2024年2月3日(日本時間4日・日曜日)米国ラスベガスのUFC APEXにて『ROAD TO UFC Season 2』(U-NEXT配信)の決勝戦が行われる。
日本から参戦した4階級7選手中、フライ級で鶴屋怜、ライト級で原口伸が決勝に進出している。
優勝すればUFCとの契約が決まる決勝戦に向け、大会最後に行われるライト級で、元UFCのロン・チュー(中国)と対戦する原口伸(BRAVE GYM)にインタビューした。(C)U-NEXT
この試合にかける思いを、試合内容で感じてもらえれば
──試合まであと3日となりました。現在のコンディションはいかがですか。
「体調はいつも通りです。気持ちの面でも特に緊張していなくて、“決勝戦まであと3日なんだ”という、本当にリラックスして、今は準備していて、僕の中では落ち着いていると思っています」
──ラスベガスで試合をするのは初めてですか?
「ラスベガスは初めてですし、アメリカが初めてです」。
──初めて来た感想を教えてください。
「カジノがいっぱいあって、空港にもあったので、そこはアメリカっぽいなって。1回やってみたいなとは思っています(笑)」
──ラスベガスのUFC PI(パフォーマンス・インスティテュート)で調整してみていかがでしたか?
「試合とほぼ同じオクタゴンを使えたので、雰囲気を掴めたと思います。上海PIでも思ったのですけれど、やっぱり“すごいな。揃いすぎてるな!”と思って。かっこよかったです」
──そういう場が上海にもあって、そこが中国からの出場選手の拠点になっていることについてはどのように思いますか?
「“恵まれた場所でやっているんだな”とは思うのですが、そこに対してコンプレックスはなく、あちらにできないことをこちらはやっていると思っているので、特には大丈夫です」
──今回、大会の延期に伴い、会場がUFCの本拠地のラスベガスになりました。UFC APEXでの試合についてはいかがですか?
「UFC APEXも僕が学生の時から見ていたような会場なので、そこでやれることは嬉しいです。ただ、まだ“うわー!”みたいなものはあまりないかもしれません」
──改めて、対戦相手である中国のロン・チュー選手の印象を教えてください。
「ストライカーで身長も高くて(リーチ184cm)、ガンガン前に出てきて、結構激闘を好むタイプというイメージです。一度UFC本戦で戦っていた選手なので、より自分のなかで査定試合じゃないですけど、UFCで戦ってきた選手を相手に、自分を試すという感覚です」
──レスラーvs.ストライカーという図式になると思います。相手のストライキングで注意している点は?
「右の攻撃がうまいので、ストレート、アッパー、ちょこちょこ左も使ってくるのでそこに気をつけます。カーフで下を散らしたりボディも散らしたりと打撃ではどこでも強いイメージがあります」
──それらを意識して練習に取り組んできましたか?
「相手の対策をしすぎると自分の動きができなくなることがあるので、“右が強い”というようにざっくりと相手をイメージして、やることはあまり変えずに“ここは気をつけようかな”くらいでやっていました」
──それでは、相手を想定した練習はどの程度してきたのでしょうか?
「背格好が似ているような選手、身長が高めの人と極力やるようにはしていましたけど、そんなに“相手がこう動いたら、こう”というような細かいことは考えずに、のびのびとやろうかと。対戦相手のロン・チュー選手と身長がほぼ一緒でオーソドックスの選手に、彼が得意なストレートやアッパー、カーフとかを出してもらったりする中で、どう自分が潜って入るかということを練習していました」
──相手を研究してそれに合わせて動くことよりも、自分のやりたいことをいかにやれるかに重点を置いたのでしょうか。
「自分はまだ経験も浅く、いろんなことをやるよりも一個の強みをぶつけていくタイプなので、そこにはこだわりがあります」
──そういう戦いの中でどんなところを一番、見ている人に伝えたいですか?
「前回がちょっと自分のなかでしょっぱい試合だったというのはあるのですが、自分がこの試合にかける思いを、試合内容で感じてもらえればと思います」
──トーナメントの決勝戦なので勝利にこだわっていく試合にはなると思うのですが、戦い方という点ではいかがですか。
「最初は勝つことだけに必死で作ってきたのですけど、宮田(和幸)代表とか、マネジメントのKEI前田さんに、「悔いが残らないように戦うこと」と言われて、そこが自分の中でしっくりきたので、しっかり出し切るという気持ちでいようと思っています」
──勝利そのもの以外にこの試合を通してテーマや課題として設定していることはありますか?
「自分が持っているものをすべて出し切ること、が自分のテーマです」
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殺伐とした、強さだけが存在している世界で戦うこと
──2023年5月から出場しているRTUのトーナメント全体を通して、ご自身のなかで変化や成長を感じていることはありますか?
