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日本時間の2019年8月18日(日)、米国カリフォルニア州アナハイムのホンダ・センターで『UFC241』が開催される。
メインイベントは、1年ぶりの再戦となる王者ダニエル・コーミエーvs挑戦者スティーペ・ミオシッチのUFC世界ヘビー級タイトルマッチ。さらに“悪童”ネイト・ディアスが、元ライト級王者アンソニー・ペティスを相手に3年ぶりのオクタゴン復帰戦に臨む。この2試合の見どころを、WOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
──『UFC241』のメインイベントは、ダニエル・コーミエーvsスティーペ・ミオシッチのUFCヘビー級タイトルマッチ。実に丸1年ぶりの再戦になりますが、この一戦を高阪さんはどう見ていますか?
「前回の試合以降、コーミエーはデリック・ルイス相手に一度防衛戦を行なっていますけど、ミオシッチは試合自体が1年ぶりなんですよね。だからある意味で、1年の時を経たとはいえ、ダイレクトリマッチみたいなもの。そしてコーミエーからしたら、前回勝っているだけにやりづらいと思うんですよ」
──KOで倒した相手との再戦ですから、コーミエーにとってはメリットが少なく、リスクの方が多い試合だと。
「そうなんですよ。自分がチャンピオンであることを証明するには、もう一回勝たなきゃいけないわけで。だからコーミエー側からしたら、前回のようなことをもう一度起こせるかどうかがポイントになりますね」
──前回はライトヘビー級王者だったコーミエーが体格差をはねのけ、右フックでの1ラウンドKO勝利でした。
「前回は4分台という短い試合時間でしたけど、その中で勝敗を分けるポイントは、中盤の組みの展開にあったと思うんですよ。スタンドで組みの攻防があったあと、コーミエーは離れ際に左のジャブを当てているんですよね。そこから、同じようなタイミングで左のジャブが当たり出して、さらにローキックが入り始めていたんです」
──あそこで、いいジャブを当てたコーミエーに試合が傾いたという。
「組みの展開は、ミオシッチ的にはもしかしたらテイクダウンも奪えたかもしれない場面だったんですけど、コーミエーがうまくそれをいなして、そこで一瞬、ミオシッチが失速しかけたように見えたんですね。コーミエーはそこを見逃さずにジャブを当てて、自分の距離を設定することができたんです。それと同じことが、今度の試合でもできるか、ということです」
――当然、ミオシッチも今度はキワの攻防や、スタンドでの距離の設定というものに細心の注意を払う、ということですか。
「だからあそこで、逆にミオシッチが距離をとって、前蹴りやローキックでコーミエーを前に出させないようにしていたら、試合も1ラウンドでは終わってなかったと思います」
――身長もリーチも、ミオシッチが上回っていることがその理由ですね。
「でも、コーミエーを中に入れてしまったことで、ジャブももらってしまい、それが結果的に致命傷になっていったわけです。コーミエーのジャブってすごく強いんで、フィニッシュブローは右フックでしたけど、その前の何発かのジャブで、ミオシッチは軽い脳震盪を起こしていたんじゃないかと思うんです」
――ジャブが入り出した時点で、試合は半ば決していたと。
「で、その距離にならなければコーミエーのジャブはもらわないので。距離の設定を長くとれるのはミオシッチの方ですからね、それをやられたらコーミエーはつらくなるんじゃないかと思います」
――コーミエーにとっては、前回より苦しい展開が予想されるわけですね。
「そうだと思います。また、前回はサミング(アイポーク)があったというのも、ひとつのポイントだと思うんです。しかもあれは、コーミエーが相手の突進を止めようとして、手を前に出したときに指が目に入ってしまったのではなくて、フリッカージャブ的にパンチを出した時に指が開いていて、それが目に入ってしまったんですよね」
――事実上の“目潰し攻撃”と同じことになってしまったわけですね。
「だから、ミオシッチはそうとう目玉のダメージが大きかったと思うんです。試合再開後、ミオシッチが不用意に前に出てしまいましたけど、もしかしたらダブルビジョンで距離感がわからず、それでコーミエーの距離に出ていってしまったことも考えられますからね。とにかく、そういったことも含めて、ミオシッチとしては近い距離になりたくないですね」
――では、ミオシッチが自分の距離で闘うことができるかどうかが、この試合のポイントだと。
「そこは非常に大きいと思いますね。同じ轍は踏みたくないでしょうから」
