MMA
インタビュー

【ONE】“野生獣”手塚裕之「農耕民族がトンガの戦闘民族を倒す! 6連続フィニッシュかましてきます」

2024/09/04 13:09
 2024年9月6日(日本時間7日)に米国コロラド州デンバーで開催される格闘技イベント『ONE 168: Denver』(U-NEXT配信)のONEウェルター級戦でイシ・フィティケフ(豪州/トンガ)と対戦する手塚裕之(ハイブリッドレスリング山田道場/TGFC)が、試合前のU-NEXTインタビューで現在の心境を語った。  手塚は“野生獣”の異名を取る第13代PANCRASEウェルター級王者。キャリア14勝で12フィニッシュとまごうことなきフィニッシャーで、2024年4月の前戦ではフィティケフとも対戦したシウバにノースサウスチョークで一本勝ち、5連続フィニッシュを決めている。  対するフィティケフはニュージーランド生まれ豪州育ちのトンガ人で、ラグビー選手としての異色のキャリアを持つ。柔術黒帯でキャリア8勝6フィニッシュと高い決定率を誇る。2023年4月の前戦では、ヴァミール・ダ・シウバに1R リアネイキドチョークで一本勝ち。  そんなフィティケフとの試合に臨むため現地入りした手塚に意気込みを聞いた。 P4Pのムエタイコーチに謝礼を払いたいと伝えたら── Pound 4 Pound ムエタイのクレムコーチと手塚。(C)hiro_tgfc ──今回ファイトウィークよりも早く現地入りしたのは米国デンバーでの試合ということでアジャストメントの時間に余裕を持ったのですか? 「そうですね。時差と高地対策です。前戦までタイだったのでちょっと違うので早めに入っておこうかと1週間近く早めに入りました。ただ、別に時差も関係なく1日目から過ごせちゃってて(笑)。高度とかもあんまりよく分からないです、体感なので、別に疲れる時は疲れるしな、みたいな」 ──息が上がるような感じもなく? 「すごい追い込むような練習はしていないので分からないのですけど、なんとなく“あんまり変わらないな”という。一応、栃木の地元でも、高度が同じような、1600mくらいあるところを見つけて週に1回ほど走りこみをしていたので、それもあるかもしれないです」 ──早く現地に入った分の時間はどのような過ごし方をしますか?追い込みは日本で終えてきていますよね。 「そうですね、スパーリングや激しい追い込みは日本で終えてきて、こちらで調整という感じで、打ち込み中心で練習している感じです。Pound 4 Pound ムエタイ(※以下P4P)というジムで練習しています。ここにはUFCファイターも何人もいますが、前回コロラド合宿に来たとき、平良達郎くんに紹介してもらって、そこのコーチと一緒に練習をしていきます」 ──代表的なところではニール・マグニー選手などがいますよね。体を動かしてみて、調子はいかがですか? 「調子はいいです。“いつも通り”いいです(笑)。いつもいいので(笑)。試合前はやっぱり野性の本能で上がっていくんですよ! ただ、試合前に怪我しちゃった経験もあるので強度を落としたりしますが、それでも経験で慣れているから全然不安なく戦えるし、試合に向けて調子が上がっていくんです。これは野性というよりは経験ですね(笑)。  P4Pのムエタイコーチのクレムが、前回合宿で行った時にすごく良くしてくれて。パーソナルトレーニングのような感じで面倒を見てくださったんです。その時こちらは謝礼を払いたいと伝えたのですけど、『そういうのじゃないから』という感じで(受け取ってもらえず)、『My Pleasureだから』と。『こっちがもてなすのが好きなんだ』という感じで返されて。戦略面でも相手をめちゃくちゃ細かく分析したデータをメールで送ってくれたりと、自分が帰国してからも気にしてくれていました。それで、今回は試合前にお世話になるのでさすがにお金を払わせてほしいと言ったのに、また断られてしまって(笑)。ジムのオーナーにも、コーチが受け取ってくれないから渡してほしいと言っても、『(平良)達郎も、君も、謙虚で、ファイターとして持っている資質が素晴らしいから』って。