MMA
インタビュー

【ONE】8.2 GP準決勝でデメトリアス・ジョンソンに挑む和田竜光「格闘技を続けてきて自分がどれだけのモノになったか、DJ以上にそれを確かめられる相手はいない」

2019/07/30 16:07
8月2日(金)、フィリピン・マニラで開催される『ONE:Dawn Of Heroes』でフライ級ワールドグランプリ準決勝に挑む和田竜光(フリー)が、デビュー12年目にしてキャリア最大の大一番、デメトリアス・ジョンソン戦を迎える。 極真空手と柔道をベースに持つ和田は、2008年にDEEPのリングでデビュー。当初は連敗が続いたが、6戦目にして初白星を掴むと2012年には大塚隆史を破り5連勝。翌年には元谷友貴を破ってDEEPフライ級王座を獲得すると、越智晴雄、神酒龍一、 柴田"MONKEY"有哉など強豪を次々と撃破。2018年に8連勝の戦績を引っ提げてONEデビューし、リース・マクラーレンにスプリット判定で敗れるも、次戦はユージーン・トケーロに1Rでリア・ネイキッド・チョークを極めて勝利。そして2019年4月にフライ級ワールドグランプリへ参戦。1回戦で元オリンピックレスラーのグスタボ・バラットを判定で退け準決勝へと駒を進めた。 その準決勝の相手は元UFCフライ級で絶対王政を築いたデメトリアス・ジョンソン。2011年にUFCに参戦するとトーナメントを制し、当時新設されたフライ級のベルトを巻いて初代王者となると、以降圧倒的な実力で13連勝。2018年に現UFCフライ級王者であるヘンリー・セフードに敗れるまで7年間無敗というMMAの歴史に残る活躍を収めてきた。 そして2019年にはONEへ電撃参戦。フライ級トーナメントへ参戦すると4月の1回戦では若松佑弥を2Rにギロチンチョークで下し順当に勝ち上がってきた。 今回のトーナメント優勝大本命であり、いまだ世界最強の一角であるDJとの対戦を控えながら、インタビューを受けた和田の表情は終始リラックスしていた。「DJに勝っている部分を探すのは難しい」と冷静にその差を分析しつつも、試合については「楽しみしかない」と笑顔を見せる。 危なげなく勝利しながら周囲の評価が割れたバラット戦についての振り返りから、得意のカーフキックについての意外なエピソード、そしてキャリア最強の相手であるDJ戦に懸ける想いを聞いた。(※大会の模様はAbemaTVにて8月2日・金曜日の午後6時より生中継) バラット戦は一発も当てられていない。相手の勝ちって言っている奴は何でだよ、と思う ――4月のグスタボ・バラット戦は前に出てパンチを振るってくるバラットをさばきながらストレートやヒザを効果的に当て3-0の判定勝利という結果でした。 「厳しい戦いだったことは間違いなくて、相手もレスリングのキューバ代表でロンドンオリンピックにも出ている選手なので「そりゃ強えーわ」と。試合後の周りの評価はあまりよくなかったんですよ。SNS上とか、映像を見ていた人からも「結構やられてたね」と。でも、相手は身長が低い(150㎝)からみんなフィルターかかって観ているけど、そもそもキューバーのオリンピックレスラーなんだからフィルターかけ過ぎだぞって思ってたところがあって。ただ、俺のどこがやられてたんだよっていう感想はありますね。確かにもっと行く必要があったりとか、結構クレバーな動き方、渋い勝ち方になっちゃったんですけど、俺はダメージ何も与えられてないから。俺の負けって言っている奴は何でなんだよと思うこともありました」 ――バラットの一発を警戒して慎重に戦っている印象を受けました。 「やりにくさはめちゃくちゃありましたね。やっぱり中にグンと入って来てオーバーハンドを打ってくるんで、あれは当てられたくないし、ブロックでも受けたくないなと思っていたし、近づいたらやっぱりレスリングは強いというのはあったので。距離を保って攻撃を当てるというスタイルに途中から切り替えて。相手は前に出てきて振って来ている感じはあったんですけど、本当にパンチももらっていないんで。顔が2カ所切れちゃったんですけどあれはバッティングなんで、それ以外はマジで自分の中では一発も当てられていない、逆に相手は僕のパンチで顔が切れたりしているし。