2023年10月21日(土)アラブ首長国連邦・アブダビのエティハド・アリーナにて『UFC 294: Makhachev vs. Volkanovski 2』(U-NEXT配信)が開催される。
同大会では、12連勝中のイスラム・マカチェフとアレクサンダー・ヴォルカノフスキーによる「UFC世界ライト級選手権試合」のほか、12戦無敗のカムザット・チマエフとカマル・ウスマンによる「ミドル級」戦がメインとコメインに並んでいる。
そのなかでプレリムながら、14戦無敗のジャビッド・バシャラット(アフガニスタン)と対戦するのが、元DEEPバンタム級王者にしてPANCRASE王座挑戦経験を持つビクター・ヘンリー(米国)だ。
2020年2月の『RIZIN.21』で金原正徳を2R TKOに下したビクターは、UFC以降の金原に唯一黒星をつけている選手で、金原はビクター戦後、階級をフェザー級に上げている。
ジョシュ・バーネットとともにアブダビ入りしたビクターに、強豪バシャラットとの戦い、金原vs.クレベル、そして日本での戦いについても聞いた。
14戦無敗の相手に大きなチャレンジになる。でもこれまでにもいくつものチャレンジを乗り越えてきた
──お久しぶりです。今回の試合に向けてはどこで、誰と練習していましたか?
「今回のキャンプはカリフォルニアのガーデナのCMMAで、ジョシュ・バーネットや、WECやBellatorに出ていたチャド・ジョージ、あとはブルーノ・ソウザという打撃系の選手をメインスパーリングパートナーにやってきたよ」
──ブルーノ・ソウザ、元UFCで9月の試合で石原夜叉坊選手に勝利した選手ですね。
「そうだ。彼は空手のバックグラウンドがあって、今回の対戦相手のジャビッド・バシャラートのファイティングスタイルを真似るのがうまい選手なので、彼と一緒にやっているよ」
──マチダ空手のソウザがバシャラットの動きをシミュレーションしてくれたと。そのバシャラットですが、ビクターが3月にスプリットで判定勝ちしたトニー・グレーブリーに、昨年9月にユナニマス判定で勝利しています。このマッチメイクを聞いたときにどう感じましたか。
「すごくいいチャレンジだと思っているよ。UFCはこの試合でどうこの階級を組み立てようとしているのかが分かるマッチメイクだと思った。知っていると思うけど、バシャラットは、14戦で無敗、28歳とまだ若くて将来性もとてもある選手だ。一方、自分は敗戦もいくつかしているし、年齢も彼より上だ。だから、きっとUFCは“もしバシャラットがビクターに勝てれば、今後重要な戦線に組み込んでいくし、もしビクターがバシャラットに勝てばビクターは単なるゲートキーパー(門番)ではない”って判断すると思っている。
だから、今回バシャラットとの対戦が決まった時、UFCが自分をどういう風に考えているかというのが分ったんだ。なかなか大きいチャレンジだなとは思っているけど、俺はキャリアの中でこれまでにもいくつものチャレンジを乗り越えてきたし、だから、それがもう一度あるだけって感じさ」
──バシャラットは身長175cmで、ビクターよりも5cm長身で、身体が脱力しながらも、ムエタイのエルボーなどを活かして戦うところが似ている部分もあるなと感じました。一方で、ファイトするビクターに対し、バシャラットは相手を前に出させて打つ、カウンタータイプで強さを見せています。
「そうだな、まず彼がいま無敗であるのはそれなりの理由があると思う。バシャラットは安全な戦い方をすると思っている。彼は彼のレンジを有効に活用するし、君が言うようにカウンタースタイルを活かして自分が有利な状況にいられるようにするだろう。ポジションから外れるようなリスクを冒すタイプではない。
それを自分はしっかりと理解しておかなければいけないし、彼の試合はそういう戦い方だからエキサイティングにならないかもしれないが、彼が無敗でいたいのであればそれは彼にとってベストな戦い方でもあるんだろう。ただ、もちろん確かなのは彼はこれまでタフな相手と戦ってきているから、常に後ろに下がっているような選手でもないと思うし、彼は自分の有利なところを活かして有利に試合を進める事ができる選手だと思うよ」
──その通りで、バシャラットはポイントで際を譲らない強さがあります。グレーブリーのテイクダウン狙いを左一本で差し上げて逆に投げ返すなど実は組みも強く、スタミナもある。下がっているようでいて、バシャラットに誘い出されてしまうかもしれないなかで戦い方が難しくなりそうですね。
