日本時間の9月7日(土)深夜、アラブ首長国連邦・アブダビのドゥ・アリーナで「UFC242」が開催される。
メインイベントは、2018年10月の「UFC229」でコナー・マクレガーを下したライト級正規王者ハビブ・ヌルマゴメドフが、暫定王者ダスティン・ポイエーと対戦するライト級王座統一戦。
さらに2019年4月にUFCデビュー戦を白星で飾った日本の佐藤天が、ベラル・ムハマッド相手にUFC2戦目を行う。
この注目の2試合の見どころを、WOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
――「UFC242」のメインイベントは、あのマクレガーを破ったライト級正規王者ヌルマゴメドフが、今年4月にマックス・ホロウェイと歴史に残る激闘を展開した暫定王者ポイエーと王座統一戦を行うことになりました。この試合のポイントはどの辺になりますか?
「まず、大きなくくりとしてライト級という階級は、今や“ライト”と言っても軽量級とは呼べない、比較的重い階級になってきているんですね。なのでフライ級、バンタム級、フェザー級なんかと比べると、どうしても試合の後半、動きが遅くなっていくものなんですよ。でも、ヌルマゴメドフは最後まで失速しないし、いわゆる“組み力”も落ちないところが、強さとしてあるんですよ。」
――ヌルマゴメドフは、いわゆるグラウンド&パウンドでものすごい強さを発揮しますが、普通、試合の後半になるとテイクダウンは難しくなるものです。でも、ヌルマゴメドフは違うと。
「もちろんポイエーも、ホロウェイ戦を見てもわかるとおり、5ラウンドをフルに動き回れるスタミナはありますが、打撃のハンドスピードや、ステップワークなんかはどうしても落ちてしまう。その中で、ヌルマゴメドフの組み力が落ちないことはわかっていると思うので、どう試合を組み立ててくるのかが、まずポイントになると思います」
――スタミナ配分も含めて、どこで勝負をかけるかという。
「例えば、5ラウンドをフルに戦うつもりなら、攻める時間をショートにして“攻め疲れ”を防ぐことも一つの手段かと。あとは組まれた時の対処をどうするか。徹底して立つか、サブミッションを仕掛ける割合をどうするか。下からの関節技や絞め技を仕掛けるのって、どうしても体力を奪われるんですよ。そういったところをどう調整していくかが重要になると思うんです」
――いずれにしても、相当難しい作業を強いられるということですか。
「そうなりますね。8月に行われたヘビー級タイトルマッチでのスティーペ・ミオシッチのように、後半失速してきた相手に対して、ボディブローという、それまでとは別の攻撃で活路を見出せれば良いのですが、ヌルマゴメドフは後半になっても隙やミスを見せる選手ではないので。また、ポイエーはボクシングがすごく上手いんですけど、なかなか一発KOにはさせてもらえないと思います。ヌルマゴメドフは、マクレガー戦のときもそうだったんですが、パンチをもらいながら、自分も手を出してどんどん前に出ていくんですよ。あれをやられちゃうと、距離が詰まっているので当ててもなかなか効かない。また、打つときに自分のバランスも崩れてしまって、パンチをクリーンヒットさせられないんですよね」
――では、ポイエーの突破口はどこにあると思いますか?
「可能性として考えられるのは、組んでからの離れ際の打撃ですね。ヌルマゴメドフは組んで離れるとき、一瞬だけ顔が開くときがあるんです。その時が、強い打撃を入れるチャンスかもしれない」
――そういう針の穴に糸を通すような攻撃が必要だと。
「穴のない相手にそれをやらなきゃいけない。ヌルマゴメドフの針の穴は、相当小さいですからね。ただ、試合に向けてのモチベーションや仕上がりという面では、ポイエーの方にアドバンテージがあるような気もします。ヌルマゴメドフは、10カ月間とはいえ出場停止期間があったので、試合がやりたくてもできないメンタルがあったと思うんです。それは休んでいるメンタルとは違いますからね。試合ができない期間って、なかなかトレーニングに身が入らなくて、ただの運動になってしまったりするんですよ」
――一方、ポイエーの方はUFC苦節9年でようやく暫定王者になり、いよいよ王座統一戦。モチベーションは最高潮まで達していると。
「この前のホロウェイ戦も自分の戦い方を貫いて、すごくいい勝ち方をしていますからね。ああいう試合ができれば、ヌルマゴメドフを打ち破るのも可能だと思います。構えもポイエーはサウスポーで、ヌルマゴメドフはスイッチはするもののオーソドックスなので、距離は比較的取りやすいはず。そこをしっかりキープできれば、相手のタックルなどで組み付かれないようにすることはできると思うので。そこもポイントでしょう」
――ヌルマゴメドフが序盤でテイクダウンを成功したら、そのままペースを完全に握られてしまう可能性が高い。ポイエーからしたら、まず先手は取らせないことが重要だと。
「そうですね。先手を取らせずに、いかに的確に当てるか。正直なところ、1ラウンドはポイント稼ぎの戦い方になってもいいと思うんです。ラウンドを1つ取ったら、ポイエーサイドとしては試合運びに余裕ができる。余裕ができれば、いろんな技が使えるようになりますからね。この試合は1ラウンド目から注目してほしいと思います」
佐藤選手は打撃を入れることはできると思うが、ムハマッドはかなり打たれ強くタフな相手
――今大会は日本の佐藤天(たかし)選手が、UFC第2戦としてベラル・ムハマッドと対戦します。この一戦はどう見ていますか?