『ウェルカムなんだよ』と言ってくださって。結局支払えず、逆にTシャツをもらってくるという(苦笑)」 ──コーチたちにしてみれば「勝利」の二文字こそが最高の報酬ということなのでしょうから、モチベーションになりますか。 「『これに勝ってタイトル戦だな!』とか『チャンピオンになれよ!』と言ってくれるので、そこで返したいというのはありますね。もともと総合格闘技を始めたのもアメリカだし、お世話になったコーチもいて。教えを取り入れるか入れないかは自分自身の問題ですけど、自分としてはいい出会いをしてきて今の自分がいるので、この試合に向けてもいい出会いができたのではないかなと思っています」 ──先ほどおっしゃった分析データを受け取った印象はいかがでしたか。ご自身の考えや対策とフィットしましたか? 「僕自身があまり詳しく研究して見るタイプじゃないので“こんなところまで見てくれているんだ”という感じで。相手のクセを何個か挙げてくれて、そこにこう攻めてこうして、というようなパターンをいくつか作ってくれた上で、でも『実際はファイトだから、何が起こるか分からないから、それも頭に入れた上で戦っていこう』ということも言ってくれて、助けになりました」 ──通常は相手を想定した対策練習はあまりしないですか。 「あんまりやらないですね。ミットで、相手の得意なパンチや入り方に合わせたカウンターの練習をする程度ですかね。あとは寝技だったら相手の得意な形にならないために、まず相手の得意なポジションから練習を始めるというくらいです」 ──相手の得意なポジションを把握しつつ、基本的には自分がやりたいことを押し付けるような試合をしたいですか? 「そうですね。自分のやりたいことをやれば勝てると信じているので。相手に合わせすぎることは固定観念を持ちすぎることになるので、それはよくない。だからいつもはサラっと見て“こんな感じか”と掴んで、あとは野性の勘ですね」 [nextpage] フィティケフは強いけど、合宿ではUFC選手たちとスパーでやれている 【写真】エレベーション・ファイトチームのドリュー・ドーバーと。(C)hiro_tgfc ──試合を間近にした今、あらためて、相手の印象はいかがですか? 「強いと思っています。戦績もいいですし、しっかりフィニッシュもしているファイターなので世界トップレベルだとは思います。ただ、世界トップレベルという意味では、自分は前回の合宿でもUFCのウェルター級の選手たちともスパーリングをしていて、そこで全然自分もやれるなっていう自信につながっているので、問題ないです」 ──フィジカルデータを見る限り身長差が10cmあるようですが。これまでの戦いも含めて、ONEのウェルター級でやる上でフィジカル差を意識したことはありますか? 「あんまりないです(笑)。いや、大体みんな身長盛ってるんですよ、だから身長に関しては、多分あんまり変わらないです(笑)」 ──そうなんですね(笑)。いざ対面すると「あれ?(思ったより小さいじゃん)」ってなります?(笑) 「めちゃめちゃ思いますよ。“みんな盛りすぎだろ!”って(笑)。大体10cmくらい盛っている人が多いですね、よく『ウェルター級で、その身長でよくやれるね』って言われますけど、全然そんなことなくて。アメリカでもゴリゴリのウェルター級の選手は、大体僕と同じくらいですよ」 ──「コメvs.タロイモの代理戦争」と言っていましたが、その構図が持つ意味を教えてください(笑)。 「これで相手もコメ食ってたらどうしようとは思いますけどね(笑)! 僕、マーク・ハントが好きで、彼の強さについて調べていた時に、タロイモをめっちゃ食っていたと知って。サモアの人はタロイモが主食なのですよね」 ──世界最強の民族と称されるポリネシア人の主食タロイモと自分が食べているコメのどちらが強いのか(笑)、と。タロイモというと、日本ではタピオカの材料というイメージですね。 「そう、主食としてあまり馴染みがないですから、どうなのかと。それから向こうの人たちって、マオリに代表されるような、戦闘民族ですよね。対戦相手にそういう血が流れていることを想像すると、たぎりますよね。