2023年6月26日、韓国アニャン体育館にて、『Road FC 65』が開催された。「グローバル63kgトーナメント準決勝」で、キム・スーチョルがブルーノ・アゼベドを下し、原口央との決勝を決めるなか、同トーナメントのリザーブマッチがセミファイナルで行われた。
▼ROAD FC グローバル63kgトーナメントリザーブマッチ 5分3R〇ヤン・ジヨン(韓国)[判定2-1]×ムン・ジェフン(韓国)
ROAD FCバンタム級王者のムン・ジェフンは、過去に朝倉海と1勝1敗。佐藤将光、根津優太にも勝利している。39歳で2022年12月にチャン・イクファンを延長判定で下して戴冠した。しかし、2023年6月の63kgトーナメント1回戦で日本の原口央に判定負けし、引退を表明。ヤン・ジヨンが引退試合の相手に名乗りを挙げていた。39歳、リザーバーとして今大会に出場する。
対する27歳のヤン・ジヨンは、MMA4連勝後にRIZINで昇侍、魚井フルスイング、ROADで平澤宏樹を相手にいずれもフィニッシュ勝利。初参戦時は当初の相手の朝倉海が拳の怪我により欠場。代役の昇侍に一本勝ちを収めている。以降、朝倉との対戦をアピールしてきたが、ROAD FC 63kgトーナメントに出場が決定。
6月の1回戦では、MMA6勝0敗で全試合をフィニュシュ(2KO・4一本勝ち)しているキルギスの強豪ラザバリ・シェイドゥラエフと対戦し、1R リアネイキドチョークで一本負け。プロデビュー以来無敗の連勝が「7」でストップし、今回のリザーブマッチに回った。
サウスポー構えのジヨンと、オーソドックス構えのジェフンの対決。
試合は、1Rにジヨンの左ミドルに右ローを合わせたジェフンの蹴りが金的に当たり、中断。うつ伏せで悶絶するジヨンだが、再開。
左ハイを放ったジヨンにジェフンの右ローが当たり、再び場内がざわつく中、ジェフンは左から右の二段蹴りを放つと、そこにジヨンも左右で詰めて押し込む展開。ジヨンは左ストレート、左ミドルと左の攻撃を起点とするが、詰めたジェフンの右がヒットする。
2R、詰めるジヨンに右を刺すジェフン。ジェフンの右ミドルを掴んで持ち上げて倒したジヨンがバックにつく。ジェフンはキムラ狙いもブレイク。左ストレート、左ハイで金網に詰めるジヨンをかわすジェフン。
ジェフンはワンツーで飛び込むが、その入りにジヨンは前手の右フックを合わせると、ジェフンはバランスを崩して両手を着くが、すぐに立ち上がる。
詰めるジヨンは左ストレート、左ハイが徐々に近づきジェフンをかすめる。ジェフンも右インロー、さらに右ストレートを返すと、ジヨンも鋭い踏み込みの左ストレートをヒット。ジェフンが右ハイをブロック上に蹴ってゴング。
3R、距離が近くなる両者。ジェフンは右ミドル。そこにジヨンは右ジャブを突く。ジェフンの詰めにカウンターの左の攻撃を入れるジヨンは、ジェフンの蹴りをキャッチしてテイクダウン。ジェフンは金網背に凌ぐと、ブレークに。
ジェフンの後ろ廻し蹴りをかわすジヨン。互いに膠着するなか、ジヨンがダブルレッグテイクダウン。背中をつかせようとするジヨンに下から細かいパンチを打って凌ぐジェフン。ブレーク。
ジェフンは飛び込む右ボディからケージに詰めると、大きな左右を振って、ジヨンの打ち返しを誘い出し、打ち合いに。ジェフンの圧力に、金網背にするジヨンはゴングに股間を押さえる。
判定はスプリットの2-1でジヨンが勝利。
試合後は、ムン・ジェフンの引退セレモニーが行われた。その中では、かつて日韓で1勝1敗と激闘を繰り広げた朝倉海からのビデオメッセージも流された。
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朝倉海「初めての敗戦がムン・ジェフン選手との試合で、格闘技の厳しさを教えてもらいました」
