『片目だけでどうやって戦ったんだ?』ってよく言われるけど──(ビスピン)
マット・ハミル戦を経て、次戦で英国人として初のUFCメインイベントを戦ったマイケル・ビスピンは、2013年1月にビクトー・ベウフォートと対戦した。
2Rに左ハイキックでダウンを奪われ、パウンドでTKO負けを喫した、この試合で右目が網膜剥離になったが、現役を続けられなくなると思い、すぐには医師の診断を受けなかった。
同年10月にマーク・ムニョスと対戦予定だったが、試合前の練習帰りに徐々に視界が暗くなり、帰宅したところで完全に光が失われ、手術を行っている。
UFCの殿堂入りを果たしたいま、マイケル・ビスピンは、当時の負傷が彼の人生にどのような影響を与えたかについて、公式インタビューや、MMA JUNKIEで語っている。
「右目の視力は2013年以来、ほとんどなかった。メディカルチェックはギリギリ通過していた。タッチ・アンド・ゴーだ。トレーニングキャンプをフルにこなして、コミッションドクターに追い返されるのがいつも怖かった。
難しかったよ。メディカルテストに合格するためには、視力テストがあって、できる日もあれば、できない日もあった。でも、幸運なことに、俺はぎりぎり合格することができた。
でも、計量の日、コミッションでも視力をチェックされた。いつもビクビクしてたよ。ほんの数年前のことなのに。俺の目はひどかった。今はもっとひどい。当時はもう少しマシだった。でも目を見れば、健康でないことは明らかだった。医者が言うには、目を覆って、指を何本立てているかを見分けられるかどうかだと。
だから、視力テストで、俺とヘッドコーチのジェイソン・パリロはくだらない暗号まで考えた。1回咳き込んだら指1本、あくびをしたら指2本とか。正直、彼らはその形のテストを一度もやらなかった。彼らはただ『見えているか?』と聞き、俺は『……ああ』と答えていた。
『片目だけでどうやって戦ったんだ?』ってよく言われるけど、『とても苦労して』って答えてたよ」とビスピンは振り返る。
「簡単じゃなかった。自分のスタイルを完全に変える必要があった。片方の目だけだと奥行きを認識するのがとても難しかったから。物を掴みに行っては外し、2度目、3度目には掴むということがよくあった。でも、以前はジャブをよく使っていたんだけど、一度コンタクトすれば、脳というのは素晴らしいもので、少しは距離を測れるようになるんだ」と、グラップリングで相手に触れることで、間合いを掴んでいたという。
そして、何より、ビスピンにとってはケージに入って試合が出来ることが、喜びだったという。
「ある意味、試合は簡単だったんだ。トレーニングキャンプにお金をかけて、それに全力を注いでいる。どこへでも飛んでいく。それなのに試合の前日、外されるかもしれない。だからストレスは大きかった。そして、試合に出られるとなった時、“今なら戦える。もう大丈夫。今は幸せだ。今、俺がしなければならないのは、実際にケージに入って試合をすることだけだ”って」
常に“当たり前じゃない”なかで戦ってきた。
「それにしても、聴覚を取り戻したハミルにとってなんて美しい日だろう。彼の子供たちや両親の声が聞こえてきたんだ。こういうことは、俺たちにとっては当たり前のことなのに。彼の気持ちを想像すると、これ以上嬉しいことはない。
最近のテクノロジーの進歩には驚かされるよ。新しい目とか、そういう話があるのは知っている。イーロン・マスク、その新しい目の一つでも売ってくれたら、俺はまた……」と、UFC殿堂入りした“伯爵”は義眼の右目で笑顔を見せている。