いろんなファイターと試合できることこそが世界規模の団体の醍醐味でもあると思うので。ブラジルやロシア、結構いろんな海外の選手とやってきたけど、トンガ人と戦うのはたぎりますね! 戦闘民族を倒す農耕民族!」 ──ファーマー・ストレングスを見せつけるのですね。 「そうです!」 ──戦闘民族であるルーツとは別に、ラガーマンだったバックボーンについてはいかがですか? ラグビー経験者特有のもの、たとえばスピードであるとか、当たり強さだとかで警戒している点はありますか? 「突進力という意味では速さはあると思いますけれど、入りの速さで言えば僕も空手をやっていて二瓶(卓郎)先生の入りをいつも体感しているので、それと比べれば全然劣ると思いますし、自分のほうが懐に入るスピードであったり、スピードでは上だと思っています。ただ、パワーについてはラグビーをやっていたことでの強さがあると思っています。あんまり横の動きとかはないのかなって思っていますけどね。相手もオールラウンダーでしょうけれど、自分もオールラウンダーとして自信があって、とくに打撃のクオリティが高いと思っています」 [nextpage] 「アメリカで試合がしたい」じゃなく「アメリカで試合をすることで名前を売りたい」 (C)hiro_tgfc ──アメリカでボクサーのアンディ・ミンスカーさんの薫陶を受け、今は二瓶先生のもとで空手を練習しているなかで、ご自身のMMA打撃の進化をどのように感じていますか? 「試合を通してですけれど、ここ3戦はほとんど顔も触られずに勝ってこれていて。KO勝利ではないけれど、組みを混ぜる打撃という点で空手は合っていたりしますね。自分はあまりガードをしないんです。ノーガードって意味ではもちろんなく手は顔の前に置いていますけれど、固めたりしない。固めてしまうと、お腹が空いたりタックルに入られるスペースが空いてしまうので、“固まる姿勢をしない”のですよね。  あとは足が止まった瞬間は必ず頭を動かすとか、打ち終わりに同じポジションに頭を置かないことであったり、ボクシングの先生の教えもそうだし、空手の練習のなかで自分に落とし込んで、それを試合のなかで実践してきて“確かにそうだよな”って思えて。最近は空手が自分がタックルを切りやすかったり、逆にタックルに入りやすかったりするという組みにも繋がっていて、距離感と相手に入る瞬間の駆け引きにいい影響が出てきて、アドバンテージを感じられるというか、MMA打撃ができるようになってきていると思っています」 ──どのような展開になると思っていますか? 「相手は僕が唯一ONEで負けた試合を研究してくる感じがします。そうすると同じようにタックルで漬けにくるかなと思うのですけど、それに対してはしっかり切って、逆に自分がテイクダウンするか、その前に打撃で仕留めてしまうか、どちらにせよ相手のやりたいことはできずにこちらがフィニッシュしていると思います。打撃か寝技かは分からないけれどフィニッシュは狙います」 ──フィニッシュ狙いで、流れでどちらでも、ということだとは思うのですが、先ほども打撃の進化や優位性を語っていたなかで、今回はよりKOを狙うというようなことはありますか? アピールという意味も出てくると思うのですが。 「色気出しちゃうとあまりいいことないの、知ってるんです(笑)。アメリカ大会だから承認欲求が出ちゃうかもしれないですけど(笑)、でも大丈夫です。僕はいつも『フィニッシュを狙う』と言っていて、それでこの5戦フィニッシュできていますけど、あくまでもフィニッシュは、勝つための一番の最短ルート。最後までリスクなく終わらせるために。勝つための最短ルートの中で終わっているということ。だから勝つことを一番のプライオリティに置いているので、最悪判定でもいいとは思っているんです、それくらい勝ちに徹しています」 ──MMAキャリアがアメリカで始まっていることも踏まえて、今回デンバー大会に出ることには特別な思いがありますか? 「そうですね、やっぱり総合格闘技を始めた土地ですし、アマチュアのキャリアもずっとこっちで積んで“プロになって、自分がアメリカに呼ばれて試合をすることになったか!”