2020年2月8日(日本時間9日)、米国テキサス州ヒューストンのトヨタ・センターにて『UFC247』が開催される。
メインイベントでは王者ジョン・ジョーンズがMMA12戦全勝のドミニク・レイエスを迎え撃つライトヘビー級タイトルマッチが行われ、さらにヴァレンティーナ・シェフチェンコvsケイトリン・チョケイジアンの女子フライ級タイトルマッチも組まれている。
この2試合の見どころを、WOWOW『UFC -究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”こと高阪剛に語ってもらった。
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──『UFC247』のメインは、ジョン・ジョーンズ(JJ)がドミニク・レイエスの挑戦を受けるライトヘビー級タイトル戦が組まれましたね。
「最強王者JJに、MMA無敗のレイエスが挑戦する頂上対決ですから、これは本当に楽しみです」
――JJはUFCの“パウンド・フォー・パウンド”ランキング1位と、まさに“最強の中の最強”ではありますが、2018年12月に復帰以降の戦いぶりに「ちょっと物足りない」との声も一部であります。高阪さんはどう感じていますか?
「たしかに、以前のように超アグレッシブに攻めるシーンは少なくなっていますね。大人の戦いをするようになったというか。ただ、要はポテンシャルがそもそも高いので、相手の攻撃を流しながら自分の距離やタイミングでしか攻撃を出さない、という戦い方をしても、そこまで攻め込まれることがないと思うんです」
――やや安全策をとっても、しっかり勝つことができている、と。「例えば、アグレッシブに攻めることを信条としていた選手が“ちょっと俺は戦い方を変えた方がいいんじゃないかな?”と思って、ややディフェンシブな戦い方に変えると、大概やられるものなんですよ。でも、JJはそうなっていないということは、より無駄のない攻めができるようになっている。だから競技者目線からすると納得できるんです。それが昔のJJらしくないと言えば、そうなんですが(笑)」
――簡単に言えば、かつてのような“圧勝”が少なくなったのは、力が落ちたわけではなく、より隙がなくなったと。
「例えば、前回のティアゴ・サントス戦(19年7月『UFC239』)では、関節蹴り、サイドキックを頻繁に使っていたのも、ティアゴが途中で足を痛めたのを察して、そこを重点的に攻めることで確実に勝利をもぎ取った。そこで闇雲にKO狙いで前に出てカウンターをもらうリスクを回避しているんです」
――アグレッシブに攻めてくれれば隙もできますが、そうじゃないということは、対戦相手にとっては、より厄介な存在になったのではないでしょうか?
「そうですね。そもそもあれだけリーチが長くて、攻撃の技も多彩で、隙を見せない。相手からしたら“俺は何をやればいいんだ?”ってなりますよ。そういう戦いをJJ本人が極めようとしていて、なおかつ結果を出し続けているので、誰もそれを否定することはできない状況だと思います」
――JJは本格的に生涯無敗で現役を終えようと考えているのかもしれませんね。
「まだ若いですが、このままいくとそうなる可能性は高いですね。」
――そんな厄介な強豪JJを、ドミニク・レイエスはどう攻略すると推測されますか?
「レイエスはずっと負け知らずできて、しかも上り調子ですから。心身共にすべてのバランスが取れている状態だと思うので、JJのスタイルを“厄介だな”とは考えず、しっかり自分の戦いができると思うんです。具体的な動きで言うと、クリス・ワイドマンやオヴィンス・サンプルーとやった試合では、バックステップをしながら後ろ手の左ストレートでダウンを奪っていたり」
――ワイドマン戦のフィニッシュブローもそれでした。
「ライトヘビー級という身体で、バックステップやサイドステップをしながら、しっかり拳に体重を乗せるっていうのは、じつは相当大変なことなんです。軽く打っても相手は倒れてくれないので。それがワイドマンはあんな倒れ方をしたわけですから余程、拳に体重が乗ってないとああいうことにはならない。あれができるというのは、体幹の強さや当てる感覚がしっかりしていて、なおかつ力みなく自信を持って、打ち抜いているからこそだと思うんです」
――体幹や当て勘、技術が揃っていて、なおかつ最高のタイミングでパンチを放つことができている、と。
「身体が勝手に反応して動いてくれている状態だと思いますね。だから、それをJJ相手にできるかどうか。しっかり顔面を打ち抜かないとJJは倒れてくれないと思うので、レイエスは得意の左ストレートを当てるために、どこで何をするかが、ひとつのポイントになると思います」
――カウンターを入れるために、JJをいかに前に出させるかもポイントになりますか?