――『UFC241』でもう1試合、タイトルマッチ級に注目されているのが、ネイト・ディアスvsアンソニー・ペティスの一戦。ネイトはコナー・マクレガー戦(16年8月20日『UFC202』)以来、じつに丸3年ぶりの試合なんです。
「その間、べつに大きな手術をしたとか、そういうわけじゃないんですよね?」
――いや、この3年の間にジョルジュ・サンピエール戦やダスティン・ポイエー戦が噂には上がったんですが、ポイエーの負傷があったり。あと、ネイトがマクレガー戦ですっかりセレブになったこともあり、なかなか交渉がまとまらなかったようです(笑)。
「そういうことなんですね(笑)」
――ですから、ファンにとっては本当に待望のネイト復帰戦となります。
「そうなりますね。また、相手がアンソニー・ペティスというのが絶妙ですよね。お互い激闘型なので、まずハズレはない試合だと思うので。いまのネイトの状態がどうなのかわかりませんけど、昔のまんまのネイト・ディアスだったら、間違いなくいい試合になるでしょうね」
――両者ともに喧嘩上等というタイプです。
「そうですね。両者ともに打撃でガンガンくるタイプですけど、違いで言えば、アンスニー・ペティスの方がパンチにしても蹴りにしても、時たま変則的な動きを仕掛けてくるんですよ。前回のスティーブン・トンプソン戦なんかでも、かなり押されていた展開だったのに、スーパーマンパンチで逆転KO勝ちしていますからね。それもケージを後ろに背負いながら、ケージの縁を踏切に使ってより強いスーパーマンパンチを出していたんです」
――ベンソン・ヘンダーソン戦で見せた、“ショータイムキック”だとか、そういう意表を突く大技を出してきそうですね。
「で、ネイトは“そんなの気にしねえよ”って感じで前に出てくるタイプだから、そういう打撃でネイトを倒すようなことがあったら、またペティスの株が上がると思いますね」
――あとポイントとなるのは、ローキックの攻防でしょうか。ローを蹴られるのは、ネイトの弱点でもありますから。
「ネイトはそういった蹴り技に対しては自分でもあまり出さないし、対処もそんなにしないんですよね」
――痛くても我慢する、という(笑)。
「その一方で、ネイトは一見雑そうに見えながら、すごく効くパンチを持っていますからね。手打ちのように見えるパンチがどんどん効いていって、相手はダメージを蓄積してしまうという。だから、そういう強みと弱みの両方があるネイトを、ペティスがどう攻略していくかが、見ものですね」
――ペティスは、このところ戦績こそ勝ったり負けたりを繰り返していますが、勝っても負けても毎試合のようにパフォーマンスボーナスを獲得しています。
「それで毎試合、血だらけになっているんですよ」
――それは両者ともに言えるかと思います。
「だから今度の試合も、両者血だらけの殴り合いになるんじゃないかな。この試合はセミ前ですよね? メインイベントの前に、もうオクタゴンのマットが血まみれになってるんじゃないかと(笑)」
――それぐらいの“血闘”になるだろうと(笑)。
「だから『UFC241』が行われる日は、一般的には盆休みの最終日ですよね? だから一般サラリーマンの人も、この試合を見たら休みボケが吹っ飛んで、“俺もやったるぞ!”と思うような試合になるんじゃないかな。任侠映画を見たあと、肩で風きって歩くようなことが起こりそうな気がします(笑)」(取材/文・堀江ガンツ)
【放送スケジュール】
『生中継!UFC‐究極格闘技‐UFC241 in カリフォルニア
ヘビー級王者コーミエーが元王者ミオシッチと再戦! 王座防衛か? 奪還か?』
8月18日(日)午前11:00[WOWOWプライム]生中継
※終了時間変更の場合あり
(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
8月24日(土)午前9:00[WOWOWライブ]リピート
(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
【主な対戦カード】
▼ヘビー級タイトルマッチ 5分5R
ダニエル・コーミエー(米国)
スティーペ・ミオシッチ(米国)
▼ウェルター級 5分3R
アンソニー・ペティス(米国)
ネイト・ディアス(米国)
▼ミドル級 5分3R
ヨエル・ロメロ(キューバ)
パウロ・コスタ(ブラジル)
▼フェザー級 5分3R
ソディック・ユサフ(ナイジェリア)
ガブリエル・ベニテス(メキシコ)
▼ミドル級 5分3R
デレク・ブランソン(米国)
イアン・ハイニッシュ(米国)
【出演】
解説:高阪剛、堀江ガンツ
実況:高柳謙一
進行:渋佐和佳奈
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