「RIZINファイターの朝倉海です。僕がプロ格闘家になってから初めての敗戦がムン・ジェフン選手との試合でした。格闘技の厳しさを教えてもらい、本気で格闘技に向き合い、強くなることが出来ました。あらためて感謝を伝えたいと思います。ありがとうございます。
ムン選手のファイトスタイルはほんとうにカッコよくて、日本でもとても人気がありました。その試合が見られなくなるのはとても残念です。いつかムン選手のジムで一緒にスパーリングをしましょう。ほんとうにお疲れ様でした」
さらに場内にROAD FCのジョン・ムンホン代表らのコメントも流されるなか、ジェフンは妻と子供を前にマイクを握り、引退の挨拶を行った。
「選手というこの職業を捨てて、また今、第2の人生のリーダーとして進みます。別の挑戦をするかどうか、そのためにもちょっと選手を引退することになりました。今もまだ格闘技が大好きで、やりたい気持ちは切実ですが、私は今、私の夢のために走るより、今そばで育つ息子たちを守ってあげないといけません。私たちのジムで練習する弟子たちも気にかけてあげないといけないから、もう選手としては貪欲になれないから、今日で引退することになりました。
来てくださった皆さん、ありがとうございます。そして、私はもう10年以上、このROAD FCで戦いましたが、いつも後ろで私たち選手を引っ張ってくれたジョン・ムンホン代表、パク・サンミン副代表と、グッネチキンのホン・ギョンホ代表、ありがとうございます。そして今回、アンヤン(安養)で私が引退試合ができるように、大会を誘致してくださった会長様にもありがとうございました。自分の故郷であるアンヤンで格闘技選手としての人生を締めくくることになりました。第2の人生を応援していただければ幸いです。リーダーとして、また“第2のムン・ジェフン”を育成して皆さんに届けられるように期待してください」
続けて、勝者のヤン・ジヨンにもマイクが渡され、「小さい頃から先輩に憧れ、格闘家の夢に挑戦することになりました。ムン・ジェフン先輩と拳を交えるという願い事があり、それが叶いました。準備も本当にたくさんして、今回の試合も途中で諦めることなく、ここで戦いました。友達、ジムの仲間たち、館長、周囲の皆さんを見て戦いました。
これから私が、第2のムン・ジェフンになれるように頑張ります。安養市民の皆さん、これから私をたくさん応援してください。私が第2のムン・ジェフンになります」と、涙を流してジェフンの意志を受け継ぐことを語った。
また、試合後のバックステージでは、あらためて1R初っ端のローブローについて、「本当に痛すぎました。身体が言うことをきかない。やるかやらないかという状況で、友人たちも来ているなか、準備してきたことがもったいなくて。私の意志とは関係なく苦しいから、正直起きられないと思いましたが、でも私の名前が聞こえたので起きることができました。声が聞こえるたびに力が湧いてきて、とても感謝しています」と、続行が厳しいなか、周囲の声に背中を押されたとした。
さらに、「ムン・ジェフン先輩、今はゆっくり休んでください。ムン選手が打撃王ですよね、私がまた“第2の打撃王”になります。済州島(チェジュ島)という狭い地域から、本当のスターが一人、すぐに出てくるでしょう」と、ジェフンを受け継ぐというジヨンは、「今、大変でまだ痛みが少し残っているので、少し休まないといけないみたいです」と言いながらも、今後について問われると、ジェフンとライバルだったRIZINファイターの名前を挙げた。
「朝倉海、行くぞ! もう逃げずに一度、対決しよう!」
【写真】2022年7月の『RIZIN.36』沖縄大会でヤン・ジヨンと対戦予定だった朝倉海だが、右拳の負傷で欠場。昇侍が緊急参戦し、3R リアネイキドチョークでジヨンに敗れている。
12勝(4KO・TKO)15敗と、最後は負け越しながら記憶に残る試合を見せてきたムン・ジェフン。その介錯をしたヤン・ジヨンは、試合が流れたまま対戦が実現していない朝倉海に、あらためて宣戦布告した。
