嫌だったと思います(笑)」

──そういえば、控え室でケイプがAKAのマイク・スウィックからでしょうか、寝技の指導を受けているのを見たときに、感じるものがあったそうですね。

「コーチにずっと聞いてましたね。寝技で戦うつもりなのかなと思ったら、全然、そうでもなくて。分からない感じでしたね」

──ファイターはそんなときにもしっかりチェックしているものですね。同階級で同部屋は難しい。できれば別部屋にすべきなんでしょうけど。

「どうしても隣りにいるから見ちゃいますよね。でも僕グラップラーだから(笑)、ケイプ、見られて絶対、嫌だったと思います……。たぶん、俺もケイプも負けると目されていたから部屋を一緒にされたのかな(苦笑)」

──その意味では、王座奪取の目算は立っていたと。

「正直、勝てるなと思っていましたし、鶴屋さんもそう見てくれていましたね。まあ……しょうがないですね。交わる運命になかったのかな、と思います」

「フィゲイレードとは……めちゃめちゃやってみたい」

──UFCではケイプはフライ級で戦うそうです。扇久保選手はTUFでもフライ級で戦っていましたし、いまのフライ級でどこまで戦えると考えますか。現在、UFCフライ級では、王者ヘンリー・セフードがバンタム級に専念するため王座を返上。1位にデイブソン・フィゲイレード、2位にジョセフ・ベナビデス、3位にジュシー・フォルミーガ、4位にアレクサンドル・パントージャ、5位にブランドン・モレノ、6位にアスカー・アスカロフ、7位にRIZINにも参戦したカイ・カラ・フランスがつけています。

「そうですね……でも上位には行くんじゃないかなとは思いますけど……うーん、どうなんですかね。寝技はあまり出来ないんじゃないかな、と僕は思っていたので。ただ、実際、ゴリゴリの凄いグラップラーとはやっていないんで、分からないですけど。UFCのランカーは全員タフで打たれ強いので、そういう勝負になったときにもどうなのかなと思っています」

──TUFでは、現在4位のパントージャが5位のモレノ、7位のフランスに勝って扇久保選手と戦い、扇久保選手が下していますね。そのあたりとは……。

「そうですね。パントージャ、モレノ、カイあたりとの試合が見たいですね。どこまでやれるか。僕が戦えなかった選手もいるので」(※ケイプはSNSで元バンタム級王者でフライ級転向を示唆しているコーディ・ガーブラントに対戦を要求)

──ちなみに、扇久保選手は噂のデイブソン・フィゲイレードをどうご覧になっていますか。パントージャ、エリオットに勝利し、2月には体重超過だったとはいえ、ベナビデスをTKOに下しています。

「フィゲイレードは……ヤバいですよね。無茶苦茶強いなと思います。あれはちょっと身体の強さが異常だなと思います」

──身体の軸がブレている状態でもあんなに強い打撃が打てる。体重超過にも悪びれる様子もないメンタルも含め、生物として強く感じます。

「ああ、フィジカルが半端じゃないんだと思います。でもフォルミーガに判定負けしていますよね。ムラがあるんじゃないかなとは感じます。でも、強いときはほんとうに強いですね」

──ファイターとして手合わせしたいと思ったりもしますか。

「めちゃめちゃやってみたいです。どれだけ強いのか。ベナビデスもあんな形で負けてしまったので。ただ、こういう形でフィゲイレードも出てきて、ちょっとずつUFCでもフライ級が盛り返してきているのは嬉しいですね」

──なるほど。RIZINでは、次戦がバンタム級王座決定戦となることを榊原CEOは示唆していて、扇久保選手の対戦相手候補として、ビクター・ヘンリー、パトリック・ミックス、朝倉海選手の名前が挙がっています。YouTubeでは、「ファンが望む相手であれば誰とでも盛り上げます」と仰っていましたが、王座を争う1発勝負となれば、どんな相手と対戦したいという希望はありますか。

「自分的には……外国人選手と戦いたいです。僕、RIZINでは日本人選手としか(堀口、元谷、石渡)対戦していないので。できるのであればビクター・ヘンリー。あるいは、パトリック・ミックス……やりたいですね」

