2024年12月30日(月)神奈川・横浜武道館『KNOCK OUT K.O CLIMAX 2024』にて、「KICKBOXING JAPAN CUPスーパーバンタム級トーナメント」に出場するKNOCK OUT-RED同級王者の壱・センチャイジム(センチャイムエタイジム)のインタビューが主催者を通じて届いた。
沖縄出身の壱は空手をベースに持ち、ボクシングを経て上京してムエタイを始めた。2008年11月の『MuayThaiOpen』でLPJNバンタム級王座に就き、2019年12月に岩浪悠弥に敗れるまで14連勝をマーク。2022年11月に「第2代KNOCK OUT-REDスーパーバンタム級王座決定トーナメント」を制して王者となった。2023年8月の初防衛戦で古村光に敗れて王座を失ったが、2024年4月のリマッチで王座奪還。6月にはムエタイの激闘王と呼ばれたチョークディーから勝利を収め、7月の『ONE Friday Fights』で初参戦初勝利。11月の1回戦では嵐に判定勝ちした。戦績は28勝(10KO)9敗1分。
会長にはめちゃくちゃ『愛』を感じた
──11月の1回戦、嵐戦を改めて振り返ると?
「最初のトーナメント発表会見での勢いがすごかったから、試合でもガンガン来てくれるのかなと思ったら全然来なくて、そういう意味では意表を突かれました。嵐君が勝つには殴り合いしかないと思っていたので、そこに持ち込みたいんだろうなと予想していて、カウンターのパンチやミドル、ヒジを狙っていたんですけど、フタを開けてみたら彼の方が下がる展開で。そこで「『あ、今日はそういう感じね。俺はそれには乗らないよ』という感じで、ミドルや前蹴りなどの長い攻撃を中心に戦いました」
──あれだけ煽っておいて、試合ではヒット&アウェイで来るということ自体が作戦だったと思いますか?
「いや、これは結局僕に問題があるんですけど、僕は相手に合わせるので、どんな相手も出てこれなくなっちゃうんですよね。僕とやる選手って、みんな派手さがなくなるというか。古村光君にしろ、大野貴志選手にしろ、爆発力がある選手がみんな、僕の前に立つとシュンとなっちゃうんです。『金でももらってんのか』ってぐらいに。そうやって相手の光を消すところが自分のよさなのかなと、最近は思うようになりましたね。圧力だったり相手に合わせるポジショニングだったりで、嵐君も出られなくなったんじゃないかと思います。僕がやってきた相手と比べたら、嵐君は体も小さいし、戦績も浅いので、そこで出鼻をくじかれたんじゃないかと」
──あの日、嵐選手に対するセンチャイ会長の怒りが尋常じゃなかったですよね。会見の時、それからSNSで壱選手自身も不快感は示していましたが、センチャイ会長は勝った後も怒りが収まらない様子でした。そのあたりの感情は、試合に影響しましたか?
「正直、僕自身は1ミリも影響していなかったです。僕は私生活のこととかが影響しないタイプで、人生でも意外と傷ついたこともないし、本当に鈍感なんですよ。だから今回も影響は全くなかったです。でも、リングに上がるまではものすごくイライラしてましたよ」
──そうなんですね。
「会場で向こうの陣営とすれ違う時とか、入場前に待機している時とかもめちゃくちゃイライラしてました。そこは今までと違う感情でしたけど、いざ試合が始まってみたら関係なくて、普通の試合として挑むことができました。そして会長には、めちゃくちゃ『愛』を感じました」
──「愛」ですか。
「自分がその立場になった時に、教え子が中指を立てられたとして、あそこまで熱くなれるのかなと。会長って、立場もある人じゃないですか。その人が、教え子がバカにされたという理由だけで、あの後楽園ホールの、お客さんがたくさんいる前で大声を張って全方面と戦えるということに感動しちゃったんですよ。正直、その感情が一番すごくて。これは言っていいのかどうか分からないですけど、会長の僕への思いを露わにしてくれた嵐君に感謝すら感じました」
──そうですか!
