2023年4月22日(日本時間23日)米国ハワイ州ホノルル・ニール・S・ブレイズデル・センターにて『Bellator 295: Stots vs. Mix』が開催され、メインイベントにて「Bellator暫定世界バンタム級選手権試合&バンタム級ワールドGP決勝」(5分5R)が行われた。
ファイトマネーとは別に、優勝賞金100万ドル(約1億3千万円)がかけられた同決勝で、パッチー・ミックス(米国)が1R 1分12秒、同級暫定王者のラフェオン・ストッツ(米国)を左ヒザでKO。GP優勝と暫定王座のベルトを獲得したミックスは、RIZINバンタム級王者とのダブルタイトルマッチを希望した。
戦慄の72秒KOはいかに生まれたのか。そして、ミックスのRIZIN参戦はあるのか。試合後に聞いた。
72秒、ウォークオフKOの真実
「また日本に行きたい。日本が好きだし日本で試合をするのも大好きだ。大晦日かな。(相手は)RIZINか、それともBellator(ファイター)か」
GP優勝と暫定王座の2本のベルトを両肩にかけたミックスは、日本メディアに「3本目のベルト」獲得の意欲を語った。
1年前のハワイ大会で開幕したバンタム級ワールドGP。かつてRIZINで元谷友貴にも一本勝ちした戦績も持つパッチー・ミックスはGP1回戦で、堀口恭司を判定で撃破し、12月にマゴメド・マゴメドフも2R ギロチンチョークに極めて決勝に進出した。
もう1人の決勝進出者はラフェオン・ストッツ。同じくハワイ大会でフアン・アーチュレッタを3R、左ハイキックでKOし、12月の前戦でダニー・サバテーロをスプリット判定で下して決勝に進出した。
試合は、ともにサウスポー構えから、ミックスが右ジャブで前に出ると、さらに右ジャブのフェイク。その動きに右に頭を傾けて、右ジャブで中に入ろうとしたストッツに、ミックスはカウンターの左ヒザのテンカオ! さらに左ストレートも突くと、ストッツは後方に大の字で失神ダウン! 72秒 KOにミックスはパウンドに行く素振りもなく、ケージに登って勝利のガッツポーズを見せた。
試合後、GP優勝で100万ドル獲得&暫定王座についたミックスは、ケージの中で、「みんな俺がグラウンドで戦うしか脳がないと思ってたかもしれないけど、ヒザ蹴りの練習をしていたんだ。(6月16日のバンタム級正規王者セルジオ・ペティスvs.フェザー級王者パトリシオ・ピットブルのどちらと戦いたいか?)どちらでも問題ない。見てやるぜ」と、自信満々の表情で語っている。
MMA18勝1敗。うち12の一本勝ちを誇り、「寝技師」と称されるミックスによる72秒、打撃でのKO勝ち。
試合後の会見では、フィニッシュにつながったヒザ蹴りについて「あのヒザ蹴りはずっと練習していたんだ。ケージに向かう直前まで、いい感じでシミュレーションしていて、それが当たった。もともとあのヒザを開発したのは、サウスポーとしてオーソドックスなスタイルと対戦するためだった」と、もともとは喧嘩四つの相手にカウンターでヒザを突くためだったという。
しかし、今回のストッツはサウスポー構え。なぜ、ミックスは見事に左ヒザをアゴに突き刺すことが出来たのか。
「あの打撃は1年半前のアイルランドで練習していたんだ。ジェームス・ギャラハー戦でも試している。彼は僕がただのグラップラーだと思っているようだが、とても甘い。僕はジムではドッグ(ファイター)だ。誰も僕を上回ることはできない。ノックアウトの数が少ないのは、サブミッションが多いからで、ストライカーじゃないと思わないでくれ。サブミッションは僕にとって勝つための一番簡単な方法なんだ」と、ミックスは関節技での一本勝ちが多いために、近年、急速に成長した打撃テクニックを見せる機会が無かったという。
「(中に入る)フェイントをかけると、彼が両手を下げてくるのは分かっていた」という通り、ストッツはミックス最大の武器である組み技を警戒し、そのテイクダウンを差し上げるために一瞬、右手を下げている。
さらにミックスは「右ジャブにストッツが右に頭を傾ける癖を研究していた。そこに左ヒザを狙っていたんだ」と明かす。
その言葉通り、右手を前に出したミックスに、ストッツは右にかわして、右を振りに行くが、その頭が若干下がったところに、ミックスは左ヒザを突き上げた。170cmのストッツに対し、バンタム級としては稀有な180cmの長身のミックスならではのカウンターのテンカオだった。さらに、左足を着地する前にスーパーマンパンチのように左ストレートもヒットさせたミックスに、ストッツは失神。文字通り、大の字でマットに倒れ、ミックスは追撃せずにウォークオフKO。見事にストライキングの進化を見せていた。
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残酷なゲームだが、それが我々のゲームなんだ
この会見で、ミックスは意外な事実も明かしている。
「実は、ホリグチ戦の前に一緒に練習したことがあるんだ。(ストッツが同門のセルジオ・ペティス戦前にルーファ・スポーツを離れ、エクストリーム・クートクアーで練習)。彼が練習している姿を見て、僕の方が頑張らなければと感じた。僕のトレーニングパートナーが過去に彼を倒したことがある(メラブ・ドヴァリシビリ)から、(相対的に)僕は彼を倒せると思っただけでなく、彼を足技でノックアウトすることができるとも思っていたんだ。いまは僕がやることをやれば、毎日、あのような選手を仕留めることができる」と、かつてストッツと対峙したときに、いつかの対戦のために、頭のなかでシミュレーションしてきたのだという。
ワールドGPのピークに向け、ストッツはトラッシュトークを仕掛けてきた。その相手に勝利し、溜飲を下げたか、と問われるとミックスは「そうでもなかった」と語る。
「そうだろうと思ったが、そうでもなかった。誰かを気絶させることに満足はない。彼には家族がいる。僕にも子供がいる。彼を傷つけたいわけじゃないんだ。彼の話を聞いていると、僕と似ているんだ。優勝のために同じように戦っている。100万ドルの小切手が、50万ドル2枚にならないのは残念だ。残酷なゲームだが、それが我々のゲームなんだ。
もう一度ストッツに会いたいと思っている。彼は悪口を言っていたけど、僕も返していたから。彼は、僕が彼より優れているとは思っていないと思うし、ただ、僕が彼を捕らえたというだけだ。この先、また彼に会えることを期待している」と、再戦の可能性についても語った。
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モトヤとアサクラ、フアンとイノウエでタイトル争奪トーナメント? よし僕の仕事ができたぜ!
