未来さんは相手の嫌な動きをするのがすごく得意。僕もそれを真似した
──建設業に携わりながら、「1年チャレンジ」の応募を見たときに行動を起こして、500人のなかから補欠のような形で入った。住む場所が確保されて、仕事はその間、どうしていたのですか。
「当時は、ここのインストラクターをやってました。今はやってないんですけど。コロナもあって、三崎(優太)さんから1年を超えて7カ月くらい支援していただき、そこから先も未来さんが1年ほど支援してくれました」
──そういったサポートがあった期間は勝ち負けを繰り返す、苦しい戦いも続きましたね。
「どこか甘えもあって、当時の試合は、まあ盛り上げようとはしてるんだけど、やっぱ勝ちがついてこないみたいな感じだったんです。それじゃあやっぱり自分で飯を食っていけない。盛り上げるだけじゃ。ただの二流選手になっちゃう。自分が勝つことを考え出すと、今みたいな戦い方になってくると思うんです。
だから生活支援が無くなって、戦い方ももちろん変わりましたし。練習状況も変わりました。支援してもらっているときは、無理やりでもやらなきゃいけない、やらなきゃいけないと思って、疲れてやっても意味ないときにもただ走るようにやってたんです。それで疲労が抜けないまま練習して、しっかり休んで、次の日に備えようとできなかった。いまはすごく格闘技について考える時間も増えましたね。やっぱり3年くらい続けないと人間って身につかない。昔は分かっているようでMMAの動きに連動していなかったです」
──DEEPでは、オーソドック構えの選手を相手にサウスポー構えで戦うこともありますね。この動きは?
「本当は左右、決めてなかったんです。どっちでも良くて。もともとサウスポーでやってたんですけど、一度オーソに変えて、いまはサウスポーに戻すことが多いですね」
――それは誰かのアドバイスもあったのですか。
「未来さんとかから言われたんです。『攻め一点集中になっちゃうときがある』と指摘され、1回戻してみようと思って」
――しかし、今回の鈴木博昭選手はサウスポーに構えます。
「そうですね。自分はどちらも。サウスポーも使いながら、攻めのときはオーソも行きたいなと。MMAなので何でも使っていかないとなとは思っていますね」
――DEEPでの鷹辰戦ではオーソから右を効かせて、デビュー当初から得意とするダースチョークで一本勝ち。星野戦で右のカウンターでダウンを奪われバックコントロールされた反省を活かしたのか、TATSUMI戦、高野優樹戦ではオーソの相手にサウスポーに構えて、きっちり打撃でも組みでも競り勝っての判定勝ちでした。自身の中で何か気付きがありましたか。
「自分がしたい動きとサウスポーがけっこう噛み合ってきたというのがあって。相手をコントロールしながら戦うという。それはやっぱり、練習でいつも未来さんが目の前にいるので、その距離感であったりとか、相手にとって何が嫌なのかとかを学びとって。
未来さん、相手の嫌な動きをするのがすごい得意なんで。僕もけっこう相手の嫌なところを見るのが得意だったので、そういう部分をちょっと真似できたらなと思って、けっこう練習しました。未来さんがやるような技を真似してみたり、やって行くうちに自分がしたい動きと間合い、構えが噛み合って、相手を封じ込められるようになってきましたね」
――実力者の高野選手を相手にヒザ蹴りも含めた左の打撃でコントロールしたのは、ある種、未来選手のコピーのようでした。同時に、西谷選手らしい近い距離での打ち合いも制した。それは朝倉選手がいう「リストの強さ」がなせることなのでしょうか。
「(リストが)強いらしいんですね。まだ倒し切れてはなかったんですけど(苦笑)」
朝倉は、西谷の手首の強さについて「もともと打撃のリスト(手首)が無茶苦茶硬いんだよね。パンチが重くて手首が強いから、彼はマススパーが下手で、練習中も相手も強いと勘違いして、俺にボコボコにされてきたんだけど、まあ“そっちがそのつもりなら”とこっちもなるじゃん。でもその練習にも食らいついてきたから、打撃も良くなっているし、結構顔面にもらうところはヒヤヒヤするんだけど、威力はあるから当たったら相手も効くと思う」と評価する。
――そして、組みの強さは、未来選手が「俺でも結構テイクダウンを切るのがキツいくらい強い。鈴木(博昭)選手は絶対テイクダウンを取られると思う。ガードを固める相手に西谷君が打撃を(上下に)散らしてタックルも入るとなると、相手はテイクダウンを切れない」と断言するほど、向上しています。前戦では、大学レスリングも経験した高野選手の組みを切って、逆にテイクダウンを奪った。ただ、DEEPでは新宿FACE大会以外は、ほぼケージで戦っていますよね。西谷選手のケージレスリングを見ると、リングでどうなりそうですか。
「そうですね……やっぱりリングだと押し込みにくいですよね。練習場所もケージなので、そこは懸念点としてもちろんありますけど……ちょっと考慮しながら戦います。正直、鈴木選手には“やることやれれば”マジで勝てると思ってます」
――トライフォース赤坂のケージには、強豪選手も出稽古に来ていますね。よく組むのは?
「一番多いのはもちろん未来さん、それに(白川)陸斗さんです。出稽古組だと上迫博仁さんですね。BRAVEの選手たちとの練習でレスリング、グラップリングも鍛えられましたし、寝技ももちろん柔術ですごく鍛えました。それに、前回の試合から特に立ち技を強化し出して、今回もだいぶ仕上げたつもりでいます」
――立ち技を仕上げたというのは、小倉將裕トレーナーが持つミット打ちを強化したと。ところで朝倉海選手が招聘したエリー・トレーナーにも持ってもらったりもしたのですか。
「理想形はやっぱりエリーの教えるような動きなんですけど……今の僕にはまだちょっと早いかなと。不器用なタイプなんで、1個できればそこは極わめられるんですけど、けっこう時間がかかっちゃうタイプなので、エリーのコンビネーションの種類は、海さんに合っているんだと思います」
――そうして、いまは自分の得意な部分を連動させるなかで、結果もついてきた。これまでDEEPで切磋琢磨してきて2連勝でRIZIN参戦というのはある種、“飛び級”での出場になると思います。そんななかでDEEPでもタイトルにからめるような戦いをという思いもありますか。
「それはもちろん僕が勝っていけば。DEEPのチャンピオンたちがRIZINでトップ選手になっているわけで、こうしてRIZINで戦うチャンスを得られた以上、ここで勝たないとDEEPのチャンピオンとやらせてもらうことはまずないと思うし。勝つことでどっちの道にも繋がると思っています。まずはここからですからね。
始めたのが遅かった自分が『1年チャレンジ』を経て、こうして来れた。あのとき、たまたま選んでもらってここにいるので、恩返ししたいなと思っています。まだまだ強くなりますからね。これからを見てください。お願いします!」