「これはちょっとした裏話なんですけど、試合を終えて家に帰ったら、会長から電話がかかってきたんですよ。ちょっと冷静になったらしくて『今日は熱くなりすぎちゃって、壱君の勝利ムードに水を差してたらごめん』と言われて。そこもグサッときたんですよね。改めて、『会長、大好きだ!』と思いましたね」
──いい話ですね。
「確かに嵐君はスポーツマンシップに欠けていたところがあったんですけど、今の時代、知名度を得たり盛り上げたりするためには、目立たなきゃいけないと思う気持ちはすごく分かるんです。でもその目立ち方が、将来に繋がらないと思うんですよ。あそこで『死ね』って言ってみたり中指を立てたりしたら、セカンドキャリアにも影響すると思うし、親御さんたちが子供たちにやらせたいと思わないですよね。だから10年後、20年後に関わることだと思っていて。そこでイラつく部分はあったんですけど、いろんなことに気付かせてくれたし、今は『ありがとう』と思っています」
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本当に僕のためのトーナメントですね
──その1回戦で、KNOCK OUTの常連3人が勝ち残った形になりました。そこに関しては?
「僕は正直、このトーナメントが始まるまで、今の『KNOCK OUT』がヒジありのキック界の中でどの位置にいるのかというのが分からないなと思ってたんですよ。いざフタを開けてみると、『KNOCK OUTって有名な団体なのに、他と交流したら負けちゃうんだ』ということもあるかもしれないなと。そこに恐怖もありましたし、僕は『KNOCK OUT』のチャンピオンとして戦っているので、周りが負けても絶対に自分だけは勝とうと思っていて。でも、僕の2試合前に古村光選手が佐野佑馬選手に圧勝したのを見て、すごくリラックスできました」
──そうですか。
「僕は古村選手と3回、合計で14ラウンド戦っているんですけど、『あ、古村君ってこんなに強いんだ!』と思って。僕とやる時に目立たないだけで、他団体のチャンピオンも圧倒できるほど強いということが分かって、それで安心できたところがありましたね」
──今回の準決勝では、抽選で前田大尊選手と対戦が決まりました。
「これは全て筋書き通りです」
──ほう!
「1回戦でNJKFのチャンピオンを倒しているので、準決勝でINNOVATIONの代表を倒して、決勝ではどちらが出てきても『KNOCK OUT』対決。他団体の代表を倒していって、最後は『KNOCK OUT』が最強だと分からせる、『KNOCK OUT』のレベルの高さ、他団体との差を証明できるという意味で、全部筋書き通りです。これは本当に僕のためのトーナメントですね」
──なるほど。では準決勝の前田戦も圧勝で?
「圧勝したいですね。決勝もあるので。僕は、会長には負けちゃうんですけどけっこう熱い性格で、バコーン!とパンチ一発もらっちゃうとすごく熱くなっちゃうんですよね。それもあって、最近はダウンを奪い合うような試合もして、『ベストバウト賞』を5試合連続で受賞させてもらったりもして。ただ、その間の戦績ってもう一つ振るわなかったんですよね。その5試合のうち2回負けてますし。そこを今回、ちょっと切り替えてみたんです。そしたら安定して勝てるようになって、今は7連勝中なんですね」
──好調ですよね。
「古村君とか森岡君とかが『壱はパワーがない』とか『打ち合わない』とかうるさいんですけど、チョークディーはヒジでKOしてますし、古村も森岡も打ち合い以外では俺に勝てないから煽ってきてるだけなんですよね。テクニック関係なく打ち合いたいだけだったら、今流行りのそういう大会に行けばいいじゃないですか。僕は長年練習してきたテクニックで勝負するし、みんな『倒す』って言ってるけど、KOなんて100%できるものでもないし。『ぶっ殺す』とか『血祭り』とか『絶対倒す』とか言ってますけど、絶対なんてないですからね。あの2人に対してはそう思います」
──えーと……質問は前田戦についてだったんですが(笑)。
