2023年4月22日(土)、朝9時からタイ・バンコクのルンピニスタジアムで開催される『ONE FIGHT NIGHT 9: Nong-O vs. Haggerty(ABEMA配信)のストロー級戦で、同級2位のボカン・マスンヤネ(南アフリカ)と対戦する3位の箕輪ひろば(総合格闘技道場STF)のインタビューが現地から届いた。
箕輪は2022年7月にボカンと対戦する予定だったが、ボカンが体重オーバーで計量失敗。体重を落とさないボカンに対し、箕輪はキャッチウェイトでの対戦を拒否し、試合は流れていた。
今回の仕切り直しの一戦に向け、箕輪は“タイトルマッチ挑戦者決定戦”と位置付け、2022年1月に敗れ、12月に世界王者となったジャレッド・ブルックスへのリベンジを目標に掲げた。
マスンヤネの計量ミスで試合を拒否したら批判の声が──
──22日の試合に向け、現在のコンディションは?
「問題なく順調です」
──ボカン・マスンヤネ選手とは、2022年7月に対戦予定も、マスンヤネ選手の計量失敗により試合が流れています。あの時のことについて率直な気持ちをお聞かせください。
「怒りはなく、自分としては“しょうがない”という気持ちでした。ただ、僕ら以外の人、相手選手のファンからのアンチ的な発言が心に来ました。主にDMで来ました。負けてそういうのが来るのは分かるんですが、体重をオーバーしているのは相手なのに、なぜ自分に? と思いました」
──その理由はなぜだと考えましたか。
「結局、文化の違いなのかもしれません。日本人からしたら、(体重超過の相手に箕輪が対戦を拒否した)判断は『正しかったよ』と言われるんですが、相手のファンは日本人ではないケースがほとんどだと思うので、『歩み寄れよ』などの意見があったりとか、次の大会で別の日本人選手が体重オーバーして、対戦相手がキャッチウェイトで戦ってくれたことがあって(※平田樹の計量ミスにリン・ホーチンがキャッチウェイトで対戦受託)、それを引き合いに出し『日本人がオーバーした時はキャッチウェイトでの試合を望むのに、オマエは試合を受けなかった』みたいな意見がありました。(関係ない)自分に言ってくるなよ、とその時は思いました。」
──多様な価値観が混在する世界の中で戦うなかで、そう言ったこともあり、気持ちを整理させることも大変ですね。
「こう言った事は解決しないと思います。文化が違うので。生まれ育った環境が違うと、観点や感性が違う。その時点で同じ感覚にはならない。でも『そういう感覚の人もいるんだな』って受け入れ方をしていかないといけないと、今回はそう感じました。
終わった話にしたいですけど、今回も(両者クリアするまでは)まだ分からないですが。(平田樹と対戦した)ハム・ソヒ選手とお話がしたいなと思う今日この頃です(※ハム・ソヒは2023年3月に平田樹と対戦して勝利したが、その前に試合が組まれた時は、平田の体重オーバーを理由にキャッチウェイトでの試合を拒否している)」
──ちなみに、箕輪選手はONEのハイドレーションを含む計量システムは難しいですか? アジャストできていますか。
「いいえ(笑)。アディワン戦とブルックス戦の時、1回目のハイドレーションで引っかかりました。でも、キャッチウェイトの申し込みはせずに体重を落としに行き、最終的には全部パスした。そういうことが普通だという認識でいたので、(ボカン選手には)『すぐにキャッチを求めず、もうちょい頑張ってよ』という気持ちがありました。なので、自分自身もまだ完璧に対応できているわけではないので、試行錯誤しながら頑張っています。それが責任だと思っているので。今回は順調に行っています(※21日、計量&ハイドレーションテストをパス)」
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朝倉海選手や未来選手と練習し、ピュア柔術にも取り組んできた
──現在、約1年間近く試合を行なっていません。この現状にフラストレーションはありましたか? それともプラスになった期間と考えますか。
「プラスにはなったと思います。(この期間)次の試合が決まらなかったというより、ボカン戦のオファーがずっとONEから来ていました。ただ、ボカンが体重オーバーをした時から直ぐのオファーだったりとか、何回か交渉が続いての流れがあり、自分のコンディションも怪我があったりとかして、逆に向こうに待ってもらったりもありました。今回はお互いのタイミングが合って、成立したと思います。お互いのタイミングが合っていたら、もっと早くに試合は行なわれていたと思います」
──この1年間、どのような練習などを積んできましたか。そこでの手応えなどは?