「そうとも言えます。レイエスは自分から打撃を当てにいくと思いますが、ただ前に出てパンチを出していっても、それがJJに当たるかといえば、それはあまり想像できない。だとすると、先に仕掛けるのはレイエスだとして、JJが放つカウンターの打撃をさらにカウンターで返すということができれば、倒すチャンスがくる。そこだと思いますね」
――カウンターの取り合いになるんじゃないかと。
「JJはそういうリスクを負わないためにスタイルを変えているので、なかなかその術中にハマることはないと思いますけど。体幹が強くて神経が研ぎ澄まされた状態のレイエスなら、JJが“いける”と思った瞬間に、冷静に切り返して得意の左ストレートを入れることができるかもしれない。そうなると面白いことになりますね」
――無敵のJJが倒れるシーンが見られるかもしれないと。
「そうですね。ただ個人的には、JJがその想像を超えるような戦いをして、驚かせてくれることも期待しています(笑)。いずれにしても、相当ハイレベルな戦いになることは間違いないですよ」
――続いて女子フライ級タイトルマッチ、シェフチェンコvsチョケイジアンの見解はどうでしょうか?
「まず、王者シェフチェンコは、このところ総合格闘家としての能力の高さを見せつけています。フライ級転向後、4試合連続で完勝していますし、この階級がすごく合ってるんでしょうね。シェフチェンコは決して手足が長いわけではないので、1階級上のバンタム級では、ステップで刻んで中へ中へ入っていかないと、パンチを当てることができなかった。バックスピンキックやバックハンドブローを多用していたのも、“届かない”ということが大きかったと思うんです。それがフライ級に転向してからは、踏み込んでしっかり左右のワンツーを当てたり、カウンターで前手のフックを入れたり、組んで首相撲からのヒザ蹴りなど、やりたい放題できている。楽しんで試合をしている気がします」
――グラウンドも強くなってきています。
「また、その場面場面で自分の多彩な武器から、最適なものをチョイスする能力にも長けていますよね。だから試合の中で修正もできるし、崩れることが少ないんです」
――対するチョケイジアンは、フライ級で最も長身で、シェフチェンコより10cm身長が高く、リーチも長い。ある意味、シェフチェンコのフライ級でのアドバンテージを消す存在でもあるかと。
「そうですね。チョケイジアンはパンチで距離を測って、自分の距離での打撃で追い込んで、相手が顔を背けたところにハイキックを入れるのを得意としていますが、あの身長があるからこそできることです。チョケイジアンは自分の射程距離にいる相手に対してはすごく強い。だからシェフチェンコは、どれだけ中に入れるかがポイントだと思います」
――距離を潰せるかどうか。
「チョケイジアンは、序盤から手数が多いタイプですが、それは自分の距離設定を早くしたいのと、相手を中に入らせない“防御壁”を作るためだと思うんです。その防御壁に相手が阻まれると、チョケイジアンのペースで試合は進みますが、シェフチェンコは一発もらっても前に出てこられる選手なので、それをやられたらチョケイジアンはキツいでしょうね」
――自分の距離で強いということは、逆に言えば防御壁、結界を破られたらもろいと。
「チョケイジアンは組まれてからの対処もそこまでうまいわけではなく、テイクダウンも結構取られますからね。フィジカル面で上回るシェフチェンコに組まれたら、そこからはかなりキツいと思います。だからチョケイジアンは、入ってこられないような結界が張れるかどうか、そしてシェフチェンコはそれを破れるかどうか。この一戦は、そこが最大のポイントでしょう」(取材/文・堀江ガンツ)
◆放送日程『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC247 in ヒューストン 絶対王者ジョーンズ&女子フライ級王者シェフチェンコ、ダブルタイトルマッチ!』
【収録日・収録場所】米国テキサス州ヒューストン トヨタセンター
2月9日(日)午後0:00[WOWOWライブ]生中継(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
2月13日(木)午後0:00[WOWOWライブ]リピート(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
【メインカード】
▼UFC世界ライトヘビー級選手権試合 5分5Rジョン・ジョーンズ(王者/米国)ドミニク・レイエス(挑戦者/米国)
▼UFC世界女子フライ級選手権試合 5分5Rヴァレンチーナ・シェフチェンコ(王者/キルギス)ケイトリン・チュケイジアン(挑戦者/米国)
▼ヘビー級 5分3Rジャスティン・タファ(豪州)ジュアン・アダムス(米国)
▼フェザー級 5分3Rダン・イゲ(米国)ミルサッド・ベキッチ(ボスニア)
▼ヘビー級 5分3Rデリック・ルイス(米国)イリル・ラティフィ(スウェーデン)
【出演】解説:高阪 剛、堀江ガンツ実況:高柳謙一進行:渋佐和佳奈
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