「佐藤選手にとって、ここは勝負でしょうね。前回、ベン・サンダースにいい勝ち方(2ラウンドTKO勝利)をして、今回のムハマッドはUFCでも6勝3敗と実績を残している選手ですから」
――ムハマッドは、ティム・ミーンズやジョーダン・メインといった選手にも勝っています。
「1戦目のサンダースもUFCで5年間戦ってきた選手で、そういう相手にTKOで勝てたことは、かなり自信になったと思いますね。アメリカでもキャンプを行なって、対外国人の練習がしっかりできていたと思いますし。海外の選手は、やはり日本人選手とフィジカルが違いますから。それが感覚的にわかった上で試合ができていたので、ああいう結果にも結びついたと思うんです」
――普段通りの戦いがしっかりできたという。
「だから今回も同じようにできるとは思いますが、当然ながらより難しい相手にはなってますよね。ムハマッドはオーソドックスなボクシング技術がしっかりしていて、レスリングも強いですから。ただ、ディフェンスはそれほどうまくないので、どの試合でもかなりパンチをもらっていて、血まみれになるような試合も多い」
――結果的に“激闘型”になってるわけですね。
「だから、おそらくは佐藤選手もいい打撃は当てられると思うんです。サウスポーの構えで、左ストレートが伸びて、当てる感覚をしっかり持っているので」
――前回のサンダース戦は、そのパンチからパウンドでTKO勝ちでした。
「なおかつ、佐藤選手はヒジもうまいんですよ。至近距離からの縦ヒジとか。だから、相手に打撃を入れることはできると思いますが、当てたからといって安心できないのが、このムハマッドなんです。かなり打たれ強くてタフな選手ですから。あとはテイクダウンの攻防もカギですね。相手はタックルを仕掛けてくるので」
――ボクシングと、グラウンド&パウンドがムハマッドの強みですね。
「それに対して佐藤選手は柔道出身で、上半身を組むのが得意なので、そこをどううまく混ぜられるか。ムハマッド相手に自分から組みにいく相手はあまりいなかったのですが、上半身を組まれてからの外掛けや投げといった柔道技術への対処は、そこまでうまくないはずなんです。だから佐藤選手は、打撃でしっかり先手を取った上でのケージレスリングが突破口になるかもしれないですね」
――UFCでは、なかなか日本人選手が勝てない状況が続いていますから、頑張ってほしいですね。
「そうですね。ここでいい勝ち方できれば、ランキング戦も見えてくると思うので、しっかり自分の戦いをして、いい勝ち方に期待したいですね!」(提供/WOWOW 取材/文・堀江ガンツ)
◆UFC 2422019年9月7日@アラブ首長国連邦アブダビ ドゥ・アリーナ
WOWOW『UFC-究極格闘技-』放送スケジュール『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC242 in アブダビライト級頂上決戦!真の最強王者はどっちだ!』
9月7日(土)深夜3:00[WOWOWプライム]生中継※終了時間変更の場合あり(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
9月8日(日)午後5:30[WOWOWライブ]リピート(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
【対戦カード】
▼UFC世界ライト級王座統一戦 5分5Rハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)ダスティン・ポイエー(米国)
▼ライト級 5分3Rポール・フェルダー(米国)エジソン・バルボーザ(ブラジル)
▼ライト級 5分3Rイスラム・マカチェフ(ロシア)ダヴィ・ハモス(ブラジル)
▼ヘビー級 5分3Rカーティス・ブレイズ(米国)シャミル・アブドゥラヒモフ(ロシア)
▼ライト級 5分3Rカルロス・ディエゴ・フェレイラ(ブラジル)マイルベク・タイスモフ(ロシア)
【プレリミナリー】
▼ウェルター級 5分3Rベラル・ムハマッド(米国)佐藤 天(日本)
【出演】解説:高阪剛、堀江ガンツ実況:高柳謙一進行:渋佐和佳奈WOWOW番組オフシャルサイト