ただ反省するべき内容はありました」 ――それはどういった点でしょう? 「もうちょっとガンガンも行けたなと気もしていますね。これはもう後から試合を見ての感想なんですけど、効かせた部分でもっと詰めればよかったなとか、もうちょっと蹴ったらよかったなとかはあるんですけど。あの時点でどうやっても勝つためにあの選択を試合の中でしました」 ――当初のプランはどのようなものだったのでしょう? 「リーチ差を活かしてとにかく触らせない。できていたといえばできていたんですけど、攻撃面でもうちょっと行けたかなというのはありましたね」 ――互いにパンチを振って行く際にバッティングになってしまうことが多く、距離が合わずに苦しんでいるようにも見えました。 「そうですね。相手は自分よりデカい奴とばかりやっているんで上を打つのが慣れている、オーバーハンドを振って来るんで、そこを逆にくぐって避けちゃおうという作戦だったんですよ。大きい人とやるのは慣れているだろうけど、逆に低い奴とやったことないから低く構えてやれと。だから低くなって距離が近くなった時におでこが当たった。俺も相手も頭から行っているから、あいつばっかりバッティングして、という感じではないんですけど、しょうがないですね。お互いさまって感じで」 ――有効打を重要視し、テイクダウンやグラウンドコントロールはあまりポイントにならないONEのルールに合わせた戦い方を意識しているように思えました。 「最近はもう常に意識してやっていますね。バラットとの試合もそうですし、相手が前に出ていても当ててるのはこっちだから、という感覚。チャトリ(・シットヨートン、ONEのCEO)さんは“バラットが勝っていた”と試合後に言っていたみたいで。手数を出している人が判定基準では強いんじゃないんですか?って思ったんですけど、確かに“攻めてる感”は向こうにあったんで、会場の雰囲気なんかも向こうの攻撃で盛り上がっていたのもそうだったんですけど、自分は最後まであの感じで試合をやり切れたので、勝つためにはあれでよかったなと思いました」 ――攻撃を仕掛けるシーンはバラットの方が多かったですが、攻撃を当てているのは和田選手の方が多かったと。 「大会を盛り上げたいというのはあるので、やっぱりガンガン攻めている人を評価したいというのは分かるんですけど、ONEのルールだったら普通に俺の勝ちって言ってくれてもいいかなと思いました」 ――そういった試合後の反応を受けて、今後のファイトスタイルについて考えることはありますか? 「うーん……。まあでもこれはスタイルの問題なんで、大幅に変えるということはしないですね。判定基準がそうならそうするんですけど、攻めている感、当たっていなくても前に出ている人が評価されるっていうルールだったらそういう風にチェンジしていくんですけど、そうじゃないじゃないですか。だから判定をする人とお客さん目線で観る人の違いもあるのはしょうがないなと思います」 ――ONE以前のリングで戦っていた時と和田選手のスタイルは変わって来ているのでしょうか? 「そうですね……。それはありますね。テイクダウンされてもいいやっていうのもありますし、ただテイクダウンしてもダメだなっていうのはあるので。ダメージを与えるように動く必要があるし、逆にテイクダウンされても何もされなければいいんだな、じゃあここは動く必要が無い場面かなっていうのも試合の中で判断する必要がある。前だったらどうしても立ったり、位置を入れ替えたりしなければいけないところを、相手が動いていなければ止まってもいい場面も出てくるでしょうし、それは僕が攻めてる側だとしても同じ。戦い方の違い、評価のされ方の違いというのは頭に入れて戦っています」 ――バラット戦ではシングルレッグ(片足タックル)からリフトされて落とされた場面もありましたが焦りはなかった? 「そうですね。トップを取られなければ、コントロールされなければいいやと。ただあれも本当に微妙で、リフトして頭から落とすのは反則なので、アピールしたんですよ。だけどONEは先に手がついて頭から落ちても反則じゃないという。だから気合で頭から落ちておけば反則勝ちになったシーンだと思うんですけど、それも一つ勉強しましたね。