さらに、ROAD FCには、そのジヨンに初回一本勝ちしているGAMMAフェザー級王者のラザバリ・シェイドゥラエフ(キルギス)も控えている。果たして、ジヨンは朝倉海との試合を実現させることができるか。
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ムン・ジェフンを応援して愛してくださってありがとう
「(試合を終えて引退を表明して)爽やかです。気持ちよく旅立つことができそうです。いまはやるべきことが多すぎたので、選手をよく育てたいという欲もあるし、ジムもうまく運営したいという気持ちもある。私は今、子供が大きくなっているのですが、その子供のために、また一生懸命お父さんのようなことをしてあげたかったので。これ以上欲張らないで、MMAはもうやるだけやったから降りようと。ジムを運営しながら、結婚して子供を育てながら先生をするのが本当に大変だったんです、ただただ選手だけに集中しても上がれるかどうかなのに。
あまりにもこれも疎かにして、あれも疎かにしてとなって。そんなことでもう選手を引退しなきゃいけないけど、何か物足りなさがあったんです。選手であることに対してもう少し憧れがあって、欲を出して、あと1年だけ、もっと1年だけとしていたのが今年度まで来ることになってしまって。今回、大きなトーナメントをやりながら優勝賞金もあるし、前回、チャンピオンになったので、今回のトーナメントに参加するのが契約の条件だったんです。ある意味チャンスかもしれないと考えて、1年頑張って走ってみようと思ってしたけど、初戦(原口央戦)でちょっと無気力に負けて、全てを捨てたんです、実は。選手としての気持ちをたくさん下ろしていました。
選手としてそれでも後悔はないです。光栄ですし、実はチャンピオンになったのもすごくそれなりに光栄で、今回、引退試合をこうして組んでくれたのもとても光栄で、選手たちがみんなにあんなに喜んでもらえて、私のことを見てくれて、私という選手を覚えていてくれて本当にありがとうございます。
地方ではチャンピオンを一回か二回やったけど、それよりも韓国で大きな団体でチャンピオンになりたいと思っていて、本当に痛い体を引っ張って頑張って走って、それを成し遂げることができて、とても良かったんです。 今後は、ジム運営、子供の指導、選手育成 、他にもいろんなことをやろうと思っています。私もそれができる年齢になったので、社会的なこともやって、また私ができることをちょっと見つけて、選手はもう終わったけど、終わりじゃない、新しい始まりのために、MMA選手をやめることになったんです。乗り越えなきゃいけない。私の一番の願いです。私は私がやりたいことをして、大きくなって息子に押し付けたい気持ちはありません。ただ息子がやりたいことをしてほしい。基本的にこの競技というのは正直、男性には本当にいいと思うんですよ。どこかの社会に出た時とか、学生でも運動が得意なら友達も出来るし、そんな利点があるので、息子にも運動を少ししながら大きくなってほしいです。
選手として最後のインタビューだと思うんですけど、また人のことは分からないから、また急に炎の気持ちが燃え上がって、また急に誰かが僕を呼び出すと、また怒って出てくるかもしれないと思うから、だからこそ、今の言葉で考えると、本当に最後です、最後のインタビューだし、ムン・ジェフンを応援してくださって、愛してくださってありがとうございました。これからは選手ではなく、指導者として顔を見てもらえるようにします。ありがとうございました」
なお、試合後、キム・スーチョルは、「ちょっと涙が出ました。ムン・ジェフンという選手を尊敬しています。班長として尊敬し、選手として、人間として尊敬しているから、あのように引退式ができる。とてもいいことです」と、ジェフンの功績を称えている。