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インタビュー

【GONG】青木真也と那須川天心がスパーリング対談で「思考の格闘技」を語る

2020/03/25 15:03
【GONG】青木真也と那須川天心がスパーリング対談で「思考の格闘技」を語る

(C)ゴング格闘技

 2020年3月12日、青木真也と那須川天心がマットの上で向かい合っていた。

 千葉県新松戸のTEPPEN GYM。『ゴング格闘技』本誌の企画で青木と那須川は対談、その後、当初はミット打ちが予定されていたが、青木からの「一生の思い出に“レンチュン”(タイ式マススパー)を」と提案し、那須川が快諾。急きょマススパーリングが実現した。

 ともにサウスポー、ムエタイ式のアップライト気味の構えから圧力をかける青木に、左の打撃で入らせない那須川。5分を越えるマススパーは対談と同じように、両者が饒舌に、その動きで格闘技を語り合う内容となった。

 スパーを通して会話した両者。青木は息を弾ませながら、「リズムが……ゆっくりやってくれたらできたんですけど、リズムを変えられちゃうと全然ダメでした。(身体を)振られて」と言いながらも、大きな笑顔。

 対した那須川も「もっと前重心なのかと思ってました」と、MMAファイターとしては稀有な青木の打撃スタイルに触れ、「蹴りがすごく綺麗だなと思いました。思っていたよりしっかり伸びるし、なかなかMMAの選手では蹴らない・蹴れない感じの蹴り方でした」と青木の蹴りを評価した。

青木が那須川のなかに見出した強弱”と“緩急”のリズム

 きっかけは無観客のなかで行われ、AbemaTVで放送されたONE Championship「ONE:KING OF THE JUNGLE」での解説だった。青木と那須川は放送席で、選手の動きを通して、それぞれの思考する格闘技について語り合った。

 青木は、「那須川さんのミット打ちの動画を見たら、パンチのなかに蹴りを混ぜるときに独特のリズムがありますよね。ミット打ちの緩急がすごい」と打撃の印象を語ると、那須川も「緩急は大事にしていますね」と呼応。「まずは速いのを見せておいてからゆっくり打ったりとか。対ムエタイでも同じムエタイのリズムで戦うのではなく、相手に無いリズムで戦います」と、その意図を語った。

 青木は「傍から見ると100m走のようなミットだけど、実はそこまでの(突っ込んだ)レンジじゃない。僕らがあれをやったら全部本気で打ってしまうから息が続かない。那須川さんには“強弱”と“緩急”の2つのリズムがあるのかなと思って見ていました」と、那須川の考えに共鳴した。

 さらに、2人の格闘技談義は続く。

 放送席で青木が「キックにおける打撃とMAMの打撃の違いは?」と問うと、那須川は「MMAファイターの方が思い切りがすごくいいかなと思います。精度的には荒いけど」と良し悪しを語ると、青木は「それでもグローブが小さいから入ってしまう」と指摘。那須川も「たしかに荒いパンチでも結構入っちゃう。コンビネーションで打つというより、空いているところに打つという感じでパンチの質も硬い。1発で終わらせるパンチを持っている選手も多いですね」と、MMAならではの打撃を語った。青木は、「MMAの方がグローブが小さく組まれることも多いので単発、多くてもイチニサンまでで、コンビネーションよりも1発1発の打撃になる」と、競技の違いによる打撃の相違点を語る。

 互いのコーナーでの指示も、打撃が当たらない選手に、那須川はキックでは「『1、2ではなく4発目に当てろ』とか、『4発のうちの1発を当てろ』という言い方をします」と、緩急をつけるアドバイス方法を語ると、青木も「那須川さんはコーナーで大きく身体を使って、大事なところを指示しますよね。僕はコーナーで『顔を触ってきて』と言います」と、独特の言い回しを披露。那須川も青木の意見に同意し、「倒そうと思えば思うほど力んじゃうので、『触る』という意識はいいですね。あとは『パターンを変えよう』と言うときもあります。同じパターンだと読まれてしまうので、ワンツーばかりではなく、ジャブ・ワンツーとか、ワンツーフック、ストレートとかリズムを変える」と、具体的な方策を明かした。