「それは試合の課題(チャレンジ)のひとつだよね。なんていうのかな、試合では“もし彼がああしたら”“もし彼がこうしたら”っていう“もし”がずっと続くんだよ。だからもし、彼が俺をトラップに誘い出そうとするのであれば、俺はそれにハマらないように気を付けなければいけないし、俺がその誘いに乗らないのであれば、彼がそれに対応しなければいけないよね。13年戦ってきた俺の経験を活かすところだ」
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一度は引退を決めた金原がリングに戻ってきていい結果を出すというのはすごいこと
──経験といえば、あなたも対戦した40歳の金原正徳選手がクレベル・コイケ選手に勝ちましたが、その試合もご覧になっていますか。
「もちろん見たよ。あの試合はいい試合だったと思う。カネハラが強くなればなるほど、俺がもっと強いって事になるから(笑)、彼が今とても調子よく成功しているのは嬉しく思う。階級を145ポンドに上げて、カネハラはフェザー級で調子が良さそうに見えるね。コイケのグラップリングを封じて、彼自身の試合が展開できたのは良い事だったと思う。
カネハラは俺との試合で、1ラウンドでバックを取っただけど、俺はそこで極められる事もドミネートされることもなかった。カネハラは俺との試合で俺をサブミットできなかったけど、コイケをコントロールできていたっていう事は、それは俺のグラップリングスキルの証明にもなったと思う。もちろんカネハラにバックを取られたという事実もあるし、厳しい時間ではあったけれどもね。
それに……俺との試合で1度は引退を決めて再びリングに戻って来たのは、やっぱりファイターの性みたいなものなんだと思う。引退をしようと思っても、もう一度戻って、そこでいい結果を出せるっていうのは、ファイターとしてすごいことだ」
──そのメンタル面での強さは、今回の両者からも感じます。ビクターは前回の試合で最後のグレーブリーの組みに前転から内ヒール、ニーバーと仕掛けて、それを潰したグレーブリーの肩固めを後転で抜けて、スクランブルで立ち上がり、魂のスプリット判定勝利をモノにしました。
一方でバシャラットもグレーブリー戦のバッティングで相当な出血があったにも関わらず顔色一つ変えずに戦っていました。それは彼のアフガニスタンでの内戦の経験がタフにさせたと言っています。今回の試合でもその精神面の勝負にもなるのでしょうか。
「UFCのケージで戦っている選手はある程度皆、メンタルの強さは持っていると思っている。皆、このケージで戦えるようになるまで色んな事を乗り越えてきて辿り着いているんだ。競技としても、このMMAは色んなバックグラウンドがあると思うけど、中にはそこまでタフじゃない奴もいるかもしれない。だけど“戦う”っていうのは、なんて言ったらいいのかな──すべてが同じ枠に収まるものではない、と思っているんだ。
バシャラットのヒストリーはもちろんタフな事だったと思うけど、それを乗り越えたからこそ、いま彼はここにいるんだろうし、俺だってこれまでに俺だけのいくつもの障害を乗り越えてメンタルの強さを築いてこれた。だから、ファイターは皆、それぞれに精神的に色んな事を乗り越えてきて、いまもそれと戦っている。だから過去の出来事でファイターとしてのキャリアを見定めるべきではなくて、自分で乗り越えたからこそ今があって、過去の自分とは違うんだよ」
──その言葉を聞いて『あしたのジョー』の金竜飛戦を思い出しました。いや、漫画の話はまた今度に(笑)。さて、群雄割拠のバンタム級で、この試合で勝つことはビクターにとってどのような意味を持ちますか。
「願わくばもっと色んな大きな挑戦ができるようになる事だね。それだけだ」
──そのためには、強者しかいないバンタム級でランキング入りですね。
「もちろんだ。すべての試合の勝ち星は、ランキングにも、ファイトマネーにも、人気にもすべてに関わってくる。勝つっていう事が試合では一番大事なんだよ。自分が成長する為にもというのはもちろんあるけれど、実際試合に勝たなければ、自分の成長なんて誰にも関係ないしね」
──ビクター、試合前にインタビューをありがとうございます。日本のファンにメッセージを。
「やぁ、みんな。ビクターヘンリーだよ。UWFの代表選手としてだけじゃなくて、日本のファイティングスピリットとアメリカのファイティングスピリットの両方を持った選手の代表として戦うから、今回の試合も応援してほしい。もしまたUFCジャパンが開催されるなら、俺は絶対カードに入るだろうし、ジョシュも一緒に行くと思う。ジョシュは日本のロイ・ネルソンとの試合で記録を残しただろ?(クリンチ打撃95発)だから、次は自分が日本で記録を残す番じゃないかな。また日本でいつか戦うから!」