やっぱりああいう場面で、結果手をついてても首痛くなったんで。後で結構細かくレフリーに聞いても、落とされる時に手をついたら反則じゃないと。それでもガシャーンって落としていれば反則になる。だからそれはレフリーの判断って言ってました」 ――今あのシーンに戻ったら、あえて手をつかずに反則勝ちを選ぶ選択肢もありえる? 「それはちょっと(笑)。怖くてできないですけど、そこで『今の反則だろ!』って言う必要もなく、そこを引きずって試合をする必要はない。レフリーにアピールしたとしても、反則じゃないって流されるのならすぐに切り替える必要がある。『あれ、今の反則だったのに……』と思う必要はないというか。あの時もそうだったし、一個ずつ勉強している感じですね」 ――戦うごとに経験を蓄積して対応していってると。 「そうですね。そういう感じだと思います。だんだん分かってきたというか。こういうのは良くてこういうのは良くないんだなと、練習の中でもそれを意識してできるようになってきた気はしました」 [nextpage] カーフキックは「長倉蹴り」。4、5種類を使い分けている ――バラット戦では得意のカーフキック(相手のふくらはぎを蹴るローキック)が見られませんでした。 「キャッチされたりするのも嫌だったし、相手がサウスポーだったから出さなかったというのもありますね。出す時と出さない時の判断は、相手の立ち方とか体のバランスとか、色々を見てその時に決めている感じなんで」 ――カーフキックにはふくらはぎより低い位置を蹴ったり、足を引っ掛けるように蹴ったりするものなど種類がありますが、和田選手のキックはどういうタイプですか? 「色々使い分けていますね。正面から蹴る場合、体重を乗せて蹴る場合、足首を返して蹴る場合、位置をずらして蹴る場合。ちなみに、僕は“長倉蹴り”って呼んでいるんですよ」 ――長倉蹴り!? 元同門の先輩で、DEEPなどで活躍する長倉立尚選手ですか? 「はい。最近カーフキックがメチャクチャ注目されてるんですけど、僕からしたら『遅せえな気づくの』って。何を今さら騒いでるんだよと。それが使えるってこっちは気づいてるんだよと」 ――そういえば長倉選手のローの威力は有名でした。いつぐらいからカーフ……長倉蹴りを使っているのでしょうか? 「長倉蹴りの歴史は結構古いですよ。ちょっと待ってください。(スマホで自身のTwitterをさかのぼって)2012年の11月27日に、こういうツイートしてるんですよ。 ――「今日もアライアンスでぐっとな練習ができた。長倉蹴りのコツを教えてもらってさらにべりぐっとでした。ありがとうございました(^ ^)」とありますね。これはやはり長倉選手に教えてもらった? 「はい。長倉さんに教えてもらいました。もともと長倉さんが使っていて、くらって『いってえってな』って。それでコツを教えてもらったんですけど。その後大沢(ケンジ)さんが試合の解説で“すね蹴り”とか“カーフキック”という言葉を使うようになったんですけど、僕の中ではこれは長倉蹴りなんです」 ――教わった当初から何種類も蹴り分けていたのでしょうか? 「自分なりに改良しています。相手の立ち方とバランス、一番は距離感によって蹴り分けています」 ――何種類くらいあるのでしょう? 「角度をちょっとずらせば変わって来るので無限にある感じですね。ただ入りの打ち込みでいうと……4種類か5種類はやっていますね」 “リング”はアクシデントが起きやすい場。DJにとってマイナスになる部分が出てくるかもしれない ――なるほど。得意技について聞かせて頂いたところで、次戦は大一番、元UFCフライ級王者でもあるデメトリアス・ジョンソン(DJ)との一戦です。DJの印象はいかがですか? 「もちろん寝技・打撃のスキルは高いんですけど、その混ぜ方が抜群に上手い。打撃から組技、組技から打撃、寝技からスタンドへ行くキワ、その辺の使い方がもうめちゃくちゃに上手いので、ディフェンスも含めて全部が一つというか。そこがすごいなと思っていますね」 ――その中で和田選手が対抗できる部分はどこにあると思われますか? 「うーん……。自分が勝っているポイントを探すのは難しいです。でもMMAなんで、一個一個のレベルは勝てていないと思うんですけど、MMAだからこそ通用することはあると思うんで。