最近は“ボクシングキック”になりつつあるけど……

 取り組む競技が異なる両者だが、ともに格闘技の本質を追求するファイターでもある。

 放送中、青木は「格闘技として考えたら」という言葉でそれぞれの試合を語る場面が少なくなかった。三浦彩佳の引き手を取って相手に背中を見せる投げ、MMAで流行中のふくらはぎを蹴るカーフキック……。

「総合の選手ってあまり蹴らないですよね。掴まれないようにするためですか?」との那須川の問いに、青木は「僕はムエタイが好きなので左ミドルを蹴りますが、MMAでは蹴らない選手が多いですね。蹴りでも腰が入らない蹴りが多い。ちゃんと腰を返して蹴れば掴まれない。パンチの近い距離で足先で蹴る空手の蹴りが多いのは空手の文化なのか、道場でみんながやりやすい蹴りがメインになっている」と指摘する。

「蹴って戻すという感じの蹴りですね」と、自身も空手の経験を持ちながら、さまざまなスタイルを取捨選択しミックスしてきた那須川は語る。

「日本人選手ってあまり蹴りをしっかり習う機会が少ないように思います。特に、最近は“ボクシングキック”になりつつあるので、関節蹴りやカーフキックを蹴る人も多いけど、ムエタイの試合では距離が遠いし、重心が後ろの選手が多いので当たらないですね」と那須川は流行りのカーフキックについても語ると、「カーフキックは総合の選手だから入るのかなと思います。MMAは前傾になりやすい。あとは最近のキックでもパンチが8割くらいだと前重心になるので、ローキックをカット(防御)する選手が少なくなってきた。ああいうカーフキックが生まれるのはパンチ寄りになっているのかなと思います。あれに対処しようではなく、あれを蹴らさない形にした方が僕はいいんじゃないかと思います」と、懸念を表明した。

 那須川にカーフキックとカットについて問いかけた青木も「格闘技として考えたときにあまりいい現象ではないと思います。僕は距離が遠いのであれをもらうことはあまりないんですけど、あれをもらうのは(ローキックを)カットしない文化になってきているのかなと。危うさが残ります。前傾姿勢はリスクがある。それに対して腕を蹴るようなミドルが活きてくることもある」と、危惧とともに相手との攻防のなかで動きが変化することも語っている。

“格闘技沼”にどっぷり浸かる実践思考家

 格闘技を考えることは、人間を考えることとほぼ同義だ。対談のなかで青木は、それを「“格闘技沼”の中にいる」と表現している。

 那須川「練習で強くて試合で弱いのはなぜなんでしょうね」
 青木「試合であがってしまう、練習で試合を想定していない距離で戦っている」
 那須川「たしかにほんとうに距離を考えて練習している人は多くないように思います」
 青木「オープンフィンガーグローブや8オンスのグローブで素足で実戦、本気ではできないですよね。そこの実戦性をいかに想像力豊かにやれるか」

“想像力”が必要だと、青木は言った。
 興行としてはエンターテインメントのひとつである格闘技は、人類五千年の歴史の集積のうえにある、人間の営みでもある。その集積をそれぞれの身体に取り込み、「試合」という実戦のなかで、ファイターたちは探求を続けている。
 そして、試合が無い時間も「思考の格闘技」は続く。

 青木真也は、4月12日(日) 東京竹芝のニューピアホールで開催され、AbemaTV独占生中継が予定されている『Road to ONE:2nd』で、2017年5月以来のグラップリングバウトに臨む。那須川天心は、同日に大阪で予定されていた『RISE WORLD SERIES 2020 1st Round』の大会中止に「1人じゃ何もできないかもしれないけど 1つになればなんでもできる」と、今後を見据えて新たな準備に入ったようだ。

 3月23日に発売となった『ゴング格闘技』5月号(NO.307)では、社会経済学者の松原隆一郎教授が聞き手となり、青木と那須川が「思考する格闘技」を対談。前述したスパーリングの模様が掲載されている。

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