「ウチのジム(総合格闘技道場STF)の柔術部門をトライフォースの管轄に置きました。MMA選手がやる柔術と、柔術の専門家がやる柔術だと根本が違う。MMAの人間が教える柔術は『そこはMMAでは使わないし』みたいなこともあり、柔術オンリーとは違うので、新しい観点、物事を見るキッカケになったと思います。自分の柔術力が上がったかは、試合に出ていないので分かりませんが、知識量は増えたと思います。
それに今は、フィジカルも、ボクシングも継続して行なって、柔術はトライフォースの先生達に学んで、MMAはこれまで同様にやってと、大きく変えた点はないです」
──箕輪選手は練習方法や戦術など、全ての面を自身で構築し実践する選手に見えますが、メンター的な存在の方はいますか。
「それは自分がMMAを始めた当初から面倒を見てもらっている、ここSTFの代表(飯島浩二氏)です。やはり僕のことを一番よく理解できていると思うので。
僕は柔術、ボクシング、レスリングを一つの場所ではなく、色々な所でバラバラに学んでいます。トライフォース赤坂に行って、ストライキングの強い朝倉海選手や朝倉未来選手と練習を行なったりもします。その目的は自分と正反対の選手とやったりすること。そして、揃えた多くの“武器”について、使えるものとそうでないものを判断しなければいけないのですが、その作業を(飯島)代表とやる感じです。
その上で、どこにもない“自分達だけの技術”を研究し作り出しています。ウチの道場では、『一を一として捉えない』という言葉があるのですが、一つの技術をそれぞれの選手が独自の形にどう変換できるかを大切に考えています」
──この1年間の成長具合で、今回の試合を観戦したファンが感じられるであろうポイントがあれば教えて下さい。
「普通ならここで、『めちゃくちゃ打撃が進化しました』とか言うべきなんでしょうが、僕は違う表現になります。例えば、昔からずっと美味しいと言われるラーメン屋さんがあるとすると、それはずっと同じ味な訳ではない。(客は)飽きる訳じゃないですか。昔から変わらず同じ味でやってきて、10年続いて、ずっと10年間客がくるのはおかしい。多分、客に分からない位でちょっとずっと何かを変えていると思う。僕はその考えでMMAに向き合っています。
専門家以外が見て、パッと見は分からないけど、『なぜコイツは勝っているんだろう?』と。それは間違いなくちょっとずつ強くなっている訳で、僕はそういうことを心がけながらやっています。結果として、どう“変化”したかよりも、どういう“味”になっているかが重要だと思います」
──『一を一として捉えない』にも繋がる考え方ですね。「どういう味になっているか」。
「これまで“箕輪は強い”と言われたことがそうないんですよ。“大したことがない”、“パッとしない”とよく言われます。ただ、前より強くなっていかなければ、アレックス・シウバやリト・アディワンなどの強豪には勝てていない。勝利にフォーカスして、変化させて勝つのが大切。取り敢えず、結果を見てください、と思います」
──箕輪選手は試合中での視野の広さ、アジャスト能力が抜きん出ている選手だと思います。修斗時代から、一つの戦術に固執せず、動きや流れを意識的に修正し勝ちを引き寄せる戦いをしていると感じます。
「その視点は素晴らしいです。格闘技とは、想定外が起きた時の適応能力の勝負だと思っています。もし試合が想定内だったら、例えば、戦術がAしかなければ、戦いはワンサイドになりやすいと思います。そのプランAが通用しなければ、一方的に試合は終わるので。
でも、プランAが通用しなくなった時に、プランB、Cを展開していき、その選択肢が無くなった方が負けになる。ブルックス戦で自分が負けたのはそれが理由です。ブルックスに全ての選択肢を潰されてしまった。自分は13年間、人生の半分を格闘技に捧げてきました。最初からMMAでスタートしたので、純血のMMAスタイルなのですが、引き出しの数の勝負で負けていたら、その意味がなくなる。その中で、いかに自分が持つ適応能力を発揮するかが勝負だと思っています」
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マスンヤネの身体能力は規格外過ぎるけど、僕がどう攻略するのかを見てください
──改めて、ボカン選手の印象を教えてください。
「めちゃくちゃ身体能力が高い選手。強いですが、レスリングはやれるが、レスリングの強い選手ではない。事実、ブルックスにコロッとバックを取られているし。なのにあそこにいる(ランキング2位)理由はふざけた身体能力ですよね。規格外すぎます。ちょっとズルいなと思います。なぜ、ONEはあんな強い選手ばかりなんでしょうか(笑)。ストロー級は世界最高峰なんでしょうけど、勘弁して欲しいです(笑)」
──今回の試合は、戦術を複数用意する考えですか。
「身体能力の高さは、具体的には組んでみないと分からない。戦いのパターンは複数用意したいと思っていますし、その変化の違いを見ていただけたらなと思います」
──試合のなかで相手の動きに応じて戦術を変えていくと。激しい試合のなかで冷静な判断が必要そうです。
「僕の一番の武器は間違いなくメンタル。心技体で言ったら心の部分。“コイツはちょっと面倒臭いな”と相手に思わせたら自分の勝ち。そこから生まれる相手のスキにつけ込んで勝つイメージです。面倒くさがっている時点でそれはスキになっているわけじゃないですか。それは嫌がっていると同じなので。今、客観的に自分を見ると、自分はめちゃくちゃ性格悪いですね。正々堂々という考えからだと、ちょっと微妙ですね(笑)」
──そのメンタルの強さはどこからきたのでしょうか。
「それはこのSTFに置かれている理不尽な状況でしょう(笑)。自分のファイティングショーツにもその言葉(理不尽)が入っていますが、心の叫びですよ。朝6時に起きて赤坂に行って、家に帰らず、川越に行って、夜また指導をするという。この環境であれば、いちいち心が折れていられない。面倒臭がってはいられない。試合の面倒臭さは、それに比べると大したことではないです。スラム街よりスラムです。あまり言いすぎると、あとで怒られるので(笑)」
──そんな強靭のメンタルを持つ箕輪選手からファンにメッセージを。
「前回、自分が試合をキャンセルさせてしまいましたが、今回はお互い万全の状態で戦える事になりました。相手はすごく強い選手ですが、僕がどう攻略するのかを見てください。そして、僕が今回勝ち、タイトル戦でブルックスにリベンジしてチャンピオンになるので、その応援もよろしくお願いします!」