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【RIZIN】鈴木千裕がケラモフをKOした下からの踵落とし“ペダラーダ”とは何か? セコンドの塩田GOZOとの絆を語る

2023/11/06 15:11
 2023年11月4日(土)、RIZIN初の海外大会がアゼルバイジャン・バクーのナショナルジムナスティックアリーナにて開催され、メインイベントの「RIZINフェザー級(66.0kg)タイトルマッチ」で鈴木千裕(日本/クロスポイント吉祥寺)が、王者ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)を1R、1分18秒 TKO。フェザー級新王者となった。  大会後、鈴木はセコンドであり、MMAの師匠・塩田“GOZO”歩のパラエストラ八王子チャンネルに出演。塩田がフィニッシュとなった下からの“蹴り上げ”を解説し、鈴木はパワーに技術を融合させた塩田の指導と絆について明かした。  試合後、鈴木の蹴り上げを“ペダラーダ”と語った塩田“GOZO”歩は、1996年にスーパータイガーセンタージムに入門し、翌年にパラエストラ東京に所属。2001年にパラエストラ八王子を設立すると、2004年の柔術世界選手権・ムンジアル茶帯ガロ級で準優勝し、中井祐樹より黒帯を授与されている。  UFC1で優勝したホイス・グレイシーに刺激を受けていた塩田は、柔術のみならず、MMAにも挑戦。2005年の全日本アマチュア修斗選手権バンタム級で優勝し、プロシューターとなると、MMAでも9勝8敗の戦績を残した。 (C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka 「自分は誰の試合のときもセコンドで、勝ちを信じてその勝ち筋を(考える)とやっているんですけど、まさかこんな衝撃的な勝ち方が出来るとは思っていなかったです」と、鈴木を称えた塩田。  衝撃フィニッシュとなった、鈴木の下からの打撃について、まずはそれが可能となった鈴木の寝技がポイントだったと語る。 「1点だけ技術的なことを挙げると、やっぱりケラモフはタックルが上手くて、千裕くんの打つタイミングに合わせて(テイクダウンを)取ったんですけど、そこでパス(ガード)されずにしっかり(フル)ガードに戻せたことによって、自分もセコンドとして安心しました」  本誌の既報通り、1Rにケラモフの右を被弾した鈴木が右を打ち返したところに、ケラモフがカウンターのシングルレッグ(片足タックル)テイクダウン。  いったんサイドポジションを奪われそうになった鈴木は、すぐに腰を切ってハーフガード、さらにフルガードに戻したことで、最大の危機を避け、チャンスを得ることになる。 「ケラモフがガードの中に入るとパウンドを打ってくるというのが常套手段なんで、千裕くんも自分で説明していましたけど、そこに三角(絞め)で引き付けて相手が離れたところに蹴り上げた」  テイクダウンから両足をガードに戻すこと。それはケラモフの前戦で朝倉未来がかなわなかった動きだった。さらに、テイクダウンされてスクランブルで不用意に背中を見せて立ち上がりに行くことは、ケラモフが朝倉戦や堀江圭功戦で見せたようにバックを奪い、得意のリアネイキドチョークを絞める展開にもなる。  足を越えさせずにガードでいったん凌ぐことは、寝技がタイトで圧力があるケラモフ相手にリスクもあるなかで、鈴木が死守したことの一つだった。そして、フルガードに戻したことで、初めて下からの仕掛けが可能となった。そこでもクローズドガードで足を組まなかった鈴木は、「足くせが悪い」(塩田)長いコンパスを活かして、三角のフェイクから右足を振り抜いた。 [nextpage] 下からの「蹴り上げ」じゃなくて「踵落とし」だった  塩田は言う。「“ペダラーダ”という、昔のMMAとかにたまにある技なんですけど、実質は皆さん動画を見てほしいんですけど、下からの“蹴り上げ”じゃなくて足を上げて“踵落とし”みたいな感じで(振り下ろした)。千裕くんも当たった瞬間に『感触があった』と言っていましたけど、踵落としを効かせてからの、下からの怒涛のパウンド連打ですよね。それで千裕くん、見事に勝ちました。ほんとう、素晴らしいです。嬉しいです」 “ペダラーダ”とはポルトガル語で自転車のペダルをこぐ動作を意味する動きで、サッカーではロナウド、ロナウジーニョ、ネイマールらブラジル人選手が得意とするまたぎフェイントを指すが、格闘技では、“何でもあり”ヴァーリトゥードの時代から、下からの蹴り上げが“ペダラーダ”と呼ばれている。  