──おおっ、2人とも間違いなく強豪です。

「強いですね。一個(階級が)上(※扇久保は現修斗世界フライ級(-56.7kg)王者。RIZINバンタム級は61kg)で、対外国人選手なので、大変な試合になると思うんですけど、それに勝てばやっぱりガンとインパクトが来るかなと。僕の名前も売ることができるし」

──ヘンリーの前戦、金原正徳選手との試合はご覧になられましたか。

「はい。自分は金原選手とは練習したことがないんですが、みんなから強いとは聞いていましたし、そういう相手に圧力をかけて、ペースも変えられて、蹴っても脱力している。組みもできる、強いです。自分といい試合になると思います」

──無敗のミックスの試合は?

「まだ元谷選手との試合しか見ていないですけど、デカくて強い! そんな感じです(笑)」

──バスで隣り合ったそうですね。扇久保選手のことをファイターだと思わなかったという。

「そうなんですよ。ずっと喋りながらさいたままで行って。『TUFにも出ているよ』って言ったら『見てた!』って。でも話ししている感じで、あの……気持ち弱そうだなって」

──そんなことまで分かるんですか!?(笑)

「あるじゃないですか(笑)、外国人選手特有の、1Rはめちゃ強いけど、それから気持ちが折れてくる。ダリオン・コールドウェルみたいな選手」

──すごい選手を例えに出してきましたね(笑)。たしかにミックスは1Rフィニッシュが8試合もありますけど……3Rでのフィニッシュが2試合、判定勝ちも3試合ありますよ。

「ああーそうなんですか(苦笑)。でもバスのなかでは“勝てるな”って思いました」

──ファイターというのは恐ろしい。にこやかに話しながらそんなことを考えているとは(笑)。

「フフフ」

──では、もう1人の朝倉海選手と、となったら?

「もちろん、やります。それもあるんじゃないですかね。一番、盛り上がると思うし、知名度もあるんで。朝倉選手のイメージは、パンチが強い。でも被弾するときもありますね。とは言っても……まあ、ここからは戦略になっちゃうんで言いませんが、いい試合になると思います」

──トータルファイターとしての自信がありそうですね。

「そうですね……彼はTHE OUTSIDERからのし上がってきて、自分はアマチュア修斗から厳しい戦いを越えて実績を積み上げてきた。だから、負けられないですね」

コロナは我慢することで乗り切らないといけないこと

──なるほど。最後にファンにメッセージを、と言いたいところですが、YouTubeで言っていた「自分も顎を削ってやる」と言うのは……ことわざの「顎が干上がる」「顎振り三年」とも違うし……どんな意味でしょうか?

「ああ……それみんなからすごく聞かれたんです(苦笑)。何て言うんですかね。顎や脳ミソを消費する=殴られる覚悟っていう意味で言いました……伝わりにくかったですかね(笑)」

──ああ、なるほど。その言い回しはファイターらしいです。たしかにアゴや脳のダメージは溜めずにできるだけ消耗させたくない。それでも顎を削ってやる、という覚悟の言葉ですね。

「はい。盛り上がる試合をします。待ってくれたファンの皆さんのために、頑張って“アゴを削ってやる”んで、期待してください」

──今後の試合は、新型コロナウイルスの状況次第ですが、RIIZNは次の大会を夏に、ビッグマッチとしての開催を目指しています。しかし、先ゆきが見えないなか、一人で練習していくのも大変ですね。

「ほんとうにそうですね。でもそれは仕方ないです。世界中がそういう状況なので。ここは我慢することで乗り切らないといけないことなので……。いまはできるだけ密な空間は避けて、みんなで一丸となってこの危機を乗り切らないといけない。戦いたかった気持ちはもちろんあります。次にもし夏にやるんであれば、そういった思いのすべてを解き放ちたいですね」

──では、それまでの間、続けて練習とYouTubeもやりながらと。YouTubeは登録者数千人を超えたそうですね。「目標達成まであと99万8944人」と、こちらも志は高いです。

「ありがとうございます。100万人まで、このままだとあと80年かかる計算なんですけど(笑)。まあ、頑張ります。YouTubeはユルくやっていますので、暇潰しに見てもらえればありがたいです!」

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