「そうですよね(笑)。前田選手は若くて勢いもあるし、今回のメンバーの中では一番スピードがあるなと思っています。ただキャリアとテクニックがないので、1Rはいいんですけど、試合の後半、2、3Rになると課題が残る選手だなと思ってたんですよ。僕も若い時はそうだったんですけど、前半は飛ばして、後半にやられちゃうみたいな。でも、そこをうまく克服して、今回の1回戦では大田一航選手に勝ったので、そこはやっぱり伸びているなと思いますね」
──侮れないのは確かですよね。
「もちろんです。一番スピードがあるし、一番成長期だし、何でも吸収できる時期だし。それこそスタイルチェンジもできちゃう頃ですよね。それがハマるかどうかは別として」
──そんな相手ですが、自分のキャリアとテクニックで圧倒すると。
「そうですね。僕が一番キャリアがありますし、戦ってきた相手のレベルも全然違うので、そこは僕自身が安心して大丈夫かなと思っています。油断もしてないですけど」
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他団体を制圧したら世界に打って出たい
──決勝を考えると、逆側のブロックの森岡選手、古村選手にはどちらも勝っていますよね。そこは有利に働きますか?
「森岡に2勝、古村に2勝1敗で、正直言うと、どちらにも勝ち逃げしたかったんですよ。『もういいよ』と思ってたんですけど、こういうトーナメントが開催されて、そこで勝ち上がって対戦するんだったらしょうがないなと。今回、ヒジあり5団体の代表が集められてのトーナメントなので、その中で決勝に上がってきて対戦するんだったら、それはもうしょうがないですよね。だから気持ちを切り替えて、これからもお互いヒジありでやっていくんだったらまた当たるので、6回、7回とやっていくんだろうなと思っています。タイみたいな感じで」
──だからこそ、トーナメント前はずっと「世界」や「外」という目標を掲げていたわけですよね。
「はい。僕ももうキャリアの中盤に差しかかっているので、セカンドキャリアに生かせるようなハクをもっとつけたいと思っていたんですよ。それでONEに出たり、タイ人の相手を用意してもらったりしていたんです。その中で今、7連勝中で、嵐戦の前3試合はタイ人、キルギス人、タイ人だったんですね。特にキルギス人はフィジカルもやたら強いし、体もバカでかいし、タイ人みたいなテクニックはないですけど、全身でパンチを振るってくるタイプで。そういう相手にも自分のテクニックが通用すると分かったので、すごく自信になりました。ここで他団体を制圧したら世界に打って出たいなと思っています」
──そのためにも、このトーナメントは当たり前に優勝しないといけないですよね。
「ホントにそうですね。油断はしないですけど、優勝しないといけないですね」
──優勝賞金は300万円です。何に使いたいですか?
「クロムハーツとROLEXのコラボウォッチを買おうと思ってたんですけど、考えを変えて、全額貯金に回そうと思っています」
──エラい変わりようですね。
「その理由は、家族ができたことなんですよ。子供に300万円の時計を買ってやろうかと思っています(笑)」
──それはおめでとうございます!
「ありがとうございます。家族に全額フルベットしますよ!」
──了解です(笑)。では最後に、今回の試合で一番注目してほしいポイントはどこでしょう?
「子供もできたし、今の僕はもう“ニュー壱”になりました。子供がお腹に宿ってから、負けなしなんですよ。子供が将来大きくなったら、SNSも見るじゃないですか。僕もSNSで生きさせてもらっているし、こうして取材してもらったり、メディアに取り上げてもらったりもしているので、自分のやってきたことがいろいろ出ますよね。その時に恥ずかしいことがないように、“ニュー壱”になって、今までのスタイルとか全部捨てようと思ってるんです。その上で、今回見てほしいところは……“顔”」です」
──結局変わらないじゃないですか!(笑)
「“ニュー壱”ですから。将来、子供が見るわけじゃないですか。「お父さんって、こんなことやってたんだ」と。だから、「顔」です」