と感慨深いことをちょっと思った瞬間はあるのですけど。そこでやっぱり勝たないと、別に“アメリカで試合がしたかった”ってわけじゃなくて、“アメリカで試合をすることで名前を売りたい”ということなので、ここでしっかりフィニッシュしたいですね」 ──北米で名前を売るということが、キャリアを通して目指してきたことのひとつなのですか? 「お客さんをとってみても、アマチュアのときから北米ファンはすごくエキサイティングで、僕もそういうファンの前で試合をするのは好きでしたし、やっぱり世界で一番大きな団体があって、MMAファンがすごく多いですから、そこで自分の名前を売れたら名誉なことですね。もちろん日本にも国内の大きな団体があり、有名になっているファイターもいますけど、自分が一番最初に目指したのは海外に出て世界の強豪たちと戦っていくことだったので。そういう意味では世界で名を売っちゃったほうが早いかなって。国内でいくら知名度を持つことよりも。だから今大会に出られることはとても嬉しいです」 ──“やっとここまできたか!”という気持ちですか? あるいは順当な流れでしょうか。 「順調にステップアップできているとは思っています。そういう意味でも、ここで勝ったら次はタイトルショットが欲しい! とは思いますよね」 ──では、この試合をタイトル戦を見据えた重要な試合として、位置付けていますか。 「そうですね。いい勝ち方すれば組まれるのかなと思いますし、そこに関わってくるかなとは思っています」 ──ケージでの試合となることについてはいかがですか? 「ここ3戦がリングだったのですけど、それ以外は自分の経歴がアマチュア含めてケージなので慣れていますし、ケージの方が戦いやすいかなっていうのはありますね。リングにはリングの良い面があって、コーナーがある分追い詰めやすいというようなことはありますが。ルンピニースタジアムのリングはMMAで考えるとちょっと狭いんです。自分がテイクダウンしたときに相手に立たれにくいっていうのはありましたけど、だから自分が下になると立ちづらかったり、狭いので腕十字に行ったときに体が詰まりそうになったりして。だから、より足も使えて、ケージなので万が一倒されても立ちやすいという利点を活かしていきたいです」 ──王座戦を見据えてのプレッシャーなどもあるかと思いますが、今は楽しみが勝っていますか? 「はい、楽しみですね!」 ──手塚選手は緊張しないようなイメージです。 「どうなんですかね?(笑)ある程度しますよ。控室でウエーってなったり(笑)。最近胃が弱くて」 ──コメを食べているのに?(笑) 「ハハハ!(笑)」 ──ケージに入るときはどんな気分なのですか? 「雑念があるんですよ。この間なんて“絶対これ勝ってボーナス!”とか(笑)。だから集中して、コントロールできることに徹したい、つまり勝つことだけを考えたいと思います」 ──SNSでの突然のトラッシュトークなどはどういう心境といいますか、狙いでつぶやいているのでしょうか。 「呟きは注目を浴びたくて、ふざけてやっているだけです(笑)。承認欲求がすごくて」 ──注目されますが、それに伴うアンチコメントなどが気にならないのですか? 「気にならないです。自分で蒔いたタネなので、そういうのはしょうがないです。分かった上でやってるので。でも最近は、父親だし、みっともないから落ち着こうと思っています」 ──ご家族に「やめて」って言われたりも?(笑) 「妻はSNSをやらないので俺が暴れていることを知らないんですけど(笑)、客観的に見てスポンサーさんの企業イメージとかもあるので改めようかな、って。でもそう考えながらも、承認欲求にかられてやってしまったりするので、エンターテインメントだと思って、見てくださいね!」 ──では最後に、U-NEXTでライブ配信を視聴するみなさんにメッセージをお願いします。 「しっかりフィニッシュして6連続フィニッシュかましてくるので、よかったらご覧になってください!」
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