テイクダウンで下になって、無闇に蹴り上げを繰り出してかわされれば、足を越えられ、さらに苦しいポジションを取られることもある。鈴木はそこで三角絞めのフェイントから、上体を上げたケラモフとの間にスペースを作り、迷わず右の踵を振り抜き、アゴにヒット。気を失って崩れ落ちたケラモフにすかさず左右のパウンドを連打する思い切りの良さを見せている。 “ペダラーダ”は主にストライカーが下になったときに繰り出す打撃技のひとつで、塩田が格闘家を志すきっかけとなった初期UFCなどのヴァーリトゥード時代から見られており、日本でも、2002年8月に国立競技場で開催された『Dynamite!』でミルコ・クロコップが桜庭和志を相手に下からの蹴り上げ、左フックで眼窩底骨折に追い込んだシーンが知られている。  ほかにも、2003年9月の『DEEP 12th IMPACT』では、長南亮が桜井“マッハ”速人をペダラーダで負傷させドクターストップによるTKO勝ち。2008年9月の『DREAM.6 ミドル級GP決勝戦』では、ゲガール・ムサシがホナウド・ジャカレイのパウンドにカウンターの蹴り上げでTKO。  UFCでは、2006年6月にジョン・フィッチがチアゴ・アウベスを下からの「アップキック」を効かせてのパウンドアウトをはじめ、近年では、2022年9月の『UFC 279』で、女子バンタム級のアイリーン・アルダナが、ガードから立ち上がったメイシー・チアソンに下から踵をレバーに振り落とし、TKO勝ちをマークしている。  アウェーのアゼルバイジャンのメインイベントで、この“ペダラーダ”を見事に決めた鈴木は、塩田の番組で、「いやー激闘でしたよ。ここまで2年のセコンド、ほんとうにありがとうございます」と謝辞を述べると、塩田との出会いから振り返った。 「話せば長いですけど、僕が高校2年くらいですかね。塩田さんのジム、パラエストラ八王子に(MMA出稽古で)お世話になり始めて、そこから転機があって……17歳くらいなので、かれこれ7年くらいのお付き合いですよね。そっからチャンピオンになる、とは思ってましたけど、(セコンドにも入ってもらって)2年で輝くことが出来て、僕にとっては長かったんですよ。もうずっと下積みからやっているんで。すごい長い戦いで、やっと一つ節目が出来ました」と、24歳での戴冠をしみじみと語った。 「ほんとうにメキメキと成長して、俺が思っている以上に逞しくなって本当に今日、素晴らしかったです」と愛弟子を賞賛する塩田に、鈴木はパラエストラ八王子での塩田の教えが、鈴木が目指すものと合っていたことを語っている。 「塩田さんの素晴らしいところがあって……決して否定しないんですよ、選手のやることを。悪いところは修正かけてくれるんですけど、『ダメだ』とは言わなくて、意見を尊重してくれた上でアドバイスを追加してくれるのが、一番選手としてやりやすい。あとやっぱり信じられる。  僕が塩田さんに一番、学びたかったところは──塩田さんが僕に言ってたんですよ。十代のときに、僕は覚えてるんですけど、『俺が現役のときに、周りの人よりはパワーが無くて恵まれなかった。だから俺には技術がある』っていう話を聞いて“これだ”って思ったんですよ。  僕は十代のときにバンバン、パワーでしか、技術が何も無い状態で戦っていて、そこで塩田さんが、パワーを使わない戦い方をするので、それが僕に必要な要素だった。パワーを活かすためのテクニックを教えてくれているんで、それを聞いて覚えて──あとは信頼関係ですよね」と、塩田の選手それぞれに合った指導・技術により、鈴木が全幅の信頼を寄せたことを語っている。  クロスポイント吉祥寺での打撃練習に加え、パラエストラ八王子には、同じ20代で、かつて鈴木がMMAデビューしたPANCRASEで活躍中の亀井晨佑、高木凌ら同世代の強豪がいる。彼らとの切磋琢磨も、鈴木にとって、大きな刺激になっていることは間違いない。 「八王子に来てください。ベルトを持って行くんで、セミナーもやります」と語り、塩田にベルトを手渡した鈴木は大会後、パラエストラ八王子でも活動してきた恵まれない子供たちへのお菓子配りを、地元の児童保護施設を訪れ、塩田とともに行っている。
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