6月16日には、「Bellatorバンタム級正規王者セルジオ・ペティスvs.フェザー級王者パトリシオ・ピットブル」による、バンタム級“正規”王座防衛戦が組まれている。
この正規王者の勝者と、暫定王者のミックスは「王座統一戦」に臨むことになる。
「(現正規王者の)セルジオ・ペティスが僕と戦いたいのかどうかは分からない。彼はストッツの勝利を予想したようだが、どうしてそんなことができるのか。パトリシオ・ピットブルが勝っても試合を受けると思う。僕はパウンド・フォー・パウンドのナンバーワンと戦いたいんだ。ベストの相手と戦いたい。とにかく、僕はいま、世界で最高のバンタム級選手だと信じている。僕はいまさらに良くなっている。いままさに全盛期を迎えているところなんだ。最初の敗戦(2020年9月にフアン・アーチュレッタに判定負け)は、プライドと未熟さのせいだった。今は歳をとって賢くなった。完全に進化している。グラップラーとしてだけでなく 僕は何でもできる。それを証明するためにここにいる」
正規王者と暫定王者の統一戦。さらに、ミックスは「もうひとつのベルト」の獲得も視野にいれている。堀口恭司が返上したRIZINバンタム級のベルトだ。
GP前の本誌の取材に、ミックスは、5月6日の『RIZIN.42』有明アリーナ大会で、朝倉 海vs.元谷友貴、井上直樹vs.フアン・アーチュレッタが行われること、その勝者同士が空位のバンタム級王座を争うことを聞き、次のように語っている。
「ワーオ!(横にいるコーチに)聞いたか! モトヤとアサクラ、フアンとイノウエでタイトル争奪トーナメントだそうだ。よし僕の仕事ができたぜ! 聞いてくれ! まずスタッツを倒し、次にペティスだ。同時にフアン・アーチュレッタも日本で仕事をしてくれるはずだ。だからフアンとあるいは勝者と二つのベルトを賭けて戦うぞ! いやあ、絶対にやりたいね! また日本で戦いたいよ。スコット・コーカーはRIZINと話をまとめてくれるからね。再びBellatorを代表して日本で戦えたら、もう最高だ!」
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コーカー代表「ホリグチは適正のフライ級で戦うべきだ」
ミックスは、2019年の大晦日のRIZINで元谷友貴に一本勝ちし、2020年9月のBellatorで当時王者のフアン・アーチュレッタに判定負け。そして、2022年4月に堀口恭司を判定で下し、GPを勝ち上がっている。
彼らとの日本、あるいはRIZINハワイ大会等での再戦の可能性について、スコット・コーカー代表は、下記のように語っている。
「今回、榊原(信行CEO)とも話したが、(今回試合が流れた)ホリグチは自分が心地よく戦える場所で戦うべきだし、125(ポンド=フライ級)は彼が戦いたいウェイトクラスだと思うんだ。だから私たちはこれからも、世界で最も優れた125ポンドのファイターがここに来て、ホリグチと戦ってくれることを期待している。我々は彼の成長とBellatorでの彼の未来に非常にコミットしているし、すべてのウェイトクラスでそうしているように、世界中からここに来るファイターを見つけるために最善を尽くすつもりだ。ホリグチは125ポンドの方が快適だと思うし、135ポンド(バンタム級)では、彼とパッチーでは身長差がありすぎる。あのパッチー戦では捕まってしまってやられてしまった。とはいえ何が起こるか分からない。彼は135ポンドでも、いつでも誰とでも戦える、世界のエリートファイターの一人だから。まあでも、ホリグチは125ポンドでもっといい結果を出すと思うね」
暫定王者ミックスは、ペティスvs.パトリシオの勝者、そして朝倉vs.元谷、井上vs.アーチュレッタの勝者に狙いを定めることになる。
100万ドルの賞金を獲得したミックスは、最後にその使い道について、「母に家を買って、家族の面倒をみて、またジムに通う。家族や友人、ハワイに来てくれたみんなに感謝している。100万ドルとベルト、そしてラウフェオン・ストッツ戦の勝利を履歴書に残せることに何よりも感謝している」と語ってる。