「準決勝のイレギュラーや今回決勝が延びたことなどがあって、準決勝で勝てたことは自分のなかでは普通の試合で勝ったときよりも得られるものがあると思いましたし、そういうところで成長に繋がったなと思います。それから、契約をかけているということでみんな目の色を変えてきているので、そこで勝ち上がれるのはいい経験になりました」
──先ほど「経験がまだ浅い」と仰っていました。MMAを始めてからのご自身のキャリアプランのようなイメージと、現在の状況を照らしていかがですか?たとえば「自分が思っていたより早くここに着いた」あるいは逆に「やっとここまで辿り着いた」であるとか。
「周りからは“早い”と言われますけど、自分としては勢いがあるうちに行きたかったので、順当だと思います」
──そうやって「行きたい!」と強く思わせるUFCの魅力とは?
「やっぱりあの殺伐とした、強さだけが存在している世界──そこがいいですね」
──そんなUFCで試合をすることはご自身にとってどのような意味がありますか?
「総合格闘技をやっている身としては絶対にごまかせない世界最高峰の舞台で試合をすることに、総合格闘家としての一番の意味があると思います」
──試合をご覧になる方にメッセージをお願いします。
「日本で応援してくださる皆さん、今回RTU決勝、しっかり契約を勝ち取って、その後、UFCで活躍できるように頑張っていきますので、応援よろしくお願いします」
──今もお隣にいらっしゃるお兄さんの原口央選手が今回コーナーにつかれます。やはり頼もしいですか?
伸 兄貴がいるだけで、あったかくなります、気持ち的に……。ふふふ(笑)
央 頑張ってもらえるよう、僕はサポートをやるだけですね、それだけです。
──昨年、このRTUと同時期にROAD FCのトーナメントに出場しキム・スーチョル選手と戦った央選手ですが、ひとりのMMAファイターとして見たときに、UFCまであと一歩の伸選手に、たとえば「先に行かれてしまう」というような気持ちもありますか?
央 そんな風には思わず、僕は僕でやっていて。MMAを始めたときからUFCを目指すと(伸が)言っていたので。僕はUFCには絶対届かないと、自分自身がUFCに行けるレベルじゃないと思っているので、弟をシンプルに応援したいという気持ちです。そして僕は僕で頑張っていますから、お互いに違うところでも頑張れるんだよって思っています(※3.10 GRACHANで田中智也戦が決定)。
伸 ……って兄貴は言うんですけど。心の中には何かあると思う。会話のなかでそれが垣間見えるときがあるんです。野望のようなものを語るときがあって。
──そういえば、同時期にトーナメント戦に出場していて、勝利者マイクの「This Tournament is Mine!」を央選手が借用したという話もありましたね。
央 全部パクります(笑)。
伸 だからもう言うのやめました(笑)。
──では伸選手は優勝したときの最高の一言を別に用意してきているのですか?
「いえ、何も決めてないです。もうなんか、淡々と日常を過ごしているという感じです」
──毎日の暮らしを送っているなかで、週末になったら試合をしているというような?
「本当にそんな感じなんです。“試合”っていう感じはしていなくて」
──肉体的な面で、日々動いているからそう思えるのでしょうか……。
「いえ、ごろごろしているときの方が多いから、どうなんでしょう(笑)。“決勝戦だから”といって、いつもと違うように“気合い入れて! 気合い入れて!”とやるとテンパったりすることがあると思うので、“いつも通り”を敢えて心がけるようにしています」
──『ゴング格闘技』本誌の取材で「憧れていては越えられない」と仰っていたのが印象的ですが、そういえば準決勝のシンガポールで、前日のファイトナイトのメインイベンターだったマックス・ホロウェイ選手(フェザー級1位)と記念撮影をしていましたよね? あれを機に考えを変えたのですか?
「正直、準決勝の時は浮かれていた部分もあるのですが、僕はマックス・ホロウェイ選手はずっと最初から好きな選手というか、UFCを見始めてから、マックス・ホロウェイの出るPPVだけを買ったりするというくらい好きだったので、記念に撮ってもらいました。でも最近はそういう目では見ないようにして、戦ったらどうなるだろうという目線で。フェザー級に落としたいと思っているので、ライト級の選手は“おお、すげえ”と思いながら見ていますが」
──UFCと契約を果たしてからの先の展望をどのように見据えていますか。
「僕自身はゆくゆくフェザーに下げたいと考えていて、フェザーに下げてしっかりランキングに入って、いっこずつ積み重ねて行きたいと思います。やっぱり、UFCと契約したら終わりじゃないので、その後ももっときつい戦いが待っていると思うので、憧れの目を持っていたら最後まで越せない。一人ひとりを、しっかり食らっていくつもりで戦っていきたいと思います」