難しいんですけど……。メイウェザーにボクシングで勝つことはできないけど、キックボクシングだったらパンチでKOすることはあると思うんですよ。MMAだったらなおさらその幅が広がってパンチで倒せる可能性が増えるというか。僕らがやっていることはMMAなので、一個一個のレベルはDJには勝てていないんですけど、それを繋ぐことで攻撃を当てられることができる競技だと思っています」 ――DJのONEデビュー戦である前回の若松佑弥戦(2Rノーアームのギロチンチョークで一本勝ち)はご覧になっていかがでしたか? 「DJも人間なんだなと思いましたし、ただやっぱり強いなと思いましたね。パンチを嫌がる場面もあったんですけど、じゃあ違うところで攻めればいいや、という切り替えの早さと、それをすぐに実行できる技術、それが体に染みついている。どういうプランだったか分からないけど、それを急きょ変更できる選手だと思うし、フィニッシュの引き出しも多い選手だと思います」 ――練習仲間でもある若松選手から何か言われたことは? 「DJとの試合後に、どうだった? と聞いたら、手ごたえを感じたという話も聞けたので、やっぱりDJも人間だなと思いますし。佑弥の中でも自信になった部分もあったと思います」 ――DJとの試合はケージでなくリング。リングでの試合経験でいうと、和田選手にアドバンテージあります。 「そういう部分はあると思います。僕はDEEP育ちでリングでの試合はいっぱいやってきたので。DJよりもリングは慣れているなって思っていたんですけど、よく考えたらDJのジムはどうせデカいからリングあんだろと(笑)。ああ、アイツ俺よりもリングで練習してる、まずいなと思ったんですけど、いや練習と試合では違うんだと。 【写真】RIZINでもカイカラフランスにカーフキックを決め、判定勝ちした和田。フランスは現在UFC2連勝中だ。 ただリングっていうのはケージと違って“アクシデント”が起きやすい場だと思うんです。僕は正直MMAというのはケージでやるものだと思っています。そもそもケージだと体が外に出たり指とが引っかかったりということがほとんどないじゃないですか。なので選手の強さがフルで出るというか、壁際でのレスリングが強い人がトップを取る、立ち上がるのが上手い人が立ちあがる。でもリングだとそれとは違うものも出てくると思うんですよ。例えば攻めている方の人が相手に組みついてクラッチを組んだらロープに引っかかっちゃってリフトしたいけどできない。そこで手を組み替える時に逃げることができたりと。 それは僕にとってプラスになるのかDJにとってプラスになるのか分からないですけど、もしかしたらDJにとってマイナスになる部分が出てくるじゃないですか。そこに関してはもしかしたらケージよりも勝つ可能性が上がるのはリングなのかもしれないですね。ただリングに関して僕にアドバンテージがあるのかは分からないです」 ――そういったことも踏まえ、次戦ではどのような戦いを見せたいですか? 「僕が一番戦ってみたかった。昔からMMAで一番戦い方を尊敬しているのがDJなんですよ。そんな選手と戦えるんだから自分が持っているモノを全部出せるような試合がしたいなと思いますね。これが開始5秒で負けちゃったらせっかくのDJと触れ合える時間がすぐ終わっちゃう。それは嫌なんで、いっぱいゴロゴロして、スクランブルして、パンチくらったりくらわせたり、持っているモノを全部だして、結果どうなるかはそこからだなという感じですかね。 とにかく自分がやってきたことがどのくらいできるのか、通用するのかというのを試したいなというのがあるんで、楽しみでしかないんです。自分がここまで格闘技をやってきて、今これだけのモノになったな。というのを確かめることができる相手、そしてDJ以上にそれを確かめることができる相手はいないと思っています」(取材・文=服部吉弥) 【関連記事】岡見勇信、自分を信じるための戦いへ「“無心”で戦えるよう、最善の準備をする」若松佑弥、地元ユースタキオ戦に挑む「今回はもう倒